※この作品はR-18です。

ポケットモンスター No Limit   作:休日の摩天楼

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第2話 草叢は危険が一杯

 自宅を出発した私は、近所に在る研究所を訪れる。

 

 ポケモン研究所――。

 舗装された道路すら無いマサラタウンでは、一際目立つ大きな建物だ。

 

 愛する故郷にこんな事を言うのはアレだけど……マサラタウンはド田舎だ。

 それでも世界的に有名な町である理由の大半は、この研究所の存在だと思う。

 何を隠そう、この研究所はポケモン界の権威・オーキド博士の研究所なのだ。

 

 狭い町なので、私はオーキド博士とも面識が有った。

 ポケモンが大好きな私の事を博士は随分と可愛がってくれた。

 多忙な身であるにも関わらず、私が遊びに行くと、研究所で飼育されているポケモン達と触れ合わせてくれた事を良く覚えている。

 

 優しくて、物知りで、町の人々からも尊敬されている博士。

 私はうんと小さい頃、博士の事を「ポケモンに詳しいお爺さん」程度にしか思っていなかった。

 しかし、或る程度の分別が付いて来る年齢になると、自分が如何に凄い人と接していたのかを理解した。

 

 150種類のポケモンの存在の確認。

 タイプに由る分類の提唱。

 ポケモン研究の第一人者。

 等々――。

 

 功績を挙げればキリが無い程、偉大な人。

 私はオーキド博士が如何に凄い人なのかを理解すると、研究所へ足を運ぶ事も無くなった。

 知らなかった事とは雖も、幼かったからとは雖も、自分が如何に厚顔だったのかを思い知ると、とてもではないが「遊びに行く」なんて出来無かったのだ。

 

◇◇◇

 

 只……今日は今迄と違う。遊び行く訳では無い。

 初めて旅に出る際、その新人トレーナーは博士からポケモンを1匹貰う事が出来るのだ。

 新人トレーナーが、自らの意思でパートナーを選ぶ――とても大切な通過儀礼を受けに行くのだ。

 

 研究所に無断で出入りしていた「町のチビちゃん・ルリカ」はもう卒業だ。

 これからは1人のポケモントレーナー、「未来のポケモンマスター・ルリカ」だ。

 

 そんな背伸びした妄想を抱く私だったけれど、懐かしの研究所に到着すると、余計な考え事は全て吹き飛んだ。

 今から、初めてのポケモンを貰える……余りにも楽しみで、大人びた振る舞いなんて出来る訳も無かった。

 

 ドンドンドンドンッ!!

 

「博士ぇ! おはよう! 私だよぉ!」

 

 私は研究所の扉を叩くと、大声で呼び掛ける。

 はしゃぐ心を抑え切れない。

 暫くの間、応答が無い中、今は未だ朝だと言う事も忘れ、無遠慮に大声を上げた。

 

 ドンドンドンドンッ!!

 

「ねぇ、誰も居ないのぉっ?! オーキド博士ぇ?! はーかー……」

「えぇいっ! 喧しいっ!!」

 

 私が2分程扉を叩いていると、漸く中から人が出て来た。

 

「朝っぱらから、何処のどいつだ?! ここを何処だと思っている?! アポも無しに来る様な輩を相手にする程、博士は暇じゃないぞっ!!」

 

 出て来たのは、物凄く不機嫌な若い学生さん。

 由緒正しき研究所に朝一で、しかも、事前の連絡も無しに訪れた不届き者に対して、随分とご立腹の様子。

 しかし、気分が昂っていた私は、そんな不機嫌な学生さん相手にも笑顔で挨拶をしていた。

 

「おはよう、助手君! 久し振り! 研究の方は上手く行ってる?」

「あぁん? 一体、何処の輩……だ……」

 

 キラキラとした笑みを湛える私を前にして、学生さんは一瞬、眉間の皺を深めた。

 しかし、「助手君」と言う呼び方が頭に引っ掛かったのだろうか。

 想像よりも小さな来訪者を見下ろすと、暫し固まってしまった。

 

 怒りの色が困惑の色に変わると、徐々に表情が和らいで行く。

 そして、遠い記憶が呼び覚まされると、不機嫌だった学生さんは「気さくなお兄さん」の顔へと変わった。

 

「ルリ坊……? 御前、ルリ坊か?」

「うん、そうだよ! 久し振り!」

 

 ルリ坊――私は研究所に出入りしていた頃、そう呼ばれていた。

 学生さんは来訪者の正体に気付くと、嬉しそうな顔で私を抱き締めてくれた。

 

「何だよ、ルリ坊! 久し振りじゃねぇか! 暫く見ねぇ内に随分とデカくなりやがって! このこのこのぉ! 元気にしてたのか?!」

「うん、元気一杯だよ! そっちも元気そうで嬉しい!」

 

 そう。私と彼は、顔馴染みの関係だ。

 元々、人懐っこい性格である私は、研究所の人達も可愛がってくれた。

 反応から察するに、私が足を運ばなくなった今でも、私の事は覚えていてくれたらしい。

 

「それで? こんな朝から如何したんだよ? ――って、御前のその格好……若しかして……!」

 

 学生さんは私の格好を見ると、大方の事情を察する。

 私は大きく頷くと、得意気な顔で答える。

 

「うん、その『若しかして』だよ! 私、昨日で10歳になったんだよ!」

 

 私が笑顔で答えると、学生さんは感慨深そうな表情で頷く。

 

「そうか、そうか……あの小さかったルリ坊も、1人で旅に出る日か……」

「良し、分かった。ならば、俺達も今後は御前の事を『ポケモントレーナー』として扱わねぇとな」

「それじゃあ、新人トレーナーのルリカ。付いて来な」

 

 学生さんは抱き締めていた私を離すと、研究所の中へと入れてくれた。

 

◇◇◇

 

 研究所の中に案内された私が待っていると、男女数名の助手さんを伴ったオーキド博士が現れた。

 

「おぉ、本当にルリカ君か! 見違えたぞ!」

「博士! お久し振りです!」

 

 私達が再会を果たした祖父と孫の様に抱き合う中、助手さん達も丸で親戚の様な面持ちになる。

 

「あれがルリカちゃん? 大きくなって……」

「今日から出発なんだってさ。ついこの間迄、こんな小さかった奴が……信じられるか?」

「研究所に缶詰だったから、時の流れを忘れていたよ。もうそんな時期か……」

「でも、女の子の1人旅なんて、私心配。大丈夫かしら?」

「5歳の頃にはケンタロスに跨っていた様な奴だぞ? ルリ坊なら心配要らねぇさ」

 

 そんな調子で、つい会話に花を咲かせてしまった私達だったけど、余り悠長な事をしている場合ではない。

 

「そうだった! ねぇ、博士! 本当に私にも自分のポケモンが貰えるの?!」

 

 私が本題を切り出すと、オーキド博士は一瞬目を逸らしてから頭を掻く。

 

「おぉ、ポケモンか? 勿論じゃよ。新たな門出を迎える者に最初の1匹を渡すのも、儂の大事な仕事で……ほれ、皆の衆。持って来ておやり」

 

 オーキド博士が言うと、何故か助手さん達も互いに顔を見合わせ、気不味そうな表情を浮かべる。

 一体、何なのだろう……。

 

 少し待つと、カラカラと音を立てて、1つのテーブルが運ばれて来た。

 その上には、3つのモンスターボールが置かれていた。

 

「わぁ! 本当に私のポケモンだ! 私、この日が楽しみで楽しみで……ありがとう、博士!」

「お、おぉ……」

 

 はしゃぐ私とは対照的に、博士は困り眉を浮かべている。勿論、助手さん達も。

 皆の態度が妙に引っ掛かるけれど……今はポケモンだ。

 夢に迄見た、初めての自分のポケモン。興奮するなと言う方が無理な話だ。

 

 3つのモンスターボールの内、私は1つを貰える。

 小さい頃から研究所に足を運んでいた私は、その中身だって当然の如く知っている。

 初心者にも扱い易く、それでいて、育て上げれば一線級の強さを誇る3匹。その名は――。

 

「私、とっても悩んだんですけど、最初はこの子に決めたんです!」

 

 私は1つのモンスターボールを手に取ると、パートナーとなるポケモンと初対面を果たす。

 

「ゼニガメ! 君が私の選んだポケモンよ!」

 

 ボールが開き、中から水タイプのポケモン・ゼニガメが……空っぽ。

 

「それは昨日のイベントで、他の新人トレーナーが持って行った」

「えぇっ?! そ、そんなぁ!!」

 

 そう言えば、多忙な博士達は毎日の様に各地を飛び回っている。

 その大半は研究や講義、学会等に参加する為なのだけど、中には今日の私の様に「新たな門出を迎える新人トレーナー」にポケモンを渡すイベントにも出席している。

 まぁ、全ての町に研究所が在る訳では無いので、それも或る意味では当然なのだけど……。

 

 助手さん達曰く、別の町から旅立つトレーナーにポケモンを渡す為、昨日はイベントに参加していたそうだ。

 詰まり、私が選んだゼニガメはその時……。

 

 最初の1歩で躓いた様な気分だが、その程度で挫折する私では無い。

 私は2つ目のボールを手に取る。

 

「いやいや、これも何かの縁だもの……だったら私は、フシギダネ! 君が私の選んだポケモンよ!」

 

 ボールが開き、中から草タイプのポケモン・フシギダネが……空っぽ。

 これは何だか、嫌な予感がする。私は間髪入れず、3目のボールも手に取る。

 

「ヒトカゲ! 君が私の選んだポケモンよ!」

 

 炎タイプのポケモン・ヒトカゲ……も、矢張りそこには入っていなかった。

 研究所内には、気不味い雰囲気が漂う。

 これは詰まる所、昨日のイベントで3匹全てが他の誰かの手に渡ってしまったらしい……。

 

 私は空っぽのボールを置くと、泣きそうな顔で博士に縋る。

 

「博士ぇ! 若しかして私、ポケモン無しで旅に出なきゃいけないんですか?!」

 

 私が縋り付くと、オーキド博士は困った様な顔で白衣の中から1つのモンスターボールを取り出した。

 

「否。他にも居るには居るのじゃが……コイツには少し問題が有ってだな……」

 

 渋る様子を見せる博士だけど、今の私は藁にも縋る様な思いだ。

 

「構いません! 私、ポケモンが大好きですから!」

 

 私は博士が取り出したモンスターボールを受け取ると、終ぞ、初めてのポケモンと出会いを果たす。

 そんな感動的な瞬間になると思っていたのだが……。

 

「ルリカ! ここではマズいっ!!」

 

 助手さんの1人が止め様としたが、もう遅かった。

 ボールが開くと同時に眩い閃光が走り、耳を貫く程の轟音が鳴り響き、視界が一瞬白くなった。

 

 やがて、閃光と音が静まり、恐る恐る私が顔を向けると、そこには――。

 

「コレって若しかして……わぁ! 可愛い!」

 

 テーブルの上には、小さなポケモンが立っていた。

 背丈は40cm程。黄色い全身に、所々に黒い部分も有る。プニプニとした両頬の赤い丸模様も実に可愛らしい。

 少し珍しい種ではあるが、ポケモン好きな私は、その名前を知っていた。

 

「ピカチュウだぁ! 本物は初めて! この子を私にくれるの?!」

「あ、嗚呼。儂の手元に残っているのは、ソイツが最後でな。只、儂としては――」

 

 オーキド博士は話している途中だったけど、私の意識は完全に眼前のポケモンに向けられていた。

 嬉しくて堪らない私は、その小さな体を抱き上げて、「ムギュゥ!」と抱擁する。

 

「宜しくね、ピカチュウ! 嗚呼、何て可愛いの!」

[ピカ――]

 

 私が抱擁した瞬間、周りに居た助手さん達が地面に伏せ、博士は少し距離を取った。

 何故なら……。

 

 バリバリバリバリッ!!

 

「あばばばばばばばばばばっ!!!!!」

 

 ピカチュウが全身から電気を発した為、抱き抱えていた私は諸に浴びる羽目となった。

 感電する私が痙攣する中、博士が咳払いをしてから続きを話す。

 

「ソイツは人に慣れ難い種なので、儂としては、初心者が扱うポケモンとしては余りオススメせん。それでもルリカ君……君はソイツを選ぶと言うのかね?」

 

 皆も心配そうな顔でチラリと私を見るけれど、答えは最初から決まっていた。

 

「ら、らいひょうふれふ……が、がんばりまひゅ……」

 

 私の夢は世界1のポケモンマスターだ。

 人に慣れ難いポケモン1匹とも仲良くなれない様では、そんな夢、叶う筈も無い。

 私は断固たる意思で頷くと、呂律が回らぬ舌でもしっかりと答えた。

 

◇◇◇

 

 途中、ちょっとしたハプニングに見舞われたものの、私も遂に自分のポケモンを手に入れた。

 私は博士と研究所の皆に見送られながら、生まれ育った故郷に暫しの別れを告げる。

 さぁ、ここから先は未知の世界――私の夢へと続く、大いなる旅路だ。

 

 マサラタウンを出て、最初に通るのがここ・1番道路だ。

 起伏に富んだ道であり、マサラタウン側から入ると随所で迂回せねば先に進めぬ様になっている。

 

 途中、どちらから進もうかと私が迷っていると――。

 

「おや。そこの君、見た所……新人のトレーナーさんかな?」

「え?」

 

 声がした方に顔を向けると、そこには私よりも少し年上の男の子が立っていた。

 

「はい。私はルリカ。つい先程、旅に出たばかりなんです」

 

 私が答えると、男の子は段差から飛び降りて私の前に立った。

 

「そうか、ピカピカの新人さんって訳だ。俺はマサクニ。新人にアドバイスをしろって、塾から言われているんだ」

 

 マサクニさんはそう言うと、畳まれた紙を私にくれた。

 タウンマップ――方向音痴な私としては、有り難い一品だ。

 

 マサクニさんはその後、一緒に歩きながら旅の伊呂波を私に教えてくれた。

 各地に在るポケモンセンターは、トレーナーならば無料で利用する事が出来る。

 次の町迄、或る程度の距離が有る場合、ショップで道具を買い揃えると良い。

 時には無理せず、引き返す選択も取る。

 町以外の場所で夜を迎えた場合、下手に動き回らず、野宿して朝を待った方が良い。等々……。

 

 旅をする上での過ごし方の他、マサクニさんはちょっとした流儀も教えてくれた。

 

「ルリカ。ポケモン図鑑は貰ったか?」

「はい。研究所でポケモンと一緒に貰いました」

 

 私が図鑑を見せると、マサクニさんは傍の地面を指差す。

 そこには、モンスターボールに似た――それでいて、少し雰囲気が異なるボールを示した。

 

「図鑑で調べてごらん」

 

 言われた私が図鑑を翳すと、画面には「取得可能」と表示された。

 

「ポケモン図鑑は何も、ポケモンの情報を登録する為丈の道具ではない。トレーナーの身分証明書としても機能する」

「そして、道端に落ちている道具を調べると、それに遺失届が出されているか如何かも分かるんだ」

「出ていない場合、それは見付けたトレーナーが取得して良い決まりになっている」

「それは先人達からの贈り物として受け取る。それがトレーナー同士の流儀だ」

 

 成る程。若しも落とし物をしてしまっても、余程貴重な物でない限りは諦める。

 そうすれば、後から来る人にとって、それが旅の手助けとなる場合も有る。

 過酷な世界を生きるトレーナー同士が長い歴史の中で作り出した、「助け合い」の精神が表れたルールだ。

 

 私は道端に落ちていた道具、「きずぐすり」をリュックに仕舞うと、マサクニさんからのアドバイスを更に耳を傾けた。

 

◇◇◇

 

 旅の基礎を教えてくれたマサクニさんは、全体の半分程の地点に到着すると足を止めた。

 

「ここから先は、君1人の冒険だ。困った時は、誰かを頼れば良い。それに、君にはポケモンだって居る。大変な事も多いだろうけど、頑張るんだぞ」

「はい! 色々とありがとうございました!」

 

 私はマサクニさんにお礼を言うと、1人で歩き始めた。

 タウンマップに由ると、この儘、北に進めば町に着くみたいだ。

 ここから先は、本当の1人旅だ。

 

 草叢を歩いていると、私の前に1匹のポケモンが飛び出して来る。

 アレはこの辺りで良く見掛けるポケモン・コラッタだ。

 

 野生のポケモンを見るのは初めてではないけれど、誰も頼る人が居ない中で遭遇したので少し驚く。

 逃げると言う選択肢も有るけど……記念すべき初遭遇だ。

 ここは倒すかゲット、そのどちらかを果たしたかった。

 

「よ~し……それじゃあ、初バトルだよ! 行け、ピカチュウ!」

 

 私がボールを投げると、中からピカチュウが元気良く飛び出して来る。

 

「ピカチュウ、でんきショック!」

 

 私は指示を出すが……ピカチュウは技を出す気配が無い。

 如何やら、私の指示を聞く気が無いらしい。

 

 私はしゃがみ込んでピカチュウと目線の高さを近付けると、困り顔で話し掛ける。

 

「ねぇ、ピカチュウ。君は私の事が嫌いなの?」

[ピカ]

 

「そう……でもね、私は君の事が大好きだよ。出来れば、仲良くしたいと思ってる」

[チュウ]

 

「如何してって……私は君の持ち主だもの。それに、私の夢は『世界1のポケモンマスター』なの」

[ピカ?]

 

「関係有るよ。どんなポケモンとも仲良しになる。それが『ポケモンマスター』だもの」

[ピカ。ピカ――チュウッ?!]

「なっ――?!」

 

 会話の途中、ピカチュウが悲痛な叫びを上げ、横に吹き飛んだ。

 何事かと思い立ち上がると、コラッタがピカチュウの胴体に強烈な「たいあたり」を加えた所だった。

 

 しまった……相手はトレーナーのポケモンではなく、野生のポケモンだ。

 こうして遭遇したにも関わらず、呑気に話し込んでいれば、向こうから攻撃を仕掛けられて当然だ。

 

「ピカチュウ! だ、大丈夫?!」

[ピ……カ……]

 

 ピカチュウは苦しそうな顔をしているが、幸い、大きな怪我は負っていない様子だった。

 ならば、未だ反撃の余地が有る。

 

「良かった……ならば、今度は私達の番だよ! ピカチュウ、でんきショック!」

 

 私は改めて指示を出すけれど、ピカチュウは相変わらず言う事を聞いてくれない。

 

「如何して?! ピカチュウ、君は――」

 

 ドスッ!

 

[ピカァ!]

「あぁっ!!」

 

 困り果てる私を余所に、又してもピカチュウの悲鳴が響く。

 見ると、別のコラッタがピカチュウの背中に「たいあたり」を食らわせた所だった。

 

「そんなぁ……1度に2匹も! いや、違う……コレは……」

 

 私はそこに来て、自分が置かれている状況に気付いた。

 2匹所ではない。周囲をコラッタに囲まれていた。

 その数、優に10匹は居るだろう。これはマズい……。

 

 悪い予感は的中。地面に転がるピカチュウ目掛け、コラッタ達は一斉に攻撃を加え始めた。

 

「ダ、ダメェ! うぐっ――!」

 

 私は咄嗟にピカチュウに覆い被さり、大切な相棒を庇った。

 お蔭で私自身が諸に「たいあたり」を食らってしまい、鈍い痛みが脇腹に広がった。

 

 ドスッ! ゲシッ! ドスンッ! ズキンッ!

 

「うぐっ! あぁっ! 痛いっ! うぎゃっ!」

 

 コラッタ達から「たいあたり」の連撃を受ける私は、ピカチュウを抱き抱えた儘、地面に蹲る。

 ピカチュウが戦ってくれないなら、私が守ってあげないといけない。

 余りの痛みで涙が出て来るけれど、大切な友達をこれ以上傷付ける訳には行かないもの。

 

 暫く耐え続けていた私だったけれど、1番大きな個体が助走を付けて「たいあたり」を繰り出すと、遂に吹き飛ばされ、地面に放り出されてしまった。

 

「きゃぁっ!!」

 

 痛みで悲鳴を上げる私だが、それよりも今はピカチュウだ。

 庇っていた私が吹き飛ばされてしまったので、今度はあの子が遣られてしまう……と思っていたのだが。

 

「な、何で……?」

 

 コラッタ達は倒れたピカチュウには目も呉れず、私の方に襲い掛かって来る。

 

「きゃぁっ! あぁっ、ふ、服を?!」

 

 コラッタ達は地面に突き倒した私に群がると、立派な前歯が生えた口を器用に使い、私の服を脱がし始めた。

 

「や、止めてっ! 何でこんな……痛いっ!!」

 

 最初、コラッタ達が如何してこんな事をするのか分からなかったけど、服を剥ぎ取られる中で理解した。

 そうだ……野生のポケモンにとって、相手がポケモンかトレーナーかなんて関係無い。

 毎日が生きるか死ぬかの弱肉強食の世界。

 そんな所に獲物が舞い込んで来たのだから、私の持ち物を全て奪う気なのだろう。

 

 シャツを強引に脱がされると、私の膨らみ掛けのおっぱいが露になる。

 すると、数匹のコラッタがおっぱいに群がり、前歯で噛み付き始めた。

 

「い、痛いっ!! おっぱい、あぁんっ!! おっぱい噛んじゃダメぇ!!」

 

 屹度、コラッタ達は私のおっぱいを果実か何かと勘違いしているのだろう。

 小さな乳首を何度も何度も噛まれ、ビリビリとした痛みが走る。

 

 確かに、野生の世界で生きる彼等にとっては、果実にも見えるであろう外見だ。

 しかし、今はそんな悠長な事を考えている場合ではない。

 小さなおっぱいを弄ばれ、私は痛みと羞恥で悲鳴を上げた。

 

 悶絶する私に対して、コラッタ達は更なる攻撃を仕掛ける。

 

「あぁっ、下も?! や、止めてよぉ!!」

 

 抵抗する私を数の暴力で捩じ伏せ、コラッタ達はホットパンツも脱がせに掛かる。

 デニム生地を掴んで抵抗するけれど、そこは多勢に無勢と言った所か。

 

 抵抗空しくホットパンツを剥ぎ取られると、続けて、飾り気の無いショーツも脱がされてしまった。

 

「やぁっ! は、恥ずかしいよ! お願い、止めて! 赦してぇ!!」

 

 ポケモン相手とは雖も、野外で裸に剥かれてしまい、私は羞恥で顔を真っ赤に染める。

 しかし、そんな羞恥すらも吹き飛ばす程、コラッタ達は容赦無く私を襲った。

 

 ガブリッ!

 

「きゃぁぁぁっ!! い、痛いよぉっ!!」

 

 例の大きなコラッタが私のお尻に噛み付いた。

 屹度、モモンの実か何かだと思われたのだろう。

 

 おっぱいよりも柔らかい部位だと判明すると、他のコラッタ達もお尻を集中的に噛み始める。

 私のお尻は小さいけれど、コラッタ達から見れば「大きな木の実」だ。

 何度も何度も噛み付かれ、私はその度に悲鳴を上げた。

 

 ガブリッ! ガブリッ! ガブリッ! ガブリッ!

 

「きゃぁっ! 痛いっ! あぁんっ! お尻が……やぁんっ!」

 

 私のお尻、今頃歯形塗れになっているだろうな。

 痛みの所為で羞恥の感情が消える頃になると、私の意識は段々と遠退いて行く。

 

 近所の草叢程度でも、ポケモンを持っていない子供は絶対に入ってはいけないと言われていた意味。

 私は自分の身体を以て、嫌と言う程に理解する事となった。

 

 薄れ行く意識の中、私の脳裏には様々な思いが過る。

 私はこの儘、野生のポケモンに食べられてしまうのだろうか。

 夢を叶える事も無く、冒険初日で旅が終わるなんて……。

 悔しくて、悔しくて、悔しくて、涙が止め処無く溢れて来る。

 

 裸になった身体の至る所を噛まれる中、顔付近に居たコラッタが大きく口を開けて、立派な前歯がキラリと光った瞬間、私は運命を受け入れた。

 

(嗚呼……私はここで終わるんだ……)

 

 そう思った、次の瞬間であった。

 

[ピ~カ~……チュウゥゥゥッ!!!]

 

 バリバリバリバリバリッ!!!

 

「あばばばばばばばばばばっ!!!!!」

 

 私の身体に強烈な「でんきショック」が浴びせられ、私に群がっていたコラッタ達は蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。

 無論、私自身が1番大きなダメージを受けた訳だけど、「助かった……」と思う気持ちの方が大きかった。

 

 満身創痍な私が重たそうに頭を上げると、そこには心配そうな顔で覗き込んで来るピカチュウが居た。

 

「ピカチュウ……私を助けてくれたの……?」

[ピカ……]

 

 私に寄り添うピカチュウ。黄色い手で、私の裸体にそっと触れた。

 私はゆっくりと上半身を起こすと、その小さな体を抱き締めた。

 

「ぐすっ、ありがとう……ひっく、ありがとう……うぅ、え~ん!!」

 

 私は裸の儘、ピカチュウを抱き締めて泣いてしまった。

 ピカチュウはその間、大人しく抱かれていた。もう電撃を出して私を威嚇する事も無かった。

 

 辺りに散らばった私の服や荷物が、現場の惨状を端的に物語っていた。

 しかし、今はそんな事、如何だって良い。

 

 身体を張って守った事に因り、ピカチュウは私の事を認めてくれたらしい。

 泣きじゃくる裸の私を、ピカチュウは慰める様に撫でてくれた。

 

 トレーナーとしての第1歩。

 それは痛みと羞恥に塗れた散々な物だったけれど、大切な相棒との絆を結べたので、結果としては良い物だったと思う事にした。

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