まったく眠れる気のしない夜だった。時計の秒針の音がやけに大きく聞こえる。
明日は朝からバイトだってのに、時間の経過とともにむしろ意識がはっきりしてくるのである。これは、非常にまずい事態だった。
鼻腔を占拠する甘い香り。唇に時折拡がる、あたたかな感触。そして極めつけなのが、半勃ちになったペニスを、パジャマのズボン越しにくすぐられていることだ。
これぞ、地獄の三点責め。当然のように枕にされている左腕が、朝には痺れて使い物にならなくなっていることを考えると、四点責めと言うべきなのかもしれなかった。
沸騰ぎりぎりのラインを越えないように、オレの理性は
「お兄さん、もう寝ちゃった?」
ディープキスには絶対に発展しない、浅い口づけの連続。これが真っ昼間の出来事なら、一も二もなく襲っているんだろうけど。
いいか。耐えろ、耐えるんだオレの理性よ。山田リョウの与えてくる誘惑に、決して屈するな。
「んっ、はむっ、んっ、ふうっ。あむっ、あんっ、んっ、ふふっ」
唇をついばむだけの動きが、こんなに気持ちのいいものだなんて。
添い寝しながら浅いキスをされているだけなのに、悔しいほどチンポを反応させてしまう。
かりかり、かりかり。
布のうえから裏筋を引っかかれる。言うまでもなく、良好になった血流のせいで息子はフル勃起の状態だ。
ぎゅっと閉じていた両眼を開ける。視界いっぱいに拡がる山田ちゃんの端正な顔。唇を突き出すことだけは、どうにか堪えた。
そうだ、オレはまだ負けていない。負けてなど、やるものか。
「眠れないんだ。せっかく、添い寝してあげてるのに。はあっ、はむっ、むっ、んむっ」
ぐずる子供をあやすような声。優しさ全開のキスは、眠りたいオレにとっては逆効果でしかなく。
「おちんちんまでこんなにして、早寝するとか絶対嘘じゃん。あれか。新しい誘い受けの手法だったりする、これって」
そこまで言って、また浅いキスを続ける。脳が蕩けるレベルの甘さだった。空いた手と手を、しっかり結ぶ。
ベースの弦をふるわす手つきで亀頭を愛撫されると、弱々しい声が洩れた。
「気持ちいいね。横になってダラダラしてるだけなのに、すごくいい気分。ねっ……。赤ちゃんできちゃうかもしれない危ないセックスと、お兄さんはどっちが好き?」
「はあっ、はあっ……。現在進行系で新手の拷問受けさせてられてるオレ、どうなってんの」
「あっ、逃げた。それなら、こっちに答えを聞いてみるしかないか」
「おっ、おおぅ……」
外からペニスを甘くいじっていた手が、するりと侵入。
少し冷たい山田ちゃんの指に膨張した亀頭を包まれて、腰がふるえそうになる。
「朝、早いんでしょ。私は勝手に遊んでるから、お兄さんは寝ていいよ」
「かわいくて、エロくて……。これで金銭感覚バグってなけりゃ、無敵だったのに」
「ふふん。いいんだよ、もっと褒めてくれても。私という存在がそばにいるおかげで、お兄さんは経済の循環に貢献できてる。活きたお金の使い方できて、とてもえらい」
なんだろう。多少なりとも、今夜だけの特別なベールが剥がれてきたというかなんというか。
「えっ。このタイミングでちょっと萎えるの、意味わからないんだけど」
「ううむ。山田ちゃんが、山田ちゃんだったってことなんだろう。気持ちいいから、続けて」
「なにそれ。ちっとも、答えになってない」
滲んだカウパーを、山田ちゃんが指で塗り拡げる。
浅くて甘いキスは、まだまだ継続。時々距離をとっては、お互いの顔を観察し合う。いい雰囲気だからといって、山田ちゃんは無理に笑顔をつくったりはしない。ただ、ほかに感情を読み取れる部分がいくらでもあるから、物足りないと思うことはなかった。
「はふっ、むっ、んあっ……。お兄さんも、私のここいじってよ」
導かれる。右手が、山田ちゃんの下着の中にするりと侵入。無毛地帯を軽く撫でてから、快楽を待ちわびる穴の内部へ指を潜らせた。
「はあ、んっ……。おちんちん、ひくってしてる。触りながら、興奮してるんだ」
「そう言う、山田ちゃんだって。キスして、チンポいじくってただけなのに、こんなにナカ熱くして」
一番敏感な箇所を、弱点を知り尽くした相手と愛し合う。これ以上の快楽など、そう得られるものではないはずだ。
到来を期待していた眠気など、どこへやら。ゆるやかな昂りの中で、好きだという気持ちをぶつける。キス。またしても、浅いキス。今夜は、とことんこのままで昇っていけばいいんじゃないか。
山田ちゃんの穴が、指をしゃぶるように締め上げる。連動して雁首のあたりを責められると、吐息と一緒にまた声が洩れた。
「好き。ふふっ……、好き」
「あ? なに、急にどうしたの」
ちょっと柔和な表情になった山田ちゃんに具体的なことをささやかれると、心がどうしても反応してしまう。耳が、脳内が、『好き』ってワードによる痺れを感じたくて、鋭敏になっていく。
「ぷぷっ……。お兄さんこそ、なにその顔。おちんちん、先の腫れた部分いじめてもらうの好きだよねって、そう言いたかっただけだし。まさか、勘違いさせちゃった?」
「はっ? 勘違いとか、全然してないから。オレはこれでもきみよりずっと大人なので、人生経験豊富なんですよ」
「嘘、わかりやすすぎ。お兄さん、詐欺師には絶対むいてない。逆に騙されて、一瞬で破滅しそう。んっ……。んあっ、むっ、はむっ……」
唇をついばむ。
息継ぎの音に紛れるように、山田ちゃんに『好き』だと呟いた。精一杯の反撃。胃袋以外の全部を握られてしまった男にできるのは、このくらいの足掻きでしかない。
「これ、んあっ……♡ はっ、はふっ。は、恥ずかしすぎて死にたくなるから、もう……やめっ♡ あっ、んあっ、くっ……。あそこまで、感じやすくなってる。お兄さん、ああっ……♡」
「だーめ。はじめたの、そっちじゃない。大人をからかうとどうなるのか、嫌ってほど教えてやる」
逃げようとしても、逃さない。腕を使って身体を抱き寄せ、唇を吸い続けた。山田ちゃんの下腹部が軽く跳ねる。
膣穴の仕上がり具合は、おそらく抜群だ。いま挿入したら、速攻で果てる自信があるぞ、オレ。
「びくびく、とまらなっ……♡ お、おお゙っ、おぅ……♡ んーっ、すぅ、んっ、んはぁ」
快楽の風船が際限なくふくらむ。いつ弾けてもおかしくない程度には、張り詰めているんじゃないか。それはきっと、お互いさまで。
ぐちゅっ、ぐちゅ、ぬちゅちゅ。
溢れ出たカウパーが、ペニス全体に塗り拡げられる。余裕のない手コキ。腰がふるえると、山田ちゃんがキスをしながら笑ったような気がしていた。
「はあっ、はあっ、あっ……♡ これ、結構すごいのくるかも。あふっ、お゙っ、ふーっ……♡」
「奇遇だな。オレも、めちゃくちゃ射精したくなってる。山田ちゃんの手の中で、空になるまで」
「あっ、そこ……っ。はーっ、はっ、はっ……。い……くっ♡ 一緒にいこ、お兄さん」
ぐっちょぐちょになった山田ちゃんのナカを、指でかき回す。ついでに親指でクリを押し潰すと、低い重心のいい声が部屋に響いた。
「おっ、お゙ーっ、んっ……。おっ……。いって。お兄さんも、射精して……ぇ♡ んっ、あーっ、あっ、ああっ。ほら、いいよ。精液の匂い、洗っても取れなくなるくらい、たくさん出してもいいから。んーっ、んんっ、んはぁ……♡」
膣奥に見立てた手のひらの中心に、すべてを打ちつける。
大好きだから、山田ちゃんのこと。
ぼんやりしていく意識の中、そういうことを口走った感覚が少しだけある。返事がどうだったかまでは、さすがに憶えていないけど。
ひとつはっきりしていることがあるとすれば、それはオレが翌朝思いっきり寝過ごしたという事実だけだ。