「それはアレだよね? 全力で拒絶してもいいってコトだよね? オレ、アンタとヤる気ないしさ」
そう言いながら順が刀を結界の壁に立てかける。どうやら狭いこの結界の中では刀を振り回せないと判断したらしい。
「だって、茜ちゃん、たっくんって呼び合う仲じゃないですか?」
にっこりと笑って立城は言った。その瞬間、順が床を蹴ってこぶしを繰り出す。立城は軽く身を捻ってこぶしをかわした。
「呼び方なんて関係ないっしょ!? オレはごめんだっての!」
そう喚きながら順が強引に身体を捻って肘を飛ばす。立城はそれを見据えて飛んで来た肘を片手に受け止めた。
「もう、茜ちゃんってば冗談が通じないんだから」
そう言いながら立城はぱっと手を離し、その場に腰を下ろした。急に座った立城を見下ろして順が怪訝そうな顔をする。
「とりあえずその呼び方止めてよ、気持ちワルイ。オレもアンタって呼ぶから」
苛々と頭をかきながら順がため息をつく。シンプルな白いシャツに乳首が透けて見えていることは指摘すべきなのだろうか。どうやら順はブラジャーを着けていないらしい。
「あの、木村さん。その姿をとるなら、下着をちゃんとしたほうがいいですよ?」
「あー? コレ? わざとだからいいんだよ、コレは」
そう言いながら順がシャツをつかんで自分の胸元を見下ろす。そこで順はとほほ、と言いながら首を力なく横に振った。
「コレで水輝ちゃん引っ掛けて遠ざけようと思ったのにさ。何なの、アンタらはもう」
疲れたため息を吐いて順がその場に腰を下ろす。
「いえ、親馬鹿談義に花でも咲かせようかと思って。佑はいい娘だと思いません?」
「ああ、カワイイよね。透くんもカワイイけどねー。優一郎くんもカワイイしねー」
気乗りしない顔をして順が言う。どうやらふて腐れているようだ。胡座をかいて頬杖をついている。
「そうですよね」
そう言って立城はぴくりと眉を動かした。水輝を追いかけた佑は奈月の結界を破壊しただけでなく、今度は建物そのものを壊しているらしい。結界がごく僅かに揺れている。
「やっぱり、ちょっと教育方針間違えたかな?」
「きょーいくほーしんねー」
抑揚のない間延びした声で順が言う。立城は間近に座る順をちらりと見て苦笑した。
「あなたは、奈月さんの傍についてらっしゃると予測してたんですけど」
外れちゃったなあ。そう続けながら立城は笑みを消した。順がはは、と力なく笑ってため息を吐く。
「オレもね。水輝ちゃんが予想以上に早く来ちゃったんでね。姫君のトコからちょっくら離れたワケだけどもね」
先んじて水輝を引っ張って遠ざけるつもりだったのだ、と順が言う。立城は真剣な目をして口許に手を当てた。
「奈月さんの事を嫌いなあなたが、どうして、彼女を護る気になったか不思議だったんです」
「アンタの思惑通りに動くのがヤでね」
すらりと答えて順が肩を竦める。それから順は身体の後ろに手をついて空を仰いだ。光の満ちた結界の中から見える空はぼんやりとした薄い水色をしている。順の視線を追って空を見上げた立城は小声で呟いた。
「そうですか……」
真面目な顔で言った立城を順が怪訝そうに見る。
「やられました。完敗ですね」
そう言って目を戻し、立城は苦笑をした。順がため息をついてうなだれる。
「あんま、気分よくねー。何なのよ、あの水輝ちゃんの悲鳴」
どうやら順は耳に水輝の叫びを捉えているらしい。立城は肩をすくめて順を見つめた。
「佑はあなたに対処させるためにつけたんですが、裏目に出ましたね」
真剣な顔で立城は告げた。すると順がのろのろと顔を上げて空を指差す。
「対処されてんじゃん。この結界、カノジョのっしょ」
力ない笑いを浮かべて順は頭を強く振って首を鳴らした。
「ウチのダーリンね、いま出張中なんだわ。呼びつけてコレどーにかしてくれるってのもムリそーだし」
順は苛々と頭をかいてため息を吐いた。
「手塩にかけて育てましたから。でも、ここまで成長していたとは」
僕も年を取ったってことかな。そう続けて立城は立ち上がった。険しい顔で周囲を見回す。消えかけていたものが徐々に形をなしていく。その様が微かにだが見える。
順がゆらりと立ち上がる。足を振り上げた順は力任せに結界の壁を蹴った。耳障りな音が結界内に響く。
「あー、ムカツク! ただでさえ優一郎くんに振られて苛々してたのに、どうよ!? この展開!」
遠慮のない声を張って順がぎらりと立城を睨む。
「僕が仕組んだとか、思っています?」
真剣な顔で立城は問い掛けた。すると順が当り前だと頷く。
「アレ呼び戻そうとしてるって誰でも思うっしょ! 優一郎くんから聞いたよ? アンタ、また同じコトすんの? 今度は誰犠牲にすんの? またオレ?」
あっはっは、と乾いた声で笑った順の顔は少しも笑っていない。
「優一郎くんも、あなたも、どうしてそんなに僕を買い被るかな」
そう言って立城は驚愕に目を見張った。はっ、と鼻で笑った順がやれやれとでも言いたげに首を振る。
「アンタ、だって水輝ちゃんのことどーでもいいんだもんね? 便利に使える道具にしたいだけっしょ?」
ずらずらと並べて順が急に疲れたような顔で息を吐く。
「違う!」
僕は……。そう続けて立城は俯いた。はいはい、と疲れた声で言って順が軽く両手を広げる。
「何とでも言いなよ。結果的にそーなってんじゃんよ。水輝ちゃんがそんなに使いたいなら、とっとと人形にしちゃったら? あー、ヤダヤダ。偽善的なオトナってこれだからねー」
呆れた口調で言ってから、順が腕組みをして壁に寄りかかる。
エピタイは別のにした方が良かったかな、と考え中w