怠惰な休日の朝七時。いつもの癖で目覚めても、たっぷり二度寝を決め込める幸せな時間帯だ。鳴りもしない枕元のアラームを、手が華麗に空振りする。
手のひらの着地した先。やわらかくて、あたたかだった。ついでに、ちょっと湿り気を感じたりもする。
「ふべっ。む、むぐぐ……」
すぐ隣から苦悶の声が聴こえたのは、たぶん気のせいだろう。そもそも、強い眠気のせいでまともに思考が働かない。
今日のオレは無敵。そう。なにをすることもなく、腐った死体のように一日をベッドで過ごす。いいじゃないか。外界の騒がしさを遠ざける、素敵なサムシング。
「あっ、やばっ……。これ、ほんとに死ねるかも……」
夢現の脳内に、他人の声がついに鮮明に響き渡る。
ああ、だめだ。はあ……、まじ無理。地縛霊になって呪ってやるー。
おい、やめろ。せっかく二度寝の体勢になったっていうのに、あんまりバリエーション豊かに煽ってくるな。どうにか夢の中への逃走を試みたものの、一旦オンの方向に傾いたスイッチが惰眠を貪らせてくれなかった。
うずくまったまま、特大のため息を吐く。起床に舵を切った五感が、いい匂いをもれなく感じているのが腹立たしかった。
隣で寝ている誰かさんの口を、自分の手のひらが思いっきり塞いでいる。妙に生温かい感触があったのは、ずっと吐息があたっていたせいだ。ゆっくりとどけながら、眼を擦る。
ジト目の女の幽霊、ではどうやらなさそうだ。
「えーっと、どちらさん?」
われながら、白々しい口調である。頬をかく仕草など、結構堂に入っているのではなかろうか。
「ふうん。私、本気で泣いちゃうけど、それでもいいんだ? ううむ……。悲しくなった勢いで、警察駆け込むってのもありかも。ふっ……。そうなったら、お兄さんの人生はいきなり終了のお知らせ。未成年部屋に連れ込んで好き放題してるってバレたら、きっとサイレン鳴らして大勢飛んでくる」
「おおう……。憐れなオレに、差し入れくらいはしてくれよな、山田ちゃん。あっ、できれば雑草の詰め合わせだけはご勘弁を」
「えっ……。いろいろ面倒くさくなってきたから、いまのはやっぱ全部なし。いい感じの朝ご飯買ってきてくれたら、お兄さんの粗相は許す」
いい感じってなんですか、いい感じって。
ジト目の誰かさん。もとい山田リョウが、生身の枕を求めて右腕を掴まえてくる。このかわいさは反則だろう。中性的で表面上はクールな山田ちゃんが、ぽふっと腕枕に甘えてくる。この状態で誰が朝飯なんて買いに行けるものか。
「わっ。また、大きくなってる。夜、あれだけシてあげたのに。もしかして、あれって夢だった?」
「ン……。確認してみるか、ゴミ箱。一発で、あれが現実だったって理解できると思うけど」
「えっ、キモっ……。朝っぱらから現役JKに言うことじゃないでしょ、それ」
確かにドン引きされるのもやむ無しの発言だ。
ベッドの脇にある小さなゴミ箱。横目で盗み見ると、ティッシュでできた小山の上に、カラフルな色のなにかが積み上げられていた。
そういえば、昨夜の時点でゴムの在庫を切らしていたことを思い出す。部屋に引きこもって優雅な休日を過ごしたいのはやまやまだが、必需品がなくては快適な性活もままならない。
「買い物いきたいんだけど、どうしよっかなあ」
「変なモノ押し付けるの禁止。いいから、もうちょっとだけ寝る。ほら、お兄さんも深呼吸して」
「すーはー、すーはー。やっ……、このくらいじゃどうにも。現役JKから漂う香りにやられて、ほら」
適当に着ていたジャージの中から、バッキバキになってしまった愚息を取り出す。山田ちゃんの顔が近い。熱も、香りもすぐそばにある。そんなこんなで、我慢することなんてはじめから無理なのでした。
「ちっ……。しょうがないから、手、してあげる。そうそう。この前、狙ってた中古のアルバム見つけたんだけど」
「んあっ……? 油断も隙もないな、このハイエナめ。追加で引き出したいならさ、愛情見せてよ、愛情」
全身をだらんとさせたまま、山田ちゃんが手コキを開始する。
逆手で竿を握って、亀頭を巻き込むような上下運動。雑に扱われているのだが、ぶっちゃけかなり気持ちよかった。朝勃ちチンコを、アンニュイなクール系美少女に扱かせている。
この優越感といったら、たまらない。
「んっ……。だったら、お兄さんの好きなところでも挙げてみよっか。えーとっ……。あっ、そうだ……。うーん、ううん……。いや、これもやっぱり違うか……」
急に思案顔になり、山田ちゃんがあーでもないこーでもない、と呟きはじめる。
自分からお題を選んだくせに、さっぱり答えがでてこないのはどうしてなんでしょうか。それでも手コキはしっかり続いていて、刺激によってこぼれた我慢汁が、ほどよく絡んで気持ちよさが倍増していた。
にちゅにちゅ、ぬちゅり。ぬこっ、ぬこっ、にゅるるっ。
山田リョウというハイエナは、焦らしながらも確実に男の弱点を狙ってくるのだ。リロードはとっくに済んでいる。亀頭をなぶられて腰が動く。興奮に任せてキスをしたいところなのに、うまく躱されている感じがした。
「んっ、うむむ……。んー、ふむふむ。ああ、そうだっ。……見た目まあまあチャラいのに、安易にタバコとか吸ったりしないとこ?」
「なっ、嘘でしょ? とんでもなく長いこと思案して、出てくる答えがそれなの? しかも、律儀に疑問符までついちゃってるし」
「あっ、もうひとつ忘れてた。ふっ、ほら」
二本の指が輪っかとなり、腫れた亀頭を責め立てる。
も、もう無理。精液のぼってきて、これ以上我慢できそうにない。どこでもいいから、欲望をぶちまけたい。その一心で、オレは腰を突き出した。
声が洩れる。朝一番の新鮮なミルクが、やわらかな手に包まれて搾り出された。
「ダラダラ先延ばしせずに、すぐイッてくれるとこ。ねっ、気持ちいい? おちんちん、満足そうにふるえてる」
「はあっ、はあっ……。あ、朝採れJKの手コキ、なんて破壊力……」
「ナカ、そんなに好きなんだ、お兄さん。射精できるなら袖の内側でもいいって、相当な変態。ぷっ、ふふっ……。ごめんね、ここじゃ妊娠なんて絶対ムリ」
山田リョウの悪魔的なささやき声。快楽に歪む視界。ちりちりと、火花が散っているようですらあった。
今日も今日とて、オレたちは元気に爛れた朝を過ごしている。