透はかなり深いところまで知ってますね。
エロシーンはありません。
「ナーイスタイミング。まあ見てな」
指を鳴らして透はちらりと桜を振り返った。桜が訝りの表情でスクリーンを指差す。
「何ですか、あれは。赤黒く気持ちの悪い壁がありますが」
スクリーンに映されているのは順の作った地下の施設の光景だ。透は力を調整して映している場所を少しずつ切り替えた。
「うちの別荘の地下施設さ。あのヘタレの治療をするために、わざわざオヤジが作ったらしい」
「治療?」
透の言ったことが信じられないのか、桜が驚きの声を上げて顔をしかめる。透は苦笑しつつスクリーンに意識を集中した。やがて赤黒い壁が見えなくなり、変わりに薄暗い部屋の様子が映し出される。
順の作ったあの施設には順本人と紫、そして透の力を編みあわせて作られた結界が張られている。上の屋敷などただの飾りに過ぎないことがこの施設を見ればよく判る。地上の建物は言わば地下の大きな施設の隠れ蓑だ。
「……佑様?」
桜が呟くように言う。透の作ったスクリーンには確かに佑の姿が映し出されている。ベッドに居るのが順と紫、その脇に腰掛けているのが佑だ。残念ながら、音声までは自分の力では抜き取ることが出来ない。だが映像だけでも彼らが何をしているのかは大体判る。
「へえ、とうとう優一郎にも見せる気になったか」
軽い口調で言いつつも、透は真顔でスクリーンを見つめた。桜がどういうことですか、と訝りの声を上げる。透は鋭い目でスクリーンを見つめながらじりじりと力を動かして映る光景を切り替えた。
遠くに見えていた順や佑、紫の姿が大写しになる。それと同時に窓から見える景色もはっきりと見えるようになる。白い窓が大きくなり、中にいる者が映し出されたところで桜が息を飲んだ。
「どういうことですか!」
引っくり返った声で桜が叫ぶ。透は桜を振り返ってからスクリーンに向かって顎をしゃくった。
「この治療行為に関してはオヤジがヘンなこと目論んでやってるワケじゃねーぞ。あのヘタレが求めるものを与えてるだけだ」
「ですが、これは」
そこまで言って桜が口許を手で覆う。幼い姿をした水輝は目隠しをされ、耳をヘッドホンで覆われた状態で、しかも手は背中に回されて拘束されている。そんな水輝に群がっているのは、出来そこないの龍神の子供だ。一人、また一人と子供が弾けていく。音や匂いがなくて良かった、と透は内心でほっと息をついた。自慢ではないが、透はこの手のスプラッタやホラーが大嫌いなのだ。
「最近になってからだな。欠損してるといっても龍神を量産できるようになったのは」
まあ、そんだけ龍神が今の世界に不足してるってことだろうけど。そう付け足しながら、透はさりげなく水輝から目を逸らして手前にいる三人を見た。相変わらず紫はこの光景に異様に燃えるらしい。嬉しそうに窓越しに水輝の様子を眺めながら順に犯されている。対する順は傍に腰掛ける佑に説明しているのか、何かを喋っているようだ。
佑はぼんやりと窓から水輝を見つめている。薄暗いためではないだろう。順に受け答えしているのか、時折見える佑の横顔は青白い。
「何故、このような真似を」
呻くような低い声で桜が言う。
「ただでさえ減ってるモノホンの龍神を殺戮させるわけにはいかねーだろ? オヤジは良くやってると思うぜ」
「何ゆえ、ここまで……」
もしかしたら説明など桜の耳には入っていないのかも知れない。透は肩を竦めてスクリーンを見つめた。桜は呆然とスクリーンを見つめ、時折顔を歪めている。
最後の子供がはぜて散る。しばし呆けたようにその場にへたり込んでいた水輝が急に口を大きく開けて身体を揺すり始める。笑っているのだ。音はなくても透にはそれがはっきりと感じ取れた。同時に背筋が冷たくなる。
「本番はこっからだ。しっかり目に焼き付けろよ」
そう呟いて透は乾いた唇を舐めた。水輝が放つ青い光がスクリーン一杯に広がる。桜が驚きの声を上げて目を見張る。光が徐々に納まり、今から水輝の姿が露になる、というところで不意に順が振り返る。
こら。
そう唇で順が刻んだ直後、氷で出来たスクリーンは砕けて散った。え、と呆けた顔をした桜が慌てたように透の服の裾をつかむ。
「な、何ですか。今のは」
訳が判らない、という顔で問う桜をのんびりと振り返ってから透は苦笑した。
「どうやら、オヤジもマジみたいだな。肝心なとこは見えなかったが。あれでわかっただろ?」
わからないっていうのなら、まあそれはそれで仕方ないか。そう告げて透はひょいと肩を竦めてみせた。あの一瞬で砕けたスクリーンは溶かされて消えてしまっている。透はスクリーンの浮かんでいた場所を見つめて唇を歪めた。
「判るも何も、あれは」
桜が混乱した面持ちで額を押さえて呻く。それから桜は慌てた様子で起き上がろうとした。だがすぐに呻いてベッドに逆戻りする。
「とりあえず、治療が先だ。つーか、改良だな。三日ほどかかるが、いいよな?」
にやりと笑って透は振り返った。痛みに呻いていた桜が慌てたように顔を上げる。
「三日もですか!?」
その間に姫様に不埒者が近づいたらどうしろと。透は相変わらずのことを叫んだ桜を苦笑を浮かべて見つめた。
「翠ちゃんにまかせとけば大丈夫。あいつがいるうちは、誰も手はだせねーよ」
「危険です!」
きっぱりと言い切って桜がまた無理に動こうとする。だがやはり動かせないのか、手をついて頭を浮かせたところでベッドに沈む。透は呆れた顔で桜を見つめてからやれやれと立ち上がった。
「無茶だっつーに。とりあえず、眠れ」
そう言って透は桜に手のひらをかざした。諦め悪くもがいていた桜がはう、という声を残して昏倒する。十分に桜に冷気を浴びせてから、透は腰に手を当てて頷いた。
桜は昏倒しましたw