※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 一部 二人の水輝   作:伊駒辰葉

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エピタイ通りです。
エロシーンはありません。


要(の機体)はちょっとトラブってるかも知んない 1

 ごめんなさいごめんなさい、と何度も詫びる白銀を要が容赦なく踏みつける。白銀は半泣きになって身体を丸め、背中をヒールで踏まれて首を竦めた。

 

「あっ、なっ、たっ、はっ、一体、誰のものですの!?」

 

 ひと言ずつ区切りながら要ががんがんと白銀の背を踏む。白銀は痛みを堪えて顔を上げた。

 

「要の! 要のだってば!」

 

 騒ぎを恐れてか、白衣を着た学生たちはテレビのある一角を遠巻きにしている。ソファに腰掛けた多輝と由梨佳は観戦を決め込んでいるのか、のんびりとしたものだ。その傍で白銀はじゅうたんの上で身体を丸めていた。

 

 末端は踏まれると痛いから、出来るだけ身体を丸く。そう考えて頭を腕の間に入れた白銀を要が踏みにじる。要がめいっぱい足を振り下ろすたびに背中に激痛が走り、そのたびに白銀は苦悶の表情を浮かべて歯を食いしばった。

 

「どーでもいいが、要。足上げるたびにパンツ見えてんぞ」

 

 のんびりとした口調で多輝が言うと、慌てたように要がその場を少し離れていそいそとスカートを直す。助かった、と内心で呟いて白銀は恐る恐る顔を上げた。こほん、と咳払いした要が白銀を睨んでからつんと横を向く。

 

「仕方がないから許してあげますわ」

「はあ」

 

 納得出来ないものを感じつつ、白銀は大人しく頷いた。無意識に要の前で正座してしまうのは近頃身に付いた癖だ。困った顔で頭をかいたところで白銀は背中の痛みに思わず呻いた。怪我の類は治るのも早いのだが、さすがに食らった直後は痛む。

 

「仕方ねえなあ。ほら、来てみろ」

 

 顔をしかめて多輝が手招きをする。白銀は諦めのため息を吐いて大人しく膝で多輝に近づいた。多輝が白銀の胸元をつかんで唇を寄せようとしたところで何かが視界を遮る。訝りに眉を寄せた白銀は、次の瞬間、後ろに引っ張られて転がった。

 

「うわっ」

 

 顔面を押さえた要が多輝から引き剥がしたのだ。そのことを理解した白銀は慌ててその場に起き上がった。憤然と肩を怒らせた要が白銀のシャツの襟元をつかむ。シャツに隠れていた首輪を無造作につかまれて白銀は苦悶の表情を浮かべた。ぴったりと密着していた首輪と首の間に要が指を突っ込んでいるのだ。

 

「……要。お前なあ」

 

 呆れたような口調で言って多輝ががりがりと頭をかく。多輝は女とは思えないほど足を開いてソファに座っている。その隣に寄り添っている由梨佳が心配そうに白銀を見る。だが白銀は苦しさのあまり、そちらに注意を向けることも出来ず、懸命に口を開けて何とか空気を吸おうと努力していた。

 

「要さん、あなた、ちょっと最近おかしいわ」

「どこがですの?」

 

 白銀の首輪を握り締めたまま、要が由梨佳に胸を張ってみせる。由梨佳は気遣うように白銀を見てから要を見つめ直した。その間に多輝が要の手首を軽く握って足払いをかける。咄嗟のことで対応出来なかったのか、要の身体がいとも簡単に傾く。白銀は慌てた声を上げてよろけた要を何とか支えた。足払いの拍子にうっかりしたのか、いつの間にか要は首輪から手を放している。

 

「白銀さんへの態度よ。無理難題を押し付けたり、理不尽に暴力を振るったり、そんな事をする人じゃなかったと思うの」

「これは躾ですわ!」

 

 白銀が支えていた手を払いのけて要がその場にしっかりと立ち、腰に手を当ててふんぞり返る。白銀はそんな要の足元に座って何度か咳き込んだ。試しに小さく声を出してみる。首を絞められていたからか、喉の奥が妙にいがらっぽい気がする。

 

「躾も何もお前、単に虐待してるだけじゃねえか、今のとか」

 

 呆れた顔で言って多輝が白銀を指差してみせる。すると要は鋭い目をして白銀を見下ろしてから胸を張った。

 

「そんなことはありませんわっ! 白銀が聞き分けがないからしつけただけですわ!」

 

 少し上にずり上がっていた首輪の位置を直してから、白銀はいそいそとシャツの襟元を正した。学生達はこちらの騒ぎによほど関わりたくないのか、仕事を終えたものから早々に帰り支度を始めている。

 

「白銀さんがあなたに逆らっているところなんて見たことありません。要さん、あなた、自分の状態をきちんと把握してる?」

 

 由梨佳がまるで子供をたしなめるような口調でゆっくりと言う。要は一瞬、顔を歪めてから鼻で笑ってみせた。白銀はそんな要を見上げてまずい、と心の中で呟いた。

 

「当然ですわ! わたくしには優一郎様のお作りになったセンサーが幾つ積んであると思いますの!? 自分の状態はわたくしが一番知っていますわ!」

 

 確かに由梨佳の言う通り、ここ最近の要はやけに白銀に冷たく当たることが多い。だがそのことを特に白銀は悪いことだとは感じていなかった。きっと優一郎が不在だから要も不安になっているのだろう。

 

 お先に失礼しまーす、と小声で言った学生たちがそそくさと研究室を出て行く。機械仕掛けの身体を持つ彼女たちは家ではなく学生寮で暮らしている。彼女たちが出て行くのを見送ってから白銀は言葉を挟んだ。

 

「あの、別に俺、気にしてないから」

「あーのなー。お前のそぉいう態度がこいつをつけあがらせてるんだと思うぞ?」

 

 呆れたような顔をして、多輝がスカートのポケットから煙草を引っ張り出す。ケースに入ったそれを一本咥えたところで絶妙のタイミングで由梨佳がライターの火を寄せる。そんな二人を白銀はついつい見入ってしまった。




白銀がペットというのは実はちょっち無理があるのです……。
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