そろそろ登場人物紹介とか必要でしょうか……。
エロシーンはありません。
転移の後、鈍い音がして傍にいた透が床に崩れ落ちる。奈月ははっとして慌てて透に呼びかけた。大事そうに抱いていたカプセルが透の腕から転げ落ちる。急に何人もが現れたことに動揺したのか、由梨佳が驚いた顔をして自慰の手を止める。
奈月は慌てて抱いていた翠をベッドに寝かせ、透に駆け寄った。透は虚ろな眼差しをしてどこか知れないところを見つめている。学の傍にいた文が蒼白な顔で震えている。透の顔色は学と同じようにどんどん悪くなっていく。
「翠色の……力でした」
掠れた声で呟いて奈月は透を見つめた。学の傍にいた文が立ち上がる。文は透の傍に跪いた奈月に近づいた。
「姫君! どういうことなのか、説明していただけますか?」
声を荒らげた文が鋭い目で奈月を見つめる。一人、部屋の隅にいた由梨佳が心配そうな顔で奈月と文とを見比べる。だが口を挟むべきではないと思っているのか黙っている。
奈月は困惑して俯いた。転移の瞬間、ほんの刹那の間に翠色の煌きが見えたような気がする。だが次の瞬間には転移の術は終わっていて、視界が開けた途端に透が倒れたのだ。
唇を引き結んで俯いてしまった奈月を文が怒りのこもった目で見下ろす。
「黙っていてもわかりません! 生憎、読心術のような高度な術は私ごときには使えませんので、どういう状況なのか、教えていただけますか? まだ、説明いただいてないと思うのですが? 気のせいでしょうか?」
問い詰められた奈月は泣きそうな顔をして文を見た。そうしている間にも透の身体からはまるで砂時計の落ちる砂のようにどんどん力が抜けている。
「わたしも……詳しい事は……」
そう言って奈月は顔を伏せた。見えたのは翠色をした煌きだけだ。だがその意味を奈月は心の底では理解していた。いなくなった翠宝珠と龍神の力をなくしていく透。あのラスティを結界の内側に入れたのは他の誰でもない自分だ。
「詳細はご存知無いとおっしゃるんですね? では、概略だけでも教えていただけますか? それとも、私ごとき下賎な人形には話せませんか?」
言葉尻もきつく文が言う。奈月は涙を目に浮かべてのろのろと顔を上げた。
「下賎だなんて、そんな……」
「話を逸らさないでください!」
奈月の弱々しい声を遮って文が声を張る。文の怒りに吊り上げられた目にはいつの間にか涙が浮かんでいた。よく見るとスカートを握りしめる手も震えている。学が倒れ、透が倒れ、文は本当はとてつもない恐怖を感じて震えているのだ。
「わたしの……、わたしのせいです。わたしが……」
泣きながら奈月は声を詰まらせた。文が怒りに顔を歪めて罵倒しようと口を開きかける。その瞬間、由梨佳の部屋の中に愛らしいメロディが鳴り響いた。奈月は慌てて音のする方を見た。透の白衣のポケットの中から音は聞こえている。
「電話のようですね。代わりに出られたらどうですか? 以前にも青龍王から携帯電話を介して連絡があったと聞いていますし」
文の冷ややかな声に促されて奈月は透の白衣のポケットから携帯端末を取り出した。通話ボタンを押して耳にあてがう。
『開けて』
低く、呻くような順の声が聞こえてくる。だがその直後、電話の向こうからけたたましい音が聞こえてきた。逡巡した奈月の耳に順の怒鳴り声が聞こえてくる。
『結界を開けろ! 俺を通せ! 早く!』
「茜さん……!」
奈月は順に呼びかけながら電話を両手に握りしめた。
『早くしろ! 俺を呼べ! 透がどうなってもいいのか!』
慌ただしく言った直後、順が低い呻きを漏らす。
「でも……」
困惑に顔を歪めて言った瞬間に奈月の手から電話がなくなる。携帯端末をひったくられた奈月は慌てて顔を上げた。
「赤龍王でいらっしゃいますか? 至急の事態ですが、姫君はどうしようもありません。もし、私ごときで可能なことがありましたらお申し付けください」
淡々と話す文が返事をしながら頷いている。奈月は呆然とそんな文を見上げた。
「わかりました。すぐに参ります」
電話を切った文が自分の股間に手を入れて弄った後、学を右の肩に、透を左の肩に背負う。
「姫君。ごきげんよう」
そう言った文が身体を軋ませ、異常に大きなモーター音を響かせながら部屋を出て行ってしまう。奈月はそんな文に声を掛けることすら出来ず、泣き始めた。
「奈月さん、わたしは多輝くんのところへ行くわ」
それまで呆然と状況を見守っていた由梨佳が慌ただしく部屋を駆け出す。奈月は泣きながらベッドに横たわる翠を見やった。
不意に翠がむくりと身体を起こす。
「愚か者が」
そう翠が呟いた直後、どこからともなく聞き慣れたラスティの声が響いた。ラスティの叫びが徐々に遠のき、やがて消える。翠は無言でベッドを降りながら指を鳴らした。その瞬間、部屋に血だらけの順が現れる。奈月が驚いている間に翠は部屋を横切り、ドアを開けて声を張った。
「文の巫女! 戻れ! 手間を省いてやったぞ!」
廊下に立つ翠の鋭い声が響く。その後、翠は見た目にもはっきりと不機嫌な顔で部屋に戻ってきた。裂けたシャツの残骸だけを身体に纏わりつかせた順がぎらりと奈月を睨む。
「あの、茜さん……。わたし……」
「お前が俺を疎んでいるのは重々承知だ。だが、これで透が死んだら俺がお前を殺す!」
腹の底から声を張って順が身を起こす。手にしていた携帯電話を放り捨てて順はよろけながらドアに向かって歩いた。二人を担いだ文が戻ってくる。順は慌ただしく透を受け取ってその場に屈んだ。間に合う、と呟いて透の頭を片手に抱えて口づける。するとそれまでどこかに向かって流れつづけていた透の力の流出がぴたりと止まった。虚ろに開いていた透の目にやがて生気が戻ってくる。
「赤龍王……結局、お役にたてず、もうしわけありま……せん。もし、もしも余力がございましたら、学さま……も……」
ばちんと大きな嫌な音を立てた後、文がその場に崩れ落ちる。不機嫌な顔で腕組みをしていた翠がため息を吐いて文に近づく。
文が奈月へ抱く感情は複雑なのです(汗)
そして順がキレてますw