※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 一部 二人の水輝   作:伊駒辰葉

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エピタイ通りです。
エロシーンはありません。
このエピソードで九章は終わりです。


復活の順(龍宝珠界なう) 1

 苛立ちのままに呻いて順は頭を押さえた。深々と息を吐いて目を開ける。見慣れない天井が見える。順は白い光に目を細めてから何度か瞬きをした。

 

 随分と長い間、夢を見ていた気がする。だがこれで不快な夢は恐らく二度と見ることはないだろう。そう、考えを巡らせながら順は天井を睨みつけた。順の身体の傷はいつの間にか癒えていた。夢の中で佑が治してくれたことを思い出し、順は目の前にかざした自分の手を握ったり開いたりしてみた。

 

 紫翠は散った。本当はあの時、水輝が斬った時に散るべき筈のモノだったのだ。だが紫翠はひたすらに愛しい少年を求め、今を生きる者たちの世界を脅かしていた。そして少年もまた、紫翠を求めていた。

 

「これで漸くスタート地点か」

 

 小声で呟いて順は周囲を見回した。見覚えのない部屋だ。やけに硬質な飾り気のない壁や天井が昔のことを思い起こさせる。真っ白なシーツのかかったベッドはまるで実験台か何かのように硬い。

 

 ふと、座って本を読んでいた少女が顔を上げる。淡い藍色の髪をした少女は順を見て人懐こい笑みを浮かべた。

 

「あ、起きた」

 

 嬉しそうに笑って少女が立ち上がって本を椅子に置く。順は何度か瞬きをしてからいつものだらしない笑みを浮かべた。

 

「もしかして、看病してくれてた?」

「うん。透って人に頼まれて」

 

 にこにこと笑って少女がベッドに歩み寄る。そっかアリガト、と笑って応えて順は重い身体を起こした。表面的な怪我は治っているらしいが、まだ体力がついてきていないらしい。のろのろと身を起こした順を少女が横から支える。

 

「ええっとね、オレは木村順ってゆうんだけども。キミは?」

 

 少女に支えられながら順はベッドを降りた。一応、下着とシャツは見繕ってくれたらしい。そんなことを思いながら順は少女に笑みかけた。

 

「アタシ? 二藍だよ。あ、無理しない方がいいよ」

 

 明るく答えて二藍が順の顔を覗きこむ。あどけない少女の顔をしてはいるが、この二藍はどうやら結構な力持ちらしい。順に肩を貸しながら平然と歩いている。幾ら細身と言っても順は成人男性の身体をしているのだ。しかも力が入らないために二藍に寄りかかる格好になっている。ふうん、と呟いて順は透のところに案内してくれと二藍に頼んだ。

 

 部屋を出ると随分と周囲の印象が変わる。見たことのない植物が生い茂る温室のようなフロアを順は珍しそうに見回しながら歩いた。

 

「オレがこっちに来てからどのくらい経ってる?」

 

 ここは龍宝珠界だ。肌に触れる空気の気配から順は起きた時からそのことに気付いていた。順を支えながら歩いていた二藍が数えながら指を折る。

 

「んーと。五日、かなあ」

「五日」

 

 順は二藍の言葉をぽつりと口の中で繰り返した。それから思わずうなだれる。和也の怒りを想像して呻いた順を二藍が不思議そうに見る。

 

「や、もう、考えないようにしよう」

「どったの? 具合悪い?」

 

 不安そうに顔を覗き込む二藍に首を横に振り、順は歩き続けた。

 

 透明な硝子のような材質の床を進むと視界が開ける。そこで順は片手を上げて広々としたフロアにいた透に声をかけた。何やら作業をしていたらしい透が慌てたように顔を上げて駆け寄ってくる。

 

「オヤジ!」

 

 嬉しそうな顔をして駆けてきた透に順はへらへらと笑ってみせた。

 

「や。透クンも無事で良かったよー。オレの方も怪我は治ったみたいだしね」

 

 そう言って笑って順はそっと二藍から手を離した。戸惑いの表情をしてから二藍が納得したように一人頷き、静かにその場を離れていく。順は何とか一人でその場に立ち、透の頭を撫でた。

 

「オヤジ、その、ありがとう」

 

 そう言って透が心持ち俯く。お、と笑って順はぽんぽんと透の頭を軽く叩いた。

 

「オレはキミのその顔が見れればじゅーぶんだよん。ごめんね。もうちょおっと早く動きたかったんだけど」

 

 怒り狂った和也に攻撃をされながら必死で電話をかけたというのに、奈月は素直に結界を通してくれなかった。おかげで透に手を差し伸べるのが遅れたのだ。そのことを思い出して順は苦い顔をした。

 

「いや、俺がつまんねー意地張ってたから」

 

 そう言って透が真っ直ぐに順を見つめる。それを見た順はだらしない笑みを浮かべた。

 

「やだなあ。そーんなカワイイ顔されると、押し倒したくなるっしょ?」

 

 軽い調子で言ってから順は習慣的に胸ポケットを探った。だがポケットを探った指が空振りする。ありゃ、と呟いて順はポケットを覗き込んだ。こちらで着せてもらったのだろうから、煙草が入っていないのは当然だ。

 

「あ、そうだ。ここ、禁煙らしいからな。煙草吸ったらきっと大変なことになるから、吸いたいなら、建物の外行ったほうがいいぞ」

 

 そう言って透が背後を指差す。順は透の向こうに伸びている通路を見て取って了解、と笑った。




二藍というのは総一郎の研究所に出入りしている薬師です。
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