※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 一部 二人の水輝   作:伊駒辰葉

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伝説なのです。
エロシーンはありません。


伝説の部長! 見参!

 あー、と低い間延びした声を漏らして多輝は胸元を爪でがりがりとかいた。隣に立つ透もさすがに唖然とした顔をしている。

 

「やっぱお前の前の生き方、ちょっとどうかとマジで思うぞ」

 

 低い声で言いながら多輝はひらひらと風に揺れている垂れ幕をぼんやりと見つめた。どこから調達したのか、校舎の壁には大きな垂れ幕がかかっていた。

 

 伝説の部長! いらっしゃいませ!

 

 鮮やかなミントグリーンの文字をぼんやりと見上げて多輝は呻きを漏らした。電源の落ちた要を抱えている斎姫と由梨佳も唖然としたように垂れ幕を見上げている。奈月は相変わらずの顔で翠と戯れている。学という名らしいおかまの龍神は連れのヒューマノイドといちゃついている最中だ。ちなみにちなりと巴は危険だからと木村の屋敷に残っている。

 

 背後の連中を振り返ってから多輝はまた垂れ幕に目を戻した。それから横に目をやる。

 

「そりゃあ、あんたとは格が違うからよ! 格が!」

 

 ここに来るからにはこうでないと。そう主張した透は今は絵美佳の姿をしている。白衣を風になびかせながら絵美佳は胸を張って笑ってみせた。

 

 かつて絵美佳が仕切っていた科学部の地下室は今も健在だ。だが部員は今はいない。危険だからとあらかじめ絵美佳が彼らに場所を空けるように言ったのだ。部員総出で垂れ幕を作ったのだろう。屋上から見える白衣を着た生徒たちが嬉しそうに手を振っている。そんな彼らに手を振り返し、絵美佳は意気揚々と歩き始めた。

 

 懐かしい地下の研究室に入ると独特の雰囲気がある。多輝は広々とした研究室に入って周囲を見回した。並んだ端末を次々に立ち上げた絵美佳が早速、と机につく。由梨佳と斎姫に抱えられた要が台に横たえられ、奈月や翠たちは邪魔にならないように、と別の部屋に移動をした。どうやら彼らなりに気を遣っているらしい。

 

「多輝。あんたには土木工事をお願いするわ」

「土木だあ? 何だそりゃ」

 

 モニタ画面に向かっていた絵美佳が椅子ごと振り返る。

 

「今日からここは世界征服を企むあのアホに対抗するための秘密基地になるわけだけど」

 

 どうやら絵美佳の中では水輝はすっかり悪の帝王か何かになっているらしく、世界制服を目論んでいるということにされている。だが要が壊れてしまった件や、聞いた話ではあるが白銀の件を思うとあながち間違っていないような気もする。

 

 要にこめてあった白銀の宝珠はなくなってしまった。その後、要の精神状態は一気に落ち込んでしまったらしい。それだけではない。元々、要の機体には白銀の宝珠を元にした様々な機能がつけてあり、それらが一斉に不具合を起こしたのだ。結局、要はその直後から機体を動かすことがまったく出来なくなったようだ。

 

「正直、長期戦を覚悟しないとダメだと思うの」

「そうなのか?」

 

 考えを巡らせていた多輝は絵美佳の声に我に返って慌てて訊ねた。足を組み合わせた絵美佳が神妙な面持ちで頷く。

 

「そうよ。そして、長期戦に勝つためにあたしは、ふたつの要素が必要不可欠だと思うの、何かわかる?」

「ええと」

 

 指を二本立ててみせた絵美佳から目を逸らし、多輝は口ごもった。長期戦、と呟いて考えてみる。

 

「に、忍耐力? とか、持久力?」

 

 他に何も思いつけず、多輝は恐る恐る言った。

 

「ちっちっちっちっ。甘いわね。その、二つの要素とは! 美味しいごはんと、充実したせっくすよ!」

「……殴られたいのか?」

 

 指を振りながら言った絵美佳を多輝は呆れた顔で睨みつけた。丁度、杖も持っているしな。そう付け足しながら多輝は右手に握った杖をゆらりと持ち上げた。

 

「あの、多輝くん、あながち、間違いではないと思うわ」

 

 要を横たえた台の傍にいた由梨佳が赤い顔をしつつも声を挟む。何で、と声を張り上げて多輝は由梨佳を振り返った。

 

「メシはまあ判る。食い物がないと辛いし、どうせ食うなら美味いものの方がいいだろ。けど……せ、せ、せ」

 

 ぎこちなく言葉を詰まらせていた多輝の顔が見る間に真っ赤になっていく。

 

「せっ、セックスは関係ないだろ!?」

 

 裏返った声で言ってから多輝は絵美佳に向き直った。

 

「あんたバカ? 由梨佳さん、壊れてもいいんだ? ふーん」

 

 上目遣いに多輝の顔を覗きこんで絵美佳が言う。多輝は慌てて両手を振り回した。

 

「そんな訳ないだろ!? 由梨佳とはするにきまっ」

 

 そこまで言って多輝は顔をしかめた。だが男に戻るなと言われているのにどうやってするのだ。女同士でも性交渉は可能だが、それでいいのだろうか。いや、折角抱くなら男の方がいい。考えに耽る多輝の顔色が徐々に戻っていく。

 

「ここの基地は、何かあった時の即応体制を維持しながら、それぞれのプライバシーを維持した生活空間を確保した作りにしたいのよ」

 

 多輝の悩みに気付かないのか、絵美佳がさらりと話題を元に戻す。多輝は少しの間、絵美佳の話が理解出来なかった。だがすぐに思い直して頭を切り替える。要するに絵美佳はそのために多輝に土木工事をしろと言っているらしい。

 

「多輝、あんたには優一郎の研究所と、こっちを繋ぐ通路を掘ってほしいの。カードでちょいちょいとできるでしょ?」

「優一郎の許可がないと無理だ」

 

 渋い顔をして多輝はそう答えた。カードで穴を掘れと言われているのは判る。だがこの地下の研究室と、優一郎の作り上げたあの地下施設とははっきりと分かれている。その間には優一郎の結界が敷かれているのだ。




絵美佳が伝説の部長というのは理由がありまして……。
巨大ロボでバトルをした経緯とか色々とあるのです。
詳しくは『魂の座』という話にあります。
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