(前回までのあらすじ)
主人公セイタンとアジーは、ルキフェリウスとアシエルという偽名を使い初級冒険者となった。彼らは、ンフィーレア・バレアレの指名依頼を受け、カルネ村へと向かったが……。
カルネ村に足を踏み入れるや否や、ンフィーレアはエンリと共に家の中へ入っていった。
僕たちは、しばらく村をぶらつくことにした。カルネ村があの惨劇からどのように変わったのか興味があったのだ。
弓による射撃訓練を行う楽しいカルネ村を眺めていると、ンフィーレアが急ぎ足でこちらにやってきた。開口一番、モモンガさんとの関係を問われる。どうやらエンリから何か聞いたようだ。僕は言葉を選びつつ、あれこれ理由をつけて誤魔化したが、彼は何か確信したような顔をしていた。それでも、彼の言葉に悪意はなく、真摯な感謝の念が伝わってくる。
続けて、彼が今回指名依頼を出した理由を語り始めた。話を聞いてみれば、なんてことはない。僕らのミスが原因だった。
宿屋でアジーが渡した赤いポーション。それが彼の働く店に持ち込まれ、鑑定にかけられたことで、この世界では異質な効能を持つ品だと判明したという。それが足がかりとなり、僕たちの秘密を探るため、彼は依頼を通じて近づいてきたのだ。
「申し訳ありません……」
背後に控えていたアジーが申し訳なさそうに俯く。確かに彼女がポーションを渡したのは事実だが、それを黙認したのは僕だ。主として彼女を責める気はないし、その必要もない。
こうなってはお手上げだ。僕はあっさりと降参し、「内緒だよ」と軽く釘を刺して話を締めた。
まぁ、彼の性格なら無闇に話を広めることはないだろう。何より、感謝の気持ちが本物なら、それを利用する手はある。僕は心の中でそう結論付け、笑みを浮かべながら彼を見送った。
* * *
鬱蒼と生い茂る深い森を一人歩く。
人の手がほとんど入っていないのだろう。太い幹の木々が地面に深く根を張り、葉が隙間なく茂る。わずかな陽光が斑模様を作り、森全体に神秘的な静けさを漂わせていた。
薬草の採取を行っていたンフィーレアの警備はアジーに任せ、無理を言って森の奥深くに来た。彼は不安そうだったが、モモンガさんの知り合いと分かったことで渋々納得したようだ。
そんな僕の前に、事前に頼んでおいたアウラが現れる。
「やあやあ、アウラ。今日も可愛いね」
「えっ……そ、そんな……ありがとうございます!」
アウラは頬を染めて照れている。その反応が微笑ましい。
「そんなアウラにプレゼントをあげようと思ったんだけど……アジーちゃんと話してたら、僕のペットにするのはどうか、って話になって。どうやら有名らしいから、捕まえて評価を上げようと思うんだ」
「は、はあ……セイタン様がアピールするほどのモンスターですかね……」
困惑する彼女だが、意図は理解したようだ。森の賢王と呼ばれる魔獣を捕らえれば、冒険者組合での評価は一気に上がるだろう。だが、捕獲となると話は別だ。
「多分、あそこにいると思うんで行ってきます!」
アウラはそう言うと、風のように駆け出していった。動きは速く、森の中に溶け込むように消えていく。
モモンガさんの命令でこの大森林に滞在している彼女の存在は、本当に助かる。
「今度こそ何かプレゼントを用意しなきゃ」
そう決意しながら、僕はアウラの帰還を待つことにした。
森に異変が起きたのは、ンフィーレアの元で薬草採取を手伝っている最中だった。
木々がざわめき、鳥たちが一斉に飛び立つ。静かだった森に緊張感が走る。
「ンフィーレアさん、何かが起こっているみたいです。僕が殿を受け持ちますから、アジーと一緒に村へ戻ってください」
冷静に告げると、彼は僕の顔を見て落ち着きを取り戻したようだ。頷くと、アジーと共に森の外へ向かう。
「さて……」
僕は
突然、太く長い何かが鞭のように襲いかかってきた。咄嗟に払いのける。衝撃はあるが、ダメージはない。視線を向けると、それは鱗に覆われた尻尾だった。
「それがしの初撃を防ぐとは見事でござる……」
低く静かな声が響く。その妙に古風な言葉遣いに眉をひそめる。
現れたのは、蛇のような尾を持つ巨大なハムスター。ふわふわの白い毛並みに丸い目、短い手足。随分とあざとい見た目をしている。
「……これを捕まえて自慢になるのかな」
見た目に威厳はないが、攻撃の重さからそれなりの強さはあるようだ。
賢王は再び襲いかかり、
「……よりによって僕にそれを使うとは」
僕も仮面を外し、魅了を放つ。僕の力はあらゆる精神耐性を貫通し、敵を虜にする事が出来る。
防ぎたければ、二重に対策を講じなければならない。現状、この力を防げるのはモモンガさんや一部のナザリックメンバーくらいだろう。
「うぉ~! 大好きでござるよ~殿~♥」
一瞬で魅了された賢王は、すり寄り、じゃれついてくる。ごわごわした硬い毛が鬱陶しいので伏せさせ、魅了を解除した。
「はっ!? 拙者は一体……!」
「戻ったかい。いきなり魅了なんて使っちゃあ駄目だよ。こういうことになる」
僕の言葉に震えながら賢王は腹を見せ、降参の意を示す。
戻ってきたアウラが「殺すなら皮が欲しい」と言ったが、今回は当初の目的通り捕獲することにした。
「生きていてよかったでござる~!」
喜ぶ賢王は可愛らしくも哀れだった。
そんなハムスターをアウラが残念そうに見つめていた。
森を抜けると、アジーとンフィーレアが僕を出迎えてくれた。
僕の後ろにいる森の賢王を見た瞬間、ンフィーレアは驚きと興奮を隠せない様子だった。
「す、すごい……あの森の賢王を無傷で……!」
その驚嘆の声に、彼の認識が伺える。この巨大なハムスターが彼には恐るべき魔獣として映っているらしい。まあ、評価が高いなら悪くはない。
一方で、アジーは新しく連れてきたこの「ペット」に興味を惹かれた様子で、森の賢王に小声で何かを話しかけていた。
「第一のペットはこの私です……序列はきちんと守ることです……」
圧のこもった言葉に、賢王は怯えながら何度も頷く。
アジーをペットにした覚えはないけれど、彼女がそう望むなら……深く考えないことにした。
その後、ンフィーレアは賢王がいなくなることでモンスターが村を襲うのではないかと心配していたが、賢王の頷きに覚悟を決めたらしい。そして真剣な表情で、僕らのチームに入れてほしいと言ってきた。
純粋な願いに感心しつつも、断らざるを得ない。代わりに、賢王を使った植物採取計画を提案すると、彼は納得した様子で頷いた。
* * *
カルネ村を出発した僕達がエ・ランテルに到着したのは、すっかり夜になってからだった。
馬車にはンフィーレアが乗り、僕とアジー、そして新たなペットである森の賢王──スーパーメガセリオンという立派な名前をくれてやった──とともに街へ入る。
スーパーメガセリオンは巨大な体で周囲の注目を集めていた。人々は遠巻きに見つめ、小声で何か話している。
僕はアジーと共にその背に乗りながら耳を澄ませた。驚きや賞賛、恐れが交じり合った声が聞こえる。過剰な注目は少し気恥ずかしいが、これで名を広めるという目的は果たせたようだ。
そのとき、ンフィーレアが報告にやってきた。
「森の賢王のおかげで、たくさんの素材を採れました。追加報酬も約束通り渡しますね!」
スーパーメガセリオンを軽く撫で、役立ったことを労う。彼の存在感と可愛らしさも悪くない。
「ルキフェリウスさん、森の賢王を組合に登録してください! 登録後に改めて報酬をお渡しします」
彼の頼みに軽く頷き、冒険者組合へと向かう。
街灯がともる夜のエ・ランテルを、スーパーメガセリオンの足音が静かに響かせていた。
* * *
登録自体は簡単だったが、スーパーメガセリオンの姿を手動で描く作業に一時間半もかかった。魔法なら一瞬だが、費用を節約した結果だ。
ようやく登録を終え外へ出ると、ンフィーレアの祖母であるリイジー・バレアレが待っていた。彼女は賢王を見るなり驚きの声を上げ、しばらくその姿に見入っていたが、孫の所在を尋ねてきた。
「あー店にいると思いますよ」
そう伝えると、彼女は足早に店へ向かい、僕たちも同行することにした。
店に到着すると、扉の鍵が開いていることにリイジーが気づき、文句を漏らしながら中へ入る。
「ンフィーレアやーい!」
呼びかけても応答はなく、店内は不気味な静寂に包まれていた。
「……様子が変ですね」
僕が呟くと、アジーが小声で囁く。
「何かいます」
警戒を強め進むと、奥から呻き声が聞こえた。現れたのは、血で汚れ、生気を失った冒険者らしき三体の
リイジーが悲鳴を上げると同時に、アジーが一瞬でゾンビたちを斬り伏せた。腐臭だけがその場に残る中、リイジーは店内を駆け回り、孫の名前を叫ぶ。
「ンフィーレアが……どこにもおらん!」
焦る彼女を落ち着かせながら店内を調べるが、盗難の形跡はない。犯人の目的は明らかにンフィーレアだ。しかし、アンデッドを残していった意図は謎のままだ。
「僕たちに依頼してみませんか?」
僕の提案に、彼女の瞳が揺れる。
「……本当に、あの子を助けてくれるのか?」
「はいー。良かったですね、僕らがいて」
僕の言葉に彼女は目を見開いたが、やがてその顔は不安と希望が入り交じった表情へと変わった。
「悪魔は、人の魂を代価にどんな願いでも叶えるというが……」
怯えたように呟く彼女に、僕は満面の笑みを浮かべた。
「安心してくださいっ。僕は神様なんかより、ずぅっと優しいんです」
その言葉にリイジーは震えながらも覚悟を決めたようだった。そして、僕たちを雇う決意を固めた。
「払おう! どんな対価でも! だから、わしの孫を助けてくれ!」
彼女の願いを受け、僕たちは動き出す。恩を売るってのは中々に悪くない。
色んな奇跡を起こしてきた救世主ってのはこんな気持ちだったのかな?
契約が完了し話がまとまったので、僕は
どうやら墓地にいるらしいが……どうしよう、雑魚とはいえ数が多くて面倒だ。
モモンガさんがいればなぁ、と考えていると彼から
『せ、セイタンさん……っ! かなりマズイことが起きました! すぐに戻ってこれませんか!?』
* * *
僕達は、アンデッドに襲われて慌てふためく兵士達を無視し、広大な墓地の奥へと走った。途中、派手な神聖魔法を放ってこちらの存在をアピールすることも忘れない。
少し進むと悪魔達を召喚し、大量の雑魚アンデッドは彼らに任せることにした。これで余計な手間を省けるだろう。
ちなみに、スーパーメガセリオンは邪魔なのでアジーが抱えている。
目的地にたどり着くと、そこには大きな霊廟があった。その入口には、カジートと数人の男達が立っている。カジートという名前は、取り巻きの一人がボソッと教えてくれた。
するともう一人、奥から女が現れた。彼女は、挑発的な顔でクレマンティーヌと名乗る。
どうやら彼らがンフィーレアを拐い、このアンデッド騒乱を引き起こしていたらしい。
話し合う暇も惜しい。僕とアジーは一瞬のうちに二人を気絶させ、捕らえた。念のため昏睡魔法も使って、しばらく眠ってもらうことにする。
彼らは後で尋問し、情報を引き出す予定だ。同じく倒した取り巻き達は、実験材料として利用出来るだろう。
僕は呼び出したシモベに二人の監視と保管を命じた。さらに、「決して手を出さないように」と厳重に指示を出す。
スーパーメガセリオンがシモベに怯えるのを無視して、僕達はさらに奥へ進む。
さっさとンフィーレアを解放し、ナザリックへ戻らなければならない。
* * *
ナザリックへ帰還した僕とアジーは、急いでモモンガさんの元へ向かった。
冒険者組合での事情聴取や確認作業が長引き、気づけば夜明け前になっていた。
モモンガさんの個室にたどり着き、アジーには機密会話のため部屋を外してもらう。
「それで、シャルティアちゃんはどういう様子だったの?」
「……シャルティアは、精神支配を受けているようです。
その言葉に息を呑む。
モモンガさんの話によれば、シャルティアは森の開けた場所にフル装備で立ち尽くしていたらしい。NPCタグの異常から精神支配を察知し、超位魔法〈
「プレイヤーがいる以上、
モモンガさんは、自分の判断ミスを悔やみ、深い自責の念に囚われていた。
ナザリックの守護者たちを率いる支配者として、慎重に計画を進めてきた彼にとって、この想定外の出来事は大きな打撃だったのだろう。
「してやられたってところだねえ。でも、僕はその相手に興味があるかな」
反省なんて必要ない。僕達
これを仕掛けた相手こそが悪いのだ。シャルティアを早急に取り戻し、僕達の怒りをぶつけてやろう。
「モモンガさん、僕はワクワクしてきたよ。必ずこの屈辱を……晴らそうね」
僕は歯を剥き出しにして笑った。
彼の瞳が黒く燃えた、気がした。
前話を読み返したときに原作で被っている描写も多くて退屈だし、表現もくどい気がしてきたので、もっと文章を簡略化していこうかなと思います。文章量を水増ししてるだけな気がするので。
(後で諸々修正するかもです)
もっと主人公の内面をうまく表現できたら良いんですが、、