「なかなかいいぞ、廣明」
「はい!」
――乾いた音が高町家の道場に響く。廣明と恭也の振るう木刀が交差し、ぶつかり合う木が軋む。恭也は御神流を扱う場合には普通小太刀を得物としているが、いまは一般的な木刀を手にしていた。対して廣明は、それよりも長くて重い野太刀に近いものを使っている。そのため速さでは劣るが、捉えた時の威力は折り紙つきである。
「流石に速い……」
稽古をつけてもらうようになってから何年も経つが、恭也の鋭い太刀筋を読むのは簡単なことではない。だが、この先の厳しくなるであろう戦いに備え、廣明は少しでも強くなっておきたかった。
「どうした、剣が鈍っているぞ」
恭也は対峙する少年が頭の中に違うことを考えていることをすぐに見抜く。廣明は足元を襲う一撃をぎりぎりで防ぎ、体勢を整える。目の前のことに集中し直すと、腰を落として切っ先を恭也に向ける。
「これでどうだッ!」
廣明は一気に速度を上げて恭也へ踏み込む。恭也は上段から振り下ろされる一撃を刀身に滑らして受け、そのまま反撃に転じる。渾身の攻撃を外した廣明が最後に見たのは、自らの胴に打ち込まれる寸前で止められた恭也の剣であった。
「惜しかったな」
そう言いつつも疲れをまったく感じさせない恭也に、廣明は苦笑するしかない。士郎にしろ恭也にしろ、彼にとってはいまだ雲の上の存在であった。
「そんな、まだまだでしたよ。あれ、なのは?」
稽古に区切りをつけて道具を片付けようとしていると、2人は入り口からこちらを見つめているなのはに気づく。そばにやって来たなのはは、廣明たちにタオルを渡した。
「お兄ちゃんたち、おつかれさま」
彼女から受け取ったタオルで汗を拭うと、廣明は緊張から解かれた気分になった。稽古のせいで学校に遅れないように、早くシャワーを浴びてしまわなければならない。しかし、恭也たちに続いて道場を出ようとしたところで微妙に違和感を感じる。身体が熱く、なぜか胸が苦しい。それでも彼は最近のあわただしさのせいだろうと高を括り、普段と同じように登校しのであった。
◇◆◇
学校にいる間、クラスメイトたちに顔色がよくないと心配されながらも、廣明はようやく長く思えた1日の授業を終えた。どうにも調子が悪くさっさと帰宅してしまいたかったが、その前に彼は「翠屋」に立ち寄った。
「あ、桃子さん。今日はちょっと手伝えそうにありません」
店に入って厨房に向かうと、桃子が菓子に使うクリームを混ぜていた。いったんその手を止めて、彼女は廣明の顔を見た。
「そんなことはいいのよ。廣明くん、具合がよくなさそうだけど大丈夫? 士郎さんに送ってもらってもいいのだけれど……」
桃子は律儀に店まで伝えに来た廣明を案じたが、彼は手を振ってそれを遠慮した。
その帰り道、彼を心配する声が1つ。
『主さま、よろしければわたしの肩をお貸ししましょうか?』
マスターの不調を心配したライジングサンが、念話で彼に語りかけた。
「いや、もうちょっとだし自分で歩けるよ。それより家に着いたら迷惑かけると思うからよろしく」
その言葉にも、いつものような強さがない。なんとなくだが廣明の現状に心当たりのあるサンは、一抹の不安を感じていた。
家に戻るとすぐに、廣明はリビングのソファーに身体を預けた。明らかに今朝より症状が悪化している。面倒だがやはり医者に行ったほうがいいかと思案していたが、人型になったサンが沈痛な面持ちを浮かべていることに気づいた。
「どうした、サン」
「あの、主さまの身体の異変の原因、もしかしたらわたしかもしれません」
サンの突拍子もない答えに、廣明はどう返せばいいのかわからなかった。
「わたしはこのような形態を維持するのに、ある程度の魔力を必要としています。そのために主さまと魔力を常時リンクさせているのですが……」
それのなにが問題になるのかと、廣明はぼんやりとした頭で考える。
「もちろん、それだけならば問題はありません。ですがリンクがまだ不安定なのと、主さまの器が急激に魔力を吸収しているために、循環しきれていない魔力が毒素となって身体に蓄積されているのだと思います」
いまにも泣き出しそうな表情でサンはそう語る。たった数日の付き合いであるが、彼女はやっとめぐり合えたマスターに早くも惹かれはじめていた。その大切な彼を、結果的に自分が苦しめている。その事はデバイスとして圧倒的な演算能力を誇るライジングサンであっても、処理しきれない問題だった。
「なあ」
「はい、主さま……」
なにを言われるのだろう。耳を閉じてしまいたいほど怖い。そんなサンに、廣明は努めて優しく語りかけた。
「サンはなにも悪いことはしてない。おれに守るための力と新しい絆をくれた、ただそれだけだじゃないか」
「あるじさまぁ!」
感情をこらえきれないデバイスというのもおかしな話ではあるが、彼女は両目から涙をこぼしながら廣明に抱きついた。受け止めた廣明はいつかなのはにそうしたように、彼女が落ち着くまで背中をなで続けた。
◇◆◇
「主さまのお身体を直すために、1つ試してみたいことがあるのですがよろしいでしょうか」
感情の昂りを静めたサンが、上目に廣明を見つめている。
「なんでもやってくれ。おれはお前を信じるから」
彼の了承を得ると、サンはその足元にひざまずいた。そして決心したように口を一文字に結ぶと、彼女は廣明のズボンに手をかけた。わけのわからないうちに下半身を下着1枚にされると、さすがに廣明はあわてた。
「なんでもっていったのはおれだけど、どうするつもりだ」
「吸精により、直接魔力を吸い出します。口からでも可能ですが、男性器からが一番効率のよい手段だと考えられます」
嫌な予感のした廣明が抗弁するよりも速く、サンが下着をおろしきった。サンの眼前に、体調と同じように萎んでいる廣明の男性器が顔を出す。真っ赤になりながらも、サンは初めて目にする実物のそれをしっかりと見ていた。
「サン、嫌ならこんなこと……」
「嫌なんかじゃありません。恥ずかしいですけど、主さまのですから」
心配をかき消すように、サンは笑顔で返した。
(仕方ない。こうなったら毒を食らわば皿まで、据え膳食わぬは男の恥だ)
判断力の鈍っている頭で、廣明はよくわからない結論を出す。半分やけくそで、サンに身体を預けることにした。
サンの白い指が、男の欲望の塊に触れる。だが、それ以上の動きをする気配がない。ああやっぱり、と思って廣明は目を丸くしているサンに声をかけた。
「どうすればその、精液が出るのか知ってるんだろうな?」
「と、当然です! データには、男性器に刺激を与えれば男の人は射精するとあります。……そうですよね?」
データベースから検索してきた知識を、自信なさげにサンは披露した。
「でも、勃起もしてないし、指で触られたくらいじゃさすがに……」
「ぼ、勃起ですか」
困惑する彼女に、やれやれと思いながらも廣明は自分のためにも性知識の指導をすることになった。とりあえず萎えたままでは先が見えないので、彼女の右手で包むように握らせる。
「主さま、痛くありません?」
質問に大丈夫、とうなずいて見せてそのまま上下に動かすように指示する。緊張のために震えるサンの手が、なんともいえない刺激をペニスに与える。手による奉仕の往復が続きサンがちょうど慣れてきた頃合に、廣明の股間も元気を取り戻しつつあった。出てきた直後の弱々しい姿とは打って変わり、大きく膨張した肉棒は完全に彼女の手からはみだして存在感を増していた。
「うわあ、これを勃起というのですね」
思わずサンがぎゅっと握る手に力を入れると、それはびくんと跳ねるような反応を見せた。驚いたサンは、手を離してしまう。
「ほら、つぎは両手で握ってみて」
廣明の方は臨戦態勢になってしまった以上、ゆっくりとしているのは非常にもどかしい。直接サンの手をとり、自分のモノを両手で握らせる。
「気持ちいいですか、主さま」
コツをつかんだサンは、テンポよく両手を使って肉棒をしごく。それでも時折スピードにムラがでるのだが、逆にじらされているようで快楽の度合いは上がっていく。すると亀頭の先からは、射精の前段階であるカウパー液がにじみだしていた。
「わ、これはなんでしょう?」
興味深そうに液体を観察する少女。傍から見れば、これは相当いやらしい行為である。そして液体の感触を確かめようとしたサンの指が意図せずむき出しの亀頭に触れ、張り詰めていた男性器に強い刺激をもたらす。マスターの反応に初めいけないことなのかと驚いたサンであったが、廣明が物足りなさそうな表情であるのに気づきそこを連続して指でこねる。
「い、いいぞ。もう少しで出そうだから……」
その言葉の先は、サンには聞かずともわかっていた。右手で竿の部分を扱き、左手で亀頭への愛撫を行う。廣明が自分の奉仕で感じてくれている、その事実がサンにはたまらなく嬉しかった。
「くっ、出すぞ」
「はいッ!」
行為を楽しんでいるため忘れそうになるが、これはあくまでも治療のためなのである。サンは口元で術式を唱えると、震える肉棒の先に口をつける。味わったことのない感触に、堰が切られたように精液が流れ出す。熱く滾ったそれはサンの小さな口に途切れることなく流し込まれていく。
「んむーーっ! んんっ……」
廣明のためを思って、サンは勢いの衰えを知らない精液を余剰魔力と一緒に嚥下している。目の前がぼーっとするような強烈な射精感に襲われながらも、廣明は片手で彼女の頬をなでて感謝の意を示した。
「ありがとな……」
それだけ言うと、廣明の意識は途絶えた。サンは最後の一滴まで体内に摂取すると、汚れてしまった彼の股間を丁寧に拭く。衣服の乱れを整え、ソファーに身体を寝かし終えたところで家の呼び鈴が鳴らされた。知らない人間ならば居留守を使ってしまおうと考えたライジングサンであったが、インターホンの前にいたのは高町なのはだった。
「なのはさん、どうされました?」
「えと、お母さんからお兄ちゃんの具合がよくないって聞いたんだけど……」
なのはがリビングに通されると、そこにはすっきりとした表情で眠る少年がいた。
「サンちゃんがしてくれたんだね」
具体的になにをしたかなど言えるはずもないが、とりあえず安静にしていれば大丈夫なことをサンはなのはに伝える。
「というより、サンちゃんですか?」
「うん、ダメかな? サンさんじゃ言いにくいし、お兄ちゃんみたいに呼び捨てにするのも違う感じがするし」
それでいいですよ、とサンはなのはに微笑みながら言った。意気投合した2人は、分担して家事をしていく。一通りすませると、なのはは後のことはサンに任せて自宅へ戻ることにする。
「それじゃあ、お兄ちゃんが起きたら食べさせてあげてね」
「はい。主さまにも伝えておきます」
台所には、2人が一緒に廣明のためにつくったお粥が鍋に入れられていた。なのははもう一度だけ彼の寝顔を確認して、玄関へ向かう。サンに手を振り、ドアを閉める。
「いっぱい愛情こめてつくったんだもん。すぐに病気なんか直っちゃうよね」
高町家までのほんの短い道を、スキップをしそうなくらい上機嫌でなのはは歩く。
「ただいまー」
喜んでくれるであろう彼の姿を想像すると、それだけで温かな気持ちになれてしまう。なのはの幼心にも芽生えた想いは、一歩ずつだが確実に、大きく強くなっていった。