ケモミミ貴族令嬢にTS転生したら、ふたなりたちに玩具にされた 作:ぐらんぐらん
マフィは色々と父親譲りのものが多い。
たとえば愛らしい童顔とか、髪や目の色とか。
対して妹リアリスは母親似だ。
童顔であることやイチゴ色の目などは父親*1やマフィと同じ。しかし髪色が母親の血を濃く映している。
真っ白な髪に赤目……前世の記憶から「アルビノ美少女だ!」とマフィは思う。
なお、ただ色が同じなだけでリアリスはアルビノではない。健康体だ。
そんな美少女が、妹が姉に向ける目は穏やかではない。
「発情期だって聞きましたけど」
「今は……収まってる」
「そうですか」
それだけで会話が終わってしまった。場を沈黙が支配し、ニンネはどうしたものかと困り果て、マフィは俯く。
「(やっぱり……俺のこと嫌ってるんだろうな)」
マフィはそう扱われるだけの理由があると自覚している。
なにせ妹に次期当主という重責を押し付けたのは他でもない自分なのだから。
後継者の座が嫌になって拒んだのは今から3年前。
勉強する気も無く、神力も平均以下。三位官家を継ぐには弱い。
本人の要望と周囲の納得。そして何より……リアリスの能力の高さがあり、嫡子の座はすんなり移動した。
リアリス本人の意思とは無関係に。
彼女からしてみれば、10歳にして急に背負わされた重荷。
本来ならもっと早くに始めるはずの当主教育は詰め込み気味で、あの母の監督となれば厳しさもかなりのもの。
いくら勉強ができて淑女になれるリアリスも辛かったはずだ。
教育の甲斐はあった。
3年という月日の中で、天真爛漫だった部分は徐々に落ち着いた淑女へと変わり、母から厳しさも学び、下手をしたらマフィより大人びて見える。
だがそれは本来あるべき彼女の未来を捻じ曲げて作り上げたもの……まだ13歳、明るい盛りのはずなのに。
最初はマフィも話しかけたし、妹も応えてくれていた。
それが段々と態度が悪くなり……しまいには喧嘩もしていないのにギスギスムード。
身勝手に当主の座を自分に押し付け、自身はさっさと結婚して家から逃げる無能な姉を……さぞ恨んでいることだろう。
直接本人からそうだと言われたことはないが、態度からそうとしか思えない。
だからマフィは妹に対して腰が引ける。罪悪感を抱く。
「なんだお前、扇子なんか持っちゃって! もう一端のレディだな!」……なんて声をかけられるはずもない。
昔みたいに手を引いて遊びに誘うこともできやしない。
「……わたくし、急いでるので。ごきげんよう」
「あっ……」
さっさとこの場から離れたい。お前の顔なんか見たくないとでも言いたげな雰囲気とともに、リアリスはすれ違うように通り過ぎる。
「(もうすぐ学院で、それが終われば結婚……もうリアと話す機会も……やっぱり、謝るべきなのか? でもどのツラ下げて……)」
「くっさ…………」
「っ!?」
「臭すぎますお姉様。お風呂にでも入られたら?」
去り際の言葉が姉妹間の溝の深さを教えてくれる。
美少女からのシンプル悪口ほど心を抉るものはない。
マフィはがくっと膝をついた。
「い……今から入るところだったんだよぉぉぉ……!!」
いくら言い訳しても既にリアリスはいない。虚しい叫びを聞くのはニンネのみ。
「お嬢様……」
「……お風呂行こう…………」
予定通り浴室に行き「やはりお手伝いを……」「いらない!」というやり取りを経て入浴。
前世のルーティンで、まず髪と体を洗ってから熱いお湯が張られた広めのバスタブへ……
「か、髪が……!」
とはいかない。
前世で体験したことがなく、今世でも使用人に洗わせていたロングヘア。これがなかなかどうして難しい。
使うシャンプーの量は多くなってしまうし、すすいでもすすいでも全部の泡が取れた気がしない。
さらにトリートメント。髪は女の命というが、美しい命のためには時間と手間が欠かせないことをマフィは身をもって思い知る。
「にしても、シャンプーとか当たり前のようにあるよな……文明レベルどうなってんだ。都合良すぎないか?」
そういう世界である。女しかいない国では美容技術が進んでいるとか、そうした理屈じみた世界観説明を今さらしている場合ではない。
いま気にすべきはそこではないのだから。
「はぁ…………」
バスタブに浸かりながら考えるのは廊下での一幕。
マフィの心に刺さった棘。前世の記憶を取り戻したところで、妹との関係が変わるわけでもない。
実際、彼女と対面しても言葉のひとつもかけられなかったのだから。
「(……いや、それでも)」
元男の少女はパチンと自分の両頬を叩く。
自分は年上だ。前世分も足せば親子ほども離れるくらいに。
だというのに逃げてばかりでいいのか? 否。
姉として……いや兄として、せめて妹に詫びのひとつでも入れるのがケジメというものではないか。
たとえ妹の方が避けていようと、嫌われていようと、誹りを真正面から受けてでも話し合うべきだ。
マフィは固く誓った。「発情期が終わったら妹にちゃんと謝ろう」と。
まぁ、当のリアリスはマフィを嫌っているわけでもないのだが。
「くっさ……♡ お姉様臭すぎ……! なんなのあのクソメス臭! まだ鼻の奥に残ってる……あんなの漂わせて歩くとか公害よ公害! いつからお姉さまはエロテロリストになってしまわれたの♡」
リアリスはその場から立ち去った後、足早に自室に戻った。
使用人が誰もいなかったのは好都合。
姉とすれ違って少し話をしただけでふたなり少女巨根がスカートを下から持ち上げる……というはしたない姿を誰にも見られずに済んだのだから。
「おかえりなさいませニャお嬢様~! 言った通りマフィお嬢様ちゃんと通ったニャ?」
「ええ。あなたの言った通りにね。よくやったわアンニャ」
部屋にはリアリスの専属メイド──猫族のアンニャがしたり顔で待機していた。
使用人であるこの三毛猫は先ほどの「このルートをマフィお嬢様が通るからみんな近付かないように」というお触れを逆手に取り、リアリスがマフィと接触できるように仕向けていたのだ。
「まさか発情期のお姉さまが部屋から出てくることがあるなんて……ふ、ふふ、ふふふふふふ……」
「それでどうでしたかニャ? 上手く話せましたかニャ?」
「無理よ無理、あんなフェロモンまみれ女と話して正気を保てるわけないじゃない! 勃ちそうなところを気合で耐えるしかなかった……!」
そう、リアリスは決して姉が視界に入るのも認めないほど嫌っているというわけではない。
視界に入れてしまえば即勃起してはしたない姿を晒す。それを防ぐために目を逸らし、歯を食いしばって険しい表情になっていたのだ。
幼い頃から、リアリスにとって姉は特別な存在だった。
どこに行くにもついていきたくて、お風呂も寝る時も一緒。
ずっと大好きだった。今もそうだ。嫌うなんてありえない。
すべては3年前、次期当主が自分へと変わり、姉の態度に申し訳なさが垣間見えた時に始まった。
『勉強してるのか? そっか……あ、その、食べたいものとかあるか? 持ってくるよ!』
『リアは凄いよ。頭も良くて神術の才能もあって、みんなリアのことを認めてる。俺──私も、そう……思うよ……』
『リア………………なんでもない……勉強、頑張れよ』
頼りになる姉、妹の手を引く姉……それらのイメージがどんどん崩れていった。
そして残ったのは、あのお姉様が弱弱しい顔を見せるというギャップへのときめき。
恋心が生まれるのは必然だった。
「必然ですかニャァ……?」
「必然よ!」
いきなり次期当主だと言われてもリアリスは受け入れた。姉が「俺は当主なんて向いてない」と常日頃から口にするのを聞いていたからだ。
別に当主の座に興味はない。ただ姉を解放してあげたかった。
当主教育だってなんてことなかった。母は厳しいが、それに応えるだけのポテンシャルがリアリスにはあった。
そして淑女として、次期当主としての道を邁進する彼女にはある考えが浮かぶ。
『わたくしが当主になってお姉様を養う! 一生家にいてくれるだけでいい!』
だが現実は少女の夢を早々に簡単に打ち砕く。
後継者の座から外れたのならと、さっさとホウジョウ家のアヤと婚約を結んでしまったのだ。
ふたなりでも跡継ぎでもない貴族令嬢の将来とはそういうものだ。それに相手とは幼馴染同士で互いにまんざらでもない。
リアリスは気が狂いそうだった。脳が破壊された。
そんな婚約無効だ無効! と叫びたくても相手は二位官家、こっちは三位官。立場で負けてる。
両家が前向きなのにいきなり下位の家から破棄を突きつけるのは現実的ではない。
マジで気が狂いそうだった。
思えばそうした要因から次第にマフィへの当たりもキツくなっていったのかもしれない。
叶わぬ恋だと割り切れない少女の心が現実を受け入れたくなかったのかもしれない。
「でも……そう……最後の手段は残っている……!」
「やべぇですニャ。それやったら色々ぶっ飛ぶニャ」
「確かに二位官家との婚約がご破算になるのは家にとってはマズいけど……わたくしのお姉様をどこにもやらないという方が重くはなくて!?」
「お嬢様以外みんな婚約の方が重いって言うと思うニャ」
「関係ない! わたくしは次期当主よ! アンニャ、今から調査を命じるわ」
彼女が命じるのはマフィの部屋の出入りチェック。
何時に誰が出入りするのか。ご飯は定時に持っていくのか。などなど。
あとは今後もマフィが今日みたいに風呂に入るのか、というもの。
「それに、あなたなら隙を見てお姉様の部屋に潜むこともできるでしょう?」
「嫌ですニャ! バレたらクビになっちゃいますニャ!」
「わたくしの命令が聞けないというの!? 失敗した時のクビか、今すぐのクビか選びなさい!」
「横暴ですニャァ!!」
シスコンに巻き込まれた哀れな三毛猫ちゃんは結局首を縦に振ることになった。
「ふふふ……お姉様、ふふふふふっ……待っていてください……! アヤ・ホウジョウのところになんて行く必要はありません……お姉さまはずっとこの家に暮らしてていいんです……そのためにも、お姉様の処女を……ふふ、ふふふふ……」
「お、おぉ……お嬢様、勃ってますニャ。この後先生が来るニャよ?」
齢13にして姉の処女を狙う早熟天才淑女の脳内はサーモンピンク色の未来に染まっていた。
■TIPS アンニャの「ニャ」
古来より猫族は全員が語尾にニャを付ける種族である
アンニャはふたなりではないがバリタチである