※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 一部 二人の水輝   作:伊駒辰葉

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ここから十章です。
この章で第一部は終了です。
エロシーンはありません。


十章
これからどーする? 作戦会議


 まるで巨大な爪に抉られたように生徒会室がこそぎ取られ、学校は大騒ぎになった。授業を受けていた生徒たちは早々に帰宅させられ、教師達も学校外で会議することになったらしい。足早に学校を後にした。

 

 誰もいなくなった学校を修復したのは奈月だ。泡を食って学校を出た彼らも、明日には元通りになっていることに気付いて首を傾げるに違いない。だが元々、この学校はやたらと騒ぎに巻き込まれている。生徒や教師もある程度までの騒ぎになら慣れている。すぐにまた日常が戻ってくるだろう。

 

 優一郎は奈月と共に地下施設に戻っていた。奈月の部屋では翠が難しい顔をして二人を待ち構えていた。

 

「翠さん、もしかして、出すぎた真似をしましたか?」

 

 優一郎はそう言って翠の腰掛けるベッドに寄った。器から切り離した影を用いているため、今の優一郎の姿はやけに薄い。翠はちらりとそんな優一郎を見やってから首を横に振った。

 

 いつの間にか翠の身体は急激に成長していた。今の翠の姿は優一郎と同じくらいの年頃に見える。

 

「今しかチャンスは無い。そう判断して、彼らを討つための協力をしました。ただ、僕の考えは甘かったようです」

 

 自嘲しながら優一郎は力なく翠の隣に腰掛けた。優一郎は夢に見た彼らのことを思い出して苦い顔をした。紫翠とかつて水輝と呼ばれていたあの少年を確実に消せば、水輝は元に戻るだろうと踏んでいたのだ。

 

 だが結果は違った。水輝だけでなく桜まで立城に連れ去られてしまったことを思い出して、優一郎は顔をしかめた。

 

「いや。上出来だろう。これで少なくとも奴とわたし、そして青龍王の存在は保証されたのだからな」

 

 淡々と語りながらも翠はまだ難しい顔をしている。優一郎は翠を見やってから何気なく正面に目を戻した。奈月はクッションを敷いて床にぺたんと座り込んでいる。

 

「桜さんは、仰っていました。わたしは、あの、紫翠と言う方の一部だと」

 

 スカートを握りしめて言った奈月の表情は硬い。奈月にしても桜を連れ去られたことにより受けた精神的なダメージが大きかったのだろう。

 

「想いだからな。一部と言えば言えるが」

 

 感情のない声で告げて翠が少し俯く。難しい顔で腕組みをする翠を優一郎は横目に見た。

 

「でも、わたしが好きなのは水輝さんですっ! 立城さんじゃありません!」

 

 懸命な面持ちで奈月が訴える。翠はそんな奈月を見つめてからため息を吐いた。

 

「名だ」

 

 それだけを呟いて翠が唇を引き結ぶ。

 

「すみません。あの、話が見えないんですけど……」

 

 困惑の表情で優一郎は翠と奈月とを見比べた。すると奈月が訥々と話を始める。桜から聞いたことを話し始めた奈月を優一郎はじっと見つめた。翠は難しい顔をして腕組みをし、黙り込んでいる。

 

「なるほど」

 

 確かにこれは……。話を聞き終え、難しい問題と感じた優一郎は頭を抱えた。奈月は泣きそうな顔をして唇を噛んでいる。

 

「感情は力となる。特に純粋な想いはより強い力を持つ」

 

 おもむろに言って翠が深くため息を吐く。優一郎の脳裏に多輝の姿が思い浮かぶ。自分の我がままで多輝を無理に縛り付けているような気がして、それを一度は撤回してみたが、そんな優一郎を多輝は避けた。あの時、多輝はもう自分を必要としなくなったのだと思った。夢の中で多輝が自分の許を去ってしまう光景を見た。

 

 何かが身体から抜けたような気がした。結局、それは勘違いだったのだが、その時は確かに優一郎の気力は減った。

 

「そうですね。確かに」

 

 懸命に想いを紡ぐ必死な多輝の想いが急速に優一郎の力を回復させた。更にその力は増幅さえしようとしている。それを感じて優一郎は微笑んだ。

 

「世界はバランスで出来ている。迂闊に強い力を消せば、その反動は必ずどこかに現れる」

 

 淡々と語りながら翠が静かに立ち上がる。翠はそのまま奈月の傍に座り、いきなり抱きついた。抱きすくめられて翠に胸に顔を埋められた奈月が硬直する。

 

「龍宝珠界の件もありますし、こちらを軽くするのは弊害が少ないのでは?」

 

 そう言ってしまってから優一郎ははっと気付いて奈月を見て後悔した。硬直していた奈月が俯いている。涙は出てはいないが、その顔は泣くのを堪えて歪んでいる。奈月の胸に頬擦りをしていた翠がむくりと顔を起こして肩越しに振り返る。泣くのを堪えた奈月に反射的に抱きつかれた翠は相変わらずの無表情だったが、その顔が少しだけ嬉しそうにしているように見える。

 

「龍宝珠界の一件は既に事が進んでいる。……魔がこちらに溢れるのを防ぐため、淫魔の王が全力で対応をしている最中だ」

 

 淡々と告げながら翠が奈月の身体の横に足を放り出す。

 

「過去と繋がっていた鎖を、断ち切ったようなものですからね……」

 

 優一郎は難しい顔で呟いた。身体を起こした翠の胸に今度は奈月が抱きこまれる格好になる。翠にしてみれば奈月にいつものように懐いているつもりかも知れないが、傍目には恋人同士が抱き合っているように見える。

 

「魔の棲む世界にあった餌が一気に消えれば多少は混乱する。世界は多重構造だからな」

 

 奈月を両腕にしっかりと抱きしめた翠が顔を伏せる。髪に口づけられたところで漸く我に返ったのか、慌てたように奈月が顔を上げる。

 

「でも、前に進むしか、道は……」

 

 優一郎は呟くように言って唇を噛みしめた。奈月にいそいそと離れられた翠がむう、と呟いて少し寂しそうな顔をする。だがすぐに翠は優一郎に向き直った。




翠との会話って禅問答的なところがあるというか……。
時空を行ったり来たりしているので、翠の中で情報が混乱しているのかも知れませんw
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