ケモミミ貴族令嬢にTS転生したら、ふたなりたちに玩具にされた 作:ぐらんぐらん
ホウジョウ家への登城のお触れはすぐに出された。
娘に激甘な王が、ジャスリンの名を隠して色んな家を巻き込んだのだ。
ホウジョウ家だけではない。神事に関わる家の当主と次期当主を呼び出す仰々しい催しになった。
名目は本当にテキトーなもの。神事を司る家として確認がどうたらこうたら~とか。端的に言えば会議。
国から直々に呼ばれれば二位官家といえど逆らえない。
何気に聖職者の家系であるリングフィールド家も謎の確認に呼び出されたのは別の話。
元の理由が理由なのでさぞ実のない集まりになるんだろうな……と思いきや、そうでもない。
全氏族の現在の宗教的な作法やNGなことも事細かに共有され……結果的に他氏族への理解を互いに深める有意義な場となったのだ。
これまで共有されていなかったわけではない。
全氏族のそういうルール的なものは一応文書として存在している。
しかしこうして実際に聞いて知る機会は定期的にやらねば、つい忘れてしまうものだ。
最後には「これからも10年くらいのスパンで同じように集まろう」とまで決まった。
これには王も感心。
「もしやジャスリンはこうなることを見越して頼んできたのか」と、勘違いタグ小説の主人公みたいな評価の上がり方をした。
……そんなことになるとは露知らず、アヤを見送ったマフィは沈んでいた。
ジャスリンから「陛下に根回ししたから出産予定日前後にはアヤ嬢を島から遠ざけるよ」と聞いていたから寝耳に水ではなかったけど、愛する婚約者と離れ離れになるのは普通にヘコむ。
別れ際など泣いてしまって、「すぐ帰ってきますから泣かないでください」と年下に気を遣わせてしまった。
それからはいつ産気づいてもいいように寮の自室ではなくジャスリンの屋敷で生活。
出産に備えることもあり研究も休み、生活のあれこれを使用人に任せるVIP待遇である。
とはいえお腹が重いことと腰痛に気を付けなければならないこと以外の体調はそこまで悪くない。
胎児も育ったので食欲や味覚も通常に戻っている。
今頃キリーネヤは去年と同じく灯台の中の秘密修行で頑張っていて、メロリィはそのサポートをしてて、ジャスリンはひとりでも開発を続けている。
時間は着々と進んでいた。
数日後、「修行の息抜きがしたいからマフィも研究休んで遊びましょ!」とメロリィたちに誘われた。
せっかく友達と会える機会は逃がしたくない。体の調子も悪くなかったし、ジャスリンに頼んで再び偽装神術をかけてもらい、マフィは数日ぶりの城下町に繰り出した。
……しかし出産を控えている中、供もつけずにひとりで出かけさせるのは迂闊だった。
妊娠のことなど知りもしない友人らに会いに行くのだから付き添いがいるのが不自然、と考えるのは仕方ないことなのかもしれないが。
「今日はふっくらなドレスなのね」
「変かな?」
「可愛いと思うわよ」
今日はお腹が目立たないゆったりウェアを纏っている。
偽装してるからバレることもないけど、マフィは心情的にこれをチョイスした。
キリーネヤの言うことなら友達の色眼鏡もないし、きっと可愛く見えるのだろう。実際可愛い。
「とりまいつものお店でいい?」
「うん。何気に3人で行くの久しぶりだし」
2年生になってからは付き合いが悪いとは言わないが一緒に出かける回数も減ったし、集まる時もだいたいアヤと一緒だったので、久々の3人での集まりだ。
こういう場では基本的にメロリィがあれこれスパッと決めてくれる。
ご飯屋さんや喫茶店、色んなブランドのお店をウィンドウショッピング……城下町を楽しみ歩く。
「なにこのネックレスメッチャ可愛い! ねぇキリ買って~!」
「いいわよ」
「やったー大好き!」
途中、なんかタカる女とタカられる女がいた。
ステレオタイプのカップルかな?
「うわー……」
「なによ、あんただってカノジョからの贈り物は嬉しいでしょ」
キリーネヤとメロリィは婚約者になってからずっとこんな感じだ。
マフィとアヤに負けず劣らずのイチャイチャは割としょっちゅう。
もちろんキリーネヤも、こうしたプレゼントは贈りたいから贈っているに過ぎない。
それに今のやりとりは、ただメロリィがねだっているわけではない。
こうして何かをねだる時は大抵キリーネヤにも良い思いが待ち受けている。
例えばリップをおねだり買いしたことがあった。
そのリップを使って竿や亀頭にキスをし……そのまま咥えてルージュリングなるものを作ったこともある。
例えばスキンクリームをおねだり買いしたことがあった。
ただでさえ若くて張りのある肌がさらにスベスベもちもちになり、もっちりパイズリをしたことがある。
その時のキリーネヤの興奮度合いは計り知れない。
なんて羨ましい黒猫なんだ……
まぁアクセのひとつやふたつ、そこそこの地位である五位官家なら問題にはならない。
「逆にアヤちゃんにプレゼントするのは?」
「アヤ……というかパング族はあんまり飾らないからな。清貧というか質素倹約というか……あんま言葉見つからないけど、こういうキラキラしたのは最低限だからプレゼントにするにはなぁ……」
「確かにそんなイメージあるわね……マフィも普段は飾ってないし」
そう言うキリーネヤも、入学時はアクセのひとつも身に着けていなかった。
元が美人すぎるからバニラ装備でも完成されていた。
この中で一番のオシャレ好きはメロリィであり、恋人であるキリーネヤもまた「絶対似合うから!」と言われて色々な服や装飾を付け始め……今ではオシャレ中級者くらいである。
特に三日月を模したピアスなどはお揃いでいつも耳に着けている。
キリーネヤのお月様みたいな瞳に似ていて、月といえばウサギ……ということで決めたらしい。なんともテンプレな。
ちなみにカップルがピアスを買ってピアッサーで穴を開けるのは百合漫画テンプレでもある。
下品な言い方をすれば処女喪失に似てる。そのうえ映えるのだ。素晴らしい。
「宝石が散りばめられた~とかは俺も肩がこるし、プレゼントならもっと普段使い──いぁっ!!?」
「「マフィ!?」」
メロリィのアクセを買って店を出た時、異変は訪れた。
臨月はおりものがアレなので、オムツを穿いている。
その中の感触がおかしくなり……痛みもやってくる。
正体はおそらく……おしるし。
お腹が張っているのはいつものこととして受け入れていたし、痛みもたまにああるだろうと思っていた。
しかし今回は違う。痛みが治まらず、お腹の中が鈍く動いている感覚がある。
「(うそだろ、まさかこれ……っ!)」
とても立っていられず、壁に手をついてへたり込む。
そしてもう足腰に力が入らない。
「『花畑、ナッツのクッキー、失敗する茎編み』……ぐっ……!」
「マフィ、ちょっとどうしたのよ!?」
痛みを消す初級神術を使い、気を失うようなことはなくなった。
だが圧迫感をはじめ体を襲うものは消えない。
動けないことにも変わりはない。
「キリ、メロリィ……っ、ごめん、頼みが……」
「いいわよ! なにすればいいの!」
「人を呼ぶ? 医務室まで走るわ」
「いや……7階……研究会に、ジャスリン様に……!」
初めての産気は突然に。
マフィは焦った。焦り、最も直接的な解決法への最短ルートを口走る。
バレるかもとか外聞とか、そんなものより優先すべきだと本能的に判断したのだ。
「なんでそっち? すぐ医者に診てもらった方が──」
「頼む……!」
真剣な表情のマフィに、2人は眉をひそめながらも頷いた。
「メロリィ、浮遊の神術をお願い。私じゃ彼方まで飛ばしちゃいそうだから……」
「分かったわ! 『風の
蹲る狐の体がキリーネヤの腰ほどまで浮き上がる。
黒猫はそれを優しく支え、小走り。
宙に浮く狐を運ぶ2人の出来上がり。
そのまま城へと走り、階段を駆け上がり……7階の迷路を抜ける頃には、2人はゼーゼーと息を荒くしていた。
2人がドンドンドンと扉を叩いても開かず、マフィが震える手でなんとか触れると開く。
室内には、騒音に何事かと身構えたジャスリンがいた。
「マフィ? それにキミたちは……」
「ほらマフィ着いたわよ!」
「あの、道でマフィが急に蹲って……」
「っ!」
それだけでジャスリンは察する。
今のマフィに起こる異変といえばひとつしかないからだ。
「分かった、ありがとう。後はボクに任せてキミたち2人は帰って──」
「できるわけないでしょう!」
キリーネヤの大声など久しぶりに聞く……マフィは呻きながらそう思った。
「そうよ! 今にも倒れそうなのに医者じゃなくてあんた──殿下のところに連れてけなんて、普通じゃないわよ!」
メロリィも続く。不敬な呼び間違いは聞かなかったことにされた。
「これはボクと彼女の問題だ。言い方を悪くすれば、キミたちは無関係だ。ここに連れてきたことには感謝するし個人的に褒美も出す。だから下がってくれ」
少しだけ威圧するように狼が冷たく言い放つ。
ここで従わなければ王女に嫌な意味で目を付けられるかもしれない。
しかし2人は引き下がらない。
キリーネヤはその金色の瞳で、灰色のそれをまっすぐと睨む。
「たとえあなたが第四王女殿下であっても、私は引けない。私を変えてくれた大切な友達に何か起きているのに、どうして引き下がれると?」
メロリィも頭を上下にブンブン揺らし、兎耳がつられてたなびく。
「私だって! なんなら私すんごい天才なんですけど!? そこらの医者より治癒神術バカ強いんだから病気とかすぐ治すけど!?」
2人は頑として譲らない。
ジャスリンは眉間に皺を作り、強引な手段も講じようかと考え始める。
……しかし、視界の端で顔を歪ませるマフィを見て、時間が無いと感じた。
「…………分かった。だが秘密厳守の神術をかけさせてもらう。これから見ること起きることの一切の口外を禁じ、文書にも残せない。期間は一生だ。破ろうとした場合ボク個人が制裁を下す。それでもいいね?」
「構わないわ」
「早く!」
秘密厳守の契約はすぐに交わされた。
同時にジャスリンは神術の鳥を飛ばす。行き先は医務室にいる養護教諭だ。
「ではまず、偽装を解こう」
観念したように王女が術を解くと、マフィ本来の姿が露わになる。
ゆったりドレスの上からでも分かるほど腹が大きく膨れたその姿を初めて見る2人は、1秒にも満たない間にまず病気を疑い、次に肥満を疑い、そして正解に行きつく。
「な……ッ……!?」
息が止まった。
これが妊娠なら、今マフィが苦しんでいるのはつまり……
「どういう、こと……」
「見ての通りだ」
片手間に神術で作り出した鳥を飛ばすジャスリンにメロリィが詰め寄る──前にキリーネヤが動いた。
「どういうことかって訊いてんのよッ!!」
王女の胸ぐらを掴むなんて、聡い黒猫らしくない。
しかし聡い黒猫は、友達の苦しむ姿を見て黙ってはいられなかった。
「去年、ボクとマフィはとある契約を結んだ。内容は伏せるけど、マフィの中にいるのはボクの子だ。いま苦しんでいるのは……陣痛だ」
「ッ……!」
去年……そりゃそうだ。
いま産まれるということは、少なくとも10ヶ月前からお腹の中にいた。
つまり1年生の後半、そして今まで……自分はジャスリンの子を孕んだマフィと接していたのだ。
寝取られたわけじゃないのに脳が破壊された。
ってそうじゃない。
どうしてこうなったのか。
マフィが処女ではなく、婚約者以外と寝た事実があることはキリーネヤもメロリィも知っている。
ブリュンヒルデが決闘の賞品や灯台の紹介代わりにと何度か目の前でお持ち帰りしていたし。
でも婚約者より先に胎を使うなんて不貞レベルが違いすぎる。
相手は王女。身分にモノを言わせて無理やり……という想像ができてしまう。
詰問、糾弾、あらゆる罵詈雑言が口から出ようとした時、クラブルームの扉が叩かれた。
「話しはまた後で、ね…………入ってください」
部屋の主に招かれて入ってきたのは、気だるげな白衣の女性。
城の養護教諭、灰色の狼族マダム・コシフリーである。
「叔母上、お願いします」
「はぁ……うーい」
彼女はジャスリンの叔母……つまり現王の妹。
今の王女が子沢山なように、親世代も姉妹は多い。
医者の道を進み、同じく医者として身を立てたコシフリー六位官家に身分差大恋愛の末に嫁入り……という波乱万丈な人生を歩んできた元第9王女が、目の前にいるタバコの似合いそうな美女である。
今回限りの出番なので今のドラマチックな設定は次回から忘れていい。
「んじゃ医務室行くぞー……そこの2人、浮遊神術で運べ」
「運ぶって、休みだけど城には人がいるかも……」
「そこはボクがやるよ。『だまし絵、詐欺師、シヤンたこ焼き』」
ジャスリンの作り出した幻覚のベールに包まれ、一行は医務室へと向かった。
いくつものベッドが並ぶ城の一角、医務室の主であるマダム・コシフリーはこのためだけに設置された分娩台にマフィを乗せた。
「誰か治癒神術使える奴いるー?」
「あっ、私が!」
「なら始まったらかけ続けろピンク髪。そっちの黒髪は手ぇ握って応援でもしてろ」
彼女はジャスリンが自分に頼んできた事情を概ね把握している。
というか前にも頼まれて取り上げたことがあるし、慣れたものだ。
「(流れでこの部外者っぽい奴ら連れてきたけど大丈夫だっけ……? あの場にいたってことは大丈夫ってことでいいか)」
「いくわよマフィ! 死ぬほど回復するから!」
「頑張ってメロリィ!」
「そっちかよ」
なおキリーネヤは応援は応援でも『神術をかけ続けるメロリィの手を握って応援』していた。
マフィの手も握ってやれよ。
だがこれには理由がある。
いかにメロリィが治癒神術の天才とはいえ、神力が無尽蔵であるわけではない。
なので神力だけはバカみたいな量を誇るキリーネヤが外付けタンクのように手を繋いでメロリィに自身の神力を分けているのだ。
「お前は握らないのか?」
「ボクは役に立たないからね。ここにいるだけにするよ」
「そっか。んじゃ寄越せ」
「はいこれ」
ジャスリンからマダムに手渡されたのは、行為時にマフィにいつも飲ませていた『体の耐久性と柔軟性を上げる薬』。
医者に錬術薬に神術……出産の準備は万全である。
やがてお産が始まった。
「ぐっ、うぅぅ゛ぅ゛ぅ゛ーーーー……っ゛!!」
「頑張ってマフィ! ヒッヒッフーよ!」
「力籠めろ、ヒリ出せ。ピンク髪、鎮痛神術は強くしすぎるなよ。もっと弱めろ」
マフィの苦しむ声。
負けじとメロキリコンビが応援。
マダムが冷静に不愛想に指示。
「あっ! 頭出てない!? マフィもうすぐよ!」
「そのままヒリ出せ」
「ふぐぅぅぅぅ――――……ッ゛♡ イ、ううううぅぅ゛ぅ゛……! オ゛っ♡ ぎ、うううぅ゛ぅ゛ぅ゛♡♡」
神術をかけたり応援することに夢中な2人は、出産アクメという行くとこまで行った狐に気付かない。
マダムは「変な声出てね?」と疑ったが声には出さず。
傍から見ていたジャスリンは、いつも腕の中であげる声と同じ質だと気付いたが胸の内にしまった。
「よし、もうひとり……っと」
終わってみればあっという間だった。
特にハプニングも無く、母体も子供も無事な出産が終わり、同じ顔をした双子の産声が医務室に響き、場の空気が弛緩する。
「ほれ、抱いてみろ」
「はぁっ、はぁっ……」
父親譲りの狼耳と尻尾、そして灰色の髪……元気なふたなりと女の子だった。
布でくるまれた子供たちを腕の中に収めるマフィは、肩で息をしながらも自分が産み落とした命を見て口元を綻ばせる。
「本当に産まれた…………」
「マフィ、頑張ったね。ありがとう……名前をつけてあげて」
「俺が、いいんですか?」
「この子たちはキミの子供だもの」
「…………」
ハチミツ色の髪を撫でながら労う父と、腕の中の子供を慈しみの目で見下ろす母。
さながら幸せな家族の1ページ。
パンフレットの表紙にしたくなるぜ。
「「いやおかしいでしょ!!」」
それを見た友達2人は絶叫した。
「なんか流れで手伝ったけど! いや別に手伝うくらいならいくらでもしたけど! その空気はおかしいでしょ!」
「全部説明してもらえるんでしょうね?」
メロリィが吠え、キリーネヤが静かに詰め寄る。
「そうよ全部よ! 一から十まで全部話しなさい! ぜ! ん! ぶ! よ!」