呪いで獣耳娘にTSした親友の冒険者と色々あって結ばれる話 作:うきつねこ
「どうして俺がクエストを受けられないんだよ!」
トシアキが冒険者ギルドのドアを開けた時、いつもの喧噪に混じって聞こえてきたのは少女の怒鳴り声だった。見ると、ギルドの奥にある受付カウンター越しに受付嬢に何かをまくし立てている少女がいる。
「ですから、今のあなたの状態では、単独でクエストを受けていただくわけにはいかないのです。ご理解いただけ…」
「なんでだよ!おかしいだろ」
少女はカウンターの奥を向いており、こちらからは顔が見えない。しかし、その頭の上には髪色と同じ大きな栗色の獣耳が自己主張しており、腰には尻尾が怒りからなのかピンと立ち、大きく膨らんでパタパタ振られている。獣耳族。ギルドにいるということは冒険者なのだろうが、珍しい。
「ギルドは冒険者の方々の安全を第一に考えていますので、危険を伴うクエストをお願いするわけには」
「だから俺が大丈夫だって言ってるだろ!」少女の大声。
野次馬を決め込んだトシアキは、カウンター近くの椅子に座り眺めることにした。
獣耳娘は見たことがない顔で、冒険者としては若く見える。背負ったザックやフード付きのマントなど、一通りそれと分かる格好ではあるが、どこかオーバーサイズでちぐはぐな感じ。駆け出しなのだろう。ただ、背中にくくりつけた剣だけは、使い込んだ業物と分かる。あれはどこかで見たような…。
二人の言い合いは続き、「大丈夫だ」「大丈夫じゃない」を繰り返した後、ギルド嬢はやれやれ、といった顔でため息をつき、言った。
「はっきり言いましょう。今のあなたでは、クエストを依頼した依頼者に対して、責任を果たせないということです。つまり、力不足ということです」
「俺が、力不足?」
獣耳少女が目を見開く。
「そう判断しました。これ以上議論しても仕方ありませんので、失礼します」
そう言って、受付嬢は奥に引っ込んでしまう。
「そんな…」
獣耳がしょんぼりと垂れ、尻尾はだらりと垂れて肩を落とす獣耳娘。
大変気の毒だが、その動作は端から見ていて愛らしい。
どうやら新米冒険者が、無理なクエストを受けようとして断られたという話のようだ。ならばここは、先輩の自分の出番だ、とトシアキは思った。
颯爽と現われて、クエストを手伝うかっこいい先輩の俺が、後輩に慕われて恋仲になっちゃったりして…なんて、そんなこと、全く考えてない。いや、ちょっとは考えてる。
立ち上がって少女に近づき、「なあ」と肩を叩くトシアキ。そして、少女が見上げたところで精一杯のキメ顔で言った。
「あー、キミどしたん?話きこうか?クエストで困ってるの?なんなら俺が手伝おうか?あ、俺?俺の名前はね…」
「トシアキ!!!トシアキじゃないか!!!」
見知らぬ新人少女に名前を言い当てられて驚くトシアキ。呆然としていると、さらにとんでもないことを言い出した。
「俺だよ、キヨヒコだよ!」
キヨヒコという人物に心当たりはあった。昔からの親友だ。同じギルドの冒険者として、新人の頃から苦楽をともにした。すぐに感情をあらわにするので、周囲に馴染めず、最近はもっぱらソロクエストをこなしているので会う機会は減ったが、実力は札付き。数少ないA級冒険者の一人だ。しかし、奴は屈強な戦士で男だ。目の前の少女とは似ても似つかない。
少女に担がれているのか?
トシアキが考え込んでいると、
「分かるか?分かるわけねえか。こんな姿だしな…!そうだこの剣を見てくれ」
言いながら、少女は持っていた剣をトシアキに差し出した。
「!!」
持った瞬間分かる使い込まれた形状。明かりに反射させると浮かびあがる、見覚えのある柄の傷。トシアキの脳裏に、剣を片手にバカみたいに笑っている男の姿が浮かんだ。いや、確かに冒険者なんてやっていると、色々信じられないことが起きる。起きるが、それにしてもまさか、こいつが。
「キヨヒコ、なのか」
「そうだ!分かってくれたか!」
満面の笑みを浮かべる獣耳娘。全く違うのに、どこかトシアキのそれによく似ていた。
トシアキはギルド併設の酒場で飯を食いながらキヨヒコの話を聞いていた。
曰く、A級の討伐クエストを単独で受け、ダンジョンに向かったこと。目的のモンスターの討伐後突然、S級モンスターの『妖狐』が現れたこと。それと一人で渡り合い、倒す寸前まで行ったこと。
笑顔で語るキヨヒコ。頭の上では獣耳が上機嫌そうに揺れている。
「で、あと一歩ってところで呪いを喰らって、このありさまって話だ。『脱出の宝珠』を持ってなかったらヤバかったな」
妖狐は敗者を慰みものにすると聞く。逃げられなければ、最悪の運命が待っていただろう。
「教会で聞いてもこの呪いは解けないって。で、ギルドで説明したら『俺』ってことは分かってもらえたんだけどよ、クエストを受けようとしたら、姿が変わっている以上、お前にクエストはさせられないって言われてさあ、参っちまったよ。俺ができないわけないってのに」
獣耳をうなだれ、心底困った顔のキヨヒコ。
キヨヒコは思ったことは何でも口にするし、一々感情表現が大きい。大男がそれをしながら身振り手振り、時には机を叩いたり肩を叩いたりするので、根は良い奴と分かりつつトシアキとしても付き合うのは大変だった。
ただ、現状のキヨヒコは小柄な獣耳娘で、その子がペラペラと喋りコロコロと表情を変えるのを見るのは見ていて面白い。…いやいや、今はそういうことはどうでもいい。
親友がこんな変わり果てた姿になってしまって、困っているのだ。冒険者としての損得?そんな物も関係ない。答えは一つだろう。トシアキは息を深く吸い、そして言った。
「俺が一緒にクエストを受けるよ」
キヨヒコは目を大きく見開いて一瞬ぽかんとしたあと、その表情がパッと明るくなる。
「そうか!そうだよな。確かに複数人なら受けられる。でも、いいのかよ?受けるクエストのレベルも下がるし報酬だって」
「困った時はお互い様じゃないか」そう言ってトシアキはキヨヒコに手を差し出した。
自分が手助けしていくつかクエストをクリアし、実績を上げれば、キヨヒコもすぐにまたソロで依頼が受けられるようになるだろう。トシアキは、その時はそう思っていた。