気の毒に……w
この地下三階には優一郎の部屋の他に多輝、斎姫、要の部屋がある。それと客室が幾つか並び、キッチンとシャワールーム、それに工作室などもある。多輝は隣にある優一郎の部屋のドアを開けて静かに入室した。
広々とした優一郎のこの部屋にも久しぶりに入る。多輝は何だか懐かしいものを感じながら部屋を横切った。設えてある大きなベッドに静かに優一郎を横たえる。
「んっ……多輝?」
掠れた声で呟いて優一郎が薄く目を開ける。多輝は慌てて屈めていた身を起こしてベッドから数歩離れた。接触していたことで身体が妙に熱っぽい。多輝は後ろ手に杖を握って優一郎に愛想笑いをした。
「ま、まだ寝てた方がいいだろ?」
じりじりとベッドから離れる多輝を優一郎がぼんやりと見つめる。
「いや。皆に伝えなければならない事があるし。まず姉さ……透さんと話をしたい。あと、多輝。君にも謝らなければならない事がある」
ゆっくりと身体を起こして優一郎がじっと多輝を見つめる。多輝はついつい緩めかけていた顔を慌てて引き締めた。
「ええと、透が何か用事があるらしくて今から行くから一緒に行くか? で、おれに詫びって何だよ」
口早に言って多輝は視線を逸らした。どうも一緒にいるだけでなく、優一郎にじっと見つめられると身体が余計に反応してしまう。落ち着け、と自分に言い聞かせながら多輝は返事を待った。
「昨日、透さんと誓約を結んだよね?」
「は?」
訝りに眉を寄せて多輝は優一郎を見た。せーやく、と口の中で呟いてみる。だが心当たりがない。
「透さん達と望めば毎日でもセックスするっていう誓約を、受理してる」
「いっ!? あ、ええと、あれは……」
どうやら抱かれている間に口走ってしまったらしい。そう思って多輝は困惑に顔を歪めた。透に口づけされて我慢出来なくなり、自分から求めてしまったのだ。多輝はそのことを思い出して情けない気分で俯いた。
「悪い。おれが、その……情けなくて」
多輝は俯いて泣きそうに顔を歪めて詫びた。優一郎が他の誰かに抱かれるのは駄目だと言っていたことを思い出す。
「いや、違う。多輝、君は以前から言っていたよね? 別に僕以外の誰かに抱かれても気にしないって。くだらない独占欲で君を束縛しようとした僕が愚かだったんだ」
そのせいで、君には辛い思いをさせたと思う。静かに語る優一郎を多輝は恐る恐るに見た。声の通りに優一郎は真剣な顔をしている。多輝は泣きたい気持ちでまた俯いた。
「いや、おれは……その」
確かに優一郎が駄目と言わなければ自分は特に他の誰と交わってもいいと思っていた。そのことは優一郎にも言ったことがある。自分が言っていたことを思い出して多輝は唇を引き結んだ。身体はどうしようもなく優一郎を求めているのに、どうしても近づくことが出来ない。
「これからは、君が望むなら、僕以外の誰と行為をしようと構わない。多輝。ほんとうにすまなかった」
そう言って優一郎が頭を下げる。多輝は慌てて顔を上げた。そこで真剣な顔をしている優一郎と目が合う。
斎姫は我慢をしているのだ。今もちゃんと学校に行って、仕事をしているのだ。なのに自分だけが甘えたことを言うのは変だ。そう考えた多輝は少しだけ俯いた。優一郎が忙しい時、自慰で堪えられなくなった時、もしも他の誰かに抱かれる機会があったらそれで済ませてしまった方がいいような気がする。切羽詰った多輝の頭の中に忙しく考えが巡る。
「……わかった」
小声で答えて多輝は顔を上げた。気持ちを切り替えるために、ええと、と言ってから咳払いをする。
「それでだな。透のとこ行くんだろ?」
多輝は出来るだけ感情を出さないように身を強張らせてそう言った。ベッドに腰掛た優一郎はじっと多輝を見つめている。
「姉さ……透さんとは早く協力体制を整える必要があるからね」
そう言って優一郎が立ち上がる。多輝は踵を返して先に立って歩き出した。この地下施設の三階と向こうの二階のフロアが地下通路で繋がっているのだ。そのことを説明しながら多輝は優一郎の部屋を出た。
廊下を並んで歩く。多輝は優一郎の横で俯いていた。
「さすが透さんだ。ぬかりはないね。リーダーには姉さんになってもらったほうがいいな」
独り言のように言う優一郎を多輝はちらりと見た。歩く二人の距離は、優一郎からここからいなくなる前より少し離れている。多輝はだがその距離を自分からは詰められなかった。
階段を昇って廊下を過ぎて今度は階段を降りる。長い通路の先には幾つかの部屋のドアが並んでいる。多輝は透の部屋の前で立ち止まってドアをノックした。中から返事があったことを確かめてからドアを開く。
「目が覚めたから一緒に来た」
そう言って多輝は横に立つ優一郎を目で指し示した。
「おっ、優一郎。来たか。消耗してる時に申し訳ないが、ぶっ倒れるのは情報を俺に教えてからにしてくれ」
端末に向かっていた透がそう言って立ち上がる。多輝は先に透の部屋に入った優一郎に続いてドアをくぐった。そこで思い切って透に声をかける。
「あの、さ。用事ってなんだ? 急ぐか?」
「ああ。ちょうどいい。優一郎、あの通路の途中に部屋を作って、そこを中央作戦司令室にしようと思うんだがどう思う?」
そう言って透が優一郎を見やる。どうやらここからすぐに逃げられそうにない。多輝は諦めて肩を落とし、壁に寄りかかった。
「いい案だと思います」
真面目な顔で優一郎が頷く。多輝はふと、思い至って顔を上げた。
「じゃあ早い方がいいんだろ? おれ、行っていいか?」
多輝は杖を握りしめてドアの方を指差した。
「そうだな。行こう」
透が笑って優一郎を促す。多輝はぎょっとして二人を見比べた。透に促されるままに優一郎も歩き出す。
この2人も勘違いですれ違いが多い!!
頭の中が読めるのに何故!w