平日の夕刻、オレは
大切な話がある。だから、なるべく早く会いにきてほしい。危急存亡の秋。バンドだったら、解散寸前の場面。あとは……。ええと、うまく思いつかないけど、とにかく急がれるべし。
普段クズムーブをぶちかまされている人間から突然そんなメッセージを寄越されると、さすがに心臓に悪いってものだろう。
とにかく、オレはすべての用事をほっぽりだして山田ちゃんのもとに急いだ……、のだが。
「来たるべき日のために、私にはきららアニソンを網羅しておく義務がある。偉業を見事達成できた暁には……。あっ、お兄さんの番だよ、つぎ」
普段通りのテンションでいる山田ちゃんから、マイクを手渡される。やかましく鳴る採点マシーンの音。いい点数が表示されているのを、さも当然といった様子でヤツは流し見ていた。
おい。いったいなんだよ、この状況は。
気づいた時には、オレはカラオケ代を奢らされていた。恐怖で背中に悪寒が走る。そのついでに、我慢していた尿意がググっとせり上がってきた。ごめんな、オレの膀胱。おまえには、心底無駄な頑張りをさせてしまったようだ。
「……ちょっとおしっこ」
「そういうの、事前に済ませておいた方がいいって知ってる? せっかくいい雰囲気になっても、これじゃ台無し」
おまえが雰囲気を語るな、クズベーシストめ。
立ち上がったついでに、山田ちゃんのやわらかな頬をひとつねり。訳が分からないといった表情をされていますけど、それはこっちの台詞なんですよ。
もやもやしていた気分を、尿と一緒に排泄する。どうせ金を払うんだったら、楽しまなきゃ損だ。突発的な平日デート。そう、これはデートと思えばいい。
「おかえり。お兄さんがなかなかもどってこないから、おすすめの曲をいくつかピックアップしておいた。……まさか、トイレでひとり遊びなんてしてないよね。ふむ。妙に長かったのは、そのためか」
「してねえわ! ちょっと、廊下でスマホいじってただけだし!」
机に転がっていたマイクを掴み、気合いを入れ直す。
なんとなく聴いたことのあるイントロが流れはじめ、少し遅れて歌詞が表示される。自分の対応力に惚れ惚れするね、まったく。ひどいタカられ方を繰り返すと、謎の能力が開花することがあるようだ。かさぶたができて、傷が治るのと同じ原理。まさしく、怪我の功名。
「へえ、意外とやるじゃん。世界のヤマダの一番弟子になる権利をあげてもいい。月額は、なんと一万ぽっきり」
「いっ、いらねえ……」
山田大先生のご厚意に、涙があふれそうだ。
余計な茶々を無視して、数曲歌い続けた。どことなく、山田ちゃんがそわそわしている気がしていた。直後、その予感は確信に変わる。
「あっ、どうも。そっちのは、そのへんに、はい。カレーは、私の前にお願いします」
ノックをした店員が、カートを引いて入ってくる。
山盛りのポテト。サラミやピーマンの乗ったミックスピザ。それと、なぜかでかい顔をしてテーブルに鎮座するカレー。ここまできたら、いくら鈍いオレでも察してしまう。そう、こいつは。
「おい山田。人が便所行ってる間に、貴様なにをした」
「言ったでしょ、雰囲気づくりは大切だって。うへへへっ……。お兄さん、ゴチになります」
言ったそばから、本音が漏れまくっているのだが。
見下げたハイエナ精神というか、なんというか。骨の髄までしゃぶり、タカれるだけタカり尽くす。これが、山田リョウという女の本質。恐怖のあまり、今度は左右の手が小刻みにふるえた。
「言い訳があるなら、聞こう。受け入れるかどうかは、別にして」
「しばらくは、我慢して待ってた。なのに、ちっとも誘ってくれないから。お兄さんの人でなし。ぐすん」
おいそこ、クソみたいな泣き真似をするんじゃない。そもそも、待たせるようなことをした憶えがひとつもないのだが。散財の結果ひもじい思いをしていたら、飯を食わせる。泊まりにくると言ったら、予定を空けて掃除もする。
ヤルことヤラせてもらっているとはいえ、オレたちの関係は持ちつ持たれつ。欲望に踊らされるクズ同士、仲良くやれるうちが花ってやつでしょうよ。
「この前、ライブやったじゃん? ステージも、そこそこうまくいったし。……えっ、なにその顔」
この女め、チケットを売りつけてきた分際で、ちゃっかりご褒美まで求めてやがる。とんでもないモンスターだぜ、まったく。
「なるほどねぇ。つまり山田ちゃんは、オレに構ってもらえなかったのが寂しかったってわけだ」
「むっ……。絶対、そんなんじゃないし。ただ、彼女が頑張ったの見てて知ってるのに、なにもしないのは不義理だよねって、そう思っただけだし」
口でかわいげのあることを言いながら、カレーを勢いよくかっこむのはやめなさい。間違いなく、飯が喉に詰まるから。
ごほっ、げほっと山田ちゃんが盛大にむせる。ほら、言わんこっちゃない。飲み物を横からそっと差し出す。ドリンクバー直送の特製ブレンドジュースだ。とくと味わうがいい。
「ごっほ、こほっ……。う、なにこれ。まさかお兄さん、怪しい薬とか混入させてる? そこまでして、女を自由にしたいのか」
「失敬な。山田ちゃんを襲うなら、オレは正々堂々真っ正面から襲う。たとえば、こうして」
黒のタイツに包まれた張りのある太腿。わざとらしくいやらしい手つきで、撫で回す。
「わー。このひと、痴漢です。誰か助けてー」
ポテトを貪りながら、心臓に悪い言葉を振り撒くんじゃない。なかなかいい塩加減だったのか、粒子の付着した指だけを山田ちゃんが差し出してくれる。
なんともせこいが、気分がのってきているのでまあよしとする。タイツ越しに気持ちいい部分を刺激しながら、当人の指を吸う。うむ、甘露甘露。あたりまえというか、適度に塩気があって普通にうまい。
「女の子の指しゃぶりながらおちんちん勃起させるとか、正気? やっぱり、お兄さんはかなりの危険人物。はむっ、もぐもぐ」
「痴漢されながら物食ってる女も、大概やばいと思うんだけど。そこはどうなの、山田ちゃん的にはさ」
「んっ……? ふへへっ、それほどでも」
上機嫌に笑う山田ちゃんが、背中を向けて乗ってきた。
勃ちあがったペニスが、尻の重みで甘く潰される。なにも褒めたつもりはないんだけど、それで気持ちよくしてもらえるなら、オレに言うことはなにもない。
「素股だけなら、してあげてもいい。好きなんでしょ、お兄さんも。こういうシチュエーション」
ポテトの塩と油のついた指をちろっと舐めてから、山田ちゃんがジーンズのジッパーを下ろしにかかる。きららアニソンの伴奏だけが、室内に鳴り響く。無駄に予約選曲してあるせいで、しばらくこの状態は続くのだろう。
あたたかい。外に出されたペニスが、左右からタイツの生地に挟まれる。山田ちゃんは長めのスカートを履いているから、端から見ればじゃれた女が膝の上に乗っかっているだけとなる。たぶん。おそらく。
「そっか。山田ちゃんも、インターネットの大海原からエロい情報を仕入れるお年頃か」
「フフフ……。だから、お兄さんはアホだと言っている。この前、河原で雑草調達してたら、その手のいかがわしい本がたまたま落ちてた。雨風にさらされてしわしわだったから、ページめくるだけでもひと苦労。日向で乾かしつつ、行くたびに少しずつ読んでる」
太腿の間から飛び出た亀頭が、スカートの中でぐにぐにとイジられている。
山田大先生はドヤ顔で胸を張っておいでだが、性知識のゲット方法がいろいろと旧世代すぎやしませんかね。
「これ、いいんだよね。あっ、んふっ……。お兄さんの擦ってると、こっちもなかなか」
「ン……。素股のお礼に、食べさせてあげよっか、ポテト。ほら、山田ちゃん」
数本まとめて持ち上げたポテトを、山田ちゃんの口に近づける。完全に餌付けの光景だった。
安全を確かめるように、山田ちゃんがゆっくりと咀嚼していく。根本付近まで食べても、まだやめない。最後は、口に含んだ指を丹念に甘噛みする。じっくりねっとりフェラをさせているみたいで、これはこれで結構エロい。
「んぷ、んあっ、ちゅっ……。あっ……。おちんちん、どんどんおっきくなるんだ。外、好きなの? スターリーのそばで郁代にバレかけた時も、普段より興奮してたし」
「そう言う山田ちゃんだって、チンポ擦りながら濡らしてるくせに。はー、これめっちゃいいわ。外でヤルのにハマったら、責任とってね」
「それってどんなせきに……、ふはっ!?」
扉が軽くノックされる。間髪入れずに姿を見せる店員。驚きのあまり、山田ちゃんが股の間にあるペニスを思いっきり締め上げた。
女性店員から、こいつら馬鹿やってんな、という冷ややかな視線を感じる。強烈な刺激を与えられたのに、反応を示すことも今は無理だ。ほんの短時間のはずなのに、あまりにももどかしい。山田ちゃんもオレも、笑ってしまうくらい無言だった。
「あははっ……。仲、よろしいんですねー。デザート、ここに置いておきますので、ごゆっくり」
ぱたん、と再び扉の閉まる音がする。じゃれているだけで、素股プレイ中だとは気づかれていないと思いたい。でなければ一発退場を食らっていたはずだし。
誰だ、こんな不用意なクリーム乗せプリンを注文したのは。追加の特濃ミルクもぶっかけて、口に押し込んでやろうかこいつめ。
「ほっ……。カラオケの店員、容赦なくドア開けがち」
「びびってる山田ちゃんも、結構かわいい。チンポ、こんなに締め上げてさ」
「やめっ、んあっ……。また、お兄さんはそうやって調子に乗る。あふっ、んっ、んあっ……♡ こんなの、気持ちよくもなんとも」
「嘘、ヘタクソすぎだって。山田ちゃんのここは、すごく素直なのに。あー、やっば……。出すとこ、どこにもないのになぁ。これ、どうしたらいい?」
「むぐぐ……。待って、いま飲んであげる。よいしょ、んっ……。えっ、なに……。ちょっとまっ、ひゃわっ……あぷっ!?」
嗚呼。悲しいかな、オレの愚息殿は、山田ちゃんの顔が正面に見えた途端、なにを勘違いしたのか思いっきり暴発したのだった。文句を言われる&後処理が面倒なので、顔射なんて数えるほどしかやっていない。貴重な体験なだけに、興奮はひとしおだ。
半分事故だったとはいえ、ぶっかけてしまったのなら、全力で楽しまなければ損じゃないか。ということで、握った竿の先端でグニグニと肌を押す。キレイな顔を流れる白濁を眺めていると、独占欲がいい具合に満たされるのだ。うむ、最高。
「おいそこのヘンタイ。どさくさに紛れて、私のおデコをティッシュの代わりにするんじゃない」
「……バレた?」
「もう知らない。こんな、んっ、れろっ、んぅ、ンッ……。私の顔に射精しておいて、まだバカみたいに勃起させてるんだから、お兄さんは人としてどうかしてる。……ところで、そろそろ新しい弦が欲しいらしいよ、私」
「あー、買う買う。そのくらいの謝罪は、させていただきますとも。おっ……。ああっ、すっご……。山田ちゃんの口に、全部吸い取られる」
「じゅるるっ、むっ、んむっ、ちゅう、んっ……。へっ、やった。この勢いに乗って、ついでにエフェクターも」
「いや、無理だから。お小遣いためて、自分のお金で買いなさい」
「ちっ……。もうひと押しのところで、冷静になったか」
鼻梁をつたって垂れ落ちるザー汁を、山田ちゃんが舌ですくう。ほとんど同時に露骨な舌打ちをしてみせるのだから、この女もなかなか器用じゃないかと思えてくる。
「顔、いい加減きれいにしなよ。なんなら、拭いてあげよっか?」
「別にいいでしょ、もう少しこのままでも。ふぉら、んふっ、さっさとらふぇ、んぷっ……」
喉奥付近まで咥えてしゃべろうとするものだから、言葉が言葉になっていない。
距離のあるストローク。舌で転がされる亀頭が、苦悶の声をあげて泣いている。
二発目の精液の塊が、出口を求めて煮えたぎっていた。手を伸ばして、山田ちゃんの細い髪を指で弾く。その程度の遊びで、興奮の矛先を逸らすことなどできるはずがない。ぐっと腰を浮かせると、一気に限界が訪れた。
「飲んで、山田ちゃん」
「ちゅぽっ、ずるるるっ。あんっ、んっ……。らひて、ふあっ、んえっ……」
白い衝動がほとばしる。
ほかには、なにもない。欲しいとも、思わなかった。