エロシーンはまだありません。次からです。
消えたはずの森の中で 1
夜の鳥がなく。静かな花畑に佇んだ水輝は月のない空を見上げた。一面に咲き乱れるこすもすは冷たい夜風に揺れている。空気が澄んだ空には幾つもの星が瞬いている。
やがて静かだったその場所に低い車のエンジン音が聞こえてくる。水輝はゆっくりと目を戻して二つの大きな光が迫ってくるのを見た。ヘッドライトを照らした車が緩やかな坂道を登ってくる。
狭い林道を抜けた車はこすもすに満たされた場所に入ってくる。水輝は畑の中にある細い道に歩み寄った。静かに停まった車から執事の和也がまず姿を現し、恭しく礼をする。目でそれに答えてから、水輝は和也が開いた後部席をじっと見つめた。
車を降りた渚が驚いたような顔をして水輝を見つめ、次いで周囲を見回す。和也が運転席に戻って静かに車を発進させる。屋敷に向かう車を見送った水輝は渚を見つめてにっこりと笑った。
「今日はやけに気合の入った格好をしているな」
薄化粧までしている渚を見つめて水輝はそう告げた。すると渚は慌てたように耳元を押さえて少し俯く。
「あっ、そ、そうね。少し気張りすぎたかしら」
「いや。綺麗だ」
そう告げた水輝を渚が驚きの目で見る。水輝は渚を抱き寄せて唇を奪った。最初は水輝の腕の中で身を強張らせていた渚が、深く口づけるうちにゆっくりと目を閉じる。水輝はしばしの間、渚と深く唇を合わせていた。舌を絡めあい、互いの唾液を味わってから静かに顔を上げる。
暗い花畑の中で水輝と渚の纏う光がほんのりと灯っている。赤い顔をして俯きかける渚の顎を指で捕まえ、水輝はもう一度軽く口づけた。
「あの……水輝。ここって」
小声で言って渚が周辺を見回す。水輝はああ、と笑ってこすもすの咲き乱れる庭を見回した。
「見栄えがしないか? もう少し行くとばらが植えてあるんだが」
そう答えて水輝はさりげなく渚の肩を抱いて歩き出した。そうじゃなくて、と呟いた渚が水輝に寄り添って歩き始める。しばし黙って歩いてから、渚が思い切ったように顔を上げる。
「あの、デートって……」
「ああ。折角だからゆっくりと食事でもどうかと思ってな」
笑顔で答えて水輝は渚の肩を抱き寄せた。水輝にもたれる格好になった渚がでも、と呟く。
「食事……レストランとかには行かないの?」
「何だ。もしかして渚は賑やかな場所の方がいいのか?」
水輝は苦笑して渚を見つめた。間近で目を合わせた渚が慌てたように視線を逸らす。その頬はほんのりと赤い。水輝はそうだな、と呟いてふと足を止めた。
「少し、歩くか」
そう言って水輝は急に進路を変えてこすもすの中を突っ切り始めた。驚いた声を漏らした渚が水輝のコートをつかむ。
「どこに行くの? だって、周りは真っ暗で……」
「心配するな。何なら」
水輝は軽く身を屈めて両腕に渚を抱き上げた。小さな悲鳴を上げた渚が水輝にすがりつく。
「足元が不安ならおれがこうして運んでやろう」
「で、でも!」
困惑した面持ちで渚が周囲を見回す。水輝はだがそのままこすもすの中を歩いていった。踏みしめられたこすもすが倒れていく。渚は不安そうな顔をしてしきりに辺りを見回した。
やがて森が近づいてくる。暗い、その場所を見た渚が嫌がるように首を横に振る。水輝は渚に微笑みかけて大丈夫だと告げた。渚が泣きそうな顔をして水輝の服をつかむ。
「安心しろ。おれがついているんだ。怖くはないだろう?」
「でも、あそこは……いや。近づきたくないの」
小声で言って渚が首を横に振る。水輝は心配ないと笑みかけて先に進んでいった。
うっそうと木々の茂る森は暗く沈んでいる。花畑を抜けた水輝は迷う事なくその森に入っていった。渚が震えながら水輝のコートを握りしめる。
「ねえ。戻りましょ。こんな薄気味悪いところ、いても楽しくないじゃない」
森の中は湿った空気に満ちている。明かりのない場所を水輝は静かに歩いていた。下草に転がる枯れた枝が、水輝の足の下で小さな音を立てて折れる。太い幹をした木々の枝を時折、夜の鳥が揺らす。
「何だ。おれが信用出来ないか?」
水輝は苦笑して渚を見つめた。渚が不安そうな顔をして黙って首を横に振る。だがまたすぐに渚は周囲をしきりに見回した。
枯草の積もる場所にたどり着いたところで水輝は足を止めた。生い茂る葉の間からは月明かりすら落ちてこない。暗く、深い森の中に灯っているのは水輝の纏う淡い青の光と渚の纏う金色の光だけだ。
ゆっくりとその場に下ろされた渚が唇を引き結んで震えている。水輝はコートのポケットに手を突っ込んで手近な巨木に歩み寄った。幹に寄りかかって渚に手招きをする。渚はだが、スカートをつかんでその場から動こうとしない。
「どうした?」
水輝は渚に微笑みかけて首を傾げた。すると渚が全身で叫ぶ。
「どうしてここがあるのよ!」
渚の悲鳴じみた叫びが森の中をこだまする。水輝は中空を見つめて薄く笑った。
ここはかつて消えた場所だ。かつて渚が最初に水輝に抱かれた場所がここだった。あの日、狂った水輝は嫌がる渚を無理やりに犯したのだ。
そういえばこれがアップされる頃はゴールデンウィークですね!
皆さま、楽しんでいらっしゃいますでしょうか。