あ、エロシーンはありません。
不意に足音が聞こえてくる。佑は厳しい顔をして振り返った。駆けて来た少女が慌てたように急ブレーキをかけると、その背中に少年や別の女性が立て続けにぶつかった。うわ、と声を上げた少女ごと、駆けて来た連中がまとめて廊下に引っくり返る。
「いててて……」
涙を目に浮かべて言ってから、少女が立ち上がる。見間違いでなければ、あのふざけた格好をしているのは多輝ではないだろうか。バストが強調されたデザインのレオタードもどきを身に着けた多輝を佑はうろんな目で見つめた。
「今日のおれはもの凄く不機嫌だ!」
手にしたバトンのような杖の先を佑に向けて多輝が声を張る。
「……多輝くん。あなたってそういう趣味があったんだ」
佑は憐れみの目で多輝を見つめた。すると多輝がうっ、と声を詰まらせる。目に涙を浮かべた多輝が背後に立っている少年と女性とを振り返る。少年の方は確か木村透という名だったか。女性……に見える、実は両性を備えた人物は笹塚学だ。
「やられたわ。時間を稼いでいたのね。人形にしてはやるわね」
佑はにっこりと道代に笑いかけ、光の力を弾にして投げつけた。光の弾を叩き込まれた道代が艶かしい声を上げて股間をかきむしるように自慰を始める。その間に佑は廊下の先に向かって走った。
「待て!」
慌てた声を上げて多輝が追ってくる。佑はビルの構造を知り尽くしていた。廊下を曲がってすぐにある消火器を蹴飛ばして転がす。駆けて来た多輝が消火器に足を取られて転んだ隙に佑は先を急いだ。
遠くからひーめーさーまー、という悲鳴じみた声が聞こえてくる。佑は舌打ちをして足を止めた。階段を上がってきたらしい人影が佑の視界に割り込んでくる。背後からは多輝が追ってくる。
「よくもやりやがったな! 人が必死で我慢してるのに、こかされた拍子に漏れたじゃねえか!」
訳の判らないことを叫んで多輝がスカートのポケットから何かを取り出す。佑は慌ただしく廊下の反対側を見た。幼い子供を抱えた奈月が唇を引き結んでいる。その後からぜいぜいと息を切らした桜が追いついてくる。
「多輝くん、あなたも人形なのね」
そう言うなり、佑は鋭い呼気を吐いて光の弾を三連発で放った。慌てた声を上げた多輝の手前で光の弾がうねって逸れる。
「いやぁん、キケンよ、キケン。うっかり食らうとオナニー地獄にはまっちゃうぅ」
呑気に笑いながら学が駆けてくる。どうやら光を弾いたのは学らしい。学に続けて透もその場に姿を現す。
「もー、怒った!」
どことなく内股になった多輝が涙をぽろぽろと零しながら声を張る。
「翠! 行くぞ!」
多輝に声をかけられた翠がこくん、と頷く。多輝はカードを宙に放って杖をバトンのように回した。
「もぎたて!」
多輝がそう叫ぶ。その意味が判らず、佑は一瞬躊躇した。その隙に多輝が言葉を継ぐ。
「ぴちぴち! 果汁たっぷり!」
叫んだ多輝の背後で学が口許に手をあてがって、たっぷり! とコールする。何なのだろう、この連中は。逃げるべきなのか、反撃するべきなのかを迷いながら佑は眉を寄せた。
「我に甘酸っぱいフルーツを与えよ! 必殺! 大盛りフルーツパフェ!」
泣きながら多輝が呪文を結んだ瞬間、佑の頭上から大量の苺が降ってきた。悲鳴を上げた佑を埋め尽くし、苺が廊下に山積みになる。
「よくも、やってくれたわね!」
怒りに声を張った佑は閃光を発して苺を焼き尽くした。その場に身を起こしかけた佑は、多輝が泣きながら杖でカードを叩いているのを見た。
「甘い! 続いてアイスクリーム! メロン! 生クリームたっぷり!」
内股になった多輝はもぞもぞと腿をすり合わせている。だがその様を見ることもなく、佑は降って来た大量のアイスクリームに押し潰された。その上にメロンが丸ごとごろごろと降って来る。飾り付けのための生クリームが盛られ、佑は頭だけを出して呻き声を漏らした。
「もしかして、あなたたち、わたしをバカにしてる?」
ひくりと頬を引きつらせた佑の頭にカットされたバナナがぼとぼとと落ちてくる。続いてウエハースが、その次にチョコスプレーが落ちる。立て続けに頭にそれらを食らった佑の前にゆらりと透が歩み寄る。
「降伏しろ。六対一で勝ち目があると思うか?」
その場にしゃがみこんで透がにやりと笑う。佑は鋭い目で透を睨みつけた。だが頭に乗ったクリームにバナナが幾つも刺さっていて、本人が思うほどに迫力はない。
「茶道、書道、ピアノ、日本舞踊、その他にもいっぱい、わたし習い事をしてたわ」
低い声で語る佑を透が怪訝そうに見る。
「そのなかでも一番得意だったのが、これよ!」
閃光を発して佑はアイスクリームやバナナを一瞬で焼き尽くした。手の中に現した青宝珠を瞬く間に刀に変え、佑は気合を発して透に斬りかかった。反応の遅れた透の首目掛けて刀が走る。
けたたましい音がして佑の刀が弾き返される。佑はぎらりと目の前に現れた人物を睨みつけた。透と佑との間に割って入った順がへらへらと笑いながら黒い鎌を肩に乗せる。
「ヤだなあ。ピンチの時は呼べってゆったじゃーん」
あはは、と軽く笑って順が鎌の柄を両手に握って振るう。慌てた声を上げた透が多輝と学に飛びついて廊下に伏せ、奈月と翠を桜が庇って廊下に伏せる。壁を切り裂いた鎌の刃を佑は咄嗟に鞘で受け止めた。
翠と多輝のタッグはなかなかいいと思うのです。