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ここから九章です。
どこからともなく飛んできたプレゼント 1
水輝から少し離れた場所に立って佑は消沈した面持ちになった。水輝はあの客間から書斎に戻ってソファに寝そべっている。佑は上目遣いにちらちらと水輝の様子を伺った。水輝はずっと黙って本を読んでいる。
ふと、水輝が本を開いたまま胸に乗せる。やっと話してくれるのだと感じた佑はぱっと顔を輝かせた。水輝がゆらりと宙に手を差し伸べて薄く笑う。
「ご苦労」
労いの言葉をかけた水輝の手の中にどこからともなく翠宝珠が現れる。水輝は手の中に降りてきた翠宝珠を嗤いを浮かべて天井にかざした。するとどこからともなく流れてきた煌びやかな輝きが光の帯になって水輝の身体に吸い込まれ始める。
「氷……」
佑はぽつりと呟いた。最初は細かった光の帯が徐々に太さを増し、凄まじい勢いで水輝に吸い込まれていく。水輝は指の先で翠色の宝珠をくるくると回しながら喉の奥で笑い始めた。
「さすがに時を置いて生まれただけはあるな。無駄に力をつけていたらしい」
独り言のように呟いて水輝が両腕を軽く広げて光を全身で受け入れる。佑はそんな水輝の様をじっと見つめていた。
ふと、光の奔流が途切れる。それまで嗤いを浮かべていた水輝が険しい表情をして鋭く舌打ちをする。水輝はしばし黙っていたが、やがて肩を竦めてソファに身を横たえ直した。手の中の翠宝珠を弄びながら薄く嗤う。
「まあ、大部分は吸収できたな。……立城!」
水輝が天井に向かって声を張る。するとふわりとその場に立城が現れた。天井付近に現れた立城の姿が少しだけ成長している気がする。今は中学生くらいの体型をしているのではないだろうか。
『きみもせっかちだね』
笑いながら立城がふわりと水輝の上に近づく。水輝は手にしていた宝珠を放って両腕を伸ばし、立城を抱き寄せた。唇を合わせた二人の間で唾液の音が立ち始める。深く口づけを交わす二人を見つめ、佑は寂しさに顔を歪めた。
佑は首を横に振った。そんなこと、考えちゃいけない。そう自分に言い聞かせる。だが佑が暗い顔をしている間に水輝の頬に徐々に赤味が差す。顔を上げた立城がくすりと笑って水輝の耳朶に触れる。
「ん」
佑は初めて聞く水輝の掠れた甘い声に唇を噛んだ。
『可愛いよ水輝……』
くすっと笑った立城が音を立てて水輝の耳朶に口づける。熱い息を漏らして水輝はされるがままに横を向いた。露になった水輝の首筋に立城が唇を寄せる。水輝の胸に乗っていた本が鈍い音を立てて床に転がり落ちる。佑は慌ててソファの前に転がった本を拾いに近づいた。だが傍に寄ってもまるで佑に気付いていないのか、水輝はうっとりとした面持ちで立城を抱きしめている。
「おじさま、水輝さん、疲れたから休息をとっていいかしら?」
本を胸に抱えて佑は身を強張らせて告げた。立城がゆらりと顔を上げて首を傾げる。水輝が閉じていた目をゆっくりと開けて横目に佑を見る。
『そうだね。そろそろ子供は寝る時間だし』
笑いながら立城が言えば、水輝もつられたようにくすくすと笑う。
「そうだな。秘め事は人に見せるものでもないしな」
ひらひらと佑に手を振って水輝が立城の髪に唇を落とす。佑は戸惑いつつも静かに二人から離れた。足音を立てないように書斎を後にする。閉めたドアの向こうに掠れた水輝の声を聞いて佑はため息を吐いた。
力なく肩を落として佑は自分の部屋に向かった。静かに自分の部屋のドアを開けて中に入る。佑は胸に本を抱えたまま、机に寄った。本を机に乗せ、椅子を引いて腰掛ける。疲れた息を吐いて肘杖をついた佑は俯いた。
水輝が立城を求めていることは判っている。それを邪魔するつもりはない。どんな理由があるにしろ、出来るだけ水輝の力になりたいと思う。なのに自分は何で役に立てないのだろう。
「さっきだって」
そう呟いて佑は消沈した面持ちになった。蒼に抱かれろと言われて佑は水輝に従ったつもりだった。だがどうしても佑には他の男に抱かれることに嫌悪感があった。そのために水輝は不満を感じたようだ。その上、佑が感じていたものを叩きつけた途端、蒼は昏倒してしまった。
水輝は失敗した佑を叱責しなかった。もういい、と呟いて昏倒した蒼をその場に縛り付けて転がしてから、水輝は客間を出て行った。追いすがる佑にシャワーを浴びて着替えるようにとだけ言って水輝は書斎にこもってしまったのだ。
結局、佑はたった一人で昼食を摂った。水輝に恐る恐る訊ねると、食事は要らないとすげなく断られたのだ。
「役に立たないまま消えるなら、いっそのこと、水輝さん手ずから討たれたほうがましだわ」
そう呟いて佑は疲れた顔をして頭を起こした。失敗を繰り返すだけの自分にどんな価値があるのだろう。だが水輝は佑のことを必要だと言ってくれているのだ。それを疑う訳ではない。
寂しい気持ちで佑はため息を吐いた。
不意に何かが目の前に落ちてくる。反射的に身体を起こした佑の目の前に幾つもの愛らしい包装をされた箱が落ちてきた。どれもこれもがプレゼント用にラッピングされ、綺麗なリボンがかけられている。佑は驚きに目を丸くして天井を仰いだ。だがそこには何もない。
罠? そう心の中で呟いて佑は訝りの目で山積みにされたプレゼントを見た。意識の糸を伸ばして箱を探ってみる。そこで佑は目を見張って息を飲んだ。箱からは水輝の力が感じられるのだ。
佑は顔をほころばせていそいそとプレゼントを開封し始めた。リボンを丁寧に解き、破ってしまわないように注意深く包装紙を剥がし取る。現れたシックな羅紗の張られた小さな箱を手に取った佑は、ごくんと唾を飲んでそっと蓋を取った。
美しい青いサファイアが真っ先に目に留まる。台座はプラチナだ。佑は満面に笑みを浮かべて箱の中の一対のピアスを取り上げた。
「穴、開けなきゃ」
佑は慌てて立ち上がってドレッサーに近づいた。箱の中に大切にピアスを戻してドレッサーの前に置く。佑は慌ただしくドレッサーの引出しを探った。一度も使ったことのない、ピアッサーを見つけて取り出す。説明書に急いで目を通した佑はよし、と頷いた。
「痛く、ないわよね?」
初めての経験に佑の脈が速くなる。佑は呼吸を整えてから恐る恐る箱からピアッサーを取り出した。通常はピアスホールを安定させるために医療用のピアスを打ち込んで一定期間は抜かずにそのままにしておくらしい。開けたばかりのピアスホールはただの傷口だからだ。だが、穴が開いてしまえば力を使ってピアスホールにしてしまうことは可能だろう。その後、青い石のついたピアスに変えればいいのだ。
佑は鏡を覗き込んでピアッサーで耳朶を挟んだ。よく見えるように髪を耳にかける。鏡を覗き込みながら、佑はピストル型のピアッサーの引き金をひいた。ぷつん、と小さな音がしてちくりと耳朶が痛む。だがその痛みは一瞬だった。
佑はうきうきわくわくですw