※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 一部 二人の水輝   作:伊駒辰葉

101 / 183
エピタイ通りです。
エロシーンはありません。


佑と優一郎の取引 2

「君は君で本物だと思うけど」

「気休めはいらないわ」

 

 俯いたままで優一郎の言葉に答えながら佑は嗤いを浮かべた。優一郎から受け取った青い宝珠はごく当り前に器の中にある。痛みや違和感はない。

 

「あなたもさっきのイチゴいれてみたら? 青宝珠に相当するのがあれよ」

 

 顔を上げて佑はそう告げた。すると優一郎がポケットにしまいこんでいた苺の形をした宝珠を取り出す。少し困惑した面持ちをしてから優一郎はそれを自分の胸にあてがった。

 

 ゆっくりと苺の形をしたものが優一郎の胸に沈んでいく。

 

「それで、金宝珠に相当するのはどれ?」

「氷よ」

 

 優一郎の問いかけに佑は答えた。すると優一郎が怪訝そうな顔をする。

 

「つまり、宝珠がすべて入れ替わってるんだね?」

 

 何故かひと言ずつゆっくりと言う優一郎を、佑は真っ直ぐに見つめた。

 

「そうよ。何か文句あるの?」

 

 優一郎はじっと黙って何事かを考えている。佑は苛立ちながら語気を強くして言った。

 

「記憶のほうも、早くちょうだい!」

 

 それまで少し俯いて考えるような顔をしていた優一郎が目を上げる。

 

「わかった」

 

 そう答えた優一郎が佑の胸に一気に手を突き入れる。身構える暇もなく、佑は激しい衝撃に襲われた。優一郎の手は正確に氷の宝珠をつかんでいる。

 

「あっ……ああっ!」

 

 洪水のように佑の中に記憶が流れ込んで来る。掠れた悲鳴を上げた佑の前に膝をついた優一郎は嗤っていた。

 

「……記憶の差分? なるほど……」

 

 そう呟いた優一郎がはっとしたような顔をする。佑は衝撃に耐えながら優一郎を鋭い目で睨みつけた。胸に突っ込まれている優一郎の左の腕を歯を食いしばってつかむ。

 

「泥棒! 人の記憶を読まないで!」

 

 そう叫んで佑は優一郎の腕に爪を立てた。制服に包まれた腕を佑につかまれた優一郎が困ったような顔をする。

 

「僕の知識……記憶を望んだのは君だ。君が何を知っていて何を知らないのか調べないと、必用な記憶を転送しようがないでしょう?」

 

 笑った優一郎をぎらりと睨みつけて佑は歯軋りをした。流れ込んでくる記憶は、どれもこれもが佑には絵空事に見えた。知らない人、知らない場所、知らない時がそこにはある。

 

「これが奈月さん……」

 

 明るい笑みのよく似合う一人の少女を記憶の中に見つけて佑は呟いた。その隣には水輝が居る。嬉しそうに笑う奈月を見つめる水輝の目はとても優しい。佑の知る水輝とはまるで別人のようにも思える。

 

 やがて二人は言葉を介した誤解によりすれ違う。その記憶を見た佑は自分と水輝とのすれ違いをその記憶と比べてみた。あの時、水輝は自分を殺していいかと訊いたのだと思った。だから佑は水輝がそうしたいならと思った。消えたくないと思って、でも水輝の手にかかるのならと思った。

 

「翠龍神が、わたしの息子……」

 

 やがて記憶は流れ、佑は一人の赤子が産まれる光景を見た。懸命に痛みを堪える佑の腹から翠が産まれて来る。記憶はどんどん流れ、水輝と順が交わっている光景が見える。

 

「あなたって、ヘンタイ!?」

 

 次に見えた記憶に佑は真っ赤になってそう叫んだ。すると優一郎が慌てたように視線を泳がせる。

 

「いや、あの、これはっ」

 

 焦ったように言う優一郎を佑は呆れたように見た。流れ込んでいる記憶はヒューマノイドと呼ばれるモノに関することだ。

 

「多輝くんや水輝さんまでっ! 本当にヘンタイね!」

 

 目まぐるしく巡る記憶の中には機械の器を纏った彼らの姿もあった。作り物の身体をしていても彼らはとても美しい。

 

「でも、そうか、これはこれで、要らない知識じゃないわね」

 

 ヒューマノイドを敵に回すこともあるかもしれないし、それに……。そう続けた佑は唇を引き結んだ。

 

 雷龍神を殺してもいいか?

 

 そう告げた水輝の姿が脳裏に蘇る。記憶は変わらず凄い勢いで流れ込んでいるのに、そこだけがまるで切り取られたように鮮やかに見えた。

 

「多輝は殺させないよ」

 

 静かな声にはっと我に返って佑は伏せていた目を上げた。優一郎が真剣な顔をしてじっと佑を真っ直ぐに見据えている。

 

「水輝さんが望むなら、わたし自身手を下してもかまわないわ」

 

 佑は真正面から優一郎の視線を受け止めて言った。水輝が必要と思うなら何でも出来る。

 

「君と僕の魂が同一だなんて、信じられない」

 

 そう言いながら優一郎が嗤う。その嗤いを受けて佑も口許に嗤いを浮かべた。

 

「奇遇ねわたしもよ」

 

 自分には機械仕掛けの人形を侍らせる趣味はない。自分の好みの形の人形を作る趣味もない。記憶は流れてきたけれど、彼らの存在自身が佑にとってはやはり絵空事にしか見えなかった。

 

「そろそろ腕を放してもらえないかしら? わたしの記憶を盗ったのなら、あなたの目的は達成できたでしょう?」

 

 未だ胸に入ったままの腕をつかんで佑は冷ややかな声で言った。

 

「君を人質にここを出してもらうってのは無理そうだしね」

 

 にっこりと笑って優一郎が佑の胸から手を抜く。佑は静かに優一郎の腕を離した。同時につかまれていた左の手首が自由になる。佑は優一郎の手の痕の残る左の手首を右手でそっと包んだ。

 

「囚われの身なのに、どうしてそんなに落ち着いてるの? 多輝くんが心配じゃないの?」

 

 理不尽だとは思う。だが妙な苛立ちに駆られた佑は俯いたままそう告げた。

 

「感情的になって物事が解決するならそうするけどね」

 

 聞こえてきた声は少し遠い。ふと目を上げた佑はソファに横たわっている優一郎を見つめた。優一郎は佑を振り向きもせず、こちらに背を向けている。どうしてだろう。檻が間にあるだけで、それほど離れていない筈なのに優一郎がやけに遠くにいるような気がする。

 

 佑は無言で立ち上がって優一郎に背を向けた。大きな鏡にはソファに横たわった優一郎の姿が映っているのに、佑の姿は映ってはいなかった。




エロシーンはないのですが、佑は優一郎の記憶を転写されてヘンタイとか罵ってますねw
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。