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確かに要の機体に関しては色んな勉強をしてきた。要の付き人である周藤や野木からも技術的なことは教わってはいる。他の機体ならともかく、要に関してなら修理などは可能だ。だがこうも要に自信満々に言い切られると逆に自信がなくなってしまう。
「ええと……あの、そんなに大変なのかな?」
頭をかきながら白銀は恐々と由梨佳を見た。すると途端に要が目を吊り上げて白銀の頭をげんこつで打つ。急に殴られた白銀は慌てて殴られた場所を押さえた。痛みに無意識に目に涙が滲む。
「ここは『はい』と頷いておけばいいのです! あなたが余計なことをする必要はありませんわ!」
早口でそう言って要がそっぽを向く。するとそれまで黙っていた多輝がのんびりと煙草を咥えて顎をしゃくった。
「おれはどうも、そっちの方が問題ありな気がしてきたぞ」
そう言いながら多輝がじっと白銀を見る。視線を受けた白銀は慌てて両手を振った。
「白銀さん。あなた、メンタルチェックきちんとしてる? 機械的なトラブルならいくらでも修理すればいい。でも、精神的なトラブルはそうはいかないわ」
「えっ、あの……」
慌てた白銀を由梨佳はじっと真顔で見つめている。白銀は困惑してちらりと要を見た。要は怒りに燃える目で白銀を見下ろしている。
「や、そーじゃなくってな。割と単純な問題だと思うんだ、おれは」
真面目な面持ちをする由梨佳の肩を軽く叩いてから、多輝がその場にしゃがみ込む。視線が同じ高さになって白銀は無意識に身構えた。
「お前な。今のままでいいのかよ?」
そう言って多輝が白銀を指差す。意外なことを言われた気がして白銀は答えに窮した。今のまま、と呟いてからちらりと要を見上げる。だが要はいつの間にか白銀から目を逸らしていて、こちらを見てくれそうにない。
「だーから、今のまんま、殴られたり蹴られたりとかして、ペット以下に扱われてもいいのかってことだよ」
眉を寄せて多輝が言葉を継ぐ。白銀は困り果てて視線を泳がせた。要が自分を好いてくれればいいとは思う。だが、別に今の状況がさほど嫌という訳でもない。白銀はしばし考えてから多輝を見た。
「いや、別に俺は……要がそうしたいなら構わないし」
そう、白銀が言った途端、要が踵を返した。驚いた白銀が止める間もなくさっさと研究室を横切って行ってしまう。唖然とした顔で要を見送った白銀は、やっと我に返って慌てて立ち上がった。
「要!?」
要は乱暴にドアを閉じてものも言わずに研究室を出て行ってしまった。取り残された白銀は呆然とした顔でその場に立ち尽くした。
「なるほど。わかったわ。そういうことね」
納得顔で由梨佳が頷く。白銀は訳が判らず頭を抱えた。
「何で!? 俺、何かまずいこと言った!?」
多輝がよいしょ、と立ち上がって白銀の肩をぽんぽんと叩く。白銀は自分の行動を思い返して余計に訳が判らなくなった。特に要が怒るようなことをした覚えはない。あの重いクーラーを持ち帰る時には通りかかった透に助けてはもらったが、そのことを要が怒っていた風はなかった。テレビを観る時にも要が好きなクラッカーはちゃんと用意したし、ジュースも用意した。つらつらと思い起こす白銀の顔色はどんどん青ざめていった。
「ヒューマノイドに適合する条件を、よく考えてみなさい。それから、もうひとつ」
えへん、と咳払いをしてから由梨佳がゆっくりと言う。白銀はのろのろと由梨佳の方を見た。由梨佳の隣に立つ多輝は何故かにやにやと笑っている。そんなに人の不幸が楽しいか、という文句が口まで出かかったが、白銀は我慢して口をつぐんだ。
「昼に会った彼。要さんと喧嘩してるようにも見えたけど、気遣うような感情の波動を感じたわ。横からかっさらわれないように、注意したほうがいいわよ」
「えっ、透さん?」
ヒューマノイドの条件、と考えようとしていた白銀は急に言われて思考を停止した。さらわれる、と呟いてから余計に訳が判らなくなり頭を抱える。
「それよりお前、女を押し倒す練習でもした方がいいんじゃねえか? いっつも要のリードで抱かせてもらってるなんざ、恥ずかしくねえのかよ」
こちらは呆れたような口調で多輝が言う。話の繋がりがまるで読めず、白銀はうろたえて目の前に立つ二人を交互に見た。困ったやつ、と呟いて多輝が由梨佳と顔を見合わせて苦笑する。
「ヒントは教えてあげたわ。あなたが変わらなければ、要さんはどんどん不安定になっていくはずよ。良く考えて行動するのね」
そう言ってから由梨佳が頷く。白銀は困惑しつつ懸命に考えを巡らせようとした。
不意にポケットの携帯電話が鳴る。白銀は慌てて携帯電話を取り出して画面を見た。どうやら要からのメールらしい。そのことにぱっと明るい顔になって白銀はメールを受信した。
今日は家に帰ります。クーラーを運んでおくように。
それだけ書かれたメールを見つめて白銀はがっくりと肩を落とした。ここから要の家までは相当の距離がある。どうやら要はあれを引っ張って来いと言っているらしい。白銀はふらふらとした足取りでクーラーの置かれた倉庫に向かった。背中に頑張れよ、という多輝の声が飛んできたが、白銀の耳には入らなかった。
多輝は女の子な時もありますが、スパッと割り切る時は割り切るタイプです。
要は暴走中w