※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 一部 二人の水輝   作:伊駒辰葉

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エピタイは作者のもの!
ちょっと長めですがエピタイをこれにするために切らないことにしました!w
エロシーンはありません。


それはコロナじゃないので!w

 暗い空が見える。水輝は窓の外の空をぼんやりと見つめた。いつの間にか夜になっているらしい。水輝は痛む頭を押さえて顔をしかめた。

 

「なにが……どうなって」

 

 水輝は強くこめかみを押さえて掠れた声で呟いた。反対側の手で瞼を擦ろうとして顔をしかめる。何かが腕に乗っている。水輝は何度か瞬きをしてからそちらに目をやった。

 

「水輝。おはよう」

 

 水輝の腕に頭を乗せた少年がにっこりと微笑む。何度か目を擦ってから水輝は息を飲んだ。

 

「た……つ、き?」

 

 美しい京紫の一対の目が自分を見つめている。そのことに心底驚いて水輝は絶句した。震える手で立城の髪を撫でる。

 

「ひさしぶりって言ったほうがいい?」

 

 もやを纏ったあやふやな存在ではなく、はっきりとそこに実在して立城が微笑む。立城は十五歳くらいの大きさに成長していた。水輝は震える手で立城の髪を撫ぜ、小さな角に触れた。

 

「本当に……? 本物、なのか?」

 

 寝起きの掠れた声で問い掛けてから、水輝はごくんと唾を飲んだ。やけに喉が渇いている。剥き出しの水輝の胸に手をあてがった立城がくすくすと笑う。

 

「偽物だと思うの?」

 

 くすりと笑った立城を水輝は恐る恐る両腕に抱いた。包み込むように立城を両腕に抱えてから、思わず歓声を上げる。水輝は満面に笑みを浮かべて立城を強く抱きしめた。

 

「水輝……」

 

 そっと囁いて立城が水輝の胸に額を押し付ける。水輝は慌てて腕の力を抜いた。少し締めすぎてしまったかも知れない。壊れもののようにそっと立城を抱き直してから安堵の息を吐く。

 

「もう駄目かと思った。暗い闇が周りを満たして、立城の声が聞こえなくなって」

 

 水輝は立城の額に額を合わせて掠れた声で呟いた。いなくなってしまったはずだったあれが、心の奥深くから何度も襲ってきた。水輝は目を閉じてそう説明した。

 

「大丈夫、あれはかなりのダメージを受けたみたいだから」

 

 もしかしたら再起不能かもね。くすりと笑いを零した立城を水輝は不思議に思いながら見つめた。何かを忘れている気がする。必死で抵抗していた時に目障りなものがあって、それを殺そうと思ったのだ。だがそう出来なかった。水輝は曖昧になっている記憶を何とか引っ張り出してゆっくりと話した。

 

 喉の渇きを癒すためにベルを鳴らして使用人を呼びつける。二人分の茶を注文してから水輝はベッドに深く沈んだ。

 

「水輝。これから、どうするの?」

「そうだな。予定通りに食わないとな」

 

 立城の問いに答えて水輝は小声で笑った。しずしずとメイドが茶を運んでくる。ベッドサイドのテーブルに二人分の茶を準備してから、メイドは静かに部屋を出て行った。先に身を起こした立城がソーサーごとティカップを取り上げる。水輝は剥き出しになった立城の背中をじっと見つめた。つい、悪戯心のままに立城の背を指先で撫でてみる。小さな驚きの声を上げた立城が困ったような顔をして振り返る。

 

「次の予定は?」

 

 差し出されたティカップを受け取りながら水輝は身を起こした。背中の下に枕を敷いて寄りかかる。

 

「そうだな。赤がどうやら敵に回りそうな気配だが、あれは残すべきだろうし」

 

 考えを巡らせながら水輝は熱い紅茶に息を吹きかけた。自分の紅茶を取り上げた立城が振り返る。

 

「木龍、でどう?」

 

 その提案を受けた水輝は少し考えてからそうだな、と笑った。

 

「奴に力をつけられると何かと厄介だからな」

 

 そう答えて紅茶を啜ってから水輝は眉を寄せた。まるで味がしない。水輝は訝りの目で紅茶を見下ろした。綺麗な水色をした紅茶からはいい香りが漂っている。ごく薄く淹れられているという訳でもないらしい。

 

「どうしたの?」

「味がしない」

 

 正直に答えて水輝はもう一度、紅茶を啜った。やはり味がない。香りや温度はわかるのに、味だけが判らないのだ。それに喉の渇きは一向に納まらない。

 

「味覚異常……」

 

 思案顔で立城が呟く。水輝は何口か紅茶を飲んでみた。そこで諦めてカップをソーサーに戻す。水輝は身体を伸ばしてテーブルにカップを戻してから少しだけ笑った。

 

「別に問題はないと思うがな。ただ、どうにも喉が渇いて」

 

 そこまで言って水輝は首を押さえて咳払いをした。

 

「水輝。薬になるものがあるかもしれない」

 

 試してみるかい? そう言って立城が微笑む。特に何も考えず、水輝は素直に頷いた。乾ききった喉を息が通るたびにひりひりと痛むのだ。

 

「とりあえず起きよう」

 

 にっこりと笑って立城がカップをソーサーに戻し、テーブルに置く。水輝は言われるままにベッドを降りた。他にどうせ誰も居ない。二人は裸のままで広い寝室を出た。

 

 立城がゆっくりと廊下を歩いて行く。その横に並んで歩きながら水輝は思わず苦笑した。少し幼さの残る立城の目線がやけに低く感じられる。水輝は何となく手を伸ばして立城の頭を撫でた。

 

「水輝。そんな、子供にするみたいに」

 

 唇を尖らせて立城が訴える。水輝はぷっ、と吹き出してからはいはいと両手を広げた。

 

「じゃあ、これでどうだ」

 

 そう言うが早いか、水輝は器を構成する力を組み替えた。瞬く間に水輝の姿が掻き消え、次の瞬間、器がその場に再構成される。現れた水輝の姿は立城と同じ年頃の少年に変化していた。

 

「これなら目の高さは大して違わないだろう」

 

 水輝は肩を竦めて隣を歩く立城を見た。立城が優しい笑みを浮かべて水輝を見つめる。

 

「そうだね」

 

 くすりと笑った立城が手を伸ばす。水輝は手を握られて思わず苦笑した。立城は当り前の顔で水輝と手を繋いで歩いて行く。水輝は手を引かれるままに立城について歩いた。

 

 書斎の扉を立城が開く。そこに入った水輝は周囲を見回した。ここは確か自分が暴れた部屋の筈だ。どうやら壊れたものは立城が修復してくれたらしい。

 

「そこに、いくつか宝珠が落ちているでしょう?」

 

 そう言いながら立城が部屋の中央を指差す。水輝はそちらを見て眉を寄せた。床にやけに身体の透けた女性が倒れている。まだ年若い女性をまじまじと見てから水輝は立城を見た。

 

「あれは宝珠なのか?」

 

 透けた女性の周辺には確かに色んな色の珠が落ちてはいる。

 

「色は違うかもしれないけど、一応そうだよ」

 

 不思議そうな顔で言った立城にふうん、と答えてから水輝はゆらりと歩き出した。見慣れない色をした宝珠の中に、よく知る青い宝珠が混ざっている。点々と落ちた宝珠を目で辿ってから水輝は眉を寄せた。指を鳴らすと落ちていた自分の青宝珠が手の中に戻ってくる。

 

「何でこんなところにあるんだ? もしかしておれは無意識にこれを出したのか?」

 

 首を傾げながら水輝は右手と左手の青宝珠を交互に見つめた。

 

「不思議だね」

 

 そう立城が告げたしばらく後、ふと声が聞こえてくる。

 

『みずき、さん……。無事、だった、のね』

 

 声につられてそちらを向いた水輝は片方の眉を跳ね上げた。女性がいつの間にか頭を起こしてにっこりと笑っている。水輝は首を傾げてじっと女性を見つめてから立城に目を戻した。

 

「知り合いか?」

 

 そう言って水輝は親指を立てて女性を指し示した。

 

「何が?」

 

 不思議そうというよりは、訝りの顔をして立城が首を傾げる。水輝はしばし立城を見つめてから女性に目を戻した。もしかしたらこの女性は自分の目にしか見えていないのだろうか。

 

「ああ、それらの宝珠の持主のこと?」

 

 立城がそう言って水輝の示した方を見る。水輝はつられて指差した女性を見つめ、目を細めた。床には光る宝珠が落ちている。

 

『消えたくないって言ったら、我がままよね』

 

 そう言って女性が苦笑する。水輝はしばし女性を見つめてから、横に立つ立城を見上げた。

 

「そこに一人、女が居る。消えたくないって言っているぞ」

 

 水輝は見えていないらしい立城にそう説明をした。立城が何度か瞬きをしてから水輝のさし示すところを見つめる。それから立城は舌打ちをして指を鳴らした。

 

『きゃっ!』

 

 悲鳴を上げて女性が床に突っ伏す。床に屈み込んだまま、水輝は眉を寄せて頭をかいた。

 

『水輝さん……止めを……おねがい! 消える……前にっ』

「ん」

 

 女性の必死の面持ちの叫びを聞いた水輝は軽く右手を振った。鋭い青の閃光が一瞬で走り、女性の透けた身体に突き刺さる。すると女性は安堵の表情になった。

 

『ありがとう……さようなら、水輝さん……役立たずで、ごめんなさい……』

 

 囁きを残して女性がその場からかき消える。その様子をじっと見ていた水輝は唐突にこみ上げてきたものに目を見張って口を押さえた。反射的に手を離した青い宝珠が二つ、床に転がり落ちる。急に床に膝をついて激しく咳き込み始めた水輝を立城が驚いたように見下ろす。

 

「水輝!」

 

 水輝は口いっぱいに広がった血の味に薄い嗤いを浮かべた。

 

「何だ。おれ、味、判るんじゃないか」

 

 そこまで言って水輝はまた激しく咳き込んだ。吐き出した鮮血が水輝の手や床に散る。

 

「水輝、これを」

 

 立城が腰を屈めて拾い上げた虹色の宝珠を水輝に差し出す。水輝はぼんやりとした目でそれを見つめた。猛烈な喉の渇きを覚えて慌てて立城の手から宝珠をひったくる。水輝の犬歯が牙の形に伸びる。水輝は震える手に包んだ虹色の宝珠にかぶりついた。まるで果物でもかじるように宝珠に歯を立ててかじる。

 

「美味しいでしょう?」

 

 優しく水輝の背を撫でて立城が囁く。水輝は口の中で宝珠を咀嚼し、飲み下した。血に濡れた口許を指先で拭って低い声で嗤う。

 

「甘い」

 

 そう答えて水輝は欠けた宝珠にまた歯を立てた。容易く噛み千切って何度も口の中で噛む。

 

「まだあるからね」

 

 六色の宝珠を拾い集めた立城が水輝の前に膝をつく。水輝は握っていた虹色の宝珠を急いで口に入れ、立城の抱える別の宝珠に手を伸ばした。宝珠は食うたびに水輝の喉の渇きを癒していく。水輝は床に座り込んで夢中で宝珠を食らった。

 

「どう? 水輝」

 

 にっこりと笑って立城が首を傾げる。水輝はごくん、と噛み砕いた宝珠を飲み下してうっとりとした面持ちで笑った。

 

「甘いし……熱い」

 

 食うごとに喉の渇きが癒え、身体が熱くなる。水輝は手の中に残っていた宝珠にかぶりついた。

 

「良かった」

 

 ぺたんと立城が床に座る。七色の宝珠を食べ終えた水輝は深い息を吐いて目を上げた。

 

 床に転がる青い宝珠に目が吸い寄せられる。水輝は血の残る唇を舐めてそれに手を伸ばした。だが立城が水輝の手をやんわりと押さえる。

 

「それはだめ」

「何でだ?」

 

 不思議に思いながら水輝は首を傾げた。唇を指で拭った水輝の牙が静かに消える。元の歯の形に牙を戻してから水輝はじっと青宝珠を見つめた。

 

「この宝珠の持主は生きているし、それに」

 

 僕の息子なんだ。にっこりと笑う立城を水輝はじっと見つめた。頭を強く振ってもやのように広がりかけていたものを追い払う。

 

「悪い。呆けてた。空の主だったな」

 

 そう告げて水輝は手元に自分のものと優一郎の青い宝珠を引き寄せた。

 

「さあ、作戦会議といこうか?」

「ああ」

 

 促されて立ち上がる。水輝は自分の宝珠を器にしまいこみ、残った青い宝珠を手の上に乗せた。手首を捻ると淡い輝きを帯びた青宝珠がくるりと回る。

 

 水輝さん、お幸せに。

 

 女性の声がどこからともなく聞こえてくる。水輝はその声に嗤いで応え、立城の肩を腕に抱いて書斎を後にした。




味覚異常とか書いていたのでついついw
今はコロナなどで嗅覚や味覚異常が出ることが多いので……。
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