あ、要は機械なので! 頭がおかしいとかそういう意味では……いや、元から変ですけども!w
エロシーンはありません。
「多輝くん……その、ありがとう」
ほんの僅かの間、由梨佳は嬉しそうな顔をしてみせた。だがすぐに真顔に戻る。
「でも、要さんに怒るのは筋違いよ。要さんに、自分は多輝くんの玩具だと告げたのは私なんだから」
「また、お前は……何でいつもそうなんだよ」
多輝は困り顔をして頭をかいた。どうやら由梨佳は至るところで自分は多輝の玩具だと公言しているらしい。多輝の態度からそう理解して白銀は首を傾げた。どうして由梨佳はわざわざ自分からそんなことを言うのだろう。端から見ても多輝は由梨佳をとても大事にしているように見える。子供が玩具を大切に扱うのとは違う。あくまでも多輝は由梨佳を一個人として大事にしているように見えるのだ。
だから時々、羨ましくなる。自分は要の彼氏などには決してなれない気はするが、それでも憧れはあるのだ。出来れば自分と同じように、要も好いてくれればいいのにと思うこともある。
白銀はぼんやりと二人を見つめてそっとため息を吐いた。さっきまで勢いよく文句を言っていた要は何故か黙りこくっている。
「要さん、玩具であろうと彼女であろうと、私は多輝くんの物です。それでは、あなたは何ですか?」
そう言って由梨佳が要を見る。多輝は少しまだ不服げにしてはいたが、黙って由梨佳と同じように要を見つめた。
「わたくしは優一郎様のものに決まっていますわ」
気丈に胸を張って答え、要がすっと立ち上がる。白銀は慌てて要に道を譲った。ソファを少し離れて要が二人に向き直る。白銀は何となく要から目を逸らして俯いた。
ヒューマノイドにはマスター登録と呼ばれるものがある。一つの機体に一人、マスターを登録するシステムのことなのだが、ヒューマノイドはマスターには絶対の服従を誓うという印でもある。
「でも、今は優一郎さんはいらっしゃらないんですよね?」
ヒューマノイドは機械の身体を持つ者を示すが、何もロボットという訳ではない。ヒューマノイドには生身の脳が組み込まれているのだ。例外的に多輝のような、生身の部分がない状態で使用するケースもあるが、多輝自体が人間でないので例外中の例外だ。
そしてヒューマノイドを示す特徴としてマスター登録システムと並ぶのが、快楽のシステムと呼ばれるものだ。ヒューマノイドの抱えるジレンマを性的快楽で払拭してしまう、というこのシステムはどのヒューマノイドにも必ず搭載されている。そうでなければヒューマノイドの機体は維持出来ないのだ。
「そうですわね。何がしかの事情があるとお伺いしていますけれど、それに関してはあなた方の方が詳しいのではなくて?」
幾分かは落ち着きを取り戻したのか、静かな声で要が答える。つらつらとヒューマノイドについて考えていた白銀は要の声にはっと我に返った。
「申し訳ないけれど私も良くは知らないわ。多輝くんは何か知ってる?」
急に話を振られたことに驚いたのか、目を少し見張ってから多輝が頭をかく。
「おれも詳しいところまではわかんねえけど」
そう言ってから多輝はごめん、と詫びた。そう、と呟いて要が眉を寄せる。
「でもそれとこれとがどう関係ありますの?」
白銀はぽつんと一人、じゅうたんに直に座って三人を見上げた。由梨佳が言った二週間ほど前、という言葉を思い起こしてみる。確かにあの頃から要の様子は変わった気がする。
白銀が記憶をなくした後、一つだけ覚えていたことがある。それが要の母親、栄子のことだった。白銀は栄子をとても好いていたのだ。あれは栄子がまだ若い頃の話だから、今から考えると二十年くらいは前のことだ。その頃……まあ、今も変わりないが、白銀は惚れた相手に必ず振られるという失恋記録を更新中だった。そして栄子にもやはり白銀は振られたのだ。
その栄子が実は要の母親だったと知ったのはいつだっただろう。そしてどんな気紛れなのかは知らないが、二週間ほど前に栄子がこの大学を訪ねて来たのだ。
成熟した栄子の姿を見た白銀は思わず目を奪われた。栄子は今見てもやはり美しかった。要によく似ているのは母娘だからだろう。白銀は要の顔を見にきたという栄子にずっと見とれていたのだ。
「私達ヒューマノイドは、第三者によって管理されなければ正常に動作する事が出来ない。あなたの場合は、奉仕、なのかもしれないけれど、それは変わりないわよね?」
「まあ、そうですわね」
胸を張って答えてから要はほほほ、と笑ってみせた。
「わたくしの場合は奉仕させてくれとねだる男に事欠きませんもの。苦労したことなどなくてよ?」
口許に手を当てて笑う要を見て白銀はこっそり胸を撫で下ろした。とりあえず、要はいつもの調子を取り戻したらしい。
「あなたの奉仕作業に関わっている男性の人数については知りません。でも、あなたの身体はわたしなんかよりもずっと高度で、逆に言えば繊細なはずよ。その繊細な身体をマスター不在で維持するために必要な努力をしているの?」
それまで笑っていた要が急に唇を引き結ぶ。あくまでも真顔で接している由梨佳を見つめ、要は胸を張ってふんぞり返ってみせた。
「当然ですわ! 技術は白銀に叩き込んでありますもの!」
そう宣言して要がびしりと白銀を指差す。急に名指しで言われて白銀は慌てて要を見上げた。そうですわよね、と要がもの凄い目で白銀を睨む。いやあの、と呟いてから白銀は困惑顔で頭をかいた。
白銀は元々はマトモだったんですけどね……。