※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 一部 二人の水輝   作:伊駒辰葉

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グロが苦手な方はすみません。ちょっと血みどろです。
エロシーンはありません。


佑、キレる

「ごめんなさい……。ご迷惑だった?」

 

 泣きそうな顔で佑は小声で訊ねた。苦しそうな息を吐きながら水輝がぼんやりとした目で佑を見る。それから水輝はゆらりと佑に手を差し伸べた。震える指にもべったりと血がついている。

 

「立城」

 

 焦点の合わない目をして水輝が呟くように言う。中空に伸びていた水輝の手がふとソファに落ちる。佑は手の動きを目で追ってから水輝を見つめた。

 

「やっぱり、立城さんが必要なのね?」

 

 そう言って佑はにっこりと笑った。水輝は痛みが酷すぎるのか、ソファにもたれて目を閉じている。その顔は苦しそうに歪み、額にはびっしりと汗が浮かんでいる。垂らした手は血に塗れ、傍にあった本にも血の雫が幾つか落ちていた。

 

「この前はごめんなさい。立城さんを復活させるために消えたくないなんて、我がまま言って」

 

 しょんぼりとして告げた佑の言葉に水輝は答えない。苦しげな息を吐いているだけだ。それを見た佑は悲しみに顔を歪めた。どうして自分は水輝に触れるだけで傷つけてしまうのだろう。水輝の着ているシャツにはどんどん血が染み込んでいる。ズボンの股間部分にも血の染みが広がっていく。

 

「水輝さん……」

 

 涙を浮かべて佑は小声で呟いた。水輝の顔色は少しずつ悪くなっている。だがどうしてだか水輝は佑の治療術を受け入れようとはしない。そのくせ自分でも治療しようとはしていないようだ。

 

「いったいどうすれば……。きゃっ!」

 

 突然、間近に誰かが現れる。佑は弾き飛ばされて床に転がった。打ち付けた肩を押さえてのろのろと身を起こす。

 

「渚さんに、何をしたのっ!」

 

 怒声を放った少女は佑にとてもよく似ていた。だが髪の色がまるで違う。少女は肩を怒らせて水輝に詰め寄った。水輝が苦しそうな息を吐きながらのろのろと頭を上げる。

 

「あなた? 祐!?」

 

 佑は慌てて立ち上がって水輝に駆け寄ろうとした。その瞬間、水輝が怒号を上げて鋭く右腕を振る。その一瞬で水輝の前に立っていた祐は壁まで吹っ飛んだ。本棚にぶつかった祐の上に音を立てて本が落ちる。

 

「渚さんは……!」

 

 本に半ば埋もれていた祐が小声で呟く。転移の術を使った直後、祐が悲鳴を上げてのた打ち回る。水輝はゆらりと歩み出して床に転がった祐を足に踏みつけた。胸を踏みにじられた祐が懸命にもがく。

 

「金龍神の注いだ力を食われて死ぬのと、器ごと砕かれて死ぬのと、どっちがいい?」

 

 低い声で言って水輝が足に力をこめる。みしりという嫌な音がして水輝の足がわずかに祐の胸に沈む。

 

「一か八か……渚さん!」

 

 苦しそうに言った祐の纏っていた力が客間のある方向に飛ぶ。その直後、水輝の身体がぐらりと傾ぐ。その隙を狙っていたかのようにその場に金色の光が現れた。床に横たわる祐を包んだ直後、光が消える。

 

 後には倒れた水輝の姿しか残されていなかった。佑は悲鳴を上げて水輝に駆け寄った。真っ青な顔をした水輝は苦しげな息を吐いて呻いている。

 

「水輝さんっ! いったい何が!?」

 

 佑は慌ただしく周囲の力の気配を探った。渚が客室から消えてしまっている。どうやら渚はここに転移をして祐をさらい、再びどこかに移動してしまったようだ。

 

 苦しげに呻く水輝の唇の端から血が滴り落ちる。水輝の抱える力に変化はない。だが何か妙なものが胸元にある。佑は目を細めてそっと水輝の傍に屈み、シャツの胸ポケットの中を探った。

 

 赤い石のついた小さなイヤリングが出てくる。佑はそれを見つめて顔を歪めた。すでにもやのような薄いものしか残っていないが、どうやらここには何かしらの力がこめられていたようだ。それが水輝の胸を射抜いたのだろう。

 

「おじさま! お願い! 水輝さんを助けて!」

 

 イヤリングを握りしめて佑は涙声で叫んだ。祈るような気持ちで両手を組み合わせる。

 

 藤色のもやのようなものが部屋の中に立ちこめる。やがてもやは集束し、ゆっくりと人の形となった。

 

『大丈夫。この程度で水輝がどうかなったりはしないから』

 

 そう言って微笑む立城を佑は驚きの目で見つめた。前に見た時より立城の身体が成長している。相変わらず声はまるで厚いフィルターを通したように不明瞭だ。だが五歳児程度の大きさでしかなかった立城が、今は十歳児程度に成長しているのだ。

 

 静かに水輝の傍に歩んだ立城が膝をついてその場に屈む。

 

「おじさま、本当ね?」

『嘘をついても意味がないでしょ?』

 

 佑の問いかけに立城がにっこりと笑ってみせる。立城は水輝の身体を軽々と両腕に抱え上げて踵を返した。時折、水輝が苦しげに呻く。部屋を横切った立城はベッドに水輝を横たえた。

 

「おじさま、水輝さんをお願い!」

 

 そう言って佑は目を閉じた。自分を目標に空間を跳躍してきた祐の気配を探る。どうやら祐は一気に清陵の街に跳んだらしい。あの場所は確か、ヒューマノイドの集うビルだ。

 

「絶対! 許さない!」

 

 怒りに任せて佑はその場に向かって転移した。佑を見送る立城の口許には薄い笑みが浮かんでいた。




キレさせてはいけないのをキレさせてしまいましたね……。
祐も危ない橋を……。
まあ、この頃はマシでしょうか……。
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