ふしぎふしだら ~少子高齢化にキレた神々の淫らな祟り~ 作:大中小太郎
――7月16日。
今日は、待ちに待ったテスト明けの日だった。
パパに「勉強を疎かにしないように」って言われたから、頑張ってテスト勉強した。その甲斐あって、赤点なんてひとつもない。
「ご褒美に、今日は沙季の好きなようにしていいよ」
最高のご褒美だった。
でも、それで上に跨って腰を振るのも、なんだかはしたないというか、欲深な女だと思われたくなかったから、「口でさせて」ってお願いした。
パパのあれは、本当に大きい。
私とするようになって以来、一回り元気になったんだって。
私も最近ちょっとブラのカップが上がっちゃったし……やっぱり、男も女もパートナーがいると、体に変化が起きるものなのかも。
顎が外れそうなくらい口を開いて、喉に詰まりそうなくらい受け入れたら、パパはとても喜んでくれた。
ご奉仕するのって、なんだか気持ちいい。
パパに、私の献身的なところを見てほしくて、息継ぎも忘れて呑み込んだ。
腕を回して腰に抱きついて、頭を打ちつけるように前後させたときはもう……女の体ってお口でもイっちゃえるものらしい。
パパに口の中でイってもらったときは、頭が軽く真っ白になっちゃった。
でも、よく考えたら、お口に出せちゃうのは勿体なかったかな?
――パパの子供がほしい。
正直にそう言ったら、パパは孕ませてくれるだろうか?
○
――8月22日。
最近、読売先輩が絡んでこない。
俺、浅村悠太にとって、それは彼女の体調を案じるべき変化だった。
読売栞――バイト先の書店で働く女子大生で、後輩の青少年に対して大人のお姉さんぶった言動を取り、からかってくる人物。
そんな彼女が、ここ最近、半セクハラめいた言動を取らない。
にこやかな態度も、仕事ぶりもいつも通りだ。
俺に声を掛けてこないわけでもなく、距離を置かれている様子も無い。
あと、最近はシフトを深夜にまで入れている。
書店は深夜まで営業しないが、閉店後の作業に人手が必要になったとかで。
『俺も入りましょうか?』
『あはは、ありがたいけど、高校生を深夜には働かせられないよ』
分かっていながら提案した俺に、店長と読売先輩は笑っていた。
まったくもって道理、何もおかしなことはない。
――忘れ物を取りに、一度出た店に戻るまでは、そう思っていた。
一目瞭然の光景だった。
抱き合い、唇を重ねる男女の姿。
壁際に追い詰められた読売先輩は、艶っぽい顔で店長のキスを受け入れている。
欲深い顔で迫る店長が、そのとき俺には、失礼だが卑しく醜い動物に見えた。
それを抱き寄せ、小さな水音を立てて唇を啄ばみあう、読売先輩。
卑しい獣となった店長とは対照的に、頬を紅潮させたその顔は、普段より美しく見えた。
「――っ!」
覗き続けなかった自分を、褒めるべきだろう。
あのまま立ち止まっていれば、きっと『続き』を見ることができただろう。
そこには、バイト先の綺麗な先輩の、扇情的な姿があったに違いない。
――もしかすると読売先輩は、気付いていたかもしれない。
あの時点で気付いていなかったとしても、例えば事の最中に俺を発見しても、気付かないフリをしていたかもしれない。
或いはそれをきっかけに、衝撃的な光景で動揺している俺を、自分に迫るように仕向けたかもしれない。
根拠は無い。でも、そんな展開が濃厚にありえた気がする。
――だから、去った。
そうしないと、昨日までのフラットな自分を、守れなかったからだ。
「……っ」
帰り道、通り過ぎる家々から、かすかに悩ましい声が聞こえてくる。
世界が、おかしくなっている。
淫らに、卑猥に、汚らわしく――
男として興味が無いわけではない。
この見えない風潮に乗って、誰かで童貞を捨てることは容易だろう。
それでも、
奇妙な潔癖と、変化する世の中への抵抗感が、俺を異性から遠ざからせていた。
――その晩、堪りかねて自慰をしたとき、読売先輩の姿が思い浮かんでいたとしても。
○
――8月27日。
夏休み。
この日はパパと小旅行に行った。
ずっと前から計画していた念願のロングデートに、ついはしゃいでしまった。
プール付きのホテルに泊まって、水着を見せてあげたときのパパの顔ったらもう、興奮を隠せてなくて、すごく可愛かった。
正直に言うと私の方が我慢できなくて、パパを部屋に誘って……
「エッチが上手くなったな」
そう言ってもらえたとき、すごく嬉しかった。
雑誌を読んで、内緒だけどパパの娘さんにテクを聞いたりして、勉強した。
男の人がイキやすくなる腰使い、根元から先端にかけて膣圧を高める三段締め――パパの上に乗って色々してみるたびに、パパが気持ち良さそうな声を上げてくれると、頭の中がバチバチするくらい快感だった。
でもすぐパパに突き上げられて、またイキっぱなしになっちゃった。
パパと関係を持つようになってから結構経つのに、セックスをする度、気持ちよさが記録更新されてる。
私も慣れてきたのか、前は気絶しちゃうようなイキかたをしても、意識を保てるようになって……それがかえって、感じ取れる気持ちよさを大きくしてる。
まるで麻薬中毒みたいに、パパのエッチに溺れちゃってる。
もし、パパに飽きられて、抱いてもらえなくなったりしたら、きっと死んじゃう。
それが怖くて、もっとパパを興奮させたくて……
ちょっとここには書けないような言葉でおねだりしたりして……
私の心も体も、プライドも全ての時間も、なにもかも、パパとエッチするためにある。
本気でそう思えちゃうくらい、パパが好き。
好き。好き。大好き? 愛してる。パパ愛してる?
もっと頑張ってエッチになるね?
パパのことを世界で一番愉しませられる女になるね?
……子供の名前、たくさん考えておいてね?
○
――9月10日。
俺、浅村悠太の知らないところで、世界は変わっていた。
子供を作ること。
それはいつの間にか、世界の『正義』になっていた。
子作りは
人間の至上命題であり、素晴らしいことであり、邪魔してはならないことだ。
恥じることなどない、責められるべきじゃない、むしろ奨励され、尊ばれることだ。
そんな風潮が、ひどく濃密に、世間を覆っている。
だからだろうか――
夜中に、父と亜季子さんのセックスを目撃してしまったときも、驚きはなかった。
亜季子さんの豊満な体が、父の上で踊っている光景に、目を奪われる。
そのことに罪悪感を覚えると同時に……
――なにかおかしい。
そういう違和感が、胸を乱す。
二人は夫婦だ。
セックスをするなら最も正当な関係だろう。
でも、だからといって……息子や娘が一緒に暮らす家で、あんなに声を漏らして……
これは、俺の知る世界の常識に照らして、妥当と言えることだっただろうか?
「っ」
……覗いていても答えが出ないことだけは確かだ。
俺は、亜季子さんの痴態に張り付いていた視線を強引に引き剥がして、部屋に戻った。
○
――9月24日。
「浅村くんは、誰かとセックスしないの?」
教室で、クラスの女子からそう聞かれる人生なんて、想像していなかった。
「え?」
奈良坂真綾――俺が密かに、その人格に敬意を覚えている、明朗闊達な女の子。
そんな彼女が、まるでテスト勉強の話でもするかのような気軽さで、いまなんて?
「急に……なに?」
「あ、ごめんごめん、バカにしたわけじゃないんだよ? 浅村くんモテそうなのに、そういうことしてる雰囲気ないから」
奈良坂さんの口調から、童貞を小馬鹿にする意図が無いことは分かった。
ただ純粋に気になったから、そう聞いている。
いまどきどうしてスマホを持ってないの? と尋ねるのと同じ表情で。
クラスメイトたちが注目している様子も無い。
耳にして驚くような話題ではないかのように、各々の雑談に興じている。
――これが、普通なのだ。
たとえ俺の感覚が何と言おうと、俺を取り巻く現実は、これくらい普通の話題なのだ。
「特に……そういう相手はいないよ」
無難な答えを返して、どう話題を変えようか考えていたら、
「そうなの? じゃあ、私とする?」
「…………」
シャープペンの芯を一本くれてやるように、何の気負いも無く、セックスに誘われた。
「え……いや、その……」
「むぅ、小さなおっぱいは趣味じゃない? 腰使いには自身あるんだよっ?」
――なにを、言ってるんだ?
――いつも通りの口調で、公衆の面前で、なにを言ってるんだ?
「おいおい奈良坂さん、また男を増やすのか?」
「俺たちだけじゃ物足りないって言うのかよ」
と、近くにいた男子たちが、奈良坂さんに抗議していた。
「いやー、だって、なんか仲間外れにしてるみたいで」
奈良坂さんは平然と答えている。
その男子たちと、複数のクラスメイトと、肉体関係があることを全く否定せず。
「察してやれよ。浅村にだって相手はいるだろ」
「そうそう。『誰と』って言えない事情くらい珍しくないだろ?」
「あ、そっか! ごめんね浅村くんっ、私ってば察しが悪くて」
――だから、なにを言ってるんだ?
――男子たちも、奈良坂さんも、勝手に何かを察して気遣ってくる。
今日び、体のパートナーが居ないなんてありえない。
それでも『特に相手がいない』と答えたのは、例えば世間的に感心されない関係性の人が相手だからで、そうだとしても珍しくないから深く問わない。
そんな前提認識に基づく、勘違いだった。
「それより、今日はどこでする?」
「またホテルにするか?」
「私の家でもいいよ? みんな来ていいから」
奈良坂さんは、男子たちと放課後の予定を立てていた。
(おかしい、よな……?)
――なにかおかしい。
――世界が、変わってしまっている。
(なんで、
俺が、世間一般の『常識』に沿えない理由はなんなのか。
いくら考えても、納得の行く答えは出なかった。
○
――X月XX日。
もうすぐ臨月だ。
パパと私の愛の結晶を、もうすぐこの世に産み出してあげられる。
あれからというもの、いいことばかりだ。
私との関係以来、パパはお仕事が上手くいっているそうで、昇進したらしい。
私が接点になったのか、娘さんとも親子仲が温まり、話す機会が増えたそうだ。
娘さんと言えば、彼女もいい人が見つかったらしい。
お腹も私と同じくらいで、パパは「子供と孫が同時に産まれる!」と大喜びだった。
そんな私たちを、奇異の眼で見る人は、あまり居ない。
街を歩けば妊婦さんなんていくらでも居るし、学校でも見かける。
向けられるのは賞賛の声ばかりで、鼻白んだりする人はいない。
当たり前だ。
子供が産まれることは、とても神聖なことだからだ。
そうそう、子供と言えば、私にも弟か妹ができる。
お母さんとお義父さんも子宝に恵まれ、いつも仲睦まじい。
日に日に大きくなっていくお母さんのお腹を見て、お義父さんは涙ぐんでいた。
――男の子だったら、彼と同じ名前を付けたいそうだ。
せっかく兄妹になれたのに、お互いのことを深く知る時間も無かった。
もし、男の子だったら、私もしっかりお姉さんをしてあげよう。
これから忙しくなるし、しばらく日記は書けなくなるかも。
落ち着いたら、ちゃんと書こうと思う。
私と、新しい家族の生活を。
ご一読いただきありがとうございました。
イラストが余ったので追加編でした。