※この作品はR-18です。

Over World:愛欲楽土   作:ぬっ

9 / 10
(前回までのあらすじ)
危機を迎えていたカルネ村は、トブの大森林を支配することで救われた。一方、主人公セイタンは、王国へ向かっていた。


008_『悪』

「──デミウルゴス。人間は人間を食べ続けると、悪性のタンパク質が増えて死んでしまうそうだ」

 

 デミウルゴスの牧場。その一室で、僕は彼と向き合っていた。彼は深く敬意を示し、慇懃な態度で僕の言葉に耳を傾けている。

 

「誰よりも『悪』にこだわったウルベルトさんが創造した君に、悪について説くのは少しおこがましいが……いや、敬意を抱いているからこそ、僕は伝えよう」

 

 デミウルゴスは無言のまま、次の言葉を待っている。

 

「悪とは、善の対極にあるものではない。傲慢で、欲深く、他者を顧みないものだ。アインズ・ウール・ゴウンの下僕たる君にそれを求めるのは難しいかもしれないが……もし悪たらんとするのなら、己が目的を見つけ給えよ」

 

 忠義で惑う彼に向けて、僕の願(・)望(・)を告げる。彼に対する忠告のようでありながら、これは僕自身の願いの押し付けだ。悪なら、悪魔であるならそうあって欲しい。ただそれだけの期待だ。

 

「まぁ、君はウルベルトさんによく似ているんだろう。彼も実直さを持つ人物だった」

 

「なんと……勿体なきお言葉でございます……! しかし、ウルベルト様に似ているなど恐れ多いことでございます。私などは、あの御方と比べるのも烏滸がましい存在でございます」

 

 謙遜する彼に、僕は苦笑を漏らす。しかし、その言葉には彼の本音が滲んでいた。

 

「君は彼の子だ。そして、今はモモンガさんと僕の子でもある。彼はこの世界と異なる場所で、僕達の想像もつかない相手と戦っている。こちらに来ることができるかどうかはわからないが……それまでの間、共にナザリックを盛り上げていこうじゃないか」

 

 

 * * *

 

 

 王都リ・エスティーゼ──王国の首都。僕はその街にいた。

 

 エ・ランテルでの仕事が一段落し、やることがなくなったためだ。

 

 道中、クレマンティーヌを隠すことなく連れ歩いていたが、結局スレイン法国の手先は現れなかった。考えてみれば、奴らは僕らがシャルティアを倒した事実をどこかで掴んでおり、その強大さに恐れを抱き、手出しを控えているのかもしれない。もっとも、偶発的な遭遇で負けたかどうかも定かではないが……。傾城傾国を使った状況すら不明瞭で、クレマンティーヌから吸い上げた情報だけでは全貌はつかめない。

 

 大通りを歩きながら、この街の冒険者組合に向かう。

 

 顔見せを兼ね、依頼がないか受付嬢に尋ねると、最初は訝しげな表情を浮かべていた彼女も、僕らがアダマンタイト級冒険者であることを知ると態度を一変させた。敬意を込めた丁寧な対応に切り替えられると、僕達の名前がこの街にも少しは届いているらしいことを感じる。

 どうやら最近、『蒼の薔薇』が依頼を受ける回数を減らしているらしく、僕たちの到来は組合にとってありがたい出来事だったようだ。

 

 護衛任務は拘束時間が長く面倒なので、討伐任務を中心に請け負うことにした。

 王都リ・エスティーゼはエ・ランテルより北に位置し、この地域特有のモンスターもいるようだ。それらを討伐しつつ、モンスターを捕らえてナザリックに連れ帰ることも目的の一つだ。モモンガさんは最近、友好的なモンスターを保護してナザリックで生活させる『楽園計画』に力を入れているが、正直僕も詳しいことは分からない。守護者達でさえ首を傾げる内容なのだから、僕が分からないのも当然だろう。あれはモモンガさんの“遊び”なのかもしれない。

 

 帰り際、組合の上層部と思われる人間から夜の会食に誘われたので、それも承諾した。情報を引き出す良い機会だろう。

 

 ひとまず、昼食を取ろうと宿屋兼酒場に向かうことにした。王都で最上級と評されるこの宿屋は、アピールのために僕達が宿泊する予定の場所だ。入口の護衛をすり抜け、内部に足を踏み入れると、そこは広々として清潔感があり、上品な空間だった。冒険者の姿は少ないが、その代わり高級感漂う内装が目を引く。

 

 僕ら三人が店内に入ると、注目を浴びているのを感じた。特に奥のテーブルから視線を感じて目を向けると、複数の人間がたむろしており、仮面をつけた子供がこちらを鋭く見据えていた。彼の視線を軽く受け流しつつ、適当なテーブルに腰を下ろし、三人分の食事を注文する。

 

 この王都の食事は、肉や野菜をローストした料理が中心だ。香ばしく焼き上げられた肉は、ほんのりと甘い脂が溶け出し、カリカリのパンとともに楽しむのが主流。マスタードの効いたピリ辛ソースを絡めると、さらに深いコクと旨味が広がる。王都では新鮮な野菜や肉が手に入り、それが料理の味を一段と引き立てているのだ。僕が注文した料理もまた例外ではなく、トロリと煮込まれた野菜のスープは口当たりが優しく、ローストされた肉の香ばしさが絶妙に調和している。ほんのりとスパイシーなソースが、食欲を刺激し、口の中で幸福感を広げていく。

 

 やっぱり外での食事もいいものだ。僕は満足そうに笑みをこぼす。久々の美味しい食事に舌鼓を打ちながら、モモンガさんの指示で金銭的制限が解除されたことに感謝する。あの厳しい設定金額をクリアして、食事ができるようになったのだ。頑張って良かった。

 

 そうして料理を堪能していると、先ほどこちらを見ていた集団の一人が、ゆっくりとこちらに近づいてきた。

 

「よぅ、あんたらもアダマンタイト級冒険者かい」

 

 全身を鎧に包んだ戦士らしき女性が話しかけてきた。その体つきは厚い筋肉で覆われ、力強さが滲み出ている。一瞬、男かと見間違えたが、声の調子からして間違いなく女性だろう。

 

「ええ、今までエ・ランテルで活動していました。あなた達もアダマンタイト級冒険者なんですか?」

 

 彼女を含め、目の前の集団は全員女性のようだ。もしや、この人たちが噂の『蒼の薔薇』なのだろうか。

 

「お? 俺達のことを見て分かんねぇってことは、マジで新参なんだな。『蒼の薔薇』のガガーランだ。よろしくな」

 

 ガガーランと名乗った彼女は笑みを浮かべながら握手を求めてきた。その手は大きく、握った瞬間に戦士としての経験が伝わってくる。僕も笑みを返しながら応じた。

 

 まさかいきなり『蒼の薔薇』と遭遇するとは思わなかった。彼女達は四人いるが、情報にあったリーダーの姿が見当たらない。ここで親睦を深めるのも良さそうだが、気になるのは先ほどから僕たちを睨む仮面の子供だ。

 

「あー、アイツは捻くれ者の変わり者なんだよ。あんまり気にしないでくれ」

 

 ガガーランがそう言うと、仮面の子供──恐らくイビルアイは鼻を鳴らし、そっぽを向いた。見た目そのままに子供なのだろうか。態度は不貞腐れているように見えるが……。

 

 しばらく彼女たちと雑談を交わした後、部屋に入ることにした。一旦荷物を置き、夜になるまで王都を散策することにした。

 

「食事、美味しかったね。さすが王都だよ」

 

 僕が呟くと、アジーが続ける。

 

「ルキフェリウス様が満足されて何よりでございます……ところで、あの者達は如何しましょうか……」

 

 アジーは先ほどのイビルアイの態度が気に入らなかったらしい。普段、人間が好きな彼女にしては珍しい反応だ。考えてみれば、ガガーランや他のメンバーもこちらを探るような視線を向けていた。本質を見極めようとする意図があったのかもしれない。

 

「おそらく……あの者は人間ではありません。アンデッドの類でございましょう」

 

 アジーが意外なことを言い出す。イビルアイがアンデッド? その気配は感じられなかったが、もしかすると吸血鬼なのだろうか。彼女が僕たちの正体に気付くとは思えないが、冒険者としての勘が働いたのかもしれない。いずれにせよ、今はまだこちらの正体がバレるわけにはいかない。彼女たちの動向は注視する必要がありそうだ。

 

 

 夜、冒険者組合が指定した場所で会食に参加した。

 

 会談そのものはどうということもなく、食事をしながらの情報交換に終わった。新たな情報はほとんど得られなかったが、『八本指』という裏社会を牛耳る組織に気をつけるよう言われた。王国はその対応に苦慮しているらしく、『蒼の薔薇』が最近依頼を減らしているのも、この組織を打倒するためらしい。

 

「八本指……ねぇ。随分、悪いことをしているみたいだ」

 

 僕はくくっと笑ってしまった。その表情を見たクレマンティーヌが怯えた様子を見せる。

 

 アインズ・ウール・ゴウンは『悪』をもって世界を支配することを目標としている。

 ちんけな悪役の出番はないし、邪魔だ。いずれ消してしまってもいいが、今は時期ではないかもしれない。相手は規模の大きい裏社会の組織であり、貴族との関係も匂わせている。ナザリックの力を使わなければ、手間がかかるだろう。

 

 スレイン法国の問題もあるため、まずはデミウルゴスに相談してみることにした。そして、話がまとまったらモモンガさんにも報告しよう。彼はスレイン法国侵攻の準備を進めている最中だ。釣り出し作戦が思うように進んでいないが、その間にも戦力増強を図り、大森林を抑えて亜人達を支配下に置いた。トロールの実験も一応の成功を収めたようだ。

 

『デミウルゴス、相談があるんだけど、今時間はあるかな?』

 

 僕は彼に伝言(メッセージ)を使い、これからの計画について話を持ちかけた。

 

 

 * * *

 

 

 王国での生活はしばらく続いていた。

 

 ある日、こちらに来ていたセバスとソリュシャンに会った。彼らは任務を真面目に遂行しているようで、人前では高慢な貴族の演技を見事にこなしていた。その様子に僕は内心で感心したが、個室に入った瞬間、二人が慌てて深々と頭を下げてきた。

 情報を共有し終えると、二人に別れを告げ、僕は夜の街へと向かう。

 

 街灯の光がぼんやりと遠くを照らし、薄暗い路地の奥には影が蠢いている。これから向かうのは治安の悪い区画だ。最近の僕は、わざとそういった場所に足を運び、遊ぶのが日課になっている。

 

 王都の広大な街には、煌びやかな貴族街があれば、その裏手にはスラム街が広がっている。必ずその近くには歓楽街があり、そこでは人間の欲望が渦巻いている。そこに住む貧しい人々は教育もなく、生きる術として体を売るか安価な労働力として搾取されるだけだ。さらに、モンスターが跋扈するこの世界では、王都を離れて生きる力も資金も持たない彼らに逃げ場はない。

 

 こうした場所には闇があり、その背後には『八本指』の影がある。僕はそういう闇の中で遊ぶことにしていた。

 

 遊びの中で分かったのは、奴らが矮小で下らない存在であるということ。目先の財貨を求め、欲望を満たすだけの日々に埋没し、大した野望も抱かず生きている。ただの紛い物だ。

 彼らの存在がどうしようもなく気に障った。己の意思を世界に通そうともしない小物たち──それが、僕の癇に障る理由だった。

 

 しかし、デミウルゴスと話した計画もあるため、今は本格的に潰すことはせず「遊び」に収めている。

 

 今夜の標的は、ある娼館。昨(・)日(・)聞(・)き(・)出(・)し(・)た(・)情報によれば、この店も『八本指』の支配下にあり、女達は奴隷同然に扱われているらしい。しかし、奴隷の境遇などどうでも良かった。これはただの気晴らしであり、僕の八つ当たりだ。

 

 まず、店の周囲に結界を張り、誰も逃げられないようにする。結界は音も遮断するため、内部で何が起きようと外には伝わらない。そして店内へと忍び込む。受付の男を一撃で殴り倒し、客達も次々に無力化した。広間に拘束具が揃っているのを見て、男達を動けなくするのにちょうどいいと判断する。女達を呼び集めた僕は、それぞれに一本ずつナイフを手渡した。

 

 ここから始まるのはサバト──復讐と狂気が渦巻く、血と歓喜の儀式だ。

 

「さぁ、好きにするといい」

 

 僕の声に、娼婦たちの瞳が憎悪で輝く。虐げられ、玩具のように扱われてきた彼女達の抑圧された感情が一気に解き放たれた。彼女たちは躊躇うことなくナイフを振り下ろす。男達の悲鳴が広間に響き渡り、やがて絶叫と嗤い声が混じり合う異様な音楽が奏でられる。

 

 だが、男たちは簡単には死ねない。

 

 傷ついた肉体を僕が回復させ、再び刃の餌食となる地獄を繰り返させる。血しぶきが舞い、肉を裂く音が鳴り響くたび、女達の哄笑が狂気を煽る。男達は苦痛に絶叫しながら次第に正気を失い、最後には笑みを浮かべながら自ら刃を受け入れる。悲鳴はやがて消え去り、血に塗れた広間には狂った笑い声だけが残った。

 

 その熱気に僕自身もつられて体が熱くなる。隣にいたアジーの唇を奪い、舌を絡ませる。互いの肌に爪を立て、噛みつき、血が滲む感触を楽しむ。倒れ込むようにもつれ合う僕達に、クレマンティーヌも加わり、宴は最高潮に達した。血の臭い、肉の熱気、嬌声と狂笑──全てが狂気の渦となって僕らを包み込む。

 

 やがて部屋は静寂に包まれた。

 

 動くものは僕たち以外にはいない。赤黒く乾いた血が床に広がり、男達の肉塊は冷たく沈黙している。僕はゆっくりと立ち上がり、火を放った。燃え上がる娼館を背に、既に回収しておいた金貨の重さを感じながら、アジーとクレマンティーヌを伴って宿屋へと帰路に就いた。

 

 

 * * *

 

 

「──最近、娼館が燃やされて回っているらしいです」

 

 冒険者組合で受付嬢と雑談していると、彼女がそんな話を持ちかけてきた。僕は軽く相槌を打ちながら聞き流す。

 

「冒険者が犯人だって声も上がっているらしくて……裏社会の人間に襲われることもあるみたいです。……大丈夫だと思いますけど、気をつけてくださいね」

 

 彼女は後半、小声でヒソヒソと注意を促すように言う。僕は笑顔で礼を述べ、組合を後にした。

 

「ふぅん、一応透明化(インヴィジビリティ)を使っていたんだけどな」

 

 道を歩きながら、娼館襲撃の噂が広がっていることに思いを巡らせる。誰かが僕らの行動に気づいたのだろうか。それとも、魔法を使って痕跡を探られたのか? ただ、現時点で僕たちが監視されている様子はない。

 

 まあいい──王都での計画は最終段階だ。

 

 『八本指』から全てを奪い、その組織をナザリックの支配下に置く。矮小で蒙昧な彼らにも、しばらくは使い道があるだろう。そして、その先に控えているのは「建国」という次の大きな目標だ。

 

 スレイン法国打倒のためには組織の強化が必要だと分かっていたが、このタイミングで建国の話が出るとは少々驚いた。しかし、これで目標の一つである「王国か帝国に潜む」が完了し、次のステップに移れるのは確かだ。計画がここまで進むと、胸の内が自然と高揚する。

 

『セイタン様が『八本指』なる組織に着目なされたからこそでございます』

 

 デミウルゴスが以前そう言っていたのを思い出す。僕はただ気に入らないゴミを潰したかっただけだが、彼はその先を見据えて計画を練り上げている。本当に優秀な悪魔だ。趣味も合うし、彼には感謝している。だから、昔ウルベルトさんと作ったピンバッジを贈った。『悪の組織』を意識して作っただけの、何の効果もないアイテムだ。だが、デミウルゴスはそれを受け取った瞬間、感動に震えて涙を堪えながら感謝してくれた。その様子に僕も少し嬉しくなった。

 

 そんなことを考えながら街を歩いていると、不意に声をかけられた。

 

「ちょっといいか? 少し話がある」

 

 振り返ると、先日出会った『蒼の薔薇』のガガーランが立っていた。彼女の後ろには金髪の女性が控えている。その佇まいから、彼女こそ『蒼の薔薇』のリーダーなのだろう。二人の誘いを受け、例の高級宿の一室へと向かうことにした。

 

 部屋に入り、席につくと、金髪の女性が少し硬い表情で口を開いた。

 

「突然失礼するわ。私は『蒼の薔薇』リーダーのラキュース・アルベイン・デイル・アインドラです」

 

 彼女は自己紹介を終えると、探るような視線をこちらに向けた。僕達も名前を名乗り、簡単な挨拶を交わす。

 

「早速だけど……話というのは『八本指』のことよ」

 

 そう切り出すと、ラキュースは一瞬間を置き、真剣な表情で話を続けた。

 

「あなた達は知らないかもしれないけど、私たちはあの組織と戦っているの。最近、『八本指』が運営していたと思われる娼館が次々に潰されているわ。おかげでこちらの作戦はやりやすくなっている。でも──」

 

 ラキュースは視線を鋭くこちらに向けた。

 

「実行しているのは、あなた達?」

 

 その声には確信にも似た響きがあった。僕達を試すように、その瞳はじっとこちらを見据えている。

 

 面倒だな、それが僕の正直な感想だった。

 彼女たちを消すには名前が大きすぎるし、誤魔化しが通じる相手でもない。

 

「うん、僕達がやったよ」

 

 色々考えたが、素直に答えることにした。ラキュースとガガーランの目が驚きで見開かれる。まさか本当に認めるとは思わなかったのだろう。

 

「てめぇ! 娼婦達はどうした!」

 

 ガガーランが怒りを込めて問いかける。その声は部屋中に響いた。

 

「男達と一緒に消えたよ。どっちみち、彼女達も残り僅かな命しかなかったしね……」

 

 言葉を冷たく紡ぐと、ガガーランは激昂して拳を振り上げた。しかし、その瞬間、アジーとクレマンティーヌが動きを封じる。

 

「ふざけんなっ!」

 

 拘束されてもなお怒号を飛ばすガガーラン。そして隣では、ラキュースがその場で震えるように怒りを堪えていた。

 

「はぁ……何やってんだろうな、僕。イライラしすぎたかな。全然後先考えてないや」

 

 僕は深いため息をつき、仮(・)面(・)を(・)取(・)っ(・)て(・)二人をじっと見つめる。

 

「二人だけで来るなんてさ、構えるつもりはなかったのかな? それとも、僕たちを信じてくれていたのかな? ……まぁ、そんなことどうでもいいか」

 

 そう言うと、静かに特殊技術(スキル)を発動する。この力はただの精神系魔法ではない。痕跡も残さず、支配ではなく、都合よく記憶や感情を変えるものだ。

 

 今回は、僕達の悪い情報を二人の胸にしまわせ、代わりに僕への好感を持ち帰らせる。カルマ値が少しばかり下がってしまうが構わないだろう。これからちょっぴり正義感が薄れるだけだ。

 

「帰ったらお仲間に、僕達が協力的で信頼できる存在だと、適当に嘘を広めておいてね。君らならできるでしょ」

 

 そう言い残し、僕はラキュースとガガーランの部屋を後にした。

 

「よろしかったのですか? あのまま出てしまって」

 

 アジーがどこか残念そうに尋ねる。

 

「ま、いざとなれば『八本指』を襲撃する際にドサクサに紛れて何とかするさ」

 

 正直なところ、スキルで洗脳してしまうのは味気がなくて趣味じゃない。アジーは少しだけ彼女達を気に入ったようだ。またクレマンティーヌのときのように楽しめる可能性を期待したのかもしれない。

 

「はぁ、ああいう正義感ぶったいい子ちゃんを虐めたかったんですけど……残念ですぅ」

 

 クレマンティーヌが舌打ち混じりにぼやく。彼女らしい言葉だ。僕もそれを否定しないが、僕が求めるのはもっと違う形だ。自分から堕ちるように促し、最終的に己の意志で堕落を受け入れる──それこそが悪魔の誘惑の本質だ。

 

 反省はそこそこに欲望が滾るのを感じる。我ながら呆れるほどの性分だ。

 

 まぁ、他者を貶めてこそ『悪』なのだ。

 そう自分に言い聞かせながら、僕達は宿屋へと戻り、三人で談笑を楽しんだ。

 

 




お話を書くのって難しい。。二次創作で世界観設定まるごと借りても難しいものですね
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