※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 一部 二人の水輝   作:伊駒辰葉

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前のエピソードに続いてはいるのですが、大体2,000から3,000字くらいで切り分けています。
エロシーンはありません。


要はまあ、元々残念。 1

 大きな荷物とその他の四人を乗せて透は車を再び走らせ始めた。今度は渋滞につかまることなくスムーズに道をゆく。助手席には白銀が、後部座席には翠と奈月、それに桜が乗っている。桜は動かすことが出来ないため、横たわったままだ。

 

「正義の味方って、お前、あのイチゴとか言うのの関係者か?」

 

 多輝のアホもすっかり女が板についたよなあ。ははは、と笑って透が言うと慌てたように白銀が首を横に振る。

 

「ちっ、違います。それは敵です」

 

 きっぱりと言って白銀は肩身が狭そうに助手席で身じろぎをした。敵、と考えを巡らせてから透は思わず吹き出した。もしかしたらとは思ったが、やはりあの機械を使っているのは要らしい。

 

「おまえ、もしかして要の下僕?」

「多分、そうかな……俺は彼氏希望なんだけど」

 

 後半をぼそぼそと聞き取り難い小声で言って白銀が遠い目をして窓の外を見る。透は我慢出来ずに声を上げて笑った。要が近頃面白いものを侍らせている、という話は前に聞いた。

 

「しっかし、スーパー牧原から清陵大学まであんなもん運ばせるなんて、相変わらず無謀な女だな」

「まあ、いつものことっすから」

 

 何でもない口調で言って白銀が肩を竦める。実際、白銀は慣れているのかも知れない。何しろ要はかなりわがままで自分勝手な性格をしているのだ。

 

 ちらりと白銀を見た透はふと妙なものを見止めて手を伸ばした。慌てた声を上げて白銀が身を捩る。タートルネックのシャツの首のところを指に引っ掛けてめくった透は苦笑して手を離した。もう、とぼやいて白銀がシャツを直す。白銀の首にはしっかりと金属製の首輪がついていたのだ。

 

「ペット扱いされて彼氏志望かよ。あいつをつけあがらせてもいい事ないぞ」

 

 笑い混じりに言って透はハンドルを切った。ゆっくりと道を折れて大学の私道に入る。大きな門を越えるとなだらかな坂がある。

 

「でも要の傍に居られるし」

 

 よほど気になるのか、シャツの襟元をいじりながら白銀が消え入りそうな声で言う。すると何故か背後から翠がぼそりと言った。

 

「恋は盲目」

 

 それだけ言って翠がまた奈月の膝の上に戻る。

 

「まあ、あいつも見目だけはいいからな。乳はでかいしな」

 

 性格は無茶苦茶だが。笑いながら透が言うと、慌てたように白銀が言う。

 

「なっ! そんなことない! 要だって可愛いところもあるし!」

 

 そう叫んだ直後、白銀が真っ赤になる。透は目をしばたたいて白銀を見つめ、次いで吹き出した。なるほど、翠の言うこともあながち間違ってはいないのかも知れない。

 

 やがて車は構内を進んで人気のない駐車場にたどり着いた。どうやらここが研究室専用の駐車場らしい。車を降りた白銀がありがとうございました、と透に頭を下げる。

 

「おひいさん。帰り急ぐのか?」

 

 振り返って透は奈月に声をかけた。当然です、と桜が声を荒らげる。だが当の奈月は不思議そうに首を傾げた。

 

「いいえ。まだ門限までには時間ありますけど」

 

 そう答える奈月の膝にはちゃっかりと翠が乗っている。しかも奈月と向かい合って座っているため、べったりと抱きつく格好になっている。

 

「それじゃあ、ちょっと待っててくれないか。久しぶりにあいつの顔見てみたいからな」

 

 要の顔を見てみたいのもあるが、白銀がどんな風に扱われているのかも興味ある。その考えを隠して訊ねた透に奈月が判りましたと頷く。透は奈月に頷き返して車を降りた。苦心して一人で荷台から機械を下ろそうとしていた白銀に近づく。二人がかりで機械を下ろし、研究室に向かって運びながら透はあれこれと要の反応を考えていた。

 

 専用のドアを白銀が開けた途端に中から見知った人物が顔を覗かせる。

 

「まったく、何時間かかっていますの!? 遅すぎますわ!」

 

 女らしい秋物のスーツに身を固めた要が憤然と腕組みをして白銀に怒鳴り散らす。悪かったよ、と詫びて白銀が軽く頭を下げる。ふん、と鼻を鳴らした要は次に驚いたような声を上げた。

 

「まっ、まあ! どちら様ですの!?」

 

 この反応には何となく見覚えがある。そんなことを思いながら透はにっこりと笑って自己紹介した。

 

「俺は木村透といいます。彼が困っているようでしたので俺の車で荷物を運ぶお手伝いをちょっと」

「えっ、透さん、要と知り合いって」

 

 慌てたように言った白銀の足を踏んづけて透はにこやかな笑みを浮かべて要を見つめた。まあぁ、と嬉しそうに顔をほころばせた要が恭しく礼をする。

 

「わたくしは如月要と申しますの。この研究室の室長代理ですわ」

 

 そう言いながら要はドアの向こうを手で示してみせた。広々とした室内には白衣を着た数人の学生の姿がある。窓越しに彼らを眺めてから透はなるほど、と頷いた。

 

「お若いのに、優秀なんですね」

 

 俺は既に博士号持ってるけどな。内心でそう呟きながら透は余所行きの微笑を浮かべた。すると要がぽっと頬を染めてそんなことありませんわ、と恥らってみせる。

 

「あら、わたくしとしたことがお礼も致しませんで……ごめんなさい。お手伝いいただいてどうもありがとうございました」

 

 慌てたように要が頭を下げて礼を言う。いえいえ、とつられて頭を下げつつ透はそろそろと白銀の足から足を退けた。涙目になって屈んでいた白銀が恨めしそうに透を睨む。

 

「しかし、綺麗な方ですね。彼氏が居なければ立候補するところなのに」

 

 惜しいことをしたなあ。残念そうな表情を作って透が言うと、要がころころと笑ってお上手ですこと、と答える。その足元で屈んでいた白銀ががば、と跳ね起きて要に迫る。

 

「要! 俺は」

「あら。あなたまだ居ましたの? さっさとこれを片付けて頂戴」

 

 温度も何もない冷酷な声で白銀に命じてから要はころりと表情を変え、透に微笑みかけた。

 

「いやですわ。わたくし、特定の方とのお付き合いはしておりませんのよ」

 

 ショックのあまりか、肩をがっくりと落とした白銀が無言で機械のロープを握る。肩にかけたところで白銀は黙ってクーラーを引っ張り始めた。入り口から道は二手に分かれ、どうやら片方が倉庫らしいものと繋がっているようだ。やがて白銀の姿がそちらへと消えていく。

 

「あれえ? 彼とつきあっているとお聞きしたんですけど」

 

 頭をかきながら透は白銀の消えた方を顎で示してみせた。すると要が驚いたように目を見張って首を横に振る。

 

「冗談じゃありませんわっ。あれはペットですのよ!」

 

 要が声高に告げると、どこか遠いところで何かがこける音がした。悲愴な悲鳴が響いて、けたたましい音がそれに続く。どうやら階段か何かで白銀がさっきの機械に押し潰されたらしい。まあ、だが龍神だ。少々の怪我は大丈夫だろう。




要はまあ……。
残念というか無敵というか……ずっと変わりなくそんな感じです。
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