奈月涙目w
エロシーンはありません。
「奈月はまだ、お願いしますと相手に頼んでいるだけでもいい方だろう。水輝やラスティはほぼ強姦に近いからな」
それを聞いた奈月の手元が狂い、フライパンに流れた生地が変な形になる。フライパンを覗き込んでいた翠が面白い形だな、と評す。
「今度、渚さんに謝ってこよう」
泣きそうな顔でフライパンを見つめて奈月は小声で言った。パンケーキの生地は涙の雫のような形になっている。謝る必要はないだろう、と翠が答えて言葉を継ぐ。
「金の扉は楽しんでいるようだが?」
そう言いながら翠が別の皿にパンケーキを何枚か乗せ、椅子から飛び降りる。冷蔵庫に駆け寄った翠は果物の入った硝子のボウルを抱えて台に戻ってきた。
「えっと、あの、それって」
「焦げるぞ」
真っ赤な顔で言った奈月に翠が顎をしゃくる。奈月は慌ててパンケーキを引っくり返した。少し濃い目のこげ色のついたパンケーキを情けない顔で見つめる。
「人形の館で交わりに励んでいるのだから、特に詫びる必要もあるまい」
淡々と告げて翠が果物を皿に盛る。何故か翠の盛ったのはメロンばかりだ。
「翠さん、メロンが好きなんですか?」
何とか話を逸らそうとして奈月はそう訊ねた。黙って頷いてから翠が目を上げる。こうしていると幼い子供そのもので、翠に邪気は感じられない。いや、翠は別に奈月をからかおうとして話をしている訳ではないのだろう。
「かつて交わりの術だった魔法は、やがてその意味が変化した。言葉で相手を無理に従わせたり、束縛したり、戦いに用いられるようになった」
フォークで刺したメロンを皿に運んでから翠が淡々と語る。喋っている時の翠はまるで幾つも年を重ねた老人にも思えるから不思議だ。奈月は焼けたパンケーキを皿に乗せて、次の種をフライパンに落とした。甘い香りが調理場に立ち込めている。
「たとえ無理に引き出せても、力は発揮できないと思うんですけど?」
素朴な疑問を感じて奈月はそう問い掛けた。すると翠がいや、と首を横に振る。
「そこで座位が関係してくる。例え嫌でも座格が上位の者に命じられれば従わない訳にはいかない。……もっとも、魔法の使い手が減ってしまい、この世界では魔法士は希少なのだがね」
数枚のパンケーキとメロンを乗せたところで翠が身軽に椅子を飛び降りる。奈月が教えるでもなく翠は自分で冷蔵庫からメープルシロップを出してきた。
「そんなことは無いと思います。例えばわたしなら、無理に赤の力を引き出して使うよりも、金の力に青を混ぜて代用したほうが、ずっと効果的ですし」
そう言いつつ、奈月は落ち着きかけていた頬を押さえた。漸くおさまってきた火照りがまた戻ってくる。
「今は二人ともが生きているからな」
あっさりと言って翠が椅子に乗ってメープルシロップをパンケーキにかける。頂きます、と手を合わせた翠に慌ててどうぞと言ってから奈月はパンケーキを引っくり返した。
「わたし、魔法覚えて良かったんでしょうか……」
困惑して奈月はぽつりと呟いた。翠がパンケーキを食べながらおうように頷く。
「上手いのだから構わないだろう」
何が、とは言わずにそう表現して翠がふと奈月の手元を見る。続いて翠は視線を動かしてパンケーキが乗った大皿を見た。
「ところで何枚焼くつもりだ?」
指摘を受けた奈月は焼けたパンケーキを皿に乗せようとしていた手を止めた。すでに焼けたパンケーキが皿にうずたかく積まれている。
「ごめんなさいっ!」
慌てて詫びて奈月は手にしていた一枚を積まれたパンケーキの山の頂上にそっと乗せた。コンロの火を落として片付けを始める。ついつい、いつもの調子でみんなの分を焼いてしまった。翠が皿に積まれたパンケーキの数を勘定している。
「水輝さん、今日は戻られるのかしら」
水輝が居ればこのくらいの量は簡単に食べてしまう。そう考えてから奈月はふと首を傾げた。そういえば最近、水輝が食事をしているところをあまり見かけない。以前のように、腹減った、飯をくれとも言われなくなった。奈月は洗い物の手を止めてぼんやりと中空を見つめた。
「戻らないだろうな」
たぶん、と付け足してから翠が頷く。それから翠は奈月を見つめて大皿をフォークでさし示した。
「配るか? 生憎とこの館の者は食事は用意されているらしいし」
そう告げてから翠がパンケーキを口に運ぶ。小さいフォークを器用に使って食べる翠をしばらく見つめてから奈月は答えた。
「そうですね」
「少なくとも金の扉は泣いて喜びそうだな」
相変わらずの口調で言ってから翠は椅子を降りた。空になった皿を奈月の元に運んでくる。奈月は洗い物を続けながら頷いた。
この時、多分作者はパンケーキを食べたかったんだと思います!w
食べ物が出てくる話が好きなのですが、ヒューマノイドの話では食べ物が出てこないことが多いので、ついつい力が入ったようです。