こんなに晴れた素敵な日には先輩の首を絞めたい 作:馬門戒明/輪島ライ
その日は実家の最寄駅のベンチで一夜を過ごした。
途中で巡回の警察官が自転車を押して歩いてきたので一旦物陰に隠れた以外は誰と遭遇することもなくて、始発が動き次第私は大阪に向かう電車に乗り込んだ。
始発の電車でいつもより早めに職場に着いて、研修医当直室でシャワーを浴びて身体を洗った。
そして私はあんなことがあった翌日も普通に循環器内科の研修医として働いて、18時過ぎに仕事を終えて再び私服に着替えた。
今、行きたい所は一つしかなかった。
「……もしもし、日比谷です。今お時間よろしいでしょうか」
『あれっ、日比谷先生。こんな時間にどうしたの、しかも直接かけてくるなんて』
「いいから教えてください。……今から先輩の家に行ってもいいですか?」
『はいっ、僕の家に来るの!? いやそれはちょっと……ホテル代なら気にしなくていいよ? 今は掃除もできてないし』
「お願いします、先輩の家に行きたいんです。……本当にお願いします」
『……分かった。SMSで住所を送るからいつでも来てください。僕もあと5分ぐらいで家に着くので』
そう言うと自分から電話を切った嶋田先輩は、ちょうど職場からの帰り道だったらしい。
何がしたい訳でもなかった。これ以上他人に愚痴を聞いて欲しい訳でもなかった。
私はとにかく先輩に会いたかった。
そして私は畿内医大病院から徒歩で15分ほどの町外れにあるマンションにたどり着き、階段で2階に上がった。
202号室と表札に書かれた部屋のインターホンを鳴らすと、嶋田先輩は外出着姿でいきなり玄関のドアを開けた。
「やあ、どうもいらっしゃい。……とりあえず中入ります?」
「お願いします」
先輩の家に入るところを目撃されたくないなどと考えている余裕は、今の私の脳内にはなかった。
2日続けて着ることになった服のまま私は先輩の家に入り、初めて見た嶋田先輩の下宿は2LDKのファミリー向けマンションだった。
先輩は目測で12帖ほどもあるリビングに私を通し、別の部屋からパイプ椅子を運んでくると私にとりあえず座るよう促した。
高級そうな木製の椅子に座っている先輩と食卓のテーブルを挟んで向かい合い、先輩は何から話を切り出そうかと迷っている様子だった。
「あの……とりあえず今の日比谷先生がただならぬ状況にあることは雰囲気で分かりました。それは合ってるよね?」
「……」
私は無言で頷いた。
「それって僕に責任があることなのかな? もしかして僕とこっそり会ってるのが彼氏さんにばれたとか?」
「それは100%ないとは言えませんけど……問題の本質ではないと思います。だって……」
そこまで話して、私は自分自身が置かれた状況を初めて冷静に見つめ直した。
賢人は私を裏切って職場の看護師と浮気していたけど、私が賢人を裏切ってパパ活をし始めたのはそれよりずっと前だ。
しかも目の前にいる嶋田先輩とは脅迫された経緯があるとは言えこれまで一緒に2回ラブホテルに入って、セックスはしていないとはいえ同意の上で虐待という形式での性行為をしたこともある。
それを賢人やあの女が知っていたかは分からないけど、先に相手を裏切ったのは私の方ではなかったか。
仮に知っていたとしても私を問い詰めもせず浮気をしていい理由にはならないし、私がパパ活をしていたのは学生時代は生活費を稼ぐため、研修医になってからは母に毎月仕送りをしつつ賢人との交際費を確保するためだ。
それはある意味で正論かも知れないけど、私は客観的に見て一方的に賢人を非難できる立場にあるのだろうか。
次から次に考えが頭の中に沸き上がってきて、私はパイプ椅子に座ったまま両目から涙を溢れ出させた。
「わわっ、日比谷先生! そんなに泣くなんて、よっぽど大変なことがあったんだね。何も分からないけど心中お察しします」
「先輩……」
「はい、どうぞ」
「殴っても、いいですか……?」
「……どうぞ」
泣きじゃくりながらとんでもないことを尋ねた私に、嶋田先輩はたじろぎつつも観念した表情で頷いた。
私はパイプ椅子からおもむろに立ち上がり、木製の椅子に座っている先輩に歩み寄るとそのまま右手で平手打ちを食らわせた。
頬を強く叩かれた先輩はその勢いで椅子から床に転がり落ちて、私はそんな先輩の肥満したお腹を靴下を履いた右足で蹴りつけた。
「あはあっ!!」
「気持ちいいですか?」
「うん、すっごく! もっと蹴って! 踏んで!!」
「この変態っ!!」
「はああんっ!!」
先輩の太った身体を何度も蹴りつけてはお腹を勢いよく踏み、私は狂気の笑顔を浮かべた。
「あははははは!! 先輩面白いっ!! 本当に気持ち悪いです、死んじゃえっ!!」
「ほおおんっ!! いいよ、いいよ日比谷先生!! その勢いだよぉ!! ああああああああああ!!」
蹴りつけられる度に床を転がる先輩の巨大なお腹の上に馬乗りになると、私は久しぶりに先輩の太い首に両手を押し付けた。
笑い声を上げながら先輩の首を絞め上げて、その快感で先輩は白目を剥いて歓声を上げる。
このまま先輩を殺して自分も死のうかなと考えた瞬間、私は今自分がしていることがとてつもなく虚しいと気づいた。
先輩の首から両手を離して肥満したお腹の上から立ち上がり、私は床の上に腰を下ろした。
そして両目から溢れる涙を両手でぬぐい、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。
「……」
「日比谷先生……」
「……」
「いくら出せばいい? 今日は家まで来てくれたし10万円にしようか?」
「……もう、そういうのいいです」
「えっ?」
私は自分の口から思わず出た言葉に少し驚き、床の上に座り込んでいる先輩に正面からのしかかった。
驚いて抵抗できない先輩のお腹の上に再び腰を下ろし、そのまま言葉を投げかける。
「今から私を抱け」
「はいっ?」
「先輩とセックスがしたいんです。拒否するなら先輩がこれまで私にしたことを研修センターに通報します」
「日比谷先生、やけになっちゃいけない」
「黙れ。私を抱け」
先輩のズボンのベルトをするするとほどき、ズボンとパンツを一気にずり下げた。
その中からは先ほどの首絞めの快感で勃起したままのペニスが現れ、先端からはカウパー液が溢れていた。
「コンドーム」
「ないです」
「じゃあ私が持ってます。着け方は分かりますよね?」
「いや知らない」
「風俗何回も行ってるんじゃないんですか?」
「いっつも追加料金払って生でしてるから分かんない」
「……じゃあ生でいいです」
「はあっ!?」
「私ピル飲んでるので。妊娠の心配はしなくていいですよ」
「いやいやそういうことじゃなくて! あのさ、それは流石にさ!!」
私も普段着のズボンを脱いで、ショーツも脱ぎ去って下半身裸になる。
そして先輩の勃起したペニスの上に腰を下ろして、ゴムを着けていないそれを秘所にゆっくりと差し込んだ。
「はははっ、私ついに先輩とセックスしちゃいました。これで私も先輩と同じ世界の人間です」
「あ、あ、ああぁ……」
「私、先輩のことが嫌いです。でも賢人やお母さんのことはもっともっと大嫌いです」
「日比谷先生……」
「気持ちいいですか? 私は気持ち悪いです。先輩のぬるぬるしたのが私の奥をかき回してます」
「せめて、せめて首を絞めて……」
「OKです。ほらっ……」
「あ、あああぁ……」
先輩の腰の上でゆっくりと下半身を上下させながら、私は先輩の首に再び手をかけた。
少しずつ首を絞める力を強めると先輩は恍惚とした表情を浮かべて、そして私の膣内にどくどくと精液を放出した。
しぼんだペニスを引き抜くと、私の秘所からはどろりと精液がこぼれた。
私は射精の快感で悶絶している先輩に抱きつき、彼の丸々と太った頬に優しくキスをした。
お互い下半身だけ裸のままで床に転がり、それから私は先輩と抱き合ったまま眠りに落ちた。
今の私は、これまでの人生で一番幸せかも知れないと思った。