※この作品はR-18です。

ゼンブノセ   作:オニダルマアンコウ

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第0章 忘失凪世界●●● バーゲスト①

 施設に関する大した情報も得る事が出来ず、捜索は打ち切りとなった。これだけアクティブに動いたのも久しぶりかもしれない。

 人間頑張ると疲れる。そして眠もなる。俺は目覚めた時に寝ていた部屋でよかったのだが、バーゲストが「どうしても!」というので、最上階にある部屋に泊まることになった。

 

「すげぇなこの部屋。三つ星ホテルのスイートかよ」

 

 そこは庶民目線で見ても中々豪勢な部屋だった。俺の寝ている部屋は、他の部屋よりも明らかに造りの良い、所謂スイートルームだ。

 両開きの入り口から室内に入ると、黒皮の座り心地の良いソファーや、良い感じのテーブル、様々な家電が取り付けられたキッチン。ワインセラーと言った俺には無用の長物まである豪華な部屋が広がっている。

 居間からは、広大な砂浜と海、そして夕焼けも臨めるし、なんなら外風呂もあるのでサンセットを肴に一杯を楽しめる。

 そして寝室の中央に位置するのは、俺が両手を広げでまだまだ余裕があるほど面積が広い、所謂キングサイズのベッドがある。

 俺の住んでいたアパートの家賃一年分でも足りるかどうか分からない高級スイートルーム。本当、自分の歩んできた人生が何とみずぼらしいものか、と嘆きたくなってしまうほどだ。

 そんな不慣れな状況だが、人間一度眠くなれば、あれよあれよという間にベッドに沈むようにして眠ってしまった。

 我ながら単純だな、という思う次第だが、俺はウッカリしてしまっていた。

 俺が召喚した一見理性的にも見えるサーヴァントは、魔術のまの字も知らないような、一般人に御しきれるような扱いやすいサーヴァントでは無い、という事を。

 

「フーッ…、フーッ…」

 

 その日の夜?の事だった。俺は、自身の意識が心地よい微睡から急浮上していくのを感じると同時に、ベッドの傍に誰かの気配を感じたからだ。

 ゆっくりと目を開けてそこにいる誰かに向けて目線を向ける。

 その誰かは、何をするでもなく直立不動で立っていた。

 

「んあ?」

 

 俺はとぼけた声を出しながら、ベッドの脇にあるライトを点灯する。暗闇のせいで最初は誰だが分からなかったが、徐々に思考を取り戻した段階でその人が誰なのか気づき、驚きの声を上げた。

 

「バ、バーゲスト、さん?」

 

「フーッ…」

 

 ぼんやりとした明かりに映ったのは、召喚されたばかりのサーヴァント、バーゲストその人だった。

 身体のボディラインが露になる黒のドレス――第二再臨の服だ――の格好でベッド脇に立っている。えっちだが、ちょっとしたホラーである。

 

「何をしてはるんですか?」

 

 傍目から見れば、寝室に夜這いに来た女に驚く男に見えることだろう。

 しかし、背中がゾワゾワして形容し難い恐怖を感じていた。

 バーゲストは俺の質問には答えない。代わりに、ポタ、と粘性の液体がベッドに垂れ落ちてきた。涎だ。俺が思わず彼女の顔を見上げると、ライトに照らされた彼女のそれは、まさしく獣になっていた。

 大きく開かれた瞳孔、呼吸の度に大きく揺れ動く胸元と体躯、そしてだらしなく開けられた口元からは、肉食獣のように鋭く尖っている歯が剥き出しになっている。

 というか、まさしく獲物を目の前にした肉食動物のそれだった。

 

「バゲさん?」

 

 まるで、腹をすかせた肉食獣に出くわしてしまったかのような寒気。何故こうなってしまったのか…と考えて、俺はすぐに思い出した。

 バーゲストの“本能”のことだ。それは、『愛する者を捕食してしまう』ということだ。

 彼女は劇中において、恋人を作っては食い殺す、という恐ろしい行為を繰り返していた。その原因は、まさしくこの本能のせいだ。

 真面目な性格なのでてっきり忘れていたが、彼女は本来人の考えが及ばぬ、妖精という存在だ。理性を持つと同時に本能にも忠実なのだ。

 彼女を刺激しすぎないように、布団からゆっくりと抜け出し、彼女とは反対側に後ずさるが、バーゲストは俺が逃げようとしているのを見るや、ベッドに身を乗り出し、ネコ科肉食動物のような動きで距離を詰めてくる。…こんな形で、美女の生女豹のポーズを見たくなかった。

 その時、令呪が刻まれた片手が目に入った。サーヴァントを複数召還しているFGOの世界では、後にどれだけサーヴァントを召喚しても、令呪の形はファーストサーヴァントである、マシュ・キリエライトのクラス、『シールダー』のものだった。

 そして、俺が覚えている限り、バーゲストのクラスは『セイバー』だった。だがら、彼女は理性を保ち、会話できるのは当然だと思っていた。

 だが、俺の令呪のマークは剣に似たセイバーの物ではない。巴紋に似たマークだった。このマークには見覚えがある。

 Fate/Zeroの間桐雁夜の掌に現れたものと同じだった。つまり…。

 

「バー(・・)、サーカー(・・・・)なのか…」

 

 彼女は現在、”黒犬妖精”としての本能が前面に出ている状態なのだろう。

 北欧の戦乙女、ブリュンヒルデのクラスがバーサーカーになった際は、愛した人を殺すという残虐性を夜にしか発現されないように調整されていた。

 このバーゲストも、こうして夜にだけその獣性を発現する様に調整されたということか。そうかると、恋人どころか、その本能を見境なくその牙を向けかけない。

 個人が別クラスとして召喚されるというのは珍しい話ではない。ないのだが、今回ばかりはタイミングが悪すぎる。少なくとも、自衛手段のないほぼ一般人の俺には絶望的な状況だ。

 

「バゲさん落ち着け」

 

 言葉を言い終わる前にバーゲストはベッドを跳躍。狂った獣の雄叫びのような声を出しながら、鋭利な双爪を振るってきた。

 ヤバイ、逃げ、逃げ、無理、死…。

 ビリビリとした死の恐怖が全身までいきわたった途端、俺は全身で床を蹴り上げた。

 ザグリ、とまるで斧で木を切ったかのような音が響く。音の方を見ると、ベッドが両断されていた。

 当たったら、俺なんか肉片にされるだろう。カマキリのオスよろしく、美味しくいただかれるのがオチだろう。

 危機的状況は人間の枷を外してくれるらしい。助かった…が、暴威はまだ過ぎていない。

 風切音と共に頭を下げると、ヒュッと鋭い音と共に壁が抉れていた。得物である剣で攻撃してきたのだ。そこは、俺の頭が寸前まであった位置に刻まれていた。

 

「Grrrrr…」

 

 燃える剣を引き摺りながらこちらに向かってくるバーゲストには最早理性の色は見て取れない。

 自分が細切れ肉になって美味しく頂かれる姿を想像し、今後こそ汗が止まらなくなった。

 何か、何かないのか。そう思った時、俺の片手に刻まれた令呪の存在を思い出した。

 令呪とはマスターがサーヴァントに対して命令を強制させる絶対命令権だ。その命令が具体的であるほど、効果がより強く働く!

 俺は手を彼女に伸ばし、吠えた。

 

「令呪をもって命じる!バーゲスト本能を抑えろ!」

 

 令呪による命令。光と共に、巴紋の一画消える。その光は、彼女の身体に纏わりつき、命令を浸透させていく…だが、彼女は止まらない。

 

「ウアァァァッッッ!」

 

 苦しそうな咆哮を上げるが、その凶暴性は留まらない。同じバーサーカークラスのスパルタクス同様、一画ではいう事を聞かないタイプのようだ。

 本能を抑えろ…というのは無理生半可な命令では抑えられないのか!いつか何かしらの形で暴発でもしたら、目も当てられない。ならば、その方向性を変えるしかない。

 

「ならば、令呪を持って命ずる!バーゲスト、その本能を別の形で発散しろ!」

 

 そう叫ぶと、さらにもう一画が消える。令呪の赤い光が彼女の行動を縛っていくが、それでもまだバーゲストの本能は止まらない。動きこそ緩慢になっているが、それでも目は、牙は俺を見据えたままだ。

 かくなる上は、この後どうなっても構わない。今、この状況を乗り越える為に、切り札を温存しておくのは違うだろう!

 

「重ねて命ずる!頼むバーゲスト落ち着け!食われるとか殺される以外の事だったら何でもしてやるから、元のお前に戻れ!」

 

懇願するような叫び声で、最後の一画を使用する。

すると、今度こそバーゲストの動きが止まった。獣じみていた様相が収まり、牙は元の形に、縦に開いていた瞳孔も収まり、いからせていた肩も徐々に下がっていく。

 彼女が落ち着いていくが見ていてよく分かった。

 

「マスター…」

 

 そして不意に真顔に戻ったバーゲストは辺りをキョロキョロと見回し、俺の顔を見、ほぼ半壊したベッドを見、そして自身の身体に視線を落とし、手に握られた剣を見る。

 その事にガタガタと震え始めた。

 

「ま、まさか、わ、私はまた、やって、しまったというのですか?」

 

 剣が手から滑り落ちる。火は消えているが、柔らかい絨毯の上でガチャリと鈍い音を立てた。

 やってしまった。彼女はやはり、自身のしでかした事を知っていた。しかし、ある意味当然と言える。

 アヴィケプロンというキャスタークラスのサーヴァントは、とある聖杯戦争で自身のマスターを生贄にして宝具を発動した。その記憶は別の何処かで召喚されても彼の心にベッタリと残ってしまうほどのトラウマとなった。

 彼女もまた妖精圏での所業は、しっかりと霊基に刻まれているのだろう。少ない会話の中でも、彼女は俺の事を知ろうとしてくれたが、自分のことは語りたがらなかった。

 幸いな事に俺は何とか無傷で生きている。だが、彼女はかつて自身が犯した過ちを思い出し、今の状況を重ねているのだろう。みるみるうちに目の端に涙がたまっていく。

 

「マスター、私、私…」

 

「取り敢えず、だ。バゲさん一旦落ち着こうぜ」

 

部屋の電気を点けた俺の目には、年相応の凛とした美女ではなく、暗闇に怯える少女に見えた。

 取り敢えず、俺は彼女を立たせて壊れていない椅子に座らせた。

 

「大丈夫だバゲさん。君はただ嫌な夢を見ていただけなんだ。ほら、部屋はご覧の有り様だけど、俺は何ともないし、バゲさんも元に戻った。令呪も使ったから、もうこんな事は起こるまいよ」

 

「マスター私、は…」

 

 そこまで言うと、バーゲストは今度こそ少女のように号泣し始めた。

 異性との交友などほとんどなく、クラスメイトの女の子の会話などほとんどした事がない俺だ。女性が泣いている時の慰め方など知らないが、昔誰かがしてくれたことを思い出しながら、彼女の背中に手を回すと、子供をあやすかのようにポンポンと軽く撫でた。

 セクハラだろうが関係ない。泣いている異性がいたら、親身になるのが男と言う生き物だろう。

 

「マスターこの度は大変申し訳ございませんでした…」

 

 どれくらい時間が経っただろうか。落ち着いたバーゲストさんは女の子座りの状態で拳を握ると、泣き腫らした目でコチラを見てくる。

 美人さんはやはり、何をしても美人である、と見惚れている場合じゃない。

 

「いや、いいんだよ、バゲさん。そうなっちゃったのは仕方がないんだから、これからどうするか考えようよ」

 

「はい…。マスターのお陰で私の中の捕食本能は大分治まったようです」

 

 そういうと、彼女は自分の美しい腹筋を撫でた。

 もしかして、まだお腹減ってる?

 正直、今すぐ襲いかかられてもおかしくないので、俺は尻半分程バーゲストから距離をとった。

 

「そうか。…まぁ、落ち着いたのならいいや。これからは、相談くらいだったら乗るからさ」

 

俺は片手をずっと差し出すと、彼女は一瞬肩を振るわせたが、おずおずと自身の手を差し出してきた。

 

「ありがとうございます。マスター。そして、感謝致しますわ。これ程の悪行を行いながら、令呪で私を自害させず、手元においていただけるなど…このバーゲスト、マスターに一生ついていきますわ」

 

 いやいや、重い重い。覚悟が激重いから。

 

「まぁ、そこまで気負わなくて大丈夫だ。俺も君みたいな美人さんに襲われたって良い思い出が出来たから」

 

 本当、一生物の良い思い出(トラウマ)になりましたよ。あら、今は大丈夫なはずなのに震えがががががが。

 

「俺も君への命令で令呪を全角使っちゃったから、自害させるつもりでも、そんな事出来ないんだけどねぇ」

 

 俺は、色が薄まってしまった令呪をバーゲストに見せると、彼女は驚いたように目を広げた。

 次の瞬間、ギチリと繋いでいた手に尋常じゃない力が込められる。

 

「バ、バゲさん?」

 

 突然の事に俺は固まっていると、バーゲストが口を開く。

 

「申し訳ございませんマスター。言い忘れていた事があるのですが…私の身体の中で、ふぅ、段々と下腹の辺りから込み上げてくるものかございまして、はぁ…」

 

 バゲさんの言葉に少しずつ呼吸音が混じっていく。先程まで鳴り止んでいたはずの危険察知センサーが、なり始めるのを感じた。

 

「マスター様は私を止めるためなら何でもする。そう、おっしゃって、下さいましたわね。この先、ずぅっと、ずぅっと世界が終わるまで…」

 

「いい……い言ってないし、痛いんだけど」

 

 そんな浪漫ちくなこと言えてたなら、クラスで目立たないモブキャラやてないです。

 そう言おうとした俺だったが、次の瞬間には距離を一瞬で詰めたバゲさんが顔を近づけてきていた。

 

「んおぶぅっ…」

 

 愕然としている俺に向けてバーゲストが腕を伸ばすと、頭を鷲掴みにされ。俺よりも身長(タッパ)のでかい身体が迫り、胸元でゴム毬のような身体がぷにゅりと潰れた。

 『あぁ、母親以外の異性の乳』と歓喜する前に、今度はバーゲストの柔らかな唇にキスを奪われた。

 

「んふぅっ、んぅっ、ん〜♡」

 

「ンンンンッ!?ンンンッ!?」

 

(ズロロ、ズル、ジュルルル、ブジュルルル!)

 

 あまりの吸引力に離れることもできない。何処かの胡散臭陰陽師のような声が出てしまった。男の涎なんか良い味がするわけないのに、彼女は一心不乱に吸い付いてくる。

 動こうとするが、そもそものフィジカルに差があり、抱きしめられた体勢から逃げ出す事が出来ず、されるがままに、彼女の熱烈なキスを受け入れるしかない。

 

「んんっ」

 

「ぼはッ!?」

 

 そのまま何分経っただろう。酸欠になりそうな程にキスをしあった俺たちは、蓋が外れたような音と共に離れた。

 自分の身に何が起きたのか分からず、宇宙の真理を知ってしまった猫の如く固まる俺に対し、バゲさんは自身の唇についた涎を拭うと、

 

「思った通りですわ…私、貴方様がとても美味しそう(・・・・・)に見えてしまっていたのです♡えぇ、もちろん捕食対象という意味ではありません♡」

 

 そういうと、バーゲストは片手でで真っ赤になった頬を寄せ、まるでヤンデレが恍惚としたようかポーズをしていた。

 オイシソウ?俺が?え、でも、暴走は治まったんだよね?令呪は効いている筈だから一体どういう意味…と言おうとしたが、俺はその質問をする事が出来なかった。

 

「貴方様は暴走した私に、令呪で本能を別の形で発散しろ、食べる、殺す以外の事だったら何でもやる、とおっしゃってくれたではありませんか♡なら、是非この精神の昂りをマスターの精で収めてくださいまし♡」

 

「…いや、何故そこをハッキリ覚えているのかね!?」

 

 つまり彼女は俺を性的に性喰(く)おうというのである。こちとら小市民な学生。異性との交友などあるはずもなく。

 羞恥心から思わず逃走を図ろうと背を向けると、伸びてきた腕に服を掴まれ、そのままお米抱っこされると、外へと連れ出され、隣の部屋へと連れ込まれた。つまりは、バゲさんの部屋である。

 

「え?え?え?」

 

「無駄ですわマスター♡令呪のない貴方様の抵抗など、子供の駄々も同然♡弱弱マスターが強強サーヴァントに喰われるのは必然でしてよ♡」

 

 あっ(察し)。これはあれですね。色々とあって溜まりに溜まったダムが、変なところから決壊したということですね。理性が洪水案件ということですね。

 

「一人前の男性ならこの後どうなるかお分かりでしょう♡下腹部の子宮がきゅん♡きゅん♡と高鳴っている異性(メス)を抑え付け、自身の子種を撃ち込むのがオスの本懐ですわ♡」

 

「あ、いや、でも、えーっ!?」

 

 まるでエロ漫画のような状況に俺はついていけず、バーゲストの肩の上で悲鳴を上げることしかできなかった。

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