とある夏の一日。
特に用事もなく、予定らしい予定は入っていない。山田ちゃんがやってくるらしいが、それはもはやいつものこと。今更、構えてなにかを準備することもない。
「飯、なんもないけど、あとで考えればいいか」
メッセージアプリを開く。送信相手は、当然のように山田ちゃんだった。
到着したので、迎えよろしく。
返事をするのも面倒なので、メッセージに既読だけをつけてオレは部屋を出た。毎度のことながら、僅かな労力を使わせることに喜びを感じているんじゃないだろうな、あの女め。タカれる部分を見つけたら、徹頭徹尾タカり通す。ある意味、芯が一本まっすぐ通っているといえるのかもしれないが。
「いつもより、一分と十五秒ほど遅れてる。脱いでたパンツ、慌てて穿いてたんじゃないかと推察するけど、その心は」
「んなわけあるか。そもそも、平均タイムなんて絶対わかってないだろ」
オートロックを解除すると、隅に佇んでいた山田ちゃんのほうから声をかけてきた。
まだまだ外は灼熱地獄だから、シャツが汗で滲んでいる。ちょっとした待ち合わせの時間はこれで終了。夏負け寸前の山田ちゃんをエレベーターに押し込み、ホームグラウンドへと帰還した。
「さっそくなんだけど、お兄さん」
山田ちゃんが、エアコン直下で風に吹かれている。少し前に、ふたりして汗だくになっていたことを考えると、天と地の差だ。あれはあれでシチュエーションを愉しめたとはいえ、そう何度も味わいたいものじゃない。
「お正月といえば、当然アレだよね。ふっ、ふふっ……。さあ、さあ……」
突然なにかのスイッチが入ったかのように、山田ちゃんが右手を差し出し迫ってくる。
こんな状況で、アレとか言われてもなにもわからない。それに、お正月ってなんだよ、というツッコミが脳内を駆けずり回っている。
山田ちゃんの顔が近い。これは、一種の錯乱状態なんだろうか。山田リョウをここまでおかしくする、お正月のアレ。一応思考にリソースを回してみると、思い当たるものがないわけじゃなかった。
「あ、お年玉」
「ん、大正解。聡明なお兄さんには、私に倍のお年玉を贈呈する権利を特別に」
「山田ちゃん、暑さで本格的におかしくなってない。それに、一万歩譲って今日が正月だったとしてもさ、彼女にお年玉とかあげないでしょ、普通」
「え……? はっ、え……?」
間近に感じる山田ちゃんの呼吸が、明らかに乱れている。オレ、おかしなこと言ったつもりなんて本気でないんですけど。
一拍おいて、両手で軽く突き放される。雰囲気が暗い。それに、どことなく思い詰めている感じだった。
「わかった。それなら私、いまこの瞬間からお兄さんの彼女やめる。それでは、本日までお世話になりました」
「んえっ……?」
今度は、オレが面食らう番だった。小さくお辞儀をした山田ちゃんが、足早に玄関から出ていく。止める暇もない、一瞬の出来事だった。
まさしく呆然。別れるならともかく、彼女やめるってなんだよ。しかも、その原因が季節外れのお年玉貰えそうにないからって、ほんとうに何。
謎の空虚感に打ちひしがれている間も、容赦なく時計の針は進む。一秒。二秒。ようやく金縛りから解放されかけた頃、再び玄関から物音がした。
「ただいま。彼女あらため、今後は娘としてよろしくお願いします。これなら、違和感なくお年玉あげられるよね」
「お、おう……?」
何事もなかったかのように、山田ちゃんがまたしてもすり寄ってくる。お年玉に懸ける執念が、ここまで人を変えてしまうのか。おそろしくなったオレは、山田リョウのほっぺたを左右から全力で捻り上げた。
「い、いふぁい。お兄さん、なにひて、むぐぐ……」
「トチ狂った山田ちゃんに、現実を見せてやろうと思って。はい、カレンダー。何月何日って、わかるでしょ」
スマホの画面を、山田ちゃんに突きつける。当たり前だが、今日は正月なんかじゃない。でなきゃ、少し動いたくらいで汗だくになんてなるものかよ。
「い、一月一日。そう、今日という日に向けて、私は綿密な資金繰りをしてきたはず。その計画に、ミスなんてどこにもあるはずが」
「綿密どころか、思いっきり自転車操業だっての。やっ、雑草で食いつないでる時点で、完全に破綻してるのか」
「うっ、うう……。お兄さんは、娘がグレてもいいんだ。セックスも、手コキも全部なし。性欲でおかしくなったお兄さんは、ついに街に出て見ず知らずの女性を襲おうとして」
「意味のわからん設定で、ひとを勝手に破滅させるんじゃありません。というか、娘になりきろうとしてるくせに、当たり前のようにお兄さん呼ばわりするなよ」
「えっ。だって、これ以上はさすがにキモい」
「冷静になるくらいの思考、残ってるんじゃねえか。はい、やめやめ。この話、ぜんぶ終わりでーす」
山田ちゃんの背中を押して、自分の部屋へ。嘘くさい涙を一筋流せるあたり、結構な役者だ。
ベッドの端に腰かける。妙な疲れがどっと押し寄せるとは、このことだ。突如としてはじまったお正月から彼女やめる宣言まで、山田リョウを目一杯味わわされて、胸焼けしそうになっている。
その味付け濃いめの張本人が、右隣のポジションにすっと収まった。微妙なにやけ面が、ちょっと腹立たしい。
「ね、お兄さん」
「なんだよ」
スマホをいじりながら、山田ちゃんが体重を預けてくる。
ちらっと見えたのは、どうやら練習の予定。無茶苦茶な言動をしていても、バンドに対する熱だけは本物だ。
「彼女やめるのと、セックスなし。どっちのほうが、言われて焦った?」
指を止めた山田ちゃんが、スマホをベッドに放り投げる。整った顔が急速に接近。いつでもキスのできる距離だった。肌にかかる吐息が、生々しい。
こういうスイッチの入れ方ができるのは、純粋に卑怯だと思えてしまう。指。どちらにも見えないところで、深く絡んでいる。絡め取られているのは、きっと心も同じだった。とっくに視線を外せなくなっているのが、その証拠だ。
「口じゃなかなか、答えにくい質問だったか。んっ、ちゅっ、んむっ、ふぅ……。いいよ。それなら、おちんちんに訊いてみるから」
挑発しながらの、濃厚なキス。こんなテクニック、いったいどこから仕入れてくるのか。絡んでいる手を、引き寄せられる。唇。舌。それに互いの口内を行き来する唾液までもが、白く溶け合う。
エアコンの送風音が、徐々に遠のいていく。それでも、チャックの下りる音だけは、はっきりと耳に届いた。届いて、欲情をどこまでも大きくさせていくようでもある。
「ぷぷっ。やっぱり、こっちは素直でかわいい。おちんちんは、口ほどに物を言うらしいけど、お兄さん?」
「おかしなことわざを増やすなよ。だいたい、オレくらい素直で優しい人間、そういないと思うけど。ン……。そんなだから、山田ちゃんのこと甘やかすの、半分趣味みたいになってるのかも。だから、これからもさ」
「ん、末永くお世話になります。お返しは、おちんちんにしていくので」
それなりに満足してくれたのか、チンポを包んでいた山田ちゃんの手が、ゆっくりと上下しはじめる。もちろん、キスは継続したまま。唾液をすすっているだけでも、はち切れる寸前まで気分は高まってくる。
「汁、すごい。お兄さん、私に挿れたい? おまんこ使って、気持ちよくなりたい?」
「そりゃあ、ね」
囁くような声。呼応して、山田ちゃんをベッドに押し倒す。恥ずかしげもなく自分から脱ぎだしているんだから、山田ちゃんも大概性欲に素直だといえる。
大人っぽい色の下着。観察すると、既に染みができていた。優しく擦って、さらに興奮を促す。唇。鎖骨。胸。吸い付くポイントを段々とずらしていって、最後には。
「あんっ、んっ……。お、お兄さんの舌、ふあっ……♡」
大事な部分を、舌で愛撫。少し汗を感じたあとから、女の子の味が強く拡がる。興奮が行き来するような感覚。性器で繋がっているわけでもないのに、勃起が収まらない。ちょっと苦しいくらいで、自分の手を使って密かに慰める。
「もう、んっ、んあう、んっ。いいから、お兄さん。おちんちん、ちょうだい。気持ちよくなるの、一緒がいい」
「また、そんな健気なこと言ってくれちゃって。待って、いまゴムつけるから」
「うん。季節外れのお年玉、こっちにならたくさんくれるでしょ。あうっ、んっ、はーっ、あっ……♡ きたっ、奥まで。んーっ、んっ……♡」
少々馬鹿なやり取りを繰り広げつつ、山田ちゃんの中にチンポを滑り込ませる。
確かに、準備は確実にできている。一番奥までハメたチンポを、引っ張り出したくない。包まれる気持ちよさを、簡単に捨てたくない。
「お兄さ、んっ、んあっ、あっ」
大きなストロークはとりあえず封印。小刻みな揺動で、山田ちゃんの奥をじっくりと味わうことにする。
豊かな胸に狙いをつけ、搾るように弄んだ。ぷっくりとふくらんだ乳首を指の腹で刺激されると、山田ちゃんが気持ちよさそうな喘ぎを洩らす。調子に乗ったオレは、そのまま片方を口に含んだ。なにを思ったのか、山田ちゃんが頭を撫でてくる。甘やかし、同時に甘やかされる、夢のプレイ。興奮しきったチンポが、悦ばないはずもなく。
「あっ、やべっ」
「えっ。んっ、んうっ、んっ……。どくどくって、ちょっと早い」
衝動を止められない。
なす術もなく、オレは情けなく射精してしまう。気持ちいいものは気持ちいいんだから、しょうがないじゃないか。ただ、これで終わっていたんじゃ男が廃る。ジェンダーレスの世の中だろうと、ちっぽけな雄のプライドだって大事にしていいはずだ。
「お年玉、まずは一発。まだまだ、いけるから」
再装着。使い捨てたゴムは、山田ちゃんの中に残しておく。期待に火照った膣口を指で開き、もう一度奥まで貫いた。
使い捨てたゴムの感触が、ぷにっとしていてちょっと奇妙ではある。そこに山田ちゃんは興奮しているらしく、反応は上々だった。
混ぜ合わせるように、今度はしっかり突いていく。ごりっ、ごりっ。子宮の入り口あたりは特に入念に、チンポの先を擦りつけた。普段とは違う感触に、山田ちゃんの身体も悦んでいる。搾るような膣の動き。それに、声もずっと大きくなっている。
「はあっ、あはっ♡ 精液でいっぱいになったゴムが、おちんちんに潰されて。んっ、あんっ、んーっ……♡ お腹の奥、気持ちいい。お兄さんので、えぇっ……♡」
高揚感のせいで、一発出したあとの気がしない。とにかく、山田ちゃんと一緒に気持ちよくなりたい。思考があるとすれば、それだけなんだろう。
突き入れたチンポに呼応して、引き締まったお腹が跳ねる。頭がくらくらするような光景だった。山田ちゃんは誰がどう見たって美少女で、スタイルも抜群で。そんな子が、オレのチンポを嬉しそうに下の口で咥えているんだ。
「これ、えっろ。ゴムつけてるのに、山田ちゃんに中出ししたみたいでさ」
「もっと入るから、おにいさ、あっ、はひ……っ♡ 熱いの、たくさん」
山田ちゃんの身体を抱いて、上から腰を打ちつける。いわゆる、種付けプレスの体勢だった。出したばっかりだっていうのに、むずむずとした射精感が早くも湧いてくる。深々としたキス。舌を吸い上げる動きでさえも、射精のおねだりに思えてきて。
「んぷっ、じゅるるっ、んっ、んふっ。ほひぃ、らひて♡ お兄さんの、んちゅるるっ、はやくちょうらい♡」
山田ちゃんの誘惑が、すべての障壁を破壊しにかかっている。
腟内に埋もれたゴムを押しつけるように、一番奥を刺激し続ける。チンポの根本は、またしても限界までふくらんでいるんじゃなかろうか。気持ちのいい射精。絶頂を、山田ちゃんと一緒に。
「二回目、イクから。山田ちゃんの中に、今度も全部」
「うん、きて。ゴム、破けちゃうくらいのすごい射精、してほしい。お兄さん、あーっ、いいっ、いっ、くぅ……♡」
子宮の入り口目がけて、どすんと腰を落とす。ぎりぎりで我慢していたものが、なにもかも溢れ出していく。
腕。脚。使えるものをすべて使って、山田ちゃんがオレの身体を拘束しているんだ。密着が強すぎて、果たして自分がゴムに出しているのかがよくわからなくなってくる。
熱く蕩けるような二回目の射精。珍妙なやり取りからはじまったこの幸せを、オレはまだまだ手放したくなかった。
ゴムいっぱいに出したところで、チンポがずるりと抜ける。すかさず次のパッケージを手にした山田ちゃんが、精液溜まりを指でぷにぷにと押している。遊ぶ姿は無邪気そのものなのに、凄まじく背徳的な光景だ。向けられたのは、無機質な表情。だけど、赤く染まった頬が、山田ちゃんの興奮を確かに物語る。
「射精中毒のお兄さんに朗報。んっ、んぅ。コンドーム、今度は私のお口で……。あむっ、れるっ、れっ……。せーえきの味、すごっ。蒸されてたせいかな。はあっ、んうっ。おいひ、ちゅうぅううぅ……」
「おっ、おお……。山田ちゃんの口、あったけぇ」
ゴムを取り去ったチンポを、まずはお掃除フェラ。端正な山田ちゃんの顔に汁が伝う。それだけで、オレの愚息はバッキバキに復活してしまい。
れろっ、れろっ。
先端を味わうような舌の動き。少し潤んだ瞳が、じっと様子を窺ってくる。唾液でマーキングされた亀頭に、新しいゴムが被せられた。それから、意外なくらい丁寧な口の所作で、根本に向かいずり降ろされていく。
「じゅるるっ、んっ、ぷはっ♡ はい、あけましておめでとうございます」
「まだ引っ張るのかよ、それ」
「うん。言っておいた方がいい気がしたので、なんとなく」
どんな理由だよ、それ。
両手をつなぎ、座った体勢のオレのチンポに、山田ちゃんが跨ってくる。自分からの挿入もお手の物。気持ちのいい箇所に何度か擦り合わせると、余裕だった表情にもさすがに揺らぎが見られた。
「お兄さん。おせちは和風と洋風、どっちがいい。あんっ、おっ、っ……。なんなら、そこに中華風を足して三つ巴にしてみても」
「は……? ああ、中華もいいかもなあ」
真面目に返事をするのがバカらしいなってきて、妄想の中で山田ちゃんにチャイナドレスを着せてみる。
スリットから覗く生足が眩しい。いやしかし、伝統的な和装の着崩しも、また捨てがたいのでは。そういえば、時期的にはまだ浴衣でそういうことをデキるチャンスは残っているのかも、などとさらなる妄想を膨らませてしまったり。
二礼二拍手一抜き。神域でのセックスはどう考えても健康にも運気にもいいはず。シランケド。
「ていっ」
文字通り、ぽこんと頭上から活を入れられた気分だ。話を逸らした張本人が、自分に集中しろと言わんばかりに腰を振ってくる。そもそも、頭の中は山田ちゃんのことでいっぱいだというのに。
冤罪もいいところだが、反論はしない。快楽の中では、すべてを赦せてしまうからだ。
ぐちゅっ、ぐちゅっ。締まりのいい膣が、エロい音と一緒にチンポを上下に搾る。われながら、今度もそう長くは保ちそうになかった。握った手の力を強めて、山田ちゃんの鎖骨のあたりに吸い付く。普通とは逆な気もするが、思いっきりキスマークをつけてみる。それで、ちょっと機嫌を直してくれるのだからチョロいものだ。
「こうなったのも、全部お兄さんのせい。責任、しっかり取るように」
「それなら、もちろん。こっちだって、山田ちゃんに価値観ぶっ壊され続けてるんだ。だから、お互いさまだっての」
声に、ゾクリとするような艶めかしさがある。返事を受けて、締め上げ方がさらに甘くなったのは気のせいなんだろうか。
「あんっ、あっ、あっ、んっ……♡ いっ、んっ♡ いったい、なんの話。今日は中華弁当の気分、って言いたいだけだった。んっ……♡ それと、持ち帰り用の肉まんもあると、もっとよし」
「あ……? こ、このっ」
吐息が熱い。
煩悩満載のASMRが耳を襲う。ついでのように行われる耳舐めが、ぐちゃぐちゃにされたメンタルをあまりにも悩ましくさせた。