段落が長いので途中でエピタイを変える予定です。
エロシーンはありません。
屋敷に戻ると誰もいなかった。恭しく礼をした執事の和也がそのことを奈月に告げてから夕飯はどうするかと訊ねる。和也はかつて吉良瀬の屋敷に雇われていた重森という名の老執事の孫だと言う。
「わたしは食べなくても平気ですから」
奈月はにっこりと笑ってからその場に屈んだ。翠に目線を合わせて首を傾げる。
「翠さんはどうされます?」
「わたしもお前が食べないのなら遠慮しよう」
横柄な態度で言ってから翠が奈月に擦り寄る。
「畏まりました。それでは御用があればお申し付けください」
失礼します、と礼をして和也が奈月の部屋を去る。奈月はそんな和也を見送ってから立ち上がった。すると翠がぴったりと奈月の足に抱きつく。
「翠さん、どうしたの?」
そう声をかけて奈月は翠を抱き上げた。まだ園児服に身を包んだ翠が奈月の胸に顔を寄せる。
「皆がいないのなら、今日は共に寝よう」
まだ夕方だと言うのに翠がそんなことを口にする。これで翠は甘えているつもりなのだ。
「はい」
にっこりと笑って返事をしてから奈月は歩き出した。とりあえず着替えた方がいい。車で眠ってしまったために、制服には妙な皺が寄っているのだ。クリーニングに早目に出した方がいいだろう。そんな奈月の考えを読んだのか、翠が何か言う前に奈月の腕から飛び降りる。
「翠さん、あっち向いててくださいね」
一応、そう声をかけてから奈月は制服を脱ぎ始めた。
「心配せずともわたしの生殖機能はまだきちんと働いてはいない」
淡々と言い返しながら翠がじっと奈月を見る。視線を感じた奈月は脱ぐ手を止めて困った顔になった。腕組みをした翠がまじまじと奈月を見つめているのだ。
「えっと、あの、わたし、水輝さんに他の誰にも肌を晒すなと言われてるんです」
そう言ってから奈月はかつて偶然に奈月の裸を見てしまった多輝の話をしてみせた。あの時の水輝は多輝の身体を力いっぱい壊してしまったのだ。その話を聞いた翠がふむ、と呟く。
「青龍王の我がままなら致し方ない」
愛想も何もない口調で言ってから翠がくるりと背を向ける。奈月はほっと息を吐いて着替えを再開した。脱いだ制服を籠にまとめて入れて、部屋着を身につける。今日の洋服は特に水輝が気に入っていると言ってくれたものだ。ふんだんにレースの使われたスカートはふんわりと開き、まるで花のようにも見える。ウエストを絞った形のワンピースは、奈月の豊かな胸が強調されるデザインだ。襟元や袖口のフリルの形を整えてからヘッドドレスを結わえたところで奈月は振り返った。
何故か翠が裸でそこに立っている。翠は着ていたものを全て脱ぎ、先ほどと同じように腕組みをして立っていた。
「すぐに着替え用意しますね」
慌てて奈月は自分用のクロゼットの隣にあるチェストを探った。そこには翠の服が入っているのだ。
「む。意外と淡白な女だな」
少しだけ眉を寄せて翠がやはり淡々とそんなことを言う。奈月は慌ただしく部屋着を用意して翠に駆け寄った。園児服を脱ぎ捨てて立っていた翠に一枚ずつ服を着せていく。
「翠さん、似合いますよ」
「そうか」
着せられた服を見下ろして翠が満足そうに頷く。
「水輝さん、佑さんと出かけられたのかしら?」
ふと疑問を覚えて奈月はそう口にした。すると翠がしばし黙って中空を見てから目を細める。
「恐らくそうだとは思うが」
そこまで言って翠が黙る。不思議に感じて奈月は首を傾げた。いつもなら翠はこちらが驚くほどにはっきりと物を言う。なのに今の言葉にはどことなく迷いが感じられた。
園児服をクリーニングの籠に入れようと立ち上がった奈月に翠がぴったりと抱きつく。両腕に奈月の腰を抱えて身体を寄せた翠はいつも以上に幼く見える。だが実際に幼稚園にいる間の翠は随分と大人びていて、先生も不思議がっているようだ。今日などは迎えに行った奈月や桜に感心したように口々に言っていた。どうやら今日はみんなで絵を描いたらしいのだ。その中で翠の描いたものだけがやたらと上手く、幼稚園の先生方はみなびっくりしたのだという。
「幼稚園は楽しいですか? 今日見せてもらった絵、わたしですよね?」
にっこりと笑んだ奈月をちらりと見上げて翠がこくん、と頷く。抱きしめる細い腕に少し力がこもり、翠が奈月に頬擦りをする。奈月は苦笑してゆっくりと歩き出した。翠がそんな奈月を抱きしめたまま、ついて歩く。
翠は後追いする子供よろしく、奈月の姿が見えるとこうしてべったりとついて離れない。まだ乳を飲んでいた頃はそれでも佑の腕に抱かれていることも多かったのだが、近頃ではまるで奈月が母親だとでも言いたげにこうして傍にいる。食事時や風呂に入る時もくっついているため、桜などは時折もの言いたげに顔をしかめているほどだ。
「重森さんには食事はしないって言いましたけど、パンケーキ焼きますね」
屋敷に他に誰もいないのなら、この時間でも調理場は使えるだろう。使用人たちもそれぞれが食事をとるだろうが、調理場はいつもよりは空いている筈だ。奈月の言葉に翠が頷き、腕を解く。動きを邪魔しないように気を遣ったのか、翠は奈月の片手を小さな手でつかんで目を上げた。
翠が奈月を独占出来ている貴重な時間です!w