※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 一部 二人の水輝   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


龍宝珠と龍宝珠界とラスティ 2

 翠色の宝珠を握りしめた奈月が俯く。その肩は頼りなく震えている。

 

「水輝さんが、いらっしゃったんです」

 

 掠れた小声で奈月が言った瞬間、透は目を見張って息を詰めた。つまり、水輝は透や学が呑気に多輝を抱いていた頃、ちゃっかり姿を現したのだろう。

 

「わりぃ……。お姫さん」

 

 呻くような低い声で透は詫びた。すると奈月が伏せていた顔を上げ、慌てたように首を横に振る。

 

「違います! 全て、わたしが悪いんです! わたしの責任なんです! わたし……わたしは……」

 

 それまでとは打って変わって悲鳴のような声で言ってから奈月が泣き崩れる。ベッドに眠る翠が呻きを漏らして身じろぎする。奈月ははっとしたように伏せていた身を起こして慌ただしくベッドに駆け寄った。ぐずる翠の身体を布団の上から優しく叩きながらあやす。すると翠はすう、と大人しくなってまた寝息を立て始めた。

 

「お姫さん。そりゃあんたは龍神の長だからな。責任はあるさ。だが、全部が全部あんたのせいってわけじゃねーだろ」

 

 透は寝入った翠を起こさないよう、小さな声でそう言った。頼りない足取りで戻ってきた奈月が透の正面に静かに正座する。

 

「何のために俺らが居るんだ? あんたを手助けするためじゃねーのか? 一人で背負って物事を解決できるはずねーだろ……。なんでそう、極端から極端に走るかなあ……」

 

 苛々としたものを感じて透はぼやくように言った。奈月はすっかり萎縮してしまっていて、小さく身を縮こまらせている。宝珠を握る両手も小刻みに震えていて、見ていてとても痛々しい。何より奈月が笑わないのが引っかかる。

 

「水輝さんにも、同じ事を言われたことがあります。でも、わたしは……」

 

 深い後悔の念を滲ませて奈月が涙ぐむ。透はため息を吐いてティッシュペーパーを箱から何枚か抜いて奈月に差し出した。受け取った奈月が頬を濡らす涙を拭う。

 

「お姫さん。だからって泣いてても仕方ないだろ? 間違ったと思ったなら、今からでも改めればいいじゃん」

 

 誰でも間違いを犯さずに生きるのは無理だ。だが間違いは後から正すことが出来る。透は奈月の肩にぽんと手を置いて励ましの言葉をかけた。だが奈月が泣きそうに顔を歪める。

 

「自信が、ないんです! さらに罪を重ねそうで怖いんです! わたし、わたし!」

 

 必死で何かを堪えながら奈月が言葉を紡ぐ。涙ながらに訴えられた透は、不意に鳴った電話の音にびくりと身体を竦めた。慌てて白衣のポケットを探って携帯電話を取り出す。見慣れない番号が表示されていることに首を傾げつつも、透は通話ボタンを押した。

 

『はーい。透ちゃん。元気?』

 

 やけに明るい順の声に透はひくりと頬を引きつらせた。

 

「オヤジ! 旅に出たんじゃなかったのかよ!」

 

 出来るだけ絞った声で言いながら透は電話を両手でつかんだ。だが憤る透を余所に順がへらへらと笑う。

 

『ヤだなあ。ちょっと離れてるだけなのに、寂しい?』

 

 あはは、と笑った順の声に引きつりながら透は電話を切ろうとした。だが耳から電話を離す寸前に順が待って待ってと慌てたように言う。

 

「用件があるなら早く言え! こっちは忙しいんだ」

『もう、透くんってばせっかちだよねー。まあ、そこも可愛いけど』

 

 くだらないことを言ってから順がえへん、と咳払いをする。透は苛々しながら電話を握りしめた。

 

『一度だけ。キミが絶体絶命のヤバい時、助けてあげるからオレを呼んで』

 

 さっきまでとは打って変わって静かな声で順が言う。透は訝りに眉を寄せてこめかみをかいた。

 

「オヤジ。わかった。本当にどうしようも無くなったら呼んでやる」

 

 そう言いながら透はため息を吐いた。すると順が電話の向こうで少し笑う。

 

『それとね。ソコに姫君いるんしょ?』

 

 訊ねられるままに透は傍に座る奈月を見やった。ああ、と頷くと順が言葉を継ぐ。

 

『悪いんだけどさあ。その電話、外部スピーカーに切り替えてくんない?』

 

 呑気に順が言う。透はため息を吐いてから言われるままに電話の機能を切り替えた。

 

「これでいいか?」

『そっ。どもありがと。それでね。電話を姫君に向けてくんない?』

 

 それまで重苦しい空気の漂っていた部屋に順の明るい声が響くと妙な違和感がある。透は順の意図が理解出来ないままに言われた通りに奈月に電話のスピーカーを向けた。奈月が困惑した面持ちで電話を見つめる。

 

『くたばれ』

 

 低く吐き捨てるように言ってから順がいきなり電話を切る。透は引きつりながら電話を引き寄せた。だがスピーカーからは空しい音が聞こえているだけだ。

 

 奈月はしばし驚いたような顔をしていたが、やがて納得したような吹っ切れた顔になる。透は電話を白衣のポケットに戻しながら恐る恐る奈月を横目に見た。

 

「おい、お姫さん……?」

 

 まさかここでいきなり死ぬと言い出す気ではないだろうか。そんなことを思いながら透は奈月を呼んだ。両手にしっかりと翠宝珠を握った奈月が頷く。

 

「すぐに、命を絶つ気はありません。もちろん、それが最良な手段ならそうしますけど」

 

 そう言って奈月がにっこりと笑う。急に笑みを取り戻した奈月を透は訝りの目で見た。奈月が笑みを浮かべたまま、大事そうに翠宝珠をスカートのポケットにしまいこむ。涙を拭いたティッシュペーパーを片付け始めた奈月を見つめ、透はしばしかける言葉を探し続けた。




順がキレキレですw
『魂の座』という話の中で、順は火藍という龍神から龍宝珠を譲られていました。
なお、火藍はその後に死にました。
なので、ブチギレたのです……。
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