※この作品はR-18です。

無題   作:一家相伝トロツキスト

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無題

「なっ、何をする気なの!」

 

 眼前には手を背後で拘束された少女が座っていた。気が立っているようで、先程からずっと椅子の上で暴れている。

 私は手で支えていたお盆を机に置き、ゆっくりと息を吐いて言った。

 

「心外だなぁ、私はただ、お腹が空いて疲れ切った君に、ご飯を食べさせようとしてるだけなのに」

「そ、そうなの? ……いや、私は決してお前の食事なんか――」

 

 彼女が拒否しようとしたとき、彼女の腹の虫が高らかに鳴き声を上げた。いくら頭で拒否しようと、身体は正直らしい。

 私はにっこりと微笑みかけ、彼女に質問した。

 

「ご飯、食べたい?」

「…………はい、食べたいです」

 

 苦し紛れに言葉を放った彼女を精一杯労うように、私はお盆にのった食器を彼女の前に置いた。

 

「……えっ……?」

 

 彼女は目を丸くし、息を吞んだ。彼女が見ている椀の中には、桃色の準個体の物質の上に、彼女の肌と遜色ない色をしたクリームが浮かび、白くてドロドロとした液体がひたひたになるまで注がれている。彼女は「これを飯と呼ぶのか」とでも言いそうな顔をして私を見つめた。そして、屈託のない笑みを浮かべる私を確認した後、視線を器に戻した。椀は得体の知り得ない何かで満たされている。当たり前だ。単体ならまだしも、混ぜて胃の中に入れる組み合わせではない。私でさえそう思っているのだから。

 

 暫時黙っていた少女は疑念を帯びた指先を椀の中へ向け、ようやく声帯を震わせた。

 

「あの……これは……」

「あぁ、フルーチェにカスタードクリームと生クリームを混ぜ込んだものだよ。料理人が量を間違えて、生クリームは最早原型をとどめていないがね。まぁ、品質には問題ないよ」

 

 少女は怪訝な顔をして、椀に浸かったスプーンを中で一周させた。妙な抵抗感のある物質に、彼女は額を押さえている。

 

「他に……ないんですか、食べるもの」

「悪いね、今はこれしかない。それどころか、明日も明後日も明明後日……ざっと100日は、三食それを食べて貰わないといけないね」

 

 彼女は心底不快そうな顔をして、スプーンを口元まで押し上げた。

 直ぐさま彼女の表情が崩れ落ちる。唇の両端からこぼれ落ちたそれが、彼女の心境をよく描写している。彼女は何度かもちゃもちゃと咀嚼し、少し喉を動かした。飲みきれなかったらしいフルーチェにカスタードクリームと生クリームを混ぜ込んだもの(以下、これをAと表記する)は、彼女の舌に沿って、机の上にこぼれ落ちた。

 

 

「……いやです」

「……?」

「こんなもの、人が食べるものではありません」

「そんなこと言ったって……それしかないんだ。それに、隣の部屋の人間は五分もかからずに平らげたんだ、君だけ食べないわけにはいかないだろう」

「いやです」

 

 キッパリと彼女は言い放った。部屋の中で暴れていたときから予想こそしていたが、まさかここまでとは。

 私は溜息をついて席を立ち、椀に手を掛けた。

 彼女は、私が急遽別のものを用意してくれるかと期待したのか、ホッと安堵の表情を浮かべた。

 

「じゃあ……仕方ないね」

 

 彼女の表情が一瞬にして歪んだ。無理もない、私が彼女の口腔に、Aを掬い上げたスプーンを押し込んだからだ。

 

「んんっ?!」

 

 悶絶する彼女の声に合わせて、スプーンの掬う部分を前後運動させ、Aを扁桃腺の奥まで押し込む。声が収まった後、ゆっくりとすぷーんを引っこ抜くと、彼女はガポ、という擬音を鳴らし、咳き込んだ。

 

「食べて貰わなくちゃ困るんだ。食べ物が無駄になる、第一君だって飢え死になんてまっぴらだろう?」

 

 私はもう一口分掬い上げ、彼女の口元へ押し込む。瞳孔を小さくして、絞り出すような下卑た涙を垂らしている。もう一口、二口、三口と彼女の喉奥へAを流し込むと、彼女はうがいをするように喉を鳴らし深くえずいた。ゆだれでギトギトになったAが机に飛び散った。

もう彼女は口を開かない。スプーンを前にやっても、かたくなにクチを堅く閉じている。

 

 私は手を置き、彼女のそばに寄った。そして、彼女が口の筋肉を緩めたのを見計らい――――、口内に指を飛び込ませた。唾液とAでぐちゃぐちゃになった唇をこじ開け、人差し指と中指で歯を押し上げる。親指を彼女の舌に絡ませ、彼女が下品なげっぷをするのに合わせて、噛みつくように言った。

 

「折角の食事を拒否するな! お前のような人間の分際で!」

 

 Aの椀を彼女の口に押し当て、そしてゆっくりと傾ける。

 

「んんっ!? んんっ、ん……」

「食事を吐き戻したこの口で、もうしませんと言え! はっきりと!」

 

 彼女の喉を私の手でぐっと押し込むと同時に、顎をぐいっと上げてやると、彼女は目を明後日の方向へ向けてゴクゴクと喉を鳴らしAを胃へ押し込んだ。

 口を自由にしてやると、彼女は案の定、Aを吐瀉物と共に吐き戻した。

 

「がぽぁ、んんぐっ、ぼめんなしゃい、もうしません……」

 

 またもAの椀を傾けてやる。

 

「食事を無駄にするな! 吐き戻したお前の胃液まできちんと『いただきます』しろ!」

「ご゛っ、かっくああか゛っ、ぐぁか、んっ、いただきまひゅ――」

 

 彼女は抵抗する気力もなく、豪快に喉を鳴らし、腹からちゃぷ、ちゃぷと音が聞こえるくらい、Aを体内に放り込んだ。

 ようやく椀の中が空になると、彼女はよろよろと壁の方へもたれかかり、潰れるように壁を背にして座り込んだ。

 衣服も口元も、Aとゆだれと吐瀉物と涙と鼻水で、目も当てられなくなっている。口より舌に流れ込んだ混合物はカピカピに固まっており、酸臭く甘ったるい異臭で滲みている。

 私は冷静さを取り戻し、屈した彼女に声を掛けた。

 

「美味しかったかい?」

「あ、あぁくぁあ」

 

 スプーンをちらつかせる。

 

「ひゃ、ひゃい……おいひかったれしゅ……」

「美味しいときは、ダブルピースして言うのがルールだよ」

 

 彼女は震える手を二本指にし、頬の横まで上げた。

「しゅっご゛く……おいひかったれしゅ……」

 その後、白目をヒン剝いて完全に横たわってしまった。視線はどこへ向かっているか見当もつかない。

 私は携帯電話と取り出した。シャッター音が密室に響く。

 

「騒いでる君は可愛かったが、全身ギトギトになって、黙りこくって居る君はもっと可愛いよ。次の食事のときは、今日の二倍近くは用意しといてあげるからね」

 

 

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