せっかくの休みだってのに、今日の天気は生憎の雨。まあ、もとから特に外出する予定もないから、別にいいっちゃいいんだけど。
動画再生中のスマホを片手に、ごろんと寝転ぶ。現在進行系でベッドは占拠されているから、ここがオレのくつろぎスペースとなる。視界の隅に飛び込んでくるのは、時折リズムを刻んで動く足。その美しさからいって、御足と表現するべきなのかもしれないが。
白い肌に気を取られているうちに、いたずら心が発動。ちょっとだけならと思い、ふくらはぎのあたりを指で上から下に撫でてみる。
「ヘンタイ。頭、ベースでぽむってしてもいい?」
弦の上で動かしていた指を止めると、ベッドの端に座っている山田ちゃんが顔を覗き込んでくる。
表情が読めないところは相変わらず。付き合いの浅い人間が聞いたら、まあまあ不機嫌なんじゃないかと勘ぐられてもおかしくない声の冷たさだ。
「やっ……。どうせなら、足で踏んでもらったほうが」
「はい、好感度爆下げ発言いただきました。ゲームだったら、ここからバッドエンド一直線」
聞こえないふりをして、ふくらはぎの肉をむにむにと。
やわらかい。なのに、贅肉を一切感じさせない作りをしているんだから、この女やはりただ者じゃないんだぜ。
相手をしている気分ではなくなったのか、ほんとに愛想を尽かされてしまったのか。山田ちゃんの顔が、濡れた窓の外に向いている。見えるのは、地面に落ちていく雨の軌跡。考えごとをしているらしく、山田ちゃんの指が抱えたベースのボディをコツコツと叩いている。
なにか言って欲しそうだったから、オレの方から声を出した。これぞ、大人の余裕である。
「雨、降ってるな」
「うん。雨だね」
まともな言葉のキャッチボールになっていない。普通だったら、エグい暴投をしたと感じてもおかしくないところだ。
二人揃って黙り込む。しばらく雨を眺めていた山田ちゃんが、ベッドの上にベースをそっと置いた。
「お兄さん。私、お腹空いたかも」
「疑問形になるのおかしいだろ。オレの財布痛めつけることに夢中になりすぎて、感覚バグってきてない?」
短パンの裾から伸びる太もも。限界までラフになりきった姿を見られるのは、オレの特権なのだろう。
吸い付くような肌の上に、やらしくない感じで手のひらを添える。山田ちゃんの表情が険しくなったのは、きっと気のせい。ひとまず、そういうことにしておく。
「ご覧の通りの悪天候だけど、外行く?」
「傘さすの面倒だから、ナシの方向で。それに、今は出かける気分じゃないし」
ぺしっとつま先で腕を蹴飛ばされる。
孤高の女王様の機嫌を損ねてはいけない。とはいえ、冷蔵庫にも大したものは入っていないし、どうしたものか。
ベッドから降りてきた山田ちゃんが、肩と肩を合わせてくる。顔こそまだ窓の方を向いたままなんだけど、甘えたいオーラを感じずにはいられなかった。
腕を伸ばして、跳ねた部分の残る髪を撫でる。いつになくアンニュイな雰囲気が漂っているけど、いまさら心がざわめいたりはしなかった。
「ん……。また、アレ作ってよ。いいでしょ、お兄さん」
「アレ? あー、アレってアレのことね。そのくらいだったら、いつでも」
不明瞭なワードの飛び交う会話。でも、山田ちゃんが欲しているモノの正体はなんとなく掴めている。
もう一度、最後にぽんと頭を撫でてから、オレはゆっくりと立ち上がった。
支えをなくした山田ちゃんが、スライムのように床にへばりつく。なんだ、このかわいい生物は。この瞬間を逃すまいと、ロスなく取り出したスマホのカメラでぱしゃり。すんごく嫌そうな顔をされたので、キッチンに退避した。
「まあ、具材なんてなんでもいいか」
目についたものを片っ端から取り出す。封の空いたソーセージ。わずかな葉物野菜。あとは、スープの味つけに使えそうなものなんかをチョイスしておいた。
手鍋に水を入れて、ひとまず沸くのを待つ。オレにできることは、ただそれだけ。料理なんてほんとにしないし、いまからやろうとしていることも、子供の遊びのようなものだ。
「限界まで下げたハードル、簡単にくぐってくるの逆にすごい。さすがは、私のお兄さん」
「なんだそれ。褒められてるのか貶されてるのか、まったくわからん」
重い足取りでやってきた山田ちゃんに、背中から抱きつかれる。
料理中とはいえ、特に包丁を使ったりするわけじゃないから、まあよしとする。
「すんすん……。こんなのでも、匂いだけは結構いい感じにしてくるんだからずるいよね」
「大手のみなさんの頑張りに敬礼。ありがとう、オレの尊厳をぎりぎり保ってくれたことに感謝します」
手順もなにもなしに投入されていく、有り合わせの具材たち。バラバラなチームをがっちりまとめてくれるのだから、スープの素ってほんとにすごい。
あとはひと煮立ちさせて、火が通ったらそれで完成。手間もなにもない、究極の手抜きの一品だ。あとはメシをレンジで温めておけば、とりあえずどうにかなる。そっちは、ようやく動く気になった山田ちゃんに任せておけばいいだろう。
二人での食卓。随分当たり前になってきた景色を、あらためて見渡す。向かい合うのではなく、横並びで。リビングで食事する場合は、だいたいこんな感じだ。
鍋敷きのうえに、手鍋を直接どんと配置。洗い物は最小限に済ませる。色気もなにもないが、これでいいのだ。
「では、いただきます。ずずっ、あちっ……」
「コンロからの直送便なんだから、そりゃあ熱いって」
「んっ……。じゃ、冷まして。お兄さん、責任とってくれるんでしょ」
「責任って、なんのだよ。ふーふー……。ほれ、山田ちゃん」
「あむっ。はふっ、はふっ。まだ、ちょっと熱い。ここ、火傷したかも」
山田ちゃんが、指で唇の一点を懸命にアピールしている。これは、アレなのか。間違っていたならそれも仕方がないと思い、椅子をずずっと近づける。山田ちゃんが箸を置いたのを見計らって、軽くキスをした。
「んっ、はふっ……。塩気があって、いつもよりおいしい。こっちも、いい具合に冷めてきたかな」
すっかりペースを取り戻した山田ちゃんが、スープをまとったソーセージを、白米のうえで一度バウンドさせている。
表面的には多少落ち着いたのかもしれないけど、中身がどうかは知らないぞ。特に、噴き出す肉汁なんかは。
「わひっ……。あっ、むぐっ、もぐもぐ……。うん、これでいい。むしろ、これがいい」
「お茶、置いとくからな。急いで食って、詰まらせないように」
こくこく、っと山田ちゃんの首が上下に揺れている。
まとっていたアンニュイな雰囲気はどこへやら。愛すべきバカというか、いつもの山田リョウがここにいるだけだ。
箸が茶碗の表面で動く音。最後の一粒まできれいにかっこみ、山田ちゃんが静かに手を合わせる。コップの茶をずずっとすすり、次にすることといえば。
「じゃ、セックスしよっか」
事務的な響きですらある声。表情に、揺れはなかった。
立ち上がった山田ちゃんが、短パンと一緒に下着を床に脱ぎ捨てる。言葉の響きとは裏腹に、こちらはやる気満々だ。乗りかかってくる身体。甘い香りに包まれて、下腹部の血流がいきなりよくなってしまう。
冗談で言っているわけじゃない。だから、オレの気持ちにも瞬時に火がつくのだろう。山田ちゃんのやわらかさを堪能しながらの、口づけ。シャツの内側に手がするりと潜り込んでくる。ひんやりとした感触がくすぐったくて、唇が離れた。
「……っと。飯以上に、今日はがっつくんだ」
「いいでしょ。お兄さんも、期待してたくせに」
「さーて、それはどうかな」
お返しに、ダボシャツの中に腕を突っ込んだ。顎を上げてくれたのに合わせて、ひと息に脱がせる。
なんの飾り気もないスポーツブラ。山田ちゃんの均整の取れた肉体に、見た目としてはかなりマッチしている代物だ。美乳を下から持ち上げるように刺激すると、山田ちゃんの表情が少し変化する。布地のうえから乳首を指で引っかくと、反応がもっと顕著になった。
「んあっ、んっ、あっ……。そんな、胸でばっかり遊ぶの、はあっ、はっ」
「やっ、だってかわいいし」
柔軟性のある生地を、ぺろんと捲ってしまう。束縛から解放されて、山田ちゃんの胸が喜んでいるようだった。何度観察しても飽きない美しさ。色もかたちも、非の打ち所がない。
そんなこんなで美乳を視姦していると、山田ちゃんに頭を抱き寄せられた。自動的に、顔が谷間に埋もれる。抜群のやわらかさで、窮屈な感じはちっともしていない。むしろ、ずっとこのままで。そのくらい、心地のいい空間なのである。
「もう、挿れるから。お兄さんは、じっとしてて」
否応なく、ペニスが腟内に呑まれていった。
段違いにあたたかい、生の感触。装着している余裕なんてあるはずもないから、ゴム無しセックスだ。二人分の荷重にさらされて、椅子が軋む。絶対に金では買えない、極上のサービス。動いていて気持ちがいいのか、時々山田ちゃんの喘ぐ声が聴こえてくる。
視界が閉ざされているのもあって、普段よりも感覚が研ぎ澄まされているのかもしれない。膣肉の蠢き。最奥でぶつかる、入り口のこりっとした感触。全部が全部、最高に気持ちいい。
「腰、とまんない。はふっ、んっ、あっ……。お兄さんのも、こんなにかたくなって……。息も、熱い」
山田ちゃんの動きに合わせて、膣肉がペニスを擦り上げる。
必死になって、胸に舌を這わせた。甘い香りと、汗のしょっぱさ。その両方が、思考をどこまでも狂わせる。空いた両手で尻を引き寄せると、締りがさらによくなった。
「気持ち、いいっ……。ん、はあっ、ふぐっ……。生でするセックスって、不思議。お兄さんの精液、欲しくてたまらなくなってくる。子供、できるかもしれないのに」
「や、山田ちゃん……!」
いきり立つ。言葉を聞かされているだけでも、いろいろなものが弾けてしまいそうだった。
「おっ。また、大きくなった。料理の腕前も全然だし、特別いいところもないのに、ふあっ、あっ……」
盛り上がってきたところで、急に現実突きつけるのはやめてください。別にいいやって諦めてるのに、言語化されるとやっぱダメかもって思えてきちゃうじゃない。
「リズムとか、波長がすごく合う。一緒にいたいって感じるの、それってすごく大事。ふふふ……。さすが私、世界の真理を的確に突いてる」
緩急を使った攻撃、今みたいな場面でするのってほんとによくないと思う。
両極端な感情が、グルグルと渦巻く。簡単にいうと、限界の訪れ。お待ちかねの精液なら、いつでもぶちまけてあげられる。
「我慢しなくていいって、いつも言ってるでしょ。セックス、誘ったのも私からだし。ほら、んあっ、あっ……。射精、早く」
「ぐっ……。山田……ちゃん」
とすん、と腰が落ちてくる。
気持ちいい肉による締めつけ。許可まで貰って、我慢できるような堪え性なんて最初から持ち合わせていない。
「くるっ、あっ、あーっ、はあっ……。射精、とぷとぷって。ふあっ、んっ、んんっ……♡」
強く抱きしめられた状態で、すべてを解き放つ。
谷間で拘束されていなければ、情けない声を洩らしていたに決まっている。そのくらい、強い快楽のある射精だった。
これでは、当分離してもらえそうにない。ならばいっそ、胸に包まれた状態で意識を飛ばすのも悪くないのかもしれないんじゃないか。そんなバカな考えが頭を過るほど、山田ちゃんの全身を使った抱擁は、オレの思考をどろどろに溶かしている。