第1話 夢への第1歩
私の名前はルリカ。
今年10歳になったポケモン大好きな女の子。
この世界では10歳になると、自分のポケモンを持って旅に出る事が出来る。
それは勿論、私だって例外では無い。何を隠そう、明日は愈々、私が旅に出発する日だ。
少しの不安と、大きな期待――。
目指すは世界1のポケモンマスター。
この世界には、一体、どんな夢が待っているのだろう。
好奇心は人を殺す――なんて昔の人は言っていたけれど、湧き出るワクワクを抑えておくなんて私には出来無い。
大いなる夢への第1歩が、今始まる――。
◇◇◇
ピピピピピピ――。
「う、う~ん……煩いよぉ……」
カチャリ。
枕元の目覚まし時計を止めると、私はムクリと身体を起こした。
起きている間は男の子顔負けな元気振りが持ち味の私だけど、朝は苦手だ。
眠たい目を擦りながらカーテンを開けると、眩しい陽光が差し込んで来る。
「んんっ……ん~っ! 良いお天気」
私は伸びをすると、その晴天具合に思わず笑顔を漏らす。
空は見渡す限りの青色。春の暖かさを堪能するには絶好のお天気だなと思った。
良いお天気なのは素晴らしい事だけれど、私は「はて?」と小首を傾げる。
先程は起きたばかりだったので気付かなかったけれど、目覚まし時計の針は6時過ぎを示していた。
私が普段起きるのは、8時位だ。
ママは「もっと早く起きなさい」と言うけれど、朝が苦手な私としては充分に早い時間だ。
しかし、今日はそれより2時間も早い……何故、こんな時間に目覚まし時計が鳴ったのだろう……。
寝起きで頭がハッキリしない私だったけれど、学習机の上に並んだ物を見て微笑む。
そこに並んでいたのは、私の10歳の誕生日祝いに貰ったモンスターボールやリュック等。
昨日、10歳の誕生日を迎えた私にママや近所の人達がプレゼントしてくれたのだ。
「嬉しいなぁ~。今は空っぽだけど、遂に自分のボールを買ってもらえたんだ」
「ポケモンマスターを夢見る私にとっては、その第1歩だよ」
「私も将来は旅に出て、この世界を……ん?」
昨日の誕生日パーティーの余韻に浸っていた私だったけど、眠気が覚めて行くに連れて冷汗が滲んで来る。
(そうだ……昨日、私は10歳になった……と、言う事は…………!!)
もう1度、時計をチラリと見た私は、物凄い勢いで部屋から飛び出した。
「しまったぁっ!! こんな事をしている場合じゃなかったよぉっ!!」
何故、普段より2時間も早く起きたのか。
その理由を思い出した私は、殆ど転げ落ちる勢いで1階へと下りて行った。
◇◇◇
1階のキッチンでは既に起きていたママがコーヒーを嗜みながら、朝のニュース番組を見ていた。
そこへ物凄い勢いで私が転がり込んで来たものだから、凄くビックリした顔になってしまう。
「あら、おはようルリカ。そんなに慌てて如何したのよ?」
特別な日にも関わらず、普段通りの振る舞いを見せるママを尻目に私は食パンをトースターにブチ込む。
「今日は私の出発の日でしょ?! ゆっくりなんてしていられないよ! 早く着替えて研究所に行かないと!!」
キッチンをドタドタと駆け回りながら準備を進める私が叫ぶと、ママは「ぶぅっ!」とコーヒーを吹き出す。
「今日が出発なのはママも知ってるけど……こんな朝早くに出るなんて聞いてないわよ?!」
私の朝寝坊振りは、ママだって当然知っている。
だから屹度、私が昼過ぎ位に出ると思っていたのだろう。
勿論、単なる外出だったら私だって早起きなんてしない。
でも、でも……今日は別だ。
何せ、物心付いた時からの夢である「自分のポケモンと共に旅に出る日」だ。
流石の私だって、お寝坊なんてして居られなかった。
パンを3口程で平らげた私は2階の自室へ戻ると、準備しておいた服に急いで着替える。
お気に入りのデニム生地のホットパンツに、動き易さ重視のTシャツ。
髪を梳かしてトレードマークのポニーテールに結ぶと、最低限の荷物のみを入れておいたリュックを背負う。
「良しっ……さぁ、もう行かないと!」
1階に下りると、ママが呆れ顔で待っていた。
「本当はお昼を食べてから、近所の人達と見送る予定だったのに……まさか、こんなに慌しく出て行く事になるとはね……」
少し寂しそうな顔で呟くママに、私は「ムギュゥッ!」と抱き付く。
「ゴメンね、ママ! でも私、ワクワクが抑えられないの! 1秒でも早く旅に出たかったの!」
そう語る私が、余りにも良い笑顔だったのだろう。
最初は呆れ顔だったママも口元を綻ばせると、私の頭に帽子を被せてくれた。
「そうよね……貴女の夢は『世界1のポケモンマスター』だものね。パパやママと一緒……前々から或る程度の覚悟はしていたけど、いざ出発となると、ママは寂しいわ」
そんな事を言われると、私も少し寂しくなる。
思えば、私は今迄、ずっとママに甘え切りだった。そんな私が、たった1人で旅に出るのだ。
それを実感すると、急に心細くなって来た。しかし――。
バシッ!
「だけど、ママに貴女を止める事は出来無いわ」
「辛い事、悲しい事、苦しい事……この先、沢山の困難が待っている……」
「だけどね、ルリカ。貴女には乗り越えられるとママは信じているもの」
「強い心を持って、前を向いて――さぁ、行きなさい! ルリカ!!」
背中を押され、激励の言葉を掛けられると、私はギュッと不安の気持ちを振り払い、最大限の笑顔で応えた。
「うんっ!! 行ってきます、ママ!!」
私は大きく手を振ると、そこから先は振り返らず、大いなる世界へと踏み出して行った。
本当は少し振り返りたかったけど……私はグッと堪えて前丈を向いて走り出した――。