「ちょっと、最近自慰が激しくなってたから……。一度、きちんと診てもらったほうがいいかも」
ごめんなさい。真っ赤な顔で詫びる由梨佳の頭を撫でてから多輝は静かに腰を引いた。由梨佳を抱えてベッドを降り、部屋の奥に設えられているメンテナンス用の台に寄る。抱えた由梨佳を台に下ろし、両足をそれぞれの足掛けに乗せる。
「あ……わりぃ。これ、痛いよな」
由梨佳の股間を覗きこんで多輝は小声で言った。ここのところ、由梨佳の身体を診る余裕がなかったことが悔やまれる。由梨佳の陰部はあちこちのねじが緩み、部品が人工の皮膚でぶら下がっている状態になっていた。
「どうしても、自慰が激しくなってしまって……」
「ごめん。ここのところ男で抱けなかったから」
心から詫びて多輝は腰を上げた。硝子戸のついた棚から必要な器具を次々に取り上げる。トレイにそれらを放り込んでから、多輝は由梨佳の足元に回った。皮膚を丁寧にめくりあげ、陰部の部品を一つずつ外していく。
「……やっぱ、オナニーした方がいいのかな」
多輝は難しい顔でぼそりと呟いた。すると由梨佳が不思議そうな顔で多輝を見る。多輝は視線を感じて目を上げてから手元に視線を戻した。
「うん……。実はさ。おれ、女の時にあんまオナニーとかしなくて」
さっきは優一郎に久しぶりに再会したことで我慢が出来なくなってしてしまったが、普段はしない。多輝は小声でそのことを説明した。
「わたしだったら、一日自慰しなかったら壊れてしまうわ」
やっぱり機体と言っても違うのね。思案顔で由梨佳が言う。そうかも、と答えながら多輝は取り外した小さな陰唇をトレイに乗せた。続いてドライバーを使って小さなねじを外していく。
「ちょっと触るとどうしても中に本物が欲しくなっちまって、駄目なんだよな」
ため息を吐いて多輝は力なくうなだれた。だが思い直してすぐに作業を再開する。どうやらバイブを取り付けている部分のギアが外れてしまったらしい。バイブを膣口と連動させているため、急に緩んでしまったのだ。
「わたしはプログラムで調整してあるから……。でも、普通のヒューマノイドで自慰無しで維持してる人なんて、数えるほどだと思うわ」
自慰嫌いだとヒューマノイドの適性にかなりマイナスされるのよ。由梨佳はそう言うのを聞いて、多輝は何気なく告げた。
「優一郎に見られながらするのは好きなんだけどなあ……」
そう言ってしまってから多輝は慌てて首を横に振った。優一郎に迷惑をかけないようにしようと決めたばかりなのに。そう胸の奥で呟く。ドライバーの先を用いて外れていたギアをはめ込み、ついでに膣周辺の緩んだねじを締めなおす。
「あの、わたしは多輝くん以外に抱かれるなんて考えられないけど、多輝くんはそのあたりは抵抗ないんでしょう?」
「ああ、うん。排泄処理みたいなもんだろ?」
多輝はさらっと言って目を上げた。すると複雑な面持ちをした由梨佳が首を傾げているのが見える。
「そのあたりの考え方は、人それぞれだと思うから、優一郎さんに、相談したらどうかしら?」
「いや。もう迷惑かけないって決めたから」
それに要らないんなら女でいる必要もないし。そう言ってから多輝は静かに由梨佳の陰部に部品をはめ込み始めた。待ち針の頭のような形のクリトリスをはめ込み、次いで大陰唇と小陰唇を先に組み立ててから由梨佳の陰部にはめ込む。
「大切な部分をこんなふうに修理されるのって凄く恥ずかしい」
真っ赤になった由梨佳が小声で呟く。多輝は慌てて顔を上げて作業の手を止めた。
「あー……えっと、おれが触らない方がいいか?」
もしかしたら由梨佳は不快なのだろうか。そう考えながら多輝は訊ねた。多輝自身はこうして由梨佳の修復をしたりするのはとても好きなのだ。
「違うの! 恥ずかしいけど、嬉しいの! 多輝くんが、わたしを大切に想ってくれてるのが嬉しいし、それに多輝くんになら恥ずかしい姿を見られてもかまわないって感じるから」
赤い顔をしたままで由梨佳が言う。多輝はそうか、と笑ってから由梨佳の陰部にめくれていた人工皮膚を被せた。
じっと由梨佳を見つめて多輝はおもむろに口を開いた。
「……なあ。おれ達ってどうしてここにいるんだっけ」
そう言って多輝は使った道具を片付けるために立ち上がった。棚に近づいた多輝を由梨佳が目で追う。
「弱い者から襲われる可能性があるからでしょう? 例えば、わたしが人質にとられたら、多輝くん、どうする?」
「困るし、嫌だし、多分取り返しに行くけど」
そこまで言って多輝は肩を竦めた。
「おれがずっと傍にいれば別に問題ないんだよな? もし由梨佳をどうにかしようとしたら、おれだってどうにかされるんだろ?」
トレイを片付けて多輝は由梨佳の傍に戻った。由梨佳は不思議そうな顔をしている。多輝は静かに由梨佳を抱えてベッドに向かった。ベッドに腰を下ろして膝の上に由梨佳を乗せる。
「わたし、多輝くんの足手まといになるくらいなら自爆するわ」
「怖いこと言うなよ。……でもおれが居なくなったら由梨佳、どうする?」
由梨佳の髪に額をつけて多輝は小声で訊いた。
「多輝くんが居なくなったら。わたしは存在を続けることができないわ。わたしのマスターは多輝くんだけだもの」
多輝に寄り添いながら由梨佳が言う。多輝は微かに笑って由梨佳をそっと抱きしめた。細い身体は両腕にすっぽりと納まってしまう。
「……おれが死んだら由梨佳も一緒に死んじまうのか」
少しの間、由梨佳の肩に顔を埋めてから多輝は微かに笑った。
「だって、わたしは多輝くんが居たからこそ、こうしてヒューマノイドになって、存在を続けられるのでしょう?」
優しく諭すように言って由梨佳が多輝の背を撫でる。そうだよな、と呟いて多輝は目を閉じた。
さっき優一郎が言いかけていたことを思い出す。優一郎は命に関わると言っていた。相手があの水輝だ。もしもかかってくるなら容赦はしてくれないだろう。何となく多輝はそう感じて小声で笑った。
「おれ、あいつには恩があるんだ」
自分がここに居られるのも、優一郎や絵美佳、斎姫や奈月、そして由梨佳に出会えたのも全て水輝が居たからこそだ。多輝は由梨佳の肩に顔を伏せたまま、ごく小さな声でそう言った。
「わたしはあまりお話する機会がなかったけど、水輝さんってとてもそんな酷いすることをする人には見えなかったわ。逆に、凄く繊細で、佑さんや奈月さんを傷つけまいと苦労してらっしゃるように見えたの」
「そなのかな……。甲斐性なしとか言ってるヤツもいたけど」
そう答えて多輝は少しだけ笑った。しばし笑ってから深い息を吐いて顔を上げる。
「ごめん。おれ、あいつがもしかかってきたら、たぶん」
抵抗しない。そう言って多輝は由梨佳をじっと見つめた。
「多輝くんの判断に従うわ。わたしは多輝くんのものだもの」
にっこりと笑って由梨佳が言う。多輝は由梨佳の肩にもう一度顔を埋めた。
「ごめん」
囁きで詫びて、多輝は由梨佳をしっかりと抱きしめた。
ろまんちすと多輝w
というか、イチゴだから仕方ない!! のです!