多輝も頑張ってたんですけどね(棒読み)
エロシーンはありません。
「赤龍!?」
佑は刀を脇差の形に変えて一気に間合いを詰めた。斬りかかった佑の脇差を素手につかみ取って順がにやにやと笑う。
「エー、そーですよ? アレがいなきゃ、一番の寵児になる予定だった、赤龍です」
そう言って順は無造作に鎌を握った手を振った。容赦のない重い打撃が佑の腹に食い込む。佑は壁に吹き飛ばされ、強かに頭を打った。血だらけになった手を振りながら順がへらへらと笑う。
「まだまだっ!」
光宝珠を眩い光に覆われた両手棍に変化させ、佑は跳ね起きた。鋭く突き出した佑の棍を順がひらりと避け、片手に握った鎌の柄を支えに踏み切る。体重を乗せた回し蹴りを胸に叩き込まれた佑は、吹っ飛びながら宙返りをして再度廊下を蹴った。
「あー……あれちょっと痛そうでやだなあ」
のんびりと呟いた順が素早く身を屈めて多輝の首根っこを捕まえる。驚いた声を上げた多輝のバトンがタイミングよく佑の打ち出した棍棒を弾く。そのまま放り投げられた多輝にぶつかった佑は廊下に引っくり返った。
「多輝くんっ! 何するのよ!!」
「え、ええ!? おれか!?」
佑ともみ合う格好で廊下に転がった多輝が焦った声で言う。その間に順は動いていた。鋭く息を吐いて揮った順の鎌から黒い雷が飛んでくる。多輝ごと雷に撃たれた佑は廊下の端まで吹っ飛んだ。
「いてぇぇぇぇぇえええええええ! ……って、あれ? 痛くない」
悲鳴を上げた多輝が不思議そうに自分の身体をあちこち触りながら立ち上がる。だが佑は苦しみの呻きを漏らして身体を震わせていた。全身が痺れて動きが取れない。
「戦闘中なのに、ぱんつぐっしょり濡らして! あなたヘンタイ?」
佑は苛立ち紛れにそう叫んだ。すると多輝が慌てて短いスカートを押さえる。懸命にショーツを隠しながら多輝は泣き始めた。
「しっ、仕方ないだろ!? 急に女になれって」
「少しは連携とか考えなよねー。キミら、防衛してるんしょ?」
相変わらずへらへらと笑いながら順がゆっくりと歩き出す。不服そうな顔をして透が身を起こし、学がそうねぇ、と呟きながら立ち上がる。様子を伺っていたらしい奈月も翠を抱えて立ち上がる。その足には何故か桜が絡まっている。
彼らは廊下の端で痺れて動けなくなっている佑の傍に集まった。一人、多輝だけが人の輪に背を向けて必死の面持ちでスカートを伸ばそうとしている。
「降参するわよ!」
そう言いながら佑は辛うじて動く指先で光の弾を天井に向かって弾いた。光の弾が素早く宙を駆けて多輝の身体に飛び込む。その途端、多輝は悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。
「やだやだやだやだ、いーやーだー!」
必死で自分を抱きしめて多輝が叫ぶ。あーあ、とため息を吐いた順が手の中の鎌を消して自分の肩を揉み解す。
「強いのね」
大丈夫か、と透や学が多輝を気遣っている合間に佑は悔しさをこめて順を睨んだ。順が苦笑して肩を竦める。
「ま、場数だけは踏んでるからねー。それにしてもキミ、何しに来たのさ?」
そう言いながら順が軽く足で佑の肩を蹴りつける。佑はふい、と顔を背けて黙り込んだ。やれやれとため息を吐いた順が透を呼ぶ。
「どーすんの、このおじょーさん。連れて帰んの?」
「あなたこそ、何しに来たのよ!?」
順の声を遮って佑は喚き散らした。すると順が困ったねえ、と笑いながら頭をかく。その手が血だらけなことに気付いたのか、順は今度は反対側の手で頭をかいた。
「や、ほら。愛しの息子を助けるパパってセンでどう?」
「オヤジっ!」
怒声を張って食ってかかろうとした透は悔しそうに唇を噛んでそっぽを向いた。あ、嫌われた。と哀しそうな顔をして順が呟く。泣き真似をひとしきりしてから順はくるりと踵を返した。
「ほんじゃま、後はてけとーにやってちょーだい。オレは退散するよ」
ばいばーい、と呑気に言いながら順が片手を上げる。
「違う! 俺は!」
そう言って透が振り返る。だが順は転移した後だった。そのことを見て取った透が俯く。
「それで? このコ、マジでヤバいけどどうする? そこのお嬢さんの処置も早く決めないと」
廊下にへたり込んで失神してしまった多輝と佑とを交互に指差して学が言う。するとそれまで俯いていた透がのろのろと顔を上げる。
「多輝はあんたが抱いておいてくれ。とりあえず毎日が緊急事態だからな」
「まあいいけど」
そう言って学が両手に多輝を抱き上げてその場からかき消える。透はそれを見送ってから佑に目を戻した。不安そうな顔をして奈月の足に絡まっていた桜は、漸く自分が何をしているのかに気付いたのか、慌てたように立ち上がる。奈月はかたい顔で佑を黙って見つめている。
「数を頼んだところで、烏合の衆ではどうしようもないわ。あの赤龍が来なかったら、どうなってたかしらね」
負け惜しみと知りつつも佑はそう言い放った。透が顔を強張らせて目を見張る。どうやら相当にショックを受けているらしい。
「使えるモノは親でも使う! 何か間違っていますか?」
握りこぶしを固めた桜がそう言って佑を睨む。
「正論ね。ただの負惜しみよ」
そう言って苦笑して佑は透を見た。透は悔しそうに顔を歪めている。佑はふいと透から目を逸らして、驚きに息を飲んだ。見慣れた姿が廊下の向こうに見える。訝りの表情になった桜が佑の視線を追って絶句する。
「そうだな。使えるものは何でも使うのが正しいやり方だろうな」
口許に嗤いを浮かべて水輝が指を鳴らす。その瞬間、佑はその場からかき消え、次の瞬間には水輝の腕に抱かれていた。驚きに息を飲む間もなく、佑は水輝と共にその場から転移した。
一瞬で見慣れた場所に出る。水輝は黙って佑を放して低く呻いた。腕を押さえて治療の力を導いている。佑の身体はいつの間にか自由に動かせるようになっていた。
「水輝さん、ごめんなさい。わたし、また……」
しょんぼりとした顔をした佑をちらりと水輝が見る。身を折っていた水輝は少しだけ笑ってみせた。
「いいからその格好をどうにかしてこい。甘ったるい匂いがするぞ」
そう言われて佑ははっとして自分の姿を見下ろした。服にはたっぷりと苺の果汁が染み付いている。おまけに髪にはアイスクリームや生クリームが残っている。恥ずかしさに真っ赤に頬を染め、佑は慌ててバスルームに向かった。
途中で水輝が助けに入りました。
というか、退散するのを手伝ったというか?w