涼子1
人生が変わる瞬間がいつかは、文字通り人それぞれだろう。
だが、私の場合は確実に死んだ瞬間だと言える。
死んだ瞬間、という表現はもしかしたら正しくないのかもしれない。ただ、そうとしか私には表現できない。
まあなんであれ。
私の今の人生は、それまでとはまるで違うものになったことは間違いない。これだけは断言できる。
※※※
「んん……」
私はスマートフォンのアラームに起こされてしまう。
時刻としては午前七時。多くの人が活動し始める時間帯。
「ふあぁ」
起きたばかりだというのに、口から勝手にあくびが出てしまう。
「もう。起きたばかりでしょ、翼」
そんな私に呆れたような声が届く。
「そうだけど、眠いのは事実だから」
「まあ、あれだけハッスルしたわけだからね」
「ハッスルって……」
私はベッドから降りながら声をかけてきた涼子に応える。
「『今夜は寝かさないで』とか言ってたのはどこの誰だっけ?」
「そ、それは……言わないでよ」
恥ずかしそうに涼子は視線をそらす。
「それより! 今日は一時限目から講義よね?」
「そうそう」
私はクローゼットから服を取り出す。
「ねえ、そろそろ新しい服買いにいかない?」
後ろから涼子が抱きついてきた。
「買ってもらった服、まだ着れるけど?」
「でも、ひと通り着たでしょ? じゃあ新しいのを買うべきだって」
「そうですか」
貧乏学生とお嬢様とでは、色々な感覚が違うようだった。
ま、それはさておき。
「そうそう」
適当に服を選び、身支度を調えに浴室へ向かう。
「こら」
脱衣所兼洗面所のスペースに一緒についてきた涼子をたしなめる。
「いいじゃない」
「朝から一発……なんてやってる時間ないんだけど」
むくれる涼子をドアの外に押しやり、私はシャワーを浴びた。
手早く支度をして、私は玄関に向かう。
「ねえ、翼」
涼子は午後からだからか、パジャマ姿のままだ。
「ん?」
「こ、今晩も……寝かさないで、くれるかしら?」
それが、彼女のできる精一杯のおねだりであることはわかった。
「はいはい」
涼子の頬にキスをする。
「ありがとう」
唇がふれていたところを愛おしそうに涼子はさすっていた。
そんな姿を見てから、私は大学へと向かう。
※※※
視界に入ってきたのは、真っ白な空間。
「ここは?」
――確か普通に歩いていたら……何かぶつかってきたような。
思い出そうとすると頭痛が激しくなる。まるでそれ以上思い出さないように抵抗しているようだった。
どうやら現実ではないようだ。
「おはようございます」
誰もいないのに、誰かの声が届いた。
「え!?」
「驚かせてしまい、申し訳ございません。ただ、あなたには説明をする必要があり、こちら側にお越しいただきました」
「説明……? こちら側……?」
誰かの声に私は首をかしげていた。理解が追いつかない。もしかしてゲームか何かの世界に迷い込んでしまった?
「簡単に言えばアクシデントです」
「アクシデント……」
私は復唱していた。
「あなたはあの時点で死ぬべきではなかったのに、あなたは死んでしまっています。これは修正しなければなりません」
「じゃあ、生き返れるってこと!? というか、私やっぱり死んでるってこと!? つう!」
再度、頭に激痛が走った。
「どちらもそのとおりです」
声の主がうなずいた……ように感じられた。
「しかし、それだけではありません。あなたが死んでしまったことに対する弁償を与えなければなりません」
「弁償ねえ」
あまり詳しくはないが、たしか……。
「いわゆる異世界転生系? ってこと?」
「復活するのはあなたが元いた世界です。そういう意味では異世界に転生はしません」
声の主はどうやら正直な性格なようだ。事実を一から一〇まで教えてくれるのだろう。
「ただ、そういう作品によくある転生の際にスキルを与えられる、という意味では正解と言えるでしょう」
「へえ」
私はうなずいていた。
「で。そのスキルはどんなスキルなの?」
「簡単に言えばモテるようになります」
「モテるように……ねえ」
「ええ。あなたが望むことはおおよそ叶うと考えていただいて問題ありません」
「そうなんだ」
「そうです。では、あなたの人生に幸多からんことを」
声の主がそう告げてから、波動のようなものが私に伝わってくる。
それを浴びていると、私のまぶたはすぐに重くなってきてしまった。
※※※
「ただいま」
「おかえりなさい、翼」
帰宅した私をエプロン姿の涼子が出むかえてくれた。
「どうかしたの?」
「私より先に帰宅しているのが、なんだか理不尽だなって思って」
「そんなこと言われても……」
涼子は困惑しながらも口を開く。
「今日私は午後に二時限だけだけど、翼は目一杯履修登録したからでしょ」
「いや、それはそうなんだけどさ」
「逆に翼は午前だけで済む日だってあるわけじゃない」
「確かに」
涼子の声に私は納得のうなずきを見せてしまう。
「夕食は用意できてるわ」
「ありがとう、涼子」
私は涼子のおでこにキスをする。
「もう、唇にして頂戴」
涼子は私に抱きついていた。
「それは今晩まで取っておきたくて」
私も両手で涼子を拘束してしまう。
「ダメだった?」
「ダメじゃないわ。ダメなんかじゃないわ」
首を左右にふりながら涼子がささやく。
「じゃ、とりあえず夕食にしようか」
「ええ」
嬉しそうな声が涼子から聞こえてきた。
※※※
夕食を摂り、入浴を済ませ、私は寝室に向かう。
ベッドには涼子が座って待っていた。
その瞳はうるんでいた。
私は涼子の隣に座る。
「じゃあ、しよっか」
「ええ、お願いするわ」
今度こそ唇にキスをする。
「翼……」
涼子のパジャマを脱がせ始める。
何度もしているため、手慣れたものだった。
「何度見ても凄いわね」
涼子の視線は私の下半身に向けられている。
「そう?」
「だって翼の性別は、女性でしょ? でも、その……だ、男性の機能があるわけだから」
あの空間のことは誰にも言っていない。ただ、目覚めた時、自分の身体の異変にはすぐに気づいた。
女であるはずの私には、存在などしてはいけない逸物。
そして、外に出てモテるようになるという言葉の意味がすぐにわかり――結果として、こうして涼子とセックスができている。このことについて、今はおいておこう。
「誰にも言わないでね」
「もちろんよ。言うわけないじゃない」
涼子とは出会ってすぐに一緒に暮らすようになった。親が大きな会社の役員でなんたらかんたらがどうたらこうたらということで、それまで涼子がひとりで暮らしていたアパートの一室が、今や私の愛の巣というわけだ。
防音もしっかりしているという謳い文句には嘘はなく、騒音の苦情は今のところ一件も来ていない。
「今日も綺麗だね」
涼子の肢体は、芸術品のようだ。
何度も見ているが、どれだけ見ても見飽きることなどない。
手を伸ばし、胸を揉む。
「胸、好きよね」
「そりゃあ、ね」
月とすっぽんよろしく、胸部のあまりの格差に初めての夜は絶望を覚えたほどだ。
――もしかしてあの時も私は男だと間違われていた?
そんな疑問が浮かんだが、今は涼子のことだけを考えていた。頭の片隅にでもおいておこう。
涼子の手がすでに勃起しているそこをやさしく刺激する。
最初とは比べものにならないほどの違うテクニックに、ますます硬くなってしまう。
「翼、嬉しそう」
「嬉しいよ。こんなに興奮してくれているんだから」
お互いいわゆるシックスナインの状態になっていた。
私は涼子のそこを、涼子は私のそこを刺激しあう。
「もう、大丈夫そうだね」
軽くふれるだけで、蜜があふれてくる。
「そうね。こっちももうすぐ出してしまいそう」
「出しちゃダメ?」
「ダメよ。わたしのナカで出して」
ウインクしながら涼子が告げる。
そんなことを言われてしまえば、そうするしかない。
あらためて涼子の背中をベッドにつけ、私はそのうえにおおいかぶさる。
「入れるね」
「ええ」
涼子がうなずいたのを確認して、私は腰を進める。
涼子のナカに入る。いや、入れる。
「ふうっ……」
「んんっ」
その瞬間はいつだって歓喜で満たされる。
なにせ、死ぬ前では出会うことさえできなかったであろう美人と、こうして一夜を……いや、数え切れないほどの夜をともにしているのだから。
ゆっくりと体重をかける。涼子のナカを私で満たすことができるように。
「あ……んっ」
股と股とが密着し、私たちは一番につながる。
その状態で腰を引けば、水音が部屋に響く。
腰を進めれば、涼子の内側をえぐることができる。
「ふああっ」
私の行動に涼子は遅延なく反応してくれる。
それは声だけでなく、涼子の内側もだった。侵入した私に絶え間なく刺激を与えてくれる。
最初こそすぐに『暴発』してしまっていたが、今はある程度耐えることができるようになっていた。
両手で涼子の胸をもみ、唇と舌とを上半身に這わす。上と下とで涼子を食べているかのような錯覚さえ覚える。
「ん、んんっ」
唇を唇で塞いでしまえば、くぐもった声が私の食道に入ってくる。
「はあっ……」
肉と肉とがぶつかる音。
「くうっ……」
つながっている隙間からもれる水音。
「はあああっ」
そしてなによりも、涼子が感じている声。
そのいずれも私を昂ぶらせる。
自然と腰の動きも速くなってしまう。
自分が気持ちよくなることを、涼子を悦ばせることよりも優先させてしまう。
確認などすることなく、私は欲望を涼子のナカに注ぐ。
「くっ……!」
「っ――!」
征服欲と言えばいいのか、涼子の内側を自分のものにしているという事実が、もしかしたら私の射精の量を増やしているのかもしれない。
「ふう……」
長い射精を終え、私は涼子から離れる。
入りきらなかった精液が涼子からあふれてしまう。
その光景は、とてつもなく私を興奮させてしまったため、そのまま二回戦に進む。
何度か射精をして、気がつけば涼子は眠っていた。もしかしたら気絶してしまったのかもしれないが、まあ大丈夫だろう。
美人といちゃいちゃする日々……今の私はこんな日々を過ごしている。
でも。
――『あなたが望むことはおおよそ叶う』と言っていたよな。
隣に視線を向ければ、涼子が穏やかな寝顔を披露していた。
――じゃあ、その望みを叶えるために行動してみようかな。
どんな相手を落とそうか、どんなセックスをしようか……。
そんなことを考えていたからか、中途半端になっていたそこは、嬉しそうに勃起していた。