古いかも!?
エロシーンはありません。
しつこいくらいに髪をとかしながら渚は鏡を覗きこんだ。鼻歌をうたいながら身だしなみを整える渚の傍にいるのは祐だ。バスタオルを一枚、身体に巻いてスツールに腰掛ける渚の少し後ろに立ち、祐は重苦しい表情をしている。だが浮かれた渚は鏡に映るそんな祐の姿に気付かなかった。
「口紅……はいらないかしら」
そう呟きながら渚は鏡台にずらりと並んだ口紅を見つめた。さまざまな色をいちいち手に取っては首を傾げる。
「渚さん。あの電話は……?」
「え? ああ、デートのお誘いよ」
にっこりと笑って言ってから渚は薄い紅色をチョイスして紅筆を取り上げた。くるりと根元を回して口紅を出してから鏡を覗き込む。
渚の部屋には今は他の誰もいない。業務が終了した吉良瀬トータルソリューションのビルの地下は、ヒューマノイドたちの賑やかな声で溢れている。
「相手は、どなたですか?」
渚の着替えを両腕に抱えた祐は何故か暗い顔をしている。渚は鏡に映る祐の表情に初めて気付いて振り返った。
「秘密。野暮は言わないものよ」
微笑みを浮かべて渚は唇に指を一本当ててみせた。すると祐が少しだけ目を細める。渚は鏡に向き直って唇に薄く紅を刷いた。ティッシュペーパーを唇に挟み、余った紅を落とす。
「尾行して、いいですか?」
「え?」
意外な言葉に渚は笑みを引っ込めて振り返った。一体、どうしたのだろう。祐はこれまでに渚にそんなことを言ったことはない。渚が不思議に思って首を傾げると、祐は気まずそうに目を逸らした。
「どうして? 尾行付きのデートなんて笑えないわ」
少し不快に感じて渚はそう言ってから鏡を向いた。鏡台の引出しをあけて並んでいるイヤリングを見下ろす。整然と並ぶイヤリングの中から、小さな冴えた赤い色をした石のついたものを選び取り、渚は鏡を覗き込んだ。
「夢見が悪かったんです。だから、渚さんが心配です」
「あら。ありがとう。夢にまで見てくれるのね」
微笑みを浮かべて言ってから、渚は両の耳朶にイヤリングを吊るした。赤い石が明かりを反射して煌く。渚は鏡に映る自分の姿に満足をこめて頷いてから立ち上がった。バスタオルを落として祐の腕からショーツを取り上げる。手早くショーツを着けた渚はブラジャーを着けてから鏡の前に立った。今はペニスはしっかりと器の中にしまいこんでいるからショーツの前は変に盛り上がっていない。下着を身に着けた自分の姿を鏡に映してから渚は笑顔で頷いた。下ろしたてのシルクの下着はぴったりと身体に合っている。
「相手の方に悟られるような真似はできるだけしないつもりです。だから、お願いします」
そう言って祐が頭を下げる。渚は困った顔をしてため息を吐いた。
「だぁめ。折角のデートですもの」
ごく薄い紫色をしたガーターベルトを腰に巻き、同じ色のストッキングを穿く。レースのあしらわれた腿の部分に留め具をかける。続いて渚はブラウスを身に着けた。肌触りのよいシルクのブラウスは渚のとっておきだ。
「わかりました」
しょんぼりとした顔で頷いてから祐がおずおずと顔を上げる。
「あの、自慰を始めてよろしいですか?」
「ええ、いいわ。ごめんなさいね、してあげられなくて」
祐の腕から服を引き取って渚は申し訳なさそうな顔をして詫びた。すると祐が首を横に振ってスカートをたくし上げる。渚は長いスカートと丈の短い上着を身に着けてから鏡を覗き込んだ。
「少し、堅苦しいかしら?」
もっとラフな格好がいいのだろうか。それともゴージャスなドレスを身に着けた方がいいのか。渚は迷いながら鏡に何度も自分の姿を映してみた。股間を弄りながら祐が暗い表情でそんな渚を見つめる。
「んっ、渚さんなら、なんでもお似合いだと思います」
股間から低いモーター音を立てながら祐が言う。ありがとう、と微笑んでから渚はクロゼットから薄手のコートを取り出した。幾ら転移をするからと言っても、そろそろ出ないと間に合わない。
電話で交わした会話を思い出しながら渚は上機嫌に微笑んだ。これまでに幾度となく会ってはいるが、あんな風に誘われたのは初めてだ。耳に残る優しい声を思い出しながら渚はついつい顔を緩ませた。胸にコートをあてがって嬉しそうに笑う渚を祐がじっと見つめる。
「んっ、渚さん。お気をつけて。いって、らっしゃいませ。あっ!」
愛らしい声を上げた祐の股間から小さな電子音が響く。その場にへたり込んだ祐が本格的に自慰を始める。モードの切り替わった祐の機体からはモーターの音がひっきりなしに響き始めた。
「ありがとう。行ってくるわ」
微笑みを浮かべて渚は祐の頬に軽く口づけをした。じゃあね、と手を振ってその場から転移する。視界が弾け、次の瞬間に見慣れた光景が目の前に広がる。吉良瀬の屋敷の前に現れた渚は見覚えのある男に手を振ってみせた。
「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
恭しく礼をした和也がそう言って車の後部席のドアを開く。渚は頷いて大きな黒い車に乗り込んだ。それでは参ります、と渚に声をかけた後、和也が静かに車を出す。渚はゆったりとしたシートにもたれかかって窓の外を流れる景色を見つめた。
一体、どこに連れて行ってくれるのだろう。場所はその時まで秘密だと言っていた水輝のことを思い出して渚は口許を緩めた。見慣れた清陵の街の景色が今日は一段と輝いて見える。渚はあれこれと水輝と会った時に交わす言葉について考えを巡らせながら窓の外を見つめていた。
懲りない渚ですw