ケモミミ貴族令嬢にTS転生したら、ふたなりたちに玩具にされた 作:ぐらんぐらん
マフィは空気が読める女である。いや男……女である。
キリーネヤとメロリィの仲がいい感じになってるのは察していたし、いつ「私たち付き合い始めたから」って言われても納得できる。
実際、最近は恋愛漫画の中盤のような空気だった。
2人の様子を見るに、お互い告白等はしていないのだろう。友達以上恋人未満といったところ。
だから彼女が両親にカミングアウトした時、マフィは「野暮用があるから」と控室に戻らず別れることを思いついた。
ぶっちゃけマフィにやれることはもうない。
マネージャーとしては褒められた考えではないが、もう今日は帰ってもいいだろう。
休日なのに朝から起きて、お姉さん2人とセックスして、城と会場をダッシュ往復。極めつけに神力が空っぽ。
端的に言えばすごく疲れた。特に神力はバカにできない。
神力が枯渇すると、途方もない脱力感に見舞われる。
これ以上走ったら吐くって感じの疲れだ。
マフィはもう早く帰って寝たいまである。
「だめだ、もうひと頑張り……」
クラブルームの器具類を片付けていない。
今日中に片付けなくても危険などは無いが、勝手に使っただけに放置はバツが悪い。
重い足取りでひとり廊下を歩く。
「マフィさん! 私の活躍はどうだったかしら? 特にキリーネヤさんを華麗に倒した2回戦なんか」
すると面倒なのが声をかけてきた。
久しぶりの登場である。
「イリーゼ……ああ、うん。お疲れー」
「なんですのそのテキトーな返事は! あなたのキリーネヤさんを豪快にぶっ飛ばした私のチンは凄かったって話をしなさいな!」
よっぽど嬉しいようだ。
そりゃ今のイリーゼを形作ってるのは幼少期のマフィとのやり取りであるから、そのマフィがマネージャーをやっている選手を負かすのは限りなくリベンジに近いとも言えるだろう。
「悪い……今ちょっと疲れちゃって」
「……よく見れば顔色が優れないじゃない。なんであなたがそうなっているのかしら?」
「色々あって体調悪いんだ……まぁあれだ、私もう帰るから──」
ふらっ……
この瞬間、マフィはどこか自分のことを他人事のように見ていた。
人間って本当に力が抜けると絶対崩しちゃいけない姿勢すら崩してしまうのかー、という謎の俯瞰視点。
床が迫っているのに危機感を覚えるより先に「あーダメなんだこれ」ってなる感じの……
「ちょっと!?」
幸い、顔が床にぶつかるより先にイリーゼに抱き留められる。
チントレに加えて全体的にも鍛えているDESUWAお嬢様は見た目以上に力持ち。
腕だけで体重を支えられ、マフィが真っ先に抱いたのは安心感。
「あ……悪い」
「本当に大丈夫ですの!? 医務室に連れていってあげますから」
「いやいいって。神力切れでふらついてるだけだから」
「神力切れって、普通に暮らしててそんなことありえないでしょう! というか初めて見ましたわ!」
こればかりはイリーゼの意見が一般的だ。
普通は神力切れになる前に「あ、これ以上はヤバいな」ってなるものだ。
限界を超えてまで神術を使い続けるシーンなど日常には存在しない。
「とにかく平気だ。支えてくれてありがとな。イリーゼはこの後もあるんだし、まぁなんだ、頑張れよ。優勝するといいな」
「む……応援か社交辞令か分からないのは歓迎しかねますわ」
「応援だって。優勝できたらなんでも言うこと聞いてやるよ。ほら、これで頑張れるな」
「えっ!?」
「それじゃ」
マフィはマフィなりに気遣っていた。
イリーゼは単にチン道を頑張ってる一選手。キリーネヤの目標を挫いたからといって恨む筋合いはない。むしろ勝ったのだから胸を張って次に臨んでほしい。
偽らざる本心からの応援である。
まぁそれ以上に早くクラブルームに戻って片づけをしたいのと、帰って寝たいというのもあったからさっさと話を切り上げる必要もあった。
だからって優勝したらお願いを聞くっていうのは……マフィ的にはスイーツでも奢ってやるくらいのノリだったのだが、イリーゼからしたらそれ以上の意味がある。
ターカビーシャ三位官令嬢だって年頃の健康優良ふたなり。溢れ出るティーンエイジャーのパッションが淑女のベールを突き破りそうになる。
今まさに彼女の脳内では「言うこと聞くって言ったしな……」と服をはだけるマフィの姿が……若いね。
ちなみに時系列的に今は2回戦中。この後イリーゼは普通に負ける。現実は無情なり……
どうしてこの城はクソデカくてクソ高いのにエレベーターもエスカレーターも無いのだろう。
ほぼ毎日思っているが、今日ほど前世の文明が恋しくなった日もない。
先ほどの10倍以上もの時間をかけて、マフィはなんとか7階まで登り切る。
器具の片づけとは食器洗いみたいなものだ。
長くても10分で終わる。それさえ終われば今日は帰って、明日も一日中ダラダラと過ごそう。
そう思いながら錬術薬研究会の扉を開けるマフィは、既に洗われた器具たちを見る。
「あ…………殿下……」
そして、眉間に皺を寄せながら棚をチェックするジャスリンの姿も見た。
「休日に珍しいね」
「…………」
すぐには返答できなかった。
一言発しただけでも分かるほどにジャスリンの機嫌は悪く、その原因もすぐに分かってしまう。
「ジャスリン様も、どうしてここに?」
「この部屋は厳重なんだよ。机の引き出しにはリンリン・ブライドに繋がる書類が入っているし、棚には使いようによっては劇薬に変身する素材も多い。もしボクが不在の時に誰かが持ち出そうとすればすぐに知らせが来る。そういう神具があるんだ」
警報装置のようなものまであるとは、神具とはなんて便利なんだろう。
「この部屋に勝手に入れるのは、ボクを除けば研究会のメンバーであるキミだけだ。教えてくれないかい? ボクに黙って、ボクの言いつけを破って製薬した理由を」
まぁ今回に限ってはそのせいでマフィの所業が秒でバレてしまったわけだが。
ジャスリンの目は冷たい。まるで獲物を確実に仕留める冷徹な狩猟者のようだ。
同じ肉食獣である狐も、狼のマジ凄みには怯んでしまう。
「っ……」
「言ったはずだよ。実験をする時には必ずボクの監督のもと行うと。それは素人であるキミがひとりで事故を起こさないため、起きたとしてもすぐ対応するため。こんな理屈は今さら説明しなくても分かるよね?」
狼は獲物を逃がさないよう扉側へと回り込む。
一歩、また一歩とジャスリンが近付く度にマフィは後ずさる。
どうして後ずさるのか、それはマフィ自身にも罪悪感があるから。
友達のためにしたと胸を張って言えるが、後ろめたさは消えない。
それに元の原因が原因。理由を喋ろうとしても喋れない。
故に無言。しかし謝る。
「ごめんで済む問題じゃないのはキミも分かっているよね?」
マフィの謝罪はすげなく一蹴された。
「キミにはあまりこういうことは言いたくなかったけど……失望したよ」
ついにマフィの逃げ道がなくなり、頭のすぐ横にある壁に手がドン。
本気の怒り。ジャスリンは軽薄な放蕩王女だが、リンリン・ブライドとして錬術薬に関しては真剣だ。
故にマフィの行いは看過できない。
王女の言葉、そして錬術薬研究そのものに対しての姿勢が疑われる行為だからだ。
例えば大学の研究室で1年生が勝手に色々実験したら教授はキレるだろう。それも本来なら資格が必要なものを無断で。前世ならニュースになりかねない。
壁ドンの姿勢のまま、ジャスリンの説教はネチネチ続いた。
「せっかく目をかけているのに~」とか「本気で学ぶつもりなら勝手な真似はしないはずだ~」とか。
怒りが混じっているからか、普段なら彼女が言わないような上から目線や攻撃的な言葉も見受けられる。
無論、これはジャスリンがマフィに対して真剣に向き合っているからとも言える。
怒るのは愛ゆえにとまでは言わないが、少なくともまだマフィを一人前の錬術薬師にしようという気持ちはある。
そうじゃなきゃさっさと研究会を追放させている。
「…………」
しかし、マフィはそれをボーっと聞くことしかできない。
ただでさえ疲れてる。その疲れは普段なら素直なマフィの神経をささくれ立たせる。
「……もういいですか?」
「なんだって?」
「ジャスリン様の言葉は全部正しいです。俺が間違ってます。やっちゃいけないことをしました。処分は好きにしてください。だから今日は帰らせてください」
今にも消え入りそうな、元気のげの字も感じさせない声量。
ぶっきらぼうにすら見えて、ともすれば反省なんてしていないようにも見える。
この態度がジャスリンの火に油を注ぐ。
「キミは自分がしたことを分かっているのか!」
分かっている。分かってはいる。
だが今はそれどころじゃない。疲れてるんだ。倒れそうなんだ。
ああもう、うるさい──マフィも負けじと口を大きく開ける。
「あんただっていつも真面目じゃないくせに! 俺を放ってヘラヘラ遊び惚けてるくせに! こんな時だけ口うるさく言われたくない!!」
金切り声のようなヒステリックシャウトがジャスリンを怯ませた。
その隙を突き、マフィは走って王女の腕を抜ける。
「なにを言っ、マフィ!」
そのまま扉を開き、呼び止めるジャスリンの声を無視。
振り絞った最後の力で階段を駆け下り……途中で力尽き立ち止まる。
「なに言ってんだ俺……」
その後はとぼとぼ歩いて帰り、寮の部屋に戻るなり着替えも風呂もご飯も済ませずベッドに倒れ込む。
何かを考える暇も反省する暇もなく、マフィは眠気に攫われた。
途中、キリーネヤたちが心配して部屋を訪ねたかもしれない。
それが本当にあった出来事だとしても、マフィは眠ったまま。もしくは寝ぼけて覚えていないだろう。
夢を見ただろうか。
見たとしたら、もうひとりの僕がこう言ってきたことだろう。
「やーいやーいバカ女」
にんころのエンディングみたいな切り口で罵ってきた。にんころ面白かったな。もう最終回だなんて信じられない。来期わたなれが始まるからそれを見よう。そのまた来期はわたたべ。百合アニメは終わらねぇ……!
百合アニメの話をしてる場合ではない。
勝手に錬術薬を作ったことはジャスリンの言う通り悪いことだ。もっと深刻に捉えるべきことだ。
悪さで言ったら10:0でマフィが悪い。
しかしあの時、マフィにあるのは友達を助けたいという純粋な理由のみだった。
もしも理由を明かせれば、友達を助けるために仕方なかったんですと言えれば、まだ酌量があったかもしれない。
チン道に関することじゃなければ秘密厳守の神術が発動することもなかったのに。
媚薬の効果を発散するため、薬を作るため、ロマネフの姉2人とまぐわった。
悪いことと知りながら、一度は躊躇して薬を作った。
行きも帰りも全速力で力を振り絞った。
その結果がアレだ。
錬術薬を作っても作らなくてもキリーネヤとメロリィはああなってたし、2回戦で負けていた。
見事に空回った。結局なんの意味もなかった。
得たのは何だ? 第四王女の不興だけだ。
よかれと思ったことで自分の首を絞めるなんて大間抜け。
その上ジャスリンに対してあんな言い方をした。
責められてるのに早く帰りたいからまったく関係ない不満をぶちまけた。
元々あったジャスリンへのモヤモヤが異常なタイミングで爆発した。
まるで喧嘩したカップルの彼女だ。
「それ言ったらあんただっていつも!」みたいな喧嘩の主題とは関係ない日々の不満をぶつけるアレ。
反論でもなんでもない逆ギレ。
なんであんなことを言ったのか、マフィ本人にも分からない。
疲れていたから変な思考になったのか、それとも口が軽くなっていたのか。
どちらにせよ最悪。
それを最悪だったと後悔できるくらいにはまだまともだ。
睡眠とは永遠に続かないものだし、眠くなければ眠れない。
翌日、マフィは起きるしかない。
せっかく週2日ある休日の半分を徒労で終え、もう半分は寝過ごした。休日なのにまったく休んだ気分じゃない。
「……はぁぁぁ~…………」
いくら後悔しても時は戻らない。
やっちゃものはやっちゃったし、言っちゃったものは言っちゃった。
肝心なのはどうリカバーするかだ。
「つっても……もうダメなのかなぁ」
諦めかけてる!
「辞めさせられる……のかなぁ」
研究会から追放……これはまだ良い方だ。
もしかしたらジャスリンから学院側に報告が行って、思ったよりも事態が深刻になって、回り回って家まで巻き込んだら……嫌な想像は止まらない。
確認する方法は簡単。ジャスリンを訪ねて訊けばいい。
それができたら苦労しない。昨日の今日でどんな顔をして会うつもりだ。
「あああああああ……」
マフィはベッドから出てヨロヨロと机に向かい、引き出しからフォンクリスタルを取り出す。
「…………出ない」
アヤに救いと癒しを求めようとするも、肝心の本人は外しているようだ。
そういえば休日のこの時間、アヤはいつも神事関連の修行をしている……間も悪い。
もしかしたら、と再度かけてみても結果は同じ。
「…………」
いよいよマフィのメンタルがヘラってくる。
いくら前世で男であっても今世は女。
「前世分合わせたら親より年上だわ~」とか全然思えない。精神年齢は体に引っ張られる。
それに15年間という長い時間を女だと自覚して生きてきた。おまけに前世の記憶も気付けば薄れていってる。
これまで散々チンポに負けてクソメス化した彼女は、果たしてまだ男と言えるのか。
つまるところ、今のマフィは多感な時期に色々ありすぎてる思春期少女でしかない。
メンタルもパンクする。
部屋の中は静かだ。自分の息遣い以外は何も聞こえない。
世界でひとりぼっちな気分にさえなれる。
丸一日何も食べてなくてお腹が空いている。
ぶっちゃけこのメンタル衰弱の大部分を占めているのが空腹のせいでもあるが、この部屋に食べ物は無い。
じゃあ食堂にでも行って飯を食えばいいじゃないか……と言われると、それができない。
外に出たら何もかも悪い方へ向かう気がしたのだ。
部屋の中なら何も起きない。故に安心。
しかし仮初の安心では腹も膨れず、もっとお腹が空くともっとネガティブに。
メンタルの悪循環である。
日課だった勉強もランニングもする気になれない。
誰かに会って気を紛らわせたい。誰か部屋に来ないものか。
不安と孤独感に押しつぶされそうになる……
コン、コン、コン──
「っ?」
その音は救いにも感じられた。
人恋しくてたまらない時に人が来てくれたのだ。
一気に活力が湧いてきたマフィは急いでドアへ向かう。
誰だろう、キリーネヤかメロリィだろうか。それとも……
「(ジャスリン様……だったりして)」
そう思うと一番嬉しくなってしまう自分をまったく疑っていないマフィはドアを開けて驚く。
「え、イリーゼ?」
「ごきげんよう。調子はいかが?」
イリーゼ・ターカビーシャ三位官令嬢。
美味しそうな匂いのするバスケットを持った縦ロールお嬢様がそこに立っていた。
真っ先にお腹が反応する。かなり大きな音が鳴った。
「っ……」
「お邪魔しても?」
「ど、どうぞ」
イリーゼは部屋に入るやいなやテーブルにバスケットの中身を並べ始める。
パンにお肉に野菜……どれも美味しそうだ。マフィは「どうしてここに?」と訊く前に本能を優先する。
「それって……」
「キリーネヤさんから聞きましたの。起こしても起きなかったって。神力切れならお腹も空いてるでしょう?」
「い、いいの?」
「そのために持ってきたのですわ」
イリーゼ様……! 他人を身分で差別する以外はまともなお方……!
彼女は昨日のマフィの様子を見てからずっと心配していたようだ。
まさかそれが原因で負けたのかと訊けば「そんなわけないでしょう!」と言うだろうが。
「お食べなさいな」
「いただきます!」
マフィはマナーもへったくれもなくかぶりついた。
途中喉を詰まらせ、イリーゼに背中を叩いてもらい水も貰い、あっという間に完食。
「ご馳走様……あの、ありがとな」
「いいえ。一応同じシュガー神の眷属ですし、心配してさしあげるのも同輩のよしみですわ」
とか言ってやっぱり昨日から気になってたでしょ? と訊けば「そんなわけないでしょう!」と以下略。
「本で読みましたけど、神力切れはかなりお辛いとか。今はどうですの?」
「うん……辛かったけど食べてちょっと元気出た」
「そう、それはなにより」
それきり会話が終わり、しばしの沈黙。
思えばこうして落ち着いて話をするのなんて初めてだ。
少し緊張できるくらいには回復したマフィが話を振る。
「そういえば、昨日……大会はどうなった?」
「ブリュンヒルデ先輩が優勝でしたわ」
「イリーゼは?」
「……あの後すぐ負けました」
「あ……ごめん」
「ふんっ! 今年はキリーネヤさんを倒せたからよしとします! 来年こそは優勝してやりますわ!」
前向きだ。DESUWAお嬢様って基本ポジティブだ。それがマフィには眩しく見える。
「そ、っか……頑張れ」
「あなたに言われなくても」
それでは私はこれで──用も済んだしさっさと帰ろうとするイリーゼ。
「あっ……」
しかしマフィは彼女を追いかけ、扉の前で袖を掴む。
「どうしましたの?」
「あ、えと…………もうちょっと、いてくれないか……お茶とか出すから……」
弱弱しい上目遣い。
長期休みの終わり際にメロリィが指摘した『なんかエッチな仕草』で繰り出されるそれは、イリーゼを動揺させる。
「別に……いいですけど」
開きかけていた扉が閉まり、狐と豹はふたりきり……
■TIPS シリアス展開
シリアスっぽくなってもこの物語は全体的に頭が悪いので早々にエロに帰結する