ケモミミ貴族令嬢にTS転生したら、ふたなりたちに玩具にされた 作:ぐらんぐらん
キリーネヤ・ロマネフ……五位官令嬢、クールな猫族、マフィの友達(多分)
イリーゼ・ターカビーシャ……三位官令嬢、ですわ豹族、マフィのライバル(一方的)
ジャスリン・クルネイル……第四王女、王子様系狼族
入学して2週間が経過した。
廊下を歩くのに「やぁ」と第四王女に話しかけられないかビクビクしながらの日々だった。幸いまだ向こうから接触してくることはない。きっと向こうも忘れたんだろう。
朝は「キリーネヤちゃーん! 学校行こうー!」と一緒に登校。
必修授業は問題ない。数学では無双状態を維持。
だが歴史がめんどい。歴代将軍や総理大臣覚えろ並みに暗記ゲーだ。めんどい。これが必修な時点で貴族という生き物の面倒くささが分かる。
他はまぁ貴族としての教養とかマナーとか……家で習ったやつの復習みたいなもの。これは低位貴族のためのものだろう。高位貴族もおさらいとして復習になるが、いかんせん退屈。
昼食は城内にある食堂で。ここも寮区画の中にあるものと同じように沢山の長椅子ホグワーツスタイル。
「キリーネヤちゃーん! ご飯食べようー!」の出番だ。
放課後は「キリーネヤちゃーん!」が通用しないのでぼっちタイム。
令嬢たちに誘われて城下町の喫茶店でお茶をするなどしたが、三位官令嬢あるいは未来の二位官夫人とお近づきになりたいヨイショばかり。表面上ニコニコと接するのがやっとだった。
早くクラブか委員会でも見つけなければずっとこの生活かもしれない。実に疲れる話だ。
「うああぁぁぁ……! また迷った!」
ある日の放課後、城内を彷徨うマフィは嘆く。どうしてクラブとか委員会がどこでやってるかまとめた紙が無いのか、と。
時たま何かしらの活動をやってるのを見つけるも、そういうのに限って食指が動かないものばかり。
アイドル追っかけ同好会とか異世界にもあるんだなーという発見くらいしかなかった。
だがまぁ、こうしてデカい城の中をあてもなく探索するのが楽しくないわけではない。
リアルファンタジー城なのだ。前世の心がワクワクを掻き立てられる。
迷っても歩き続ければ誰かしら見つけられるだろうし。
それがイリーゼとか第四王女じゃなければお城見学ツアーとして楽しい思い出になる。
「…………あ」
気付けば、この前の場所に出てしまった。噴水のある中庭。
先日はこの辺りでジャスリン殿下のあれこれを見てしまった。
「……さすがに今日はいないか」
安心したような期待外れのような。
だが誰もいないわけではなかった。
噴水近くのベンチにひとり、座っている生徒がいる。
どうやらマフィの存在には気付いていないらしい。
独り言をブツブツ呟いているようで、集中してるのか内容が耳に届いてきて……マフィは足を止めた。
「まったく、なんでこの世界女しかいないのよ……! ここってラブカリの世界じゃないの!?」
これが他の生徒だったら「何ワケわかんないこと言ってんだアイツ」で素通りだっただろう。
だがマフィの頭には『この世界』という言葉が引っかかった。
「ていうかふたなりって何よ!? 二次元でしか見たことないっつーの!」
「なぁ、ちょっと」
「私の逆ハールートはどこにあるのよぉぉぉ!」
「ちょっとー? あのー」
「何よ人が嘆いてる時に! …………ふえぇ、なんですかぁ?」
「キャラ繕うの遅いだろ!!」
ようやくこちらの存在に気付いたらしい女子生徒は、まさしくキュルンッといった雰囲気の兎族だった。
まず目につくのはビビットな髪……それこそ漫画でしか見ないような鮮やかなピンク髪。
まぁこの国には色んな髪や毛の色があるから今さらなのだが。
そしてマフィと同じくらい小柄で、庇護欲をそそられるような童顔。
認めたくないが「ふえぇ」が似合っている。
「だ、誰ですかぁ?」
「いやいいって。もう色々聞いたから」
「チッ! 何よ狐女」
「態度変わるの速っ! いやさ、独り言が聞こえてきたもんだから……」
「……それはどうも。誰もいなかったしヒートアップしちゃって」
素顔は性格悪そうだった。いかにもな感じ。異性の友達ばかりで同性とはまったくといったタイプだ。
「君、男を探してるのか?」
「男!? 男いるの!?」
やっぱり……マフィは確信する。
「いないよ。それより……男を知ってるんだな」
「え……?」
「この国には女かふたなりしかいないのに、どうして知ってるんだ?」
「そっちこそ、他の誰も『男』って単語すら知らないのに」
「うーん、これ間違ってたら恥ずかしいけど……私、転生したんだ」
「…………え……」
転生モノあるある。カミングアウト。
まさかこんな序盤ですることになるとは。いや序盤か? 結構経ってるぞ。
「あ、あんたも?」
マフィは間違っていなかった。このピンク兎もまた転生者であった。
で、出たー! 主人公以外の転生者いるパターン!
だいたい主人公の踏み台になるクズだったりするパターン! そうじゃなければ下手に特別なだけに扱いに困って影が薄くなるパターン!
影が濃くてもラスボスになったりして「異世界人同士の戦いに巻き込まれる世界かわいそう」パターン!
ちなみにこの物語ではこの転生仲間が踏み台やキーパーソンになることはない。友達枠だ。
「俺は元日本人で、男だったんだ」
「日本人!? 私も! 今も昔も女だけど……もしかして付いてる?」
「……付いてない。今は女だ……」
「あ、それは……ご愁傷様?」
その後、下校時間になるまで2人は話し込んだ。
ピンク兎は今世の名をメロリィ・ハイレッツェという。
先月入学した前半クラス。七位官家のひとり娘で、つまるところ平民。
しかしただの平民にあらず。前にキリーネヤが話していたような突然変異。
神力を豊富に持ち合わせていて、特に治癒の神術に関しては高位貴族にも引けをとらない才能があるとか。
乙女ゲーなら確かに主人公ヒロインをやるポテンシャルと境遇だろう。
メロリィもマフィと同じく、発情期を迎えて前世の記憶を思い出したらしい。
「で、そのラブカリってゲームの世界だと思ってたわけか」
「そりゃ死んだら転生するならその世界に! って強く願ってたからね。自分が兎になってたら『キターーーー!』ってなるでしょ」
彼女も彼女で苦労したようだ。
同じ思い出し転生で、憧れの乙女ゲー世界に来たのだと思いきや、肝心のイケメンはどこにもいなくて、どこもかしこも女ばかり。
しかも記憶が戻ってすぐ発情期。
彼女はふたなりではない純然たる女。自分と同じ思いをしたのだろうと察するに余りある。
「もうほんっと最悪だったわ!」
「気持ちは分かる……」
「近所にいないだけで学院に入学すれば攻略対象がいるのかと期待した心を返して欲しい……」
「残念だったな」
「あんたはいいでしょうね! どこ見ても無駄に顔の良い女ばっか転がってるんだから! 百合百合してキャッキャウフフしてりゃ満足でしょ!」
「いやそんなことは…………」
「あるんかいっ」
アヤとのキャッキャウフフは望むところだし、なんならほぼ毎晩通話でそうしてる。
だが重要なのはそこではない。
マフィという人間は今世に加えて前世も含めてアイデンティティとなる。
たとえ発情期になれば子宮でしかものを考えられないようになったとしても、男だった事実は魂に刻まれている。
「ま、言っててもしょうがないか……マフィも大変よね、男だったのに女になって、しかも婚約者がいる……お察しね」
「まぁ、うん。でもアヤ──婚約者はすごく良い子なんだよ。むしろあっちが嫁っていうか」
「でもチンコ付いてるじゃない」
「うるさい! アヤのはそういうのじゃないやい!」
プラトニックに育んでいる婚約生活でアヤの裸など見たこともないが、改めて彼女の姿を思い出しても、あの可愛いアヤに……例えばリアリスみたいなモノが付いてるとは思えないし考えたくもない。
「せめてなぁ……いっそ俺に生えてればなぁ……」
「工事でもすれば?」
「そんな技術ないだろこの世界に」
「じゃあ錬術薬に賭けるとか」
れん、じゅつ、やく……錬術薬。
「あ、そうじゃん」
錬術薬とは、製薬工程に神術を行使する薬品の総称だ。
神術には様々な種類の術がある。それらを用いているからか、錬術薬もまた多種多様。
自分に神力があまり無いこと、錬術薬師という超エリート職業への偏見、それらが相まってマフィの中から錬術薬という手段が消えていた。
だがここは学院。努力次第で生徒が自分の将来を見つけられる場所。
薬術の授業は選択科目にあるし、確か『錬術薬研究会』というクラブ活動もある。
「生やす薬の存在は聞いたことないけど、もしかしたら!」
錬術薬の世界は奥深く、難しい。いまだに国も研究の途上。
生やす薬とか性転換する薬とか、そういうのがひょっこり発明されてもおかしくはない。なにせここはファンタジー世界なのだ。
「急にどうしたの?」
「メロリィありがとう! 俺、入るクラブ活動決まったよ!」
「そ、そう……本当に生やす薬探すつもり?」
「生やす薬とか、逆に消す薬とか……本当にそれが存在したら夢があるじゃん!」
具体的には『自分がアヤに孕まされる』のではなく、『自分がアヤを孕ませる』夢。
男として、やっぱりそっちの方がしっくり来る。
本当にそうなれば、自分が処女じゃないこととかあまり関係なくなる。穴ではなく棒を使うようになるのだから。
嫁入り前に処女を失った令嬢なんていなかった。
希望が溢れて止まらない。
「なんか一気に未来が明るくなってきた気がするぞ!」
「よく分からないけど、ヒントになったんならよかったんじゃない」
「ホント恩に着るよ! クラス違うけど同郷ってことでこれからよろしくな!」
メロリィが友達になった!
「まぁ……よろしくしてやらなくもないわよ? 三位官令嬢のコネ強そうだし、いずれ来る悪役令嬢との戦いにも役に立ちそうだわ!」
「どこの誰と戦うんだよ」
なお彼女も夢を諦めていないようだ。
この島国にいなくても、例えば国の外……海の向こうには男がいるかもしれない。そうした希望をまだ捨てていないらしい。
俺、生やす錬術薬見つけるんだ……
私、卒業したら海に出るんだ……
2人はそんな
後日、いつもの放課後ぼっちタイム。
マフィは錬術薬研究会のクラブルームを目指してルンルン気分で歩く。
場所を教えてくれた教師が「え、行きたいの? マジで言ってる?」という顔をしてきたのが謎だったが、まぁ教えてもらったということは行っていいということなのだろう。
「ここか、錬術薬研究会」
教室からずいぶんかかった。
城の7階、部屋の周辺はまるで騙し絵のように入り組んでおり、たどり着くまでに3回迷った。
ただでさえ迷路みたいな城内なのに、ここだけ難易度が違う。ホグワーツかと思ったらラクーンシティだった。
「なんでこんな辺鄙な場所に……部屋作った奴も変人だが、ここ部室にしようって決めた奴も相当の変人だな」
教師に貰ったメモを確認。
両開きの扉はただドアノブを捻れば開くわけではなく、ノックする必要がある。
扉が訪問者を認めれば勝手に開き、資格なしと判断されれば開かないらしい。
いや資格って何? 扉が認めるってなんだ? やっぱりホグワーツじみてるな。
小さな拳で3回ノック。しばしの沈黙。
そして音。扉が開く音だ。
薬品の匂いが鼻についた。
ホグワーツに倣うならこういう場所は暗くてジメジメしてるものだが……意外にも明るい。神具で照らしているのだ。
壁一面には理科室を思い出させる薬品や器具の棚に、多くの分厚い本が入った本棚。いくつもある長机の上には鍋や火を起こす神具。
「すみませーん……」
内装がいかにもそれっぽいのだ。きっとメンバーも相当な錬術薬オタク。
白衣を纏い眼鏡クイッしてそうなリケジョがたむろしてるに違いない。
しかし部屋の中には……
「おやおや、意外なお客さんだ」
灰色の狼族、ジャスリン・クルネイル第四王女殿下がたったひとり。
「げえっ! 何で!?」
「どうしてかはこちらが訊きたいけれど……ふむ、しかし手間が省けたね」
椅子から立ち上がったジャスリンがゆっくり歩み寄ってくる。
その所作だけでも気品的なものがある。さすがは王族。
にしてもすごい身長差だ。マフィの頭のある高さにはジャスリンのみぞおちがある。
「まさかキミの方から訪ねてくるとは思わなかったよ。マフィ・モフテイル三位官令嬢」
ふわっと笑いウインクするその姿は、実に王子様だった。
ここは錬術薬研究会のクラブルーム。確かに合ってる。
目的地である以上、回れ右して逃げ出すわけにもいかない。
「せっかく来たんだ。お茶でもどうだい?」と王女手ずから淹れようとしているのだ。ここで逃げたら余裕で無礼。
そのお茶はゴポゴポと音の鳴る鍋から柄杓みたいなレードルでカップに移されている。本当に大丈夫なお茶なのか? とツッコミたくなった。
「立ったまま飲む必要はない。どうぞ座って」
「は、はい……」
何の因果か王女と同じ卓でお茶を飲むことになってしまった。
神秘的な実験は? リケジョ集団は?
「自己紹介が贈れたね。ボクはジャスリン・クルネイル。まぁ知ってるか」
「そりゃもう存じております……マフィ・モフテイルです……」
いつもの快活さはどこへやら。マフィは肩を縮めて腰も低い。
ぷるぷる、ぼくはわるいキツネじゃないよ。
「それで、ここに来たのはどうしてかな? ボクに会いに来た?」
「いやその、ここって錬術薬研究会ですよね?」
「そうだよ。まさか入会希望?」
「は、はい一応……」
「へぇ」……ジャスリンの目が驚きと期待に輝き、立派な尻尾がブンブンと揺れる。
「殿下ひとりですか? 他の人は……」
「いないよ」
「へー……え、いない? 外出中とか?」
「ふふっ、可愛い反応だね」
ジャスリンがまた立ち上がる。座ったり立ったり忙しい人だ。
ただでさえ背の高い彼女が立つと本当に上から見下ろされる形になった。
──かと思いきや、顎に手を添えられ、上を向かされ……イケメンとしか言いようのないかんばせが目の前に広がる。
これが乙女ゲームかぁ。
「ようこそ錬術薬研究会へ。唯一のメンバーかつ会長として、新たな仲間を歓迎しよう」
唯一……会長……
その言葉の意味を理解する頃には、「やっぱりやめときます」と言う選択肢を失っていた。
■TIPS ラブカリ
メロリィが前世で大好きだった乙女ゲーム『恋(ラブ)の狩人』の略称
兎の主人公がケモミミイケメンを攻略するものだが、世界観も登場人物もこの国と似ても似つかないまったくの無関係である
これで学院でのメインキャラはだいたい出ました
エロシーンはもう少し先です