いま新宿にいるので、迎えに来てもらえませんか。
夕方までのバイトが終わり、なんとなしに開けたスマホのトークアプリ。妙にかしこまった文体で、山田ちゃんからの連絡が入っていることに気づいたのが、つい先ほど。
あとは夜まで家でダラダラ過ごそうとしていたのに、秒速の方針転換で電車に飛び乗ってしまえるんだから、オレって意外と聖人君子なんじゃないかと思えてくる。いや、自分でそんなふうに偉ぶってる時点で、聖人もクソもないんですけどね。
「で、ターゲットはどこにいるのかな……っと」
利用客でごった返す駅の構内を抜け、ひとまず地上へ退散。出てすぐのあたりで待っていると言っていたので、ぐるりと周囲を見渡してみる。
「おっ、いたいた」
壁によりかかり、スマホの画面に視線を落としている、ミステリアスな雰囲気の少女。
特段変わった動作をしているわけではないのに、なぜか絵になる。
どこまで接近したら、気づいてもらえるのか。ちょっとしたゲームをしている感覚で、足音小さめに近づく。三メートル、二メートル。山田ちゃんの顔は、まだ画面を見つめているままだった。
「おーい、そこのきみ」
普段とは違う感じで、声をかけてみる。
聴こえてきたのは、小さな舌打ちだったのか。山田ちゃんの顔は、まだあがらない。
「そういうの、間に合ってるので。こう見えて私、彼氏持ちだし」
「そっかー。なら残念だけど、ほかあたりますねー」
「はい、お疲れ様でした。……それじゃいこっか、お兄さん。それなりに待ちくたびれた。とりあえず、ジュース奢って」
「んあ……? おっ、おう……?」
まるで脈絡のないシフトチェンジだった。やり取りで発生した違和感のせいで、思考がまるで纏まらない。ある種の催眠状態に陥っていたおそれすらある。
言われるがまま、オレは財布を開き、山田ちゃんの希望する飲み物を買わされていた。この間、わずか一分強。ぷしゅっ。プルタブを持ち上げたときの、小気味いい音がする。隣では、山田ちゃんが炭酸飲料の喉越しを堪能しているんだ。
まさか、これは悪い夢。ぴとっ。冷たっ。頬にあてられた缶の冷たさが、現実を直視させてくれる。いや、せめてひと口分けてくれるとか、そういうやつじゃないんかい。
「私の発するオーラに惹かれて、有象無象が寄りついてくる場面を想像してた。なのに、ついにきた……と思ったらお兄さんだったから。せっかく考えた案を捨てるのも勿体ないから、一応使っておこうかなと」
「そこで見事なドヤ顔されても困るんですけど」
飲み終えた缶を揺さぶりながら、山田ちゃんが言った。用済みとなった空虚な入れ物が、回収ボックスの中にカラカラ音を立てて消えていく。
「ま、いいや。それで、こうして迎えにきたわけなんだが、その心は」
「行きの電車賃と、ライブのチケット代。あと、ドリンク買ったら資金が尽きた。これはもう、救難信号を送るしかない、と悲痛な思いで」
「ふうん。念のために確認しておくけど、その手に持ってる袋は?」
「あっ、ほんとだ。こんなの、私いつから……」
手提げ袋を指摘された山田ちゃんが、ぽつりと呟いた。声からは、濃厚な嘘の匂いがする。どうせ会場で考えなしに散財した結果、元々少なかった金が消滅しただけなのだろう。
ようするに、これはいつものやつだった。
「そうだ。時間も時間だし、お腹空いてるよね。よし、今夜はお兄さんの好きなところに付き合おうじゃないか。肉でもラーメンでも、どんとくるがいい」
「はいストップ。金もほとんど持ってきてないし、今日はその手には乗りませーん」
「う、うぐぐっ……。かわいい彼女が、こんなにも空腹を訴えているのに。お、鬼め。優しかったお兄さんを、私に返せぇ……」
泣いてすがりつく山田ちゃんの姿に、通行人が軽くざわめく。
やめろ。やめるんだ。なにもやましい部分なんてないのに、視線が段々と痛くなってくるじゃないか。美少女の懇願を撥ねつけるオレの図。事情を知らない人間が見れば、どちらに感情が向くのかなど確定的に明らか。
強烈な同調圧力の波が押し寄せる。まさか山田ちゃんめ、これを狙って……。
「うわ、なんか恥ず……」
状況に気づいて、山田ちゃんが赤面する。
さすがに、そんなわけないか。内心安堵しながら、オレは山田ちゃんを引きずるようにその場をあとにした。
♪
近辺にある某デパート。いわゆるデパ地下エリアへと、オレたちは足を運んでいた。
揚げ物。焼き鳥。色とりどりの弁当類。本気で腹を空かせているのか、山田ちゃんの意識がいたるところに向いている。ただし、どれも値段は安くない。かかりっぱなしの荒馬である山田ちゃんを制御しつつ、オレは狙い目を探す。
「はーい。ご試食、いかがですかー?」
売り子をしているお姉さんの元気な声。
ホットプレートの上で転がされたソーセージ。肉汁の焼ける匂いに引っ張られて、足が自然と動く。これだ、これこそが、オレたちの求めていたもの。
「お、おお……。タダ飯、さいこう……」
爪楊枝に刺さった小さな肉片を見て、山田ちゃんが一言。
事実であっても、あんまり本音を洩らすんじゃない。お姉さんの愛想笑いが、むしろ辛いわ。
「も、もうひとつ、恵んでいただいても……?」
そろそろ、完全にそういう子だと思われかねない。未来の結束バンドの評判を守るためにも、オレにできる行動はただひとつ。
「うげっ……! ま、待って、お兄さん。ソーセージ。あのソーセージが、私に食べてくれと叫んでいる」
「連れがはしたなくてごめんなさい。次回は、きっと買いますので」
ソーセージ売り場からひとまず撤退。恨めしそうに見てくる山田ちゃんは、正直ちょっとかわいかったりもする。
小腹を満たすためとはいえ、食欲を刺激しすぎるものはよくないことをオレは学んだ。限度を超えた猛獣の手綱を、いつまで握っていられるかもわからない。
それなら、と今度は乾き物の置いてあるエリアを視察することにした。
チーズの試食をやっているのを見つける。例のごとく、山田ちゃんの行き足はバッチリだ。
「ほむ、むぐむぐ……。なるほど、なるほど」
食べながら神妙な表情をつくって、もうひとつパクり。山田ちゃんの演技力に呑まれて、店員さんはなにも言えなくなっている。
「濃厚で芳醇。それでいて、複雑な旨味が口の中に拡がっていく。咀嚼するとねっとりとして、飲み込むときにちょっと喉にも絡みついて」
なんだろう、この気持ち。オレはチーズの論評を聞いているだけのはずなのに、どうしてここまで不安になってしまうのか。
まさかの三つ目を口に放り込み、山田ちゃんがまたしても難しい顔をする。ねちょねちょ。むぐむぐ。ごくん。そうして、最終的に導き出された答えは。
「この塩気、そして形容しがたい香り……。あっ、わかった」
山田ちゃんがぽんと手をたたく。
オレと店員さんは、揃って結論を待ち構えた。
「似てるのかも、お兄さんの味と。まごうことなき、大人の味覚。なるほど、なるほど……」
顎を指で支えながら、山田ちゃんが何度も頷いている。
オレの味。つまりは、それって。
「あ、あはは……。独特な表現をされますね、お客様」
意味が伝わってしまったとしか思えない。ドン引き寸前の営業スマイルをさせてしまっていることが、かなり申し訳なくなってくるのだが。
「し、失礼しましたー!」
すべての元凶の襟首を掴んで、全速力でデパ地下エリアを走り抜けた。外まで駆けに駆けて、見つけた公園でひと休み。もう二度と、こういう使い方はしないでおこう。オレの決心を横目に、山田ちゃんは物足りなさそうに指を咥えている。
ねちょ、れろれろ、ぬぷっ……。唾液の音が、こっちまで聞こえてくる。いや、咥えているというか、これは。
「はふ……。こうなったら、お兄さんの食べさせて。栄養満点の発酵食品、たくさん出せるんでしょ」
耳穴をくすぐる吐息が、脳天を直撃する。
これでスイッチが入ってしまうのだから、オレもたいがいどうしようもない人間だ。周囲を確認してから、死角になりそうな生け垣に山田ちゃんを隠す。そして……。
「鮮度抜群のソーセージ、いただきます。はむっ、んあっ、んっ、んんっ、ぷあっ……。ね、これって試食になるのかな。それとも、マジ食い?」
「は、ははっ……。気持ちいいから、どっちでもいいや」
「うん、知ってる。お兄さんが、私のお口大好きってことも」
唾液をふんだんに絡ませてからの、強烈な亀頭吸引。はじめから、ブレーキを踏むつもりなんてさらさらない。熱のこもった山田ちゃんのご奉仕に、心のアクセルは全開になっていた。
「うむっ、んっ、ふはっ、あっ……。先、ぷにぷにですごい気持ちよさそう。癖になるお汁も、こんなに」
「あっ、ああ……。山田ちゃんのフェラ、たまんねえ。舌もやわらかくて、さいっこ……」
「はあっ、は、んっ……。頭撫でられても、別に嬉しくないし。子供じゃないからしてるんでしょ、こんな、ン……」
粘液まみれになった竿を持ち上げて、山田ちゃんが舌を這わせる。もはや気にしていないのか、鼻先からおでこまで、我慢汁でべっとべとだ。
降りかかる吐息が熱い。繋がっているわけでもないのに、山田ちゃん興奮が直に伝わってくるようだった。きゅっと窄めた唇。性器に見立てたそこに、張り詰めた亀頭を挿入する。
にゅぷぷ、にゅぷ、にゅろぉ……。
唇の感触。そして、待ち受ける舌のクッション。喉奥までゆっくりと突くと、山田ちゃんの嗚咽が聞こえた。もう、互いに余裕がなくなってきている。繋がって、汚して、あとは気持ちよくなるだけ。最低な隠れ遊びは、最高の快楽をもたらす。そういうことを知ってしまっているから、もうとまれない。
「あー……。この口マンコ、やっば……。精液、腰の奥から昇ってくる。ごめん山田ちゃん。とりあえず、一発出させて」
「むふっ、ふぅ……。じゅぷ、じゅぷじゅぷ……。んっ、あんっ、んっ……♡」
共同作業による快楽強化。ぷりぷりの唇で亀頭をしごき、舌の触手に全体を絡め取られる。
じっと見つめてくる二つの瞳。射精のタイミングを伺っているのか、表情になかなかの真剣さがあるのがおかしかった。
「もっ、お……。出るから、山田ちゃん」
情けないくらい腰を突き出し、射精の態勢に移行。敏感な裏筋を舌先でえぐられると、すぐに限界が訪れた。
「吸い付き、すっご……。ザーメン、根こそぎ持ってかれる」
快楽による痺れが、チンポ全体に襲いかかる。
ほとんどを出し尽くし、薄い残り汁だけの状態になっても、山田ちゃんは離してくれない。それに、射精したばかりで敏感になっているせいで、今度は腰が砕けそうだ。
「ふ……。やっぱり、お兄さんの濃厚さにはチーズも勝てない」
くちゅ、ぐちゅっ。ねちょねちょ。出したての新鮮な精液を、山田ちゃんが口内でかき混ぜている。どうやら、しばらく飲み込むつもりはないらしい。精液の粘り気に邪魔されて、さすがに言葉が聞きづらくなっていた。
エロさ満点な光景を見ているだけでも、萎みかけていたチンポの根本から気合が入る。まだまだぶちまけたいと、硬度を回復させてしまう。
「デパートに出店して、一儲けしてみるのもありかも。んむっ……。けどそれだと、お兄さんのを独占できなくなるのか。んー……。悩ましい」
謎の苦悩を抱える山田ちゃんの唇に、再び亀頭を触れさせる。
ずるりと侵入させると、生暖かい口腔の刺激に迎え入れられた。