ケモミミ貴族令嬢にTS転生したら、ふたなりたちに玩具にされた 作:ぐらんぐらん
19 金ローで見た
新しい章、新しい舞台というのはなにかと雰囲気も一新される。
そして舞台説明がつきもので、まぁこれが長々……これじゃ堕ちる暇もない。
まるで説明ばかりでまったく話が進まない第一話みたいじゃないか。
だが仕方ない。AVにインタビューパートが必要なように、同人RPGにゲームパートがあるように、世界や人物にある程度理解があった方がエロいのだ。
首都カンナから港町まで行き、そこから船に乗ってたどり着く孤島。
貴族学院……中心にはバカデカい城のような校舎、周囲には様々な施設が立ち並び街の様相。島そのものが学び舎である。
ホグワーツより利便性が高そうだけど、陸路が無いのでホグワーツより立地は酷い。
「まるで流刑地だなぁ」
国中から集められた貴族令嬢が2年間もここに閉じ込められ、外に出られるのは半年に一度ある長期休みのみ。
見方によっては監獄、もしくは隔離施設。船べりの手すりに肘をつくマフィも思わず呟いてしまう。
とはいえ教育機関としては一流だ。
生徒はこの2年間の間に自分の進むべき将来というやつを決める。
そのためのカリキュラムは必修選択共に豊富で、やろうと思えばどんな業界への道も開けるだろう。
自身で仕事を見つけたい次女三女にとってはかなり有益。
この時点で平民より恵まれている。職業選択の自由は一応全国民にあるものの、高等かつ専門的な教育を受けているか受けていないかでは選択肢の数が違ってくる。
年齢的に高校みたいなものを想像してしまうが、幼少期から家庭教師に基本的な勉学を学んでいる高位貴族にとっては、どちらかというと専門学校の方が近いかもしれない。2年制だし。
まぁ家庭教師をつけられない貧乏貴族や低位貴族にとってはここが高校だろう。
うおっ、真面目な話で頭が痛くなりそうだ。ここまでにしよう。
上は白いブラウスにキャメル色のセーター、下は足首まで伸びる黒のロングスカート、その上から深青のローブ……
なにやら恰好までホグホグしてきたな……これが学院の制服である。これで三角帽と杖でも持ってたら完璧だろう。
そんな金ローで見たような服装で降り立ったマフィは、まず伸びをした。
「さーって……手続きしないとなぁ」
まずは入寮手続き。そして入学式の段取り確認。
この学院は2ヶ月連続で入学式を行う。それは入学時期と発情期が被る生徒のための措置であり、前月の入学式に出席した生徒はもちろん翌月のものに出る必要はない。
マフィもまた発情期が被った口だ。1回目の式にはギリギリ間に合わないため、2回目の式に合わせて島へとやってきた。
入寮手続きには特に変わったことは無い。組み分け帽子が「フルチンドール!」と叫ぶこともない。そこはホグらないのか。
空いている棟の空いている部屋をあてがわれるだけだ。生徒全員が個室なのはさすが貴族のための学校といったところ。
なお派閥や民族ごとに寮も分かれるということはない。ひとつの棟に色々な種族が混ざり合っている。
さて、こうした初日にはイベントがつきものである。
入学式は明後日だが、せめて寮から校舎までの道くらいは確認しておくべきだろう……そう思って出歩いていた時のこと。
城の周りはさながら城下町。森と文明が共存しているような街並みは首都カンナを模している。
生活に必要な物や娯楽を扱う建物もあり、欲しい物は何でも揃う。ここで暮らすには困らないだろう。
しかも全部無料。正確にはきっちり代金は発生しているのだが生徒が払うことはない。
領収書的なものは店側──つまりは学院側が管理し、一定期間ごとにそれぞれの実家に請求される仕組みだ。
調子に乗った生徒が無駄遣いしすぎて親にブチ切れ手紙を送られる、というのが精算の時期の風物詩となる。
まず寮区画から出て食堂や喫茶店などが軒を連ねる街並みを通り過ぎようとしたマフィを、ベッタベタのベタな展開が襲った。
「きゃっ!?」
「うわあっ!?」
曲がり角で誰かとぶつかる!
別に朝でもないし転校生でもないしパンも咥えていないのだが、完全なる不注意だった。
マフィも、可愛らしい声をあげた相手も尻もちをついている。
「いてて……ご、ごめん! 前見てなかった」
「…………こちらこそ」
マフィは思わず見惚れる。
それほどの美少女だった。
真っ先に目につくのは綺麗な長い黒髪。古風に言うなら烏の濡れ羽というやつだろう。
次に瞳。髪が黒いからか、覗くふたつのそれはまるで闇夜に浮かんだ月。吸い込まれそうな黄金だ。
なにより髪色と対比するような白い顔立ちが整いすぎている。『お人形さんみたい』とはよく使われる表現だが、愛玩人形のようなかんばせはいっそ無機質にすら見える。
「(猫族だ……)」
頭から出ているのは猫耳で、尻の上部からは細い尻尾がうにょん。
互いに立ち上がり、背丈はマフィと同じくらいだと分かる。
年頃は同じ、着ている制服も同じ。もしかしたら同級生かもしれない。
ここまで長々と描写すれば察しのいい者は気付くだろう。彼女はメインキャラのひとりだ。
だというのにそんな自覚があるはずもない黒猫さんは「ふんっ」と不機嫌そうに鼻を鳴らすと、さっさと立ち去ってしまった。
「気を付けないとな──ん? なんだこれ」
どっこいマフィもただでは転ばない。黒猫がいた場所に堕ちている一枚の布……ハンカチを拾い上げる。
「うわ、あの子のかな。おーい落としてますよー……ってもういないし」
まぁこれから同じ島に住むことになる。いつかまた会えるだろう。
マフィは切り替え、本来の目的である登校ルート確認へと戻った。
確認が終われば、その日の夜と翌日の昼はダラダラする。長旅で疲れているのだから探検は入学してからでもいいだろう。
翌日の夜、2人は再開した。メインキャラ同士は惹かれ合う運命なのである。
「「あっ」」
ここは食堂。寮区画の中にある、かなりの広さがある建物。
たくさんの大きな長机があり、そこに座って食べるホグワーツ式。やっぱりホグワーツじゃないか。
互いに夕飯の乗ったプレートを手に持ちながら、マフィと黒猫少女がばったり顔を合わせる。
「さっきぶりだよね?」
「そうね」
「一緒に食べない?」
「嫌」
ふーまったく冷たい猫ちゃんだぜ。
「えー……あ、そうだ。さっきぶつかった時に黒地に白刺繍のハンカチ落とさなかった? 拾ったんだけど」
「……多分、私の」
「そっか。じゃあ後で渡したいしやっぱり一緒に食べようよ、ひとりじゃ寂しくてさ。あ、先約があるなら別にいいけど……」
「……別に先約は無いけど」
このキツネ、ナンパの才能もあるようだ。きっと前世も陰キャ君ではなかったのだろう。
元男だが今は誰もが認める美少女。そんな美少女の上目遣いを無下にできるほど、黒猫の心は鉄で出来ているわけでもないようだった。
「そういえば自己紹介してなかったな。私はマフィ・モフテイル。今年入学なんだ」
「キリーネヤ・ロマネフ。私も1年」
「同い年だったか! ロマネフって確か五位官家の……」
「そうよ」
「そっかぁ、よろしくな」
「あなたこそ、モフテイルといえば三位官ね。これは失礼しました」
まったく謝る気のない棒読みに、マフィはくすっと笑ってしまう。
「私は官位とか気にしないから、普通に接してくれていいよ」
「そ」
「食べようか。いただきます」
多数の文化が混じる神国カミガリ、多数の文化からやってきた生徒の腹を満たす学生食堂には、種族に合わせた料理が揃っている。マフィは洋風的なのか和風的なのかで悩み、結局食べ慣れた洋風を選んでいる。
しかも食費は無料。こっちは本当に無料。学院負担。
主にコース料理を嗜む高位官家にとってワンプレートの食事は珍しい。食堂には「どうしたものか」と訝しむ少女たちがたくさんいる。
一方で最下位官の七位官家やそのひとつ上の六位官家の者にとっては普段より豪勢なのだろう。しかもタダだ。喜んでいる子もたくさんいた。
シュガー族は一皿ずつのコース文化だが、前世の記憶のおかげで学食も抵抗なく食べられる。むしろまだお上品だ。米にドカッと具を乗せた丼モノでも喜んで食べるだろう。
「結構うまいな……」
学生食堂というからにはもっと大衆的な、生姜焼き定食500円とかそういう系の味を期待していたのだが……やはり貴族には相応の食事が振舞われる。
「えっと、ロマネフ五位官令嬢?」
「キリーネヤでいい。姉が2人いるからややこしい」
「あ、そう……じゃあキリーネヤ。私のこともマフィでいいよ」
「また会うことがあったらそう呼ぶわ」
やはり冷たい。クールで人を寄せ付けないオーラがある。
こういうのを孤高と呼ぶのだろうか……そう思いながらマフィがプチトマトにフォークを突き刺そうとした瞬間である。
「どうしてこの私が、平民たちと同じ空間で食事をとらなければならないの!」
その一喝は食堂全体に響き、静寂をもたらした。
マフィもキリーネヤも声のした方向を見る。周囲の生徒が避けるように作った人ごみの空白には、いかにも高位貴族そうなご立派金髪縦ロールが仁王立ちしていた。
彼女にもしっかり獣の耳と尻尾は生えている。
黄色地に黒い斑点……豹族だ。
「恐れながら、ここに平民はおりませんが」
「いいえ。適正試験をパスするだけでなれる七位官や、少し功績をあげれば得られる六位官など、真の血統を持つ私に言わせれば平民ですのよ!」
おっといきなり官位の説明をしなければならなくなったぞ。
今は飯を食う時間だというのに。
官位とは、この国においての貴族階級を指す。
順位は一位から七位。しかしこれらすべてが血統で決まるわけではない。
縦ロールお嬢様の言う通り、平民から六位官まで成り上がるのは夢物語ではないのだ。
最下位の七位官というのは、言ってしまえば平の公務員のようなものだ。
適正試験という名の性格診断や神力診断などを受けて合格できれば、晴れて名目上の貴族となれる。
六位官は地域を統括する地位。町長クラスと言えよう。長く頑張れば狙えなくもない。
さらに七位官が一代限りの地位なのに対し、六位官はしっかり家として子供に位を相続させることができる。
そして五位官以上は、縦ロールの言う通り正統な血筋。いわゆる高位貴族。
領地を持つ者もいるし、実家に帰れば家系図が大事に保管してあるような貴族様だ。
貴族家の数はピラミッド、六位官七位官に比べれば、五位官以上の人間はかなり少なく、上に行けば行くほどもっと少ない。
ここまで来ると血統主義の高位貴族と、実力でなれる低位貴族が同じ官位で扱われるのは歪である。
将来階級闘争が起こるかもしれない。この国大丈夫か?
まぁそんなシリアスな話題は本筋に関係ないので気にしなくて大丈夫だ。
さて、知恵熱が出そうな難しい話題もこの辺でいいだろう。
血は脳より下半身に集めるに限る。
この学院には七位官の子供も通うことができる。一代限りの最下位官の子供など、本当に平民だ。
六位官も少し代を遡れば平民だった家は多い。
そんな平民と同じ飯が食えるか! というのが高位貴族お嬢様の主張。
「私をターカビーシャ三位官家のイリーゼ・ターカビーシャと知って『ここに平民はいない』などと愚にもつかない言葉を並べるおつもりですの?」
三位官……マフィはキリーネヤの「お前あいつと同類なの?」みたいな視線を受け、首を横にブンブンと振る。
またすごいことを言う奴が出たと周囲は戦々恐々。
しかし応対する食堂付きの学院スタッフにとっては毎年の恒例行事である。
ピンからキリまでの令嬢が同じ島で生活していく以上、こうしたクレームは決まって起きるもの。
なのでマニュアルもある。こういう輩に対して下手に出ないというのが学院のスタンスだ。
「学院はあなたひとりのためにあるわけではありません。そして高位貴族が低位貴族を蔑んでよい場所でもありません。ご不満であれば食事はお部屋でどうぞ」
「なんですって! 私は三位官令嬢よ!」
「あなたが二位官でも一位官でも、私の言葉は変わりません」
「なっ……! なんて口の利き方を!」
クレーマーがヒートアップしそうだ。静かに飯も食えないのか……うんざりするキリーネヤの横で、ガタリと椅子から立ち上がる音。
「おい」
「は? なんですの?」
「うるさいぞ。食事中に騒ぐな」
誰だ? マフィだ!
まるで厄介ごとに率先して首を突っ込む行動力溢れる主人公みたいな行動! キャーカッコイイ!
そうして目立つと変な奴らに覚えられて後々ロクな目にあわないというのに。
「あら……誰かと思えば、後継者から外されたマフィ・モフテイル三位官令嬢ではありませんか。ご機嫌麗しゅう」
「久しぶりだな、ターカビーシャ三位官令嬢」
知り合いだった!
縦ロールことイリーゼは同じシュガー、つまりは同派閥。
モフテイルと同じ三位官家の令嬢で、同じ次期当主同士だった。
ちなみに彼女はふたなり。
「公共の場で騒ぎ立てるなよ。同じシュガー族としても三位官家としても恥ずかしいぞ」
「その淑女らしからぬ口ぶりは相変わらずですのね! 低位貴族を庇い立てすると?」
「嫌ならその人の言う通り部屋で食えばいい。国に法律があるように、学院にもルールがある。ほらあの張り紙見ろ、食事中はお静かにって書いてあるぞ」
かなり普通に諭している……本当にこれがあのオホってない夜を知らないマフィなのか。
忘れがちだが三位官令嬢、そこそこ立場ある人間なのだ。
何か言い返そうとしたイリーゼだったが、居心地が悪くなったのかプレートを机に置かないまま背を向ける。
「フンッ! 次期当主でもない腑抜けたあなたとこれ以上会話などしたくありませんわ! ごきげんよう!」
イリーゼを撃退した! マフィのレベルが上がった!
「ふぅ……」
スタッフにお礼を言われ、周囲から好奇の目で見られながら着席。
するとキリーネヤが意外そうに話しかけてくる。
「あなたってああいう時に立てる人間なのね」
「どういうこと?」
「私があなただったとしても、うんざりしながら嵐が過ぎるのを待ってたと思うわ」
「そうかな? キリーネヤなら『黙って食事もできないの?』って冷たく言い放ちそうだけど」
「なにそれ」
呆れたような笑いだったが、氷の美少女が板についていた彼女の初めての笑み。
なんとなく好感度が上がったような気がした。
「一緒に来て。ハンカチ部屋に置いてあるからさ」
食べ終わり、食堂を後にする2人。
そんな2人の──特にマフィの背中を見る者がちらほら。
漫画やアニメだとこういう時、口元だけ映して「ふーん、おもしれー女」とか言わせておけば新キャラ登場の予感を醸し出せるのだろう。
だがもう今回2人もネームドが出ている。これ以上出てきたら頭がパンクするので邂逅はまた別の機会になる。
「そういえばキリーネヤは猫族だよね? ニャって言わないの?」
「言わないわよ、ダサいし」
「ダサいんだ……?」
イマドキの若者ってやつだろうか。
「この寮だよ」
「あら、私も同じ寮よ」
「へーそうなんだ、奇遇じゃん」
生徒の数が多いので寮も複数ある。そんな中で同じ寮、確かに奇遇だ。
「2階だよ」
「あら、私も同じ階よ」
「へーそうなんだ、めっちゃ奇遇じゃん」
「この部屋だよ」
「あら、私は…………隣の部屋よ……」
「へー…………マジで?」
「マジ……」
「スゲー!!」
メインキャラというのはこうして固まるものなのだ。
■TIPS 灯り
この世界には『神具』という便利文明があるので、照明となる神具もある
値段も性能も(高位貴族にとっては)お手頃。大きい街には街灯も存在する
といっても明るさはガス灯と同じくらい。LEDには敵わない