エロシーンはないです。
ものすごい勢いで多輝がバスルームに駆け込む。がちゃん、と鍵を下ろした音がした後、少しの間を空けてシャワーの落ちる水音がし始める。それを聞いてから優一郎は透に目を戻した。
「姉さん、端的に用件をお願いします」
身体のだるさを感じながら優一郎は小声で言った。出来るなら今すぐにでも眠ってしまいたい。
「単刀直入に言うぞ。要を一月ほど借りたい」
真剣な表情で透が言う。どうやら冗談を言っている訳ではないらしい。それに顔つきから考えると、色っぽい理由でもなさそうだ。
「彼女は物ではありません。本人の意思もありますし貸せと言われて……」
「緊急事態だ。風の貴婦人にも話は通してある。あいつの仮マスター権をくれ」
優一郎の言葉を遮って透が言う。いつになく強い口調に優一郎は少し眉を寄せた。いつもと同じように白衣を身につけた透は難しい顔で腕組みをしている。
「彼女をどうするつもりですか?」
そう訊ねながら優一郎は布団を肩まで引き上げた。油断すると睡魔が襲ってきそうになる。優一郎は意識を何とか保って透を見つめた。
「武術の訓練を頼むつもりだ」
それを聞いた優一郎は訝りに眉を寄せた。確かに透は武術の類には触れたことがないだろう。幼い頃から研究だけが生きがいだった絵美佳は、その手のものには一切関わっていない。
「急にどうしたんです? 確かに要さんなら適任でしょうが、彼女はヒューマノイドで、しかも、白銀さんを失って現在は精神的に不安定なはずです」
後でゆっくり修理しようと思っていたんですけど。そう続けて優一郎は訝りの目で透を見た。透は少し俯いている。
「要の修理とメンテナンスは俺がする。だから頼む」
そう言って透が頭を下げる。優一郎は驚きの目で透を見つめた。これまで透はただの一度も優一郎に頭を下げたことはない。その透が頭を下げているのだ。よほどのことなのだろう。
「姉さん……そんなに要さんのことを……」
「ちがぁう! そりゃあ、あのミサイル胸けっこういいじゃん! とか、一からじっくり調教してやりてえ! とか思ったこたぁあるが! それから姉さんゆーな!」
優一郎の言葉を遮って透が声を張る。優一郎は透の勢いに驚いて何度か瞬きをした。肩を怒らせて叫んだ透が腕組みをしてふんぞり返る。そう、絵美佳だった頃の透はごめんと詫びる時ですらこうしてふんぞり返っていたものだ。
「それでこそ姉さ、いえ、兄さんですよ」
くすくすと笑った優一郎を透が嫌そうに睨みつける。
「兄さんって呼ばれるのもやっぱなんかしっくりこないな。透って呼べ」
自分で言ったものの気に入らなかったのだろう。透がそう注文をつける。優一郎は苦笑を浮かべた。
「それでは透さん。要さんの件、了承しました。プログラミングスティックを一本と、携帯端末を持ってきていただけますか?」
そう注文を付けると透は頷いて腕組みを解いた。白衣のポケットに手を突っ込み、優一郎の注文したものをそれぞれの手に握って差し出す。どうやら最初から透は優一郎が頷くものと思っていたらしい。
「準備万端ですね。十分ほど、お待ちください」
受け取ったスティックを携帯端末に繋ぎ、優一郎はプログラムを入力し始めた。手持ち無沙汰なのか、透が部屋をうろうろと歩き回る。その目が時折ちらちらとバスルームに向く。どうやら透も多輝がバスルームで自慰に耽っていることには気付いているらしい。あれだけ激しく感じていれば、シャワーを出していてもさすがに勘付くだろう。
「透さん。駄目ですよ。多輝はやっぱり僕の物になると、誓約を交わしましたから」
それから例の誓約は管理者権限で破棄しときますね。ベッドにうつ伏せになってキーボードを叩きながら優一郎は笑った。すると焦ったように透が優一郎を振り返る。
「淫魔王から聞いてはいたが、やっぱりそうだったのか……」
がっかりした顔で透が呟く。優一郎は口許に笑みを浮かべて透をちらりと見た。すぐに目を端末の画面に戻す。
「優一郎、そういえば、白銀のことだが……」
ふと、真顔になって透が言う。キーボードを叩きながら優一郎は答えた。
「このスティックに収録するメッセージで彼の死については伝えます」
要にこめられていた白銀の宝珠は今はもうない。要はそれからすぐに壊れたようだし、恐らく白銀が死んだことには気付いていないだろう。
「サブマスターでもメインマスターと同等の権限、つまり、要さんの制御に関する全ての権限を与えます。心理的に動揺すると思いますが、もし、それを抑えられないようなら諦めて、電源を落してください」
そう言ってから優一郎はスティックの先についているコードを端末から抜いた。端末と揃えてスティックを差し出す。透はそれを受け取って白衣のポケットにしまいこんだ。
「わかった。さんきゅ。寝てる間は俺達が絶対守ってやるから、ゆっくり休めよ」
透の言葉に頷いて優一郎はベッドに入り直した。それからすぐに目を閉じる。身体の力を抜くと心地よい睡魔が襲ってくる。
「多輝……。姉さんは行ったよ……」
透の気配が部屋から消えたことを確認して優一郎は呟いた。シャワーの水の音が止まり、裸のままで多輝がふらふらとした足取りでバスルームから現れる。多輝は優一郎の横たわるベッドにもたれかかって自慰をし始めた。甘い声が優一郎の名を呼ぶ。
「多輝、斎姫に効率的な自慰のレクチャーを依頼しておいたから、今晩はそのレッスンを受けること。いいね?」
優一郎の声に多輝が判ったと返事をする。うっとりとした目で優一郎を見つめ、多輝は股間を弄っている。その気配を感じて優一郎は微笑みを浮かべた。
「それじゃあ、七十二時間後に……。多輝……おやすみ……」
慌てた声を上げた多輝を余所に、優一郎は深い眠りに沈んでいった。
ミサイル乳! 良いですよね!★