※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 一部 二人の水輝   作:伊駒辰葉

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エピタイは(略
エロシーンはありません。


ミニマムくん! 華麗なおさばき!

「なにやってんだよ、遅いぞ」

 

 仏頂面で呟いて多輝は遅れてきた要のために座る位置をずらした。ソファに腰掛けているのは多輝と由梨佳だ。研究室の入り口辺りで誰かが騒いでいた気がしたが、きっと大したことはないのだろう。そんなことを考えながら多輝はテレビ画面に目を戻した。

 

「おほほ。ちょっと野暮用ですわ」

 

 そんなことを言いながら要が多輝の隣に腰掛ける。すると多輝を挟んで反対側に座っていた由梨佳がそっと訊ねる。

 

「要さん、氷龍神の気配を感じましたけど?」

「えっ。絵美佳来てたのか?」

 

 多輝は驚きに目を見張って要を見た。だが要はしらっとした顔でほほほ、と笑っているだけだ。その傍にはちょこんと白銀が座っている。いつもながら無体に扱っているのか、白銀は傷だらけになっている。ちょっと来い、と白銀に顎をしゃくって多輝は手を伸ばした。

 

 研究室には白衣を着た学生たちが詰めてはいるが、その殆どはヒューマノイドと呼ばれる機械仕掛けのモノだ。研究室の最奥でテレビを眺める四人をヒューマノイドたちは意に留めていない。多輝は白銀の肩をつかんで唇を寄せた。要が見えませんわ、と文句を言うのを余所に白銀に口づける。

 

「ほら、これでいいだろ?」

 

 特別サービスだからな、と付け足して多輝は白銀から手を離した。どうも、と呟いた白銀がまた大人しく要の傍に正座する。テレビの置かれた研究室の奥にはカーペットが敷かれていて、ここだけ応接室のような作りになっているのだ。

 

「多輝くん、あの……?」

「え、傷治しただけだぞ?」

 

 隣で小声で由梨佳が呟いたのを聞いて多輝は慌てて説明した。白銀の傷は先ほどの口づけで治っている。唇を介して力を送る、という龍神の基本的な治癒の方法なのだがまずかっただろうか。多輝は焦りながらそう説明した。

 

「それくらいわかってるわよ。私が聞きたいのは氷龍神のこと。氷龍神って男性よね? なのに、えみかって名前なの?」

 

 苦笑しつつ由梨佳が小声で言う。多輝の隣ではすっかり要がテレビに見入っている。要の邪魔をしないように多輝は由梨佳の耳元に口を寄せて小声で説明した。

 

 由梨佳の言った氷龍神というのは、かつて吉良絵美佳と名乗っていた少女がつとめている。だが、今は絵美佳は男性体をしていて、名前も木村透と変えたらしい。だが、多輝は以前の癖でどうしても絵美佳と呼んでしまうのだ。

 

「混乱させてごめんな」

 

 そう謝って多輝は自然に由梨佳の肩を抱いた。由梨佳の膝に乗せられた菓子箱からクッキーを取り上げて口に放り込む。

 

「しかし、さっきの氷龍神、かなり力を持っているわね」

 

 テレビで放映されているのはアニメーションの番組だ。どうやら要はこの番組をいたく気に入っているらしい。犬だか猫だか判らない橙色のキャラクターが動く様を何となく眺めながら多輝は由梨佳に頷いてみせた。

 

「去年、異常気象とか言われてた雪は全部あいつのせいだったらしいしな」

 

 多輝は水輝から聞きかじった話を思い出しながらため息を吐いた。どうやらあの頃の透は周囲のことを一切無視して力を使っていたらしい。

 

「多輝くん。さっきの人と親しくしていたの? 要さんも知り合いだったみたいだけど」

「同じ学校に行ってたんだよ」

 

 他にどう説明することも出来ず、多輝はそう答えた。実際にはそれだけではない。かつて絵美佳と優一郎は姉弟だった。そして由梨佳はその母親だったのだ。だが今の由梨佳にその記憶はない。一度、記憶が完全に消えてしまっている由梨佳に以前のことを思い出させるのは得策ではない。下手に思い出してしまうと由梨佳自身が崩壊してしまうからだ。

 

 由梨佳は若い頃に身体を改造してヒューマノイドとなった。それ以来、由梨佳は少しも老けてはいない筈だ。絵美佳も優一郎も由梨佳が産んだ訳ではないが、育てたのは確かに由梨佳なのだ。

 

「はぁ! 素晴らしいお裁きですわ!」

 

 感嘆の吐息をついて要がハンカチを握りしめて言う。多輝はうろんな目で要を眺めてからそっとため息を吐いた。要は涙を流しながら画面に向かって頷いている。その傍に正座している白銀は特に感じることもないのか、平然とテレビを見ているだけだ。

 

「お裁きも何も、単に悪戯してたヤツにおしおきとやらをしただけだろ」

「何を言いますの!? ミニマムくんのあの勇姿があなたには見えませんの!?」

 

 多輝は嫌々ながらテレビ画面を見た。確かに画面の中では橙色をしたモノがポーズを決めているようだ。だが多輝の目には橙色の怪しげな物体がもんどりうって引きつっているようにしか見えなかった。

 

「可愛いですよね」

 

 笑顔で言う由梨佳を困惑の目で見てから多輝は首を傾げた。もしかしたら自分の感覚かはどこかおかしいのだろうか。どうしてもあの物体が可愛いとは思えないのだが。そんなことを考えながら多輝は低く呻いた。

 

 次週予告とやらが流れて番組が終了したところで要がハンカチで頬を拭う。一体、どこをどう見れば泣けるというのだろう。半ば呆れて多輝は立ち上がろうとした。だがそれより早く、要が多輝の肩を押さえる。

 

「次は橙色を基本にしたコスチュームにしますわ!」

 

 はあ、と曖昧に答えてから多輝はため息をついて頭をかいた。

 

「別に橙色でも紫でもピンクでも好きにしろ」

 

 おれには関係ない、と続けてから多輝は今度こそ立ち上がろうとした。だが何故か要が肩を押さえていて離そうとしない。

 

「わたくしとの勝負を放棄するんですの!?」

「言っとくが、おれはお前と戦ってる訳じゃねえ」

 

 どうも事あるごとに敵視されているらしい。そのことを自覚しつつ多輝は声を荒らげた。今日だって要が邪魔をしなければ水輝に横入りされることはなかった筈なのだ。多輝は今日の出来事を思い出しながら苛々と頭をかいた。

 

「でもこの間は現場に到着したとこで吹き飛ばされた……」

 

 それまで黙っていた白銀がぼそりと言う。それを聞いた多輝はぎくりと肩を竦めた。あれは要たちが悪いのだ。魔法で風を起こして魔を分断しようとしていたところに要と白銀がいきなり現れたのだ。魔の背後に現れた要たちに気付いた時にはもう、魔法は発動していた。

 

 多輝はとあるきっかけで魔法を使えるようになった。いつまでも龍神の力をまともに使えない多輝を気にしてか、水輝がそういう術をかけたのだ。おかげで多輝は女性体の時だけ、という条件がつくが幾種類かの魔法を使うことができる。

 

 だがこの魔法を使おうとする際、何故か着ているものがそれ用のものに勝手に代わってしまうのだ。もっと言えば、まるでアニメーションの魔法少女そのものの愛らしい格好になってしまうのだ。おかげさまで今では多輝も開き直り、蒼の命名したマジカルプリンセスなるものを名乗ることにしている。

 

「きちんと連携できたら、それが一番良いのだけれど」

 

 多輝の腕に肩を抱かれた由梨佳が小声で言って要を見る。多輝もつられて要を見た。今度こそ負けませんわ、と要は鼻息も荒く宣言している。しかもこぶしを天井に突き上げているのを見ると本気としか思えない。

 

「大体、多輝がとろくさいのですわ! わたくしなら数秒で片付けてみせますのにっ」

「てめえ、いっつも邪魔してるだけじゃねえか!」

 

 要の言い草にかちんと来て多輝は思わず言い返した。結局はいつも誰が魔を倒すかを揉めはじめ、なかなか現場を片付けることが出来ないのが現状だ。苛々しながら多輝は指先で膝を叩いた。

 

「多輝くん、ここは」

 

 引いて、と小声で呟いて由梨佳が多輝の服をつかむ。判ってはいるのだ。幾ら要と言い合ったところで何も解決はしない。そう、多輝が我慢していたところで要が言葉を継いだ。

 

「今度は言いがかりですの? 幾ら優一郎様がご不在で寂しいからと言って、わたくしに八つ当たりとは」

 

 はっ、と鼻で笑って要が勝ち誇った顔で多輝を見る。多輝の中でぶちん、と何かが切れる。だが多輝より早く由梨佳がその場に立ち上がった。

 

「栄子さん、あなたもそうでしょう? だからと言って、多輝くんや白銀さんに当たるのは見苦しいわ!」

「栄子さん!? どこに!」

 

 慌てたように叫んで白銀が周囲を懸命に見回す。どうやら由梨佳は興奮して要の名を間違えたらしい。だが今度は要が目を吊り上げて白銀に迫った。

 

「まだあなたはわたくしの母に懸想しているの!?」

 

 次第に多輝の中で煮えたぎっていたものが鎮まっていく。由梨佳と要、それに白銀が口々に何事かを言っている。こうなると騒ぎは当分は鎮まらないことは判っている。やれやれとため息を吐いて多輝はうなだれた。




この話で一章は終わりです。
要がちょっと変なのは仕方ないです。
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