ケモミミ貴族令嬢にTS転生したら、ふたなりたちに玩具にされた 作:ぐらんぐらん
1週間後、マフィは錬術薬研究会の部屋を訪れた。
悩まなかったわけではないが、真面目に活動してるという王女の言葉を信じることにした。
これで嘘だったらボロクソ言ってやろう。
謎判定の謎自動ドアが開く。さぁ楽しい楽しい研究のはじまりだ!
「やぁ」
扉をくぐった瞬間、耳元でカッコイイ声がしてマフィは悲鳴をあげた。
すぐ裏で待ち伏せていたとは、なんて奴だ。
「ごめんごめん、また来てくれて嬉しかったからつい、ね」
「お戯れはほどほどにしてください……」
ジャスリンの声は低い。ドミルアみたいなハスキーな感じではなく、滑らかなヅカ系の低さだ。
ASMRもかくやというほどの密着囁きは否応なしに心臓が高鳴って仕方ない。
部屋の中は綺麗だ。研究者にありがちなごちゃごちゃ汚部屋ということもなく、ライティングも相まって優雅な雰囲気すらある。
しかしここはちゃんとした部室であり研究室であり実験室でもある。
マフィが来るまでに準備したのか、長机の上にはいくつもの瓶やら壺やら鍋やらが並んでいた。
「改めて自己紹介だ。ボクはジャスリン・クルネイル。この錬術薬研究会の長を務めているよ」
「マフィ・モフテイル……です。よろしくお願いします」
「ここではボクもキミも、ただの研究者だ。難しいかもしれないけど、同じ錬術薬を究めんとする者同士、身分のない平等だと思ってくれ」
「そりゃ……難しいですね」
よくあるアレだろう。無礼講って言って本当に無礼を働いたらしっかり罰があるやつ。
今のを聞いて「そっか! よろしくジャスリン!」と言えるほど図々しくもない。メロリィならやりかねないが……
「さっそく始めよう……と言いたいところだけど、キミは錬術薬についてどこまで知っているかな?」
「神術を組み合わせた薬の総称……ってくらいです。すみません、まだ授業でも学んでないので、知識的なものはさっぱり……」
「本当に第一歩なわけだ。ならキミの初めての教師代わりという栄誉を享受しようかな」
「ハァ!? オメー錬術薬ナメてんの?」と言われても仕方ないくらいの素人っぷり。
しかしジャスリンはくすっと笑い、さらにはこれから色々教えてくれると言ってきた。
彼女の本性はどうあれ、新人の扱いとしては泣いて喜ぶくらい優しい。
「ボクも改めて理解することもありそうだしね。こうして教えるのは互いにとって利があるはずだよ」
人に勉強を教えるとこっちも良い点が取れるアレか。
「キミの言った通り、錬術薬は製薬工程に神術を盛り込んだ薬品の総称だ。その種類はいまだ把握しきれず、薬と術の組み合わせは無限大。新薬が生まれにくい分野でもある」
「ふんふん」
「ただ、作り方が確立されているものもある。ここに並べたのはその一部だよ」
色違いのガラス瓶、その中には液体。
「これは体を治癒する薬、これは周囲に障壁を張れる薬、これは暗い場所でも見える薬──」
確かにどれも一般的。マフィにも見覚えがあるものばかり。
例えば傷を治す薬は患部にかけるやつ。かすり傷なら一瞬だ。
まるでファンタジー世界の魔法薬、ポーション的なファタンジー薬。
ある意味では錬術薬とはゲームのポーションのようなものだろう。様々な効果があって、毒消しとか肉体保護とか俊敏さが上がるとか。
なので生産を禁止している禁薬も多い。
「これは何です?」
「使うと頭がおかしくなって何も考えられないまま多幸感が得られる薬」
「禁薬じゃないですか!」
「さっき調合したんだ。もちろんすぐ廃棄する予定だよ」
自ら作った発言に驚くべきなのかもしれないが、神聖な学院にいきなりお縄レベルの物が存在することにドン引きして忙しい。
マフィは王女がキメセク要素を持っていることを見逃した。
「……あれ? 殿下ってもしかしてすごい錬術薬師ですか?」
「まぁ、ちょっとしたものかな」
「へー……」
どうやらただの道楽ではないらしい。ならちゃんとした学びが得られるかもしれないとウキウキ。
「これは体の柔軟性を上げる薬だよ。どんなに体が硬い人でも柔らかくなる」
「へー……」
「これは髪とか体毛の色を変えられる薬。実は偉い人はコレを使ってお忍びしてたりしてるんだ」
「へー……」
「そしてこれは……まるで発情期のようにエロエロになってしまう超強力媚薬」
「しまってください!」
媚薬は禁薬ではないらしい。禁じろ。
こうしていくつもの薬を紹介してもらい、改めて錬術薬のバリエーションの広さを知らされる。本当に何でもありだ。これでまだ発展途上の分野なのだから恐ろしい。
「残念ながらキミの求める『アレを生やす薬』というのはまだ開発されていないんだけどね」
「えっ、無いんですか……」
「でも見つかっていないだけで、作れるのかもしれない。錬術薬にはそうした夢があるよ。もしかしたらキミがそれを作って歴史に名を刻むかもしれない」
「うう……できるかな」
「重要なのは求める心さ。在学中に学んでおけば卒業後にもしかしたらもあることだって大いにあり得る」
彼女の言う通り希望は潰えていない。
だが求めるのは在学中……結婚するまでにだ。
「……殿下、私はそんな悠長に構えてられません。私に錬術薬の作り方……新薬研究のやり方を教えてください」
なーに言ってんだこの素人は。たった2年で新薬を作り出せると思ってんのか。
……というのはマフィも自覚している。その上での発言を、ジャスリンは今まで見せたことのない真顔で受け止めた。
「それは本来、学院での選択授業や製薬局での研修などを踏んで一端の錬術薬師になってから行うべきことだよ。確かに学生のうちに新薬をバンバン出す人間は存在する。でもキミがそうだとは思えない」
「それでも……お願いします。念願が叶うなら何だってします。どうか導いてください」
マフィにとって錬術薬の頼りはここしかない。プロレベルの製薬術を持つ殿下に縋るしかない。
今から薬術クラブに行ったとしても、ズブの素人がやらせてもらえる実験なんて小学生が理科の授業でやるような食塩水がどーたらくらい。
靴を舐めてでもお願いする必要があった。
ひたむきで真っ直ぐ。まるで主人公だ。
つむじが見えるほど下げられた頭の前で、少し考え込む気配がした。
「…………分かった。そこまで言うなら教えよう」
「っ!」
「ただし、錬術薬は可能性が広すぎる分、危険な分野でもある。実験の失敗で毒物が生まれることもざらだ。実験は必ずボクの監督のもと行うこと。この部屋にある薬品や器具類……匙のひとつだってボクの許可なしに触ってはならない。いいね?」
「はい!! ありがとうございます!!」
なんと、素人の浅はかな願いをジャスリンは聞き入れた。
厳しい声色はいつもの絡みつくようなものに戻り、表情も柔らかくなる。
「なら、さっそく他の条件の話もしようか」
「はい!」
「抱いてもいいかな?」
「は……え?」
真面目な話だったのにいきなり何を言ってるんだこの王女は。
「さっき言ったのは安全のための当たり前なことだよ。キミがボクを頼るというのなら、ボク自身にも何か見返りがあってもいいとは思わないかい?」
「ぐっ……思いますけど、そういうのは……!」
ニマニマとした顔も様になっている。細められた目に射抜かれると、進退窮まった錯覚に陥った。
「他の……」
「他って? 単純なのはお金や家の口利きだけど、ボクはどっちも間に合ってるしね」
「うう……」
なんてことだ。○○と引き換えに体を……というNTRモノの定番な展開になりつつある。
この王女は天才か。
先ほど述べた通り、錬術薬に関してはジャスリンを頼る他ない。
普通に学んでも卒業時に得られるのは『錬術薬師の卵』という肩書まで。卵になるのさえ2年を要する。
マフィは生やす薬を求めているのであって錬術薬師になりたいわけではない。
それら面倒なものをすっ飛ばして新薬を作る手伝いをしてくれると言っているのだ。とてつもなく破格。
それこそ体なんて差し出してもお釣りが来るくらい……
「別に妻になれと言ってるわけじゃないよ。この部屋の中で秘密の恋人になってほしいだけさ。他の言い方をすればセフレなんだけど」
「だ、ダメです……」
「婚約者に……アヤ・ホウジョウに申し訳ない?」
アヤの名を出されて一層ドキッとする。
この女、先週もそうだったが情報収集が早い。
「アヤ嬢もパーティーで見たことがある。生えてるなんて思えないほど可愛い子だったね」
声が手足に絡みついてくる。一歩もそこから動けない。
なんだこれは……狼なのにまるで蛇じゃないか。
「結婚前に処女を失うなんてよくあることさ。もし心配なら在学中にでもアヤ嬢を襲ってアリバイにすればいい。それにキミが生やす薬を欲しがっているのは……子供を産むのが自分ではなくアヤ嬢にするため、じゃないかい?」
「っ……!」
「そもそも輿入れ前の令嬢がそんな薬を欲しがること自体がね……だとすれば、ますますキミが処女かどうかなんて関係なくなってくる。薬さえ完成すれば挿れる側になるのだから」
大した推理力だ。
ほとんどがマフィの思考と合っている。既に処女じゃないことまでは言い当てては来ないけど、もう少し時間があればそれすら暴かれるかもしれない。
もうやめて殿下! マフィが何も言い返せなくなって震えてるの!
「キミは錬術薬を学べる。ボクはキミを抱ける。これでも色々と自信があるから痛い思いはさせないよ。お互いにとって願ったり叶ったり……だろう?」
魅力的だった。
ジャスリンならこの前の筋肉熊みたいに乱暴なことはしてこない。
きっと気持ちよくさせられて、自分から求めるくらい沼ってしまえる。
何もかも彼女の言う通りで、もし薬を作れなかったとしても、最悪アヤが入学してくる来年にでも既成事実を作れば……
これがゲームなら選択肢が出てくるところだ。
『提案を呑む』『断って出ていく』的な。
マフィが選ぶのは──
「…………わかり、ました」
言った。言ってしまった。
自らの意思で、口で、アヤでない人に体を許すと言ってしまった。
何か決定的なスイッチが入ったかのような感覚があった。
重い決断をした体からは力が抜け、へなへなと背もたれに寄りかかる。
「で、でも、その……本番は……あんまり……」
「大丈夫。キミは小柄だから最初は色々とキツいだろう。時間はこれから沢山作れるんだ。ゆっくりお互いのことを知っていこうね」
「そういう意味じゃ……!」
「なら本番以外? それも楽しみだね。錬術薬以外にもたっぷり教えてあげるよ」
上機嫌な彼女の笑顔は毒だ。女を惚れさせる毒。
しかしその笑顔の中には、何か別の毒も含まれてる気がした。
「(ごめん、アヤ……でも、俺は堕ちないから……!)」
はいはい。
セフレ宣言をしてしまったからには、相応の距離になるのも仕方ない。
たとえジャスリンがいきなり肩を抱いてきたとしても、この前みたいに振りほどくことはできない……
「あの、近いです……」
「ふふっ、可愛いね。ボクの子狐」
歯が浮くようなセリフ。だが考えてみてほしい。
自分よりも背の高い年上のお姉さん(王子様系)にこんなことを言われてドキドキしない人間がいるだろうか。いないね!
だからマフィのドキドキも仕方のないことなのだ。
「今さらですけど、なんで私にそこまで? 普通婚約者がいる人間に言い寄ったりしませんよね?」
「確かにそうだね。ボクは王族だからある程度のことは許されてるけど、王族だからこそ弁えるべき線もある」
「だったら……」
「一目惚れ、かな?」
照れくさそうに笑って尻尾をブンブン振るのをやめてほしい。
これではマフィもときめいてしまうじゃないか。寝取られじゃなくて普通に浮気になってしまう。
もう浮気してるようなもの? それを言っちゃあ……
アヤとは寝てないんだからそもそも寝取られですらない? それを言っちゃあ……
「か、片付けましょう! 下校時刻近いですし!」
「そうだね。ついでに何がどこにあるかも教えておこうか」
気を取り直して真面目モード。
使わない鍋はあっちの棚、匙や測定器はあっちの引き出し、などなど。
その途中、薬品棚を見ていたマフィはあるラベルを見つけた。
「あ、リンリン・ブライドのやつだ」
「知ってるのかい?」
「去年話題になってましたし。正体不明の錬術薬師、画期的な新薬を年に3つも発明したのは前代未聞だって」
姿を明かさないながら国には認められている。きっと天才すぎてよからぬ事に巻き込まれないよう、正体は国のトップ一握りだけ知ってるのだろうというのがもっぱらの噂。
それがリンリン・ブライド。
好奇心旺盛な人種が彼女を白日の下に晒そうとしているが、誰も彼女にはたどり着かない。
「いやぁ照れるなぁ」
「なんで殿下が照れてるんですか。友達とかですか?」
「ううん、それボクだから」
「…………え?」
まっさかぁ。
「いやいや、流石に嘘ですよね」
「キミに嘘なんて吐いたことないよ。リンリン・ブライドはボクのペンネームみたいなものさ。この研究会に顧問教師もいなくてボクが取り仕切ってるのも、学院長がそれを知ってるからなんだ」
たいそう驚いた。
しかし納得できる部分もある。
いくら学生主導の活動といっても、部活に顧問がいるのは当たり前。それがいないのだから、つまり会長のジャスリンが顧問以上の何かを持っているということで……
「ほ、本当に?」
「10歳の時に資格を取って、そこからずっとね。偽名を使ってるのは……ほら、ボクが薬作ってるっておかしいだろう? それにボクの名前で出た薬がどう思われるかも分かってるし」
天才かと思ったらマジの大天才だった。
イケメンで、王女様で、遊び人で、イケメンで、今をときめく正体不明の錬術薬師……どれだけ属性を盛れば気が済むんだ。
しかしこれはマフィにとって好都合だ。
なにせリンリン・ブライドの協力が得られるというのは渡りに船……いや、渡りにクルーザー。心強いことこの上ないのだから。
クルーザーの運賃? 体で……