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「あんたも相変わらずねえ」
とうとう堪えきれず、透は地を出して告げてから腹を抱えて笑い出した。それまでしなを作っていた要が眉を寄せて透をまじまじと見る。
「あの? どうかなさいまして?」
あくまでも穏やかな笑みを浮かべて要が問う。透は喉の奥でまだ笑いながら要の肩をばんばんと叩いた。笑いすぎて目尻に涙が浮かぶ。
「俺のことわかんない? あんたなら、絶対俺の正体見破れると踏んでたんだけど」
「んー?」
眉を寄せて要が透に顔を寄せる。それからじろじろと透を無遠慮に眺め回してから要はぽん、と手を叩いた。
「優一郎様に似ていらっしゃいますわね」
それから要ははっとしたように息を飲んだ。まさか、と呟いてから次の瞬間絶叫にも近い声で叫ぶ。
「吉良絵美佳!?」
「ぴんぽーん。大正解」
「ぅおのれ、吉良絵美佳! またしてもわたくしを愚弄してぇぇぇぇぇぇぇええ!」
腹の底から叫んで要が無造作に手を伸ばす。胸倉でもつかまれるか、と身構えた透は急に股間に痛みを感じて慌てて要から飛びのいた。要が素早く透の股間をつかんだのだ。
「たっ、確かについてますわね!」
「いきなり急所攻撃かよ」
半泣きになりながら透はじりじりと要から離れた。お待ちなさい、と叫んで要が透に近づく。げっ、と呻いて透は慌ただしくその場から駆け出した。一直線に駐車場に向かって走る透の後を要がもの凄い形相で追う。
「タンマ! 俺の話を聞け!!」
懸命に駆けながら透は要に声をかけた。だが要はお待ちなさいー! と凄い顔で追ってくる。髪を振り乱して追う様はまるでやまんばか何かのようだ。本能的に恐怖を感じて透は必死で走った。
「勝負したいんなら、きちんと受けて立ってやるから! 冷静になれよ。痴話喧嘩と間違えられても知らねーぞ!!」
「問答無用ですわ!」
要が叫んだ次の瞬間、透の間近を凄いスピードで何かが過ぎる。ぎょっとした透は振り返って悲鳴を上げた。いつの間にか要は立ち止まっていて、何故か手には銀色の弓を持っているのだ。矢を番えた要が気合の声を発して矢を走らせる。
「そっちがその気なら、受けて立ってやるよ! んで、何かける?」
透は声を張りながら要の射た矢を避けた。要は新しい矢を番えてぴたりと透に狙いを定めている。だが声は聞こえたのか、射る気配はない。
「何故、賭けなければなりませんの?」
酷くあっさりと言い返して要が矢を射ようとする。透は慌てて要に待った、と声をかけた。
「勝負にはリスクが付き物だろ? それとも、俺に勝てる自信が無いから賭けられないとでも?」
「笑止! ですわ! わたくしが勝つに決まっていますもの!」
声高らかに笑って要が言い切る。それから要はやっと落ち着いたのか、手にしていた矢と弓を消した。どうやらあれは白銀の宝珠のようだ。見る間に身体の内側に納まったのを見つめて透は微かな笑みを浮かべた。要が先ほどまでとは比べ物にならないくらいに落ち着いた足取りで透に近づく。
「負けたほうは一週間、勝ったほうの下僕になるってのはどうよ?」
「あら、わたくし下僕は間に合ってますの」
ころころと笑って要がそう言い返す。そうですわね、と呟いてから要はぽんと手を叩いた。
「そういえばこんなやり取りを前にもしたことがありますわね」
少し前、要がまだ清陵高校に在学していた時の話だ。個人的に要は絵美佳を敵視しており、巨大ロボットで闘うことになった。その時の勝負は要が勝ったのだ。
「間に合ってる、か。ふうん」
そう告げて透はにやりと笑ってみせた。何ですの、と要が不機嫌な顔で問い返す。駐車場には他の車はなく、透の駆るトラックが一台停まっているだけだ。既に空は暗くなりかけている。
「そういえば、多輝が本当は女だったってことは、お前も知ってるよな?」
「ええ、勿論ですわ」
からかうと可愛いんですのよ。そう言って要がころころと笑う。どうやら今でも普段から多輝は要にからかわれているらしい。
「俺は、本当は男だったんだよ。別にお前を騙して笑いものにするために変装したりしてるわけではなく、な」
「まあ、確かに先ほどの感触は本物でしたわね」
確かめるように右手を握る要を見て透は反射的に股間を押さえた。だが要は何度か手を握った後、それが何か、と平然と訊ね返した。
「おまえ。俺みたいな容姿。タイプなんじゃねーの?」
「でも中身は吉良絵美佳でしょう?」
しゃらっとした顔で言い返して要は高笑いした。急に笑い出した要について行けず、透は唖然とした顔になった。
「判りましたわ! 吉良絵美佳! 今になって漸くわたくしの魅力に気付いたということですわね!?」
困った人ですわね、と言いながら要がひとしきり笑う。
「まあそうだな、男になってからみたら、乳でけーし、かなりの美人だってことは理解したさ。女の頃の俺がちんくしゃだったってこともな」
「その通りですわね!」
勝ち誇ったように胸を張って要が笑う。それから急に要は腕に巻いた時計に目を落としてあらあら、と呟いた。
「いけませんわ。わたくし、そろそろお暇させていただきますわね。これから『ミニマムくんラブ!』が始まりますの」
訳の判らないことを口走って要が颯爽と身を翻す。透は慌てて要に声をかけようとして口を噤んだ。いつの間に復活したのか、遠くから要を呼びながら白銀が走ってくる。始まるぞー、という白銀の声に要は判ってますわ、と答えている。
「なんだ、優一郎がいねーからちょっと心配したんだが。やっぱりあいつとよろしくやってるんじゃねーか」
何だかんだと言いながら、仲良く白銀と歩いていく要を見送って透は頭をかいた。苦笑しつつ踵を返して車に向かう。ドアを開けると三人は仲良く寝入っていた。
吉良絵美佳はえいえんのらいばる。
……当時、アニメのタイトルをてけとーに考えました。
被ってない……よね?(汗)