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「ちょっとお!? 何よ、コレ! 何でオレがこんなトコ、閉じ込められなきゃなんないのさ!?」
大声で喚きながら順が光の逆結界を内側から刀でがんがん叩く。その様を立城は宙空から眺め下ろしていた。翠の頑強な結界は水輝が退けている。奈月のそれは今はもうない。
立城は宙を滑って順を捕らえている結界に近づいた。電話ボックス程度の狭い結界の中で順はまだ喚いている。
「木村さん。お久しぶりです。吉良瀬です」
立城はふわりと順の目の前に降りて笑顔で挨拶した。
「うわ!」
気配を殺して近づいた立城に気付いた順が慌てた声を上げる。今の順は女性の姿をしている。紅の柔らかそうな髪やほっそりとした身体つきを見ながら立城は人好きのする笑みを浮かべた。
「何でアンタがいんのさ!?」
立城を指差して順が喚く。素早くその場から転移しようとしたのだろう。だが順の放った力は光の結界に吸い取られて空しく消える。
「この結界は陽が照っているうちは、脱出不可能ですよ」
例え僕でも。そう続けて立城はにっこりと笑った。すると順が嫌そうな顔をして立城を睨む。
「ちょっとぉ。冗談じゃないよ! とっとと出せコラ! 出せっつってんだよ!」
柄悪く怒鳴りながら順が刀で何度も結界を叩く。それでも足りないと思ったのか、順は結界をこぶしで殴り始めた。
「だから無理ですってば。外からなら、陽を遮れば、簡単に消せるんですけどね」
あいにく今日は快晴ですし。そう言って立城は空を見上げた。陽は少し傾いてはいるが、まだ沈んでしまうほどではない。
「ナニソレ! いいから出せ!」
憤りに任せて叫んだ順が今度は結界を蹴り始める。
「だから、夜になれば出られますってば」
「それじゃ困るんだってば! アンタ、それに何しに来たんだよ! 水輝ちゃんは地下に行っちゃったんしょ!? とっとと追いかけなよ! オレに構ってる場合じゃないっしょ!?」
一気にまくし立てて順が自分の胸に無造作に手を突っ込む。そこで順は慌てたように目を見張った。痛みを堪えた顔をして何度も胸に手を入れなおす。立城は首を傾げてそんな順に微笑んでみせた。
「だから、夜になるまでは何もできません。それは僕も同じです」
「同じ……?」
眉を寄せて順が伏せていた顔を上げる。まじまじと立城を見てから順はびたん、と結界に張り付いた。
「どうしたんですか?」
立城はにっこりと笑って順を見つめた。順が立城を指差して喚く。
「どっから入ってきた!?」
漸く、立城が結界内にいるということに気がついたらしい。順が声高に叫ぶ。
「太陽を背にして結界の傍に立てば、自分の影が落ちるでしょう? そうすれば、一時的に影になった部分の結界は消えますから」
入っちゃったら元通りですけど。笑顔で立城が告げると順が慌ただしく結界の中を見回す。どうやらどこかに自分の影が落ちていないか探しているようだ。だが、光の結界の中にはどこにも影はない。全ての方向から光が射しているためだ。
周辺を探し回った順が歯軋りをしながら手に刀を握って立城に向かって振ろうとする。だが長い刀は狭い結界の壁につかえ、順は声を上げてその場に転んだ。
「あなたに問答無用で斬りかかられるようなことしましたっけ」
最近は無かったと思うんだけどなあ。腕組みをして立城はとんとんと指先で額を叩いた。
「こうなったら」
身を起こした順が刀を鞘から抜こうとする。だが少し抜いたところで順は素っ頓狂な声を上げた。本来はある筈の刀が竹ひごくらいに細くなってしまっているのだ。
「うわあああああ! どーなってんのさ、コレ!」
悲愴な声を上げて順が何度も柄を動かして鞘から刀を少し抜いてはまた戻す。だが何度繰り返してもやっぱり刀は頼りない竹ひご状態だ。
「僕のも同じですから」
にっこりと笑って立城は持っていた刀を順にみせた。うわあ、と情けない声で呟いて順ががっくりと肩を落とす。
「とりあえず! 近づかないでよ!」
そう言って順が結界の壁に張り付く。鞘に収めたままの刀で威嚇するように立城をさし示す。立城は苦笑して持っていた刀を結界の壁に立てかけた。
「そんなに全力で怯えなくても」
笑った立城を睨んで順が歯軋りをする。
「オレはアンタが嫌いなの! 大嫌いなの! いい? ぜえったい近づかないでね!」
まくし立ててから順は鞘の先で結界の床に見えない線をひいた。
「ここから入らないでくれる!?」
そう言って順がそっぽを向く。だが元々、結界の中は狭い。線を挟んでも二人の間はさほど開いていないのだ。くすくすと笑って立城は首を傾げた。
「初心な女の子みたいなことしなくても」
佑だったらやるかも知れないなあ。そう続けて立城はうんうんと頷いた。順が脱力して深々とため息を吐く。
「アンタさあ……一体、何しに来たんすか? まっさか、とっつかまってるオレの見学ってワケでもないんしょ?」
うろんな目で立城を見ながら順が問う。
「とりあえず、夜までは一蓮托生いや、違うな、呉越同舟というか、とにかく、他にやることもありませんし、仲良くお話でもしましょうよ」
茜ちゃん。にっこりと笑って続けた立城を順が嫌悪の顔で睨む。立城は腕組みをしたまま結界の壁に寄りかかった。
「……ほー。じゃあ、オレはたっくんって呼んでやる」
目いっぱい嫌そうな顔をしながら順が呻くように言う。立城はそれを聞いてぴくりと眉を上げた。
「べつに構いませんよ茜ちゃん」
にっこりと笑って言うと順がくくく、と低い声で笑う。
「そうっすか。じゃあ早速。たっくんは何しにココに来たのかなー?」
まるで子供でもあやすような口調で順が言う。立城はにこやかな笑みを崩さないままで言った。
「ほら、男と女が狭いところで二人きりとなったら、やることは一つじゃないですか?」
人差し指を立てて立城はにっこりと笑った。ほほう、と呟いた順が少し足を開き、身構える。凄みのある目で立城を睨みながら順は笑った。
どっちも腹を割って話さないので色々とややこしいというか。